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第一章 冒険者の始まりと最初の出会い
012 助けないんですね
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2018. 3. 30
**********
前方に見えた馬車は、大きく豪奢なものだった。
マティアスとシェリスは、それが視界に入ってすぐに脇道にそれたので、間違いなく必死で戦っているそこにいた人々の目には映らなかったはずだ。
彼らがいる街道が確実に見える場所まで木々の中を移動し、身をひそめる。
「キラキラだな」
「あんな目立つ馬車では、襲ってくださいと言っているようなものです」
「なら、わざとか?」
「いいえ。貴族は見栄を張らずにはいられない生き物なのです。あれだけ護衛がいるから大丈夫だとでも過信したのでしょうね」
シェリスは呆れた様子でそれを眺める。バタバタと動き回る者達の半分は、白い上等な服を着ている。
「護衛ってのがあの白い奴らか? カッコいい剣を持ってるなぁ」
「見た目だけで、実用性はないですよ」
装飾が見事な剣は、統一されているらしい。
ため息をつきながら、シェリスは座り込み、そこでお茶の用意をしだした。完全に見物に回るつもりだ。
「飲みますか?」
「お、もらおう。しっかし、あの金ピカの中にはどんな奴が乗ってんだ? まさか同じくらい金ピカか?」
「あり得ますね。あの紋章は、公爵家のものです。マティも覚えておくといいですよ。どの国の公爵家も、紋章の外枠の形はあの形です」
優雅にお茶を飲みながら、横目で確認するシェリス。紋章の形は正六角形だ。
「へぇ。ってか、そのコウシャクケってなんだ?」
「……そこからですか……」
今までマティアスには貴族のことなど必要のない知識だったのだから仕方がない。
「公爵は王に次ぐ爵位です。王の係累の家と考えてください」
「なら、偉いんだな。だから金ピカか」
「……身分が高いから金というのは……まぁ、イメージとしては仕方ありませんね……」
身分が高いからお金を持っている。お金、即ち金という図式がマティアスの中にあるのだろう。
「けど、そんな奴が死んだら、よくないんじゃないか?」
「どうでしょうね。国によってもこの後の動きは変わりますから。人の善し悪しもありますしね」
「なるほど、身分がどうでも人は人。いい奴もいるし悪い奴もいるから一概には言えないと……だから観察するに留めているんだな」
「それが一つの理由でもありますね」
国に害のある者ならば、死んだ所で構わない。何より、その人の人となりを知らないのだから、その判断もできない。ならば、手を出すべきではないだろうという考えだ。
「一つ? まだあるのか?」
「ええ。今後の付き合いとか、名が知られて動き難くなるとかあるのですよ」
「そういうものか」
「人によっては、ああいうのとお近付きになりたいという者もいますけど、私はおススメしません。というか、私は嫌です」
「シェリーが嫌ならいい。お、デカイのが出てきたぞ」
馬車の中から、顔色の悪い太った壮年の男が出てきた。引っ張り出されたのだ。その身なりから察するに、どうやら彼が公爵らしい。
「やっぱ、人数的に賊の方が有利だったな」
「何より、騎士の方の実力が低すぎますよ。あれだけいて、まともに戦えていたのはたったの三人ですから」
大半が、見た目だけの張りぼてだったようだ。
出てきた男が引き倒される。そこへ、その腕の良い三人が守ろうと割り込む。男が出てきたことで、反対側で戦っていた賊達もこちら側へ移動してくる。
その時だった。
「んん? なんか、反対側から誰かが逃げたみたいだぞ?」
「大方、囲われていた奴隷でしょう」
「ドレイ……奴隷か。聞いた事があるな……金で買われる人か」
「間違ってはいませんね。そうです。おや、三人も乗っていたのですね……あの巨体を除いて空いたスペースによく入っていたものです」
駆け出て行ったのは、三人の女性。森の中に躊躇なく入って行った。
「なぁ、あっちの森って、結構な魔獣の気配があるんだが」
「そうですね……マティ……もしかして、助けたいんですか?」
「おう。なんか泣いてたっぽいし、それに、記憶違いじゃなけりゃ、あの先は崖だろ?」
数人の盗賊達が気付いて追っていくのも見えた。むさ苦しい男達が追ったのだ。捕まれば彼女達がどうなるか想像に難くない。
「イヤらしい笑い方したのが追ってったし、助けてやりたい」
「わかりました……それに、こっちに援軍も来ているみたいですしね。これ以上ここにいるのもよくなさそうです」
遠くから、馬の嗎と馬蹄の音が聞こえてきた。統率の取れたその音から、シェリスは公爵を助けにきた者と推測する。
「よしっ、行くぞ」
「回り込みましょう」
逃げ出した女達の気配はわかる。そちらの方角へ駆け、街道を素早く横断する。
そうして、マティアスとシェリスは女達を追うことにしたのだった。
**********
舞台裏のお話はお休みです。
読んでくださりありがとうございます◎
のんびり見物しちゃうんですね。
次回、一度お休みさせていただき
金曜13日0時です。
よろしくお願いします◎
**********
前方に見えた馬車は、大きく豪奢なものだった。
マティアスとシェリスは、それが視界に入ってすぐに脇道にそれたので、間違いなく必死で戦っているそこにいた人々の目には映らなかったはずだ。
彼らがいる街道が確実に見える場所まで木々の中を移動し、身をひそめる。
「キラキラだな」
「あんな目立つ馬車では、襲ってくださいと言っているようなものです」
「なら、わざとか?」
「いいえ。貴族は見栄を張らずにはいられない生き物なのです。あれだけ護衛がいるから大丈夫だとでも過信したのでしょうね」
シェリスは呆れた様子でそれを眺める。バタバタと動き回る者達の半分は、白い上等な服を着ている。
「護衛ってのがあの白い奴らか? カッコいい剣を持ってるなぁ」
「見た目だけで、実用性はないですよ」
装飾が見事な剣は、統一されているらしい。
ため息をつきながら、シェリスは座り込み、そこでお茶の用意をしだした。完全に見物に回るつもりだ。
「飲みますか?」
「お、もらおう。しっかし、あの金ピカの中にはどんな奴が乗ってんだ? まさか同じくらい金ピカか?」
「あり得ますね。あの紋章は、公爵家のものです。マティも覚えておくといいですよ。どの国の公爵家も、紋章の外枠の形はあの形です」
優雅にお茶を飲みながら、横目で確認するシェリス。紋章の形は正六角形だ。
「へぇ。ってか、そのコウシャクケってなんだ?」
「……そこからですか……」
今までマティアスには貴族のことなど必要のない知識だったのだから仕方がない。
「公爵は王に次ぐ爵位です。王の係累の家と考えてください」
「なら、偉いんだな。だから金ピカか」
「……身分が高いから金というのは……まぁ、イメージとしては仕方ありませんね……」
身分が高いからお金を持っている。お金、即ち金という図式がマティアスの中にあるのだろう。
「けど、そんな奴が死んだら、よくないんじゃないか?」
「どうでしょうね。国によってもこの後の動きは変わりますから。人の善し悪しもありますしね」
「なるほど、身分がどうでも人は人。いい奴もいるし悪い奴もいるから一概には言えないと……だから観察するに留めているんだな」
「それが一つの理由でもありますね」
国に害のある者ならば、死んだ所で構わない。何より、その人の人となりを知らないのだから、その判断もできない。ならば、手を出すべきではないだろうという考えだ。
「一つ? まだあるのか?」
「ええ。今後の付き合いとか、名が知られて動き難くなるとかあるのですよ」
「そういうものか」
「人によっては、ああいうのとお近付きになりたいという者もいますけど、私はおススメしません。というか、私は嫌です」
「シェリーが嫌ならいい。お、デカイのが出てきたぞ」
馬車の中から、顔色の悪い太った壮年の男が出てきた。引っ張り出されたのだ。その身なりから察するに、どうやら彼が公爵らしい。
「やっぱ、人数的に賊の方が有利だったな」
「何より、騎士の方の実力が低すぎますよ。あれだけいて、まともに戦えていたのはたったの三人ですから」
大半が、見た目だけの張りぼてだったようだ。
出てきた男が引き倒される。そこへ、その腕の良い三人が守ろうと割り込む。男が出てきたことで、反対側で戦っていた賊達もこちら側へ移動してくる。
その時だった。
「んん? なんか、反対側から誰かが逃げたみたいだぞ?」
「大方、囲われていた奴隷でしょう」
「ドレイ……奴隷か。聞いた事があるな……金で買われる人か」
「間違ってはいませんね。そうです。おや、三人も乗っていたのですね……あの巨体を除いて空いたスペースによく入っていたものです」
駆け出て行ったのは、三人の女性。森の中に躊躇なく入って行った。
「なぁ、あっちの森って、結構な魔獣の気配があるんだが」
「そうですね……マティ……もしかして、助けたいんですか?」
「おう。なんか泣いてたっぽいし、それに、記憶違いじゃなけりゃ、あの先は崖だろ?」
数人の盗賊達が気付いて追っていくのも見えた。むさ苦しい男達が追ったのだ。捕まれば彼女達がどうなるか想像に難くない。
「イヤらしい笑い方したのが追ってったし、助けてやりたい」
「わかりました……それに、こっちに援軍も来ているみたいですしね。これ以上ここにいるのもよくなさそうです」
遠くから、馬の嗎と馬蹄の音が聞こえてきた。統率の取れたその音から、シェリスは公爵を助けにきた者と推測する。
「よしっ、行くぞ」
「回り込みましょう」
逃げ出した女達の気配はわかる。そちらの方角へ駆け、街道を素早く横断する。
そうして、マティアスとシェリスは女達を追うことにしたのだった。
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舞台裏のお話はお休みです。
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