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第一章 冒険者の始まりと最初の出会い
007 魔導具の解析は町の外で
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2018. 2. 16
**********
ギルドマスターであるエンカーがカードを持って戻ってくる。
「待たせてすまない。これが、マティアス殿のギルドカードだ。決まりだから、少しだけ説明するぞ」
「頼む」
シェリスに聞けばいいので説明は不要だと思ったのだが、決まりと言われては仕方がないと頷いた。
「普段、数値などの情報は、自身の魔力のみに反応し表示することができる。他人がいくら魔力を流しても、所有者でなければ見ることはできん」
つまり、見た目は同じでも、使えるのは自身の一つだけということだ。
「ただし、例外があり、発行したギルド……つまり、冒険者ギルドでは、その情報が特殊な魔導具によって確認することができる。クエストや旅の途中で亡くなった者のギルドカードを見つけた場合は、ギルドに届けて欲しい。故人の特定ができるからな」
「それって、生きてるか死んでるか判断できるのか? ただ拾っただけの時だってあるだろ」
近くに遺体はあるが、そこに落ちていたギルドカードがその故人のものかは分からないのではないかと思ったのだ。
「その場合の判断は神教会に委ねることになっている。何らかの魔導具で、生死の確認が出来るらしいんだ。その辺、俺らは良く分からんけどな」
「へぇ。便利なもんだな。わかった。とりあえず、拾ったら持ってこればいいんだな」
「ああ。クエストによっては、犯罪者手配されている者を相手にする場合もある。手にかけた時には、なるべく回収するようにしてくれ」
「そういう事もあるのか」
確実に生死の判断もできるので、これは必須だろう。
「あとは、比較的大きな町や国境では、カードの提示が求められる。場所によっては、その時に魔導具が使われる場合がある。これでは、名前とランクだけが表示されるようになっている。それは了承してもらうことになる」
「別にいいんじゃないか?」
「マティ……いえ、あとでそのことについてはこちらで説明しますので大丈夫です」
「そうか。では了承したということでカードを渡させてもらおう。とはいえ、現状ではそれこそ名前とランクぐらいしか確認できない物だがな」
そう言って、エンカーがマティアスに手渡したのは、黒く薄い手のひらサイズの石のようなカードだった。
「へぇ……不思議な手触りだな」
「軌箒石《キソウセキ》という鉱石を使っているんです。世界樹の傍に現れる水晶が元になっています」
「世界樹か。一度見てみたいな」
「そのうち、里に、世界樹の所に案内しますよ」
「マジ? 楽しみだ」
新しいオモチャをもらった子どものように、はしゃいでいるマティアスを見て、シェリスは苦笑を浮かべる。
一方、世界樹へ案内すると言われていることが大きな意味を持つと知っているエンカーは目を見開いていた。しかし、そう口にしたのがハイエルフであったと思い出し、表情を引きつらせながらも納得する。
「さて、カードも受け取りましたし、失礼しましょう」
「ああ。ありがとな」
「い、いや、これからの活躍に期待している」
マティアスとシェリスはギルドを後にすると、宿屋を手配し、一度町を出た。
「ここまで来れば問題ないでしょう。では、その魔導具というのを見せてください」
「おう」
街道からも充分離れた拓けた場所。そこに来た理由は、マティアスが持っているという魔導具の検証をするためだった。
正体不明の魔導具を検証するのだ。街中でするのは危険だろう。そこで移動したというわけだ。
マティアスが取り出したのは、一見、卵のようなものだった。しかし、触れてみると石のように思える。
「これをどこで?」
「確か、ケル……いや、ゲル『ゲルヴァローズ遺跡』だったかな。不自然に住居だけがない奇妙な遺跡でだ」
「っ、あんな所に行ったのですか!? 秘境も秘境じゃないですか……」
「はははっ。確かになっ。あの時はワイバーンを乗り捨てながら行ったんだ。一緒に行った魔術師が懐かれやすい体質で助かった」
「どんな人ですか……」
普通、ワイバーンを手懐けるなどできはしない。それをやれるとすれば、魔獣と心を通わせ、騎獣の誓約ができる一流の『獣騎師』という特別な能力を持った者だけだろう。
シェリスはその可能性を考え、納得しておく。マティアスの魔術の師という人の正体よりも、コレが何なのかを知りたいという思いの方が強かったのだ。
「これは確かに魔導具のように魔力を……この感じはもしや……いや、そうなると……」
ブツブツと呟きながら、いつの間にか地面に腰を下ろして眺め透かす。その様子を退屈そうに周りの景色を見ながら、マティアスはたまにはと思い至り、魔術の訓練を始めた。
どれだけ時間が経っただろうか。火の玉を打ち上げて下から風の魔術を命中させ、空中でボールを弾ませるようにして遊んでいたマティアスを見てシェリスがふと提案した。
「マティ、これに魔力を注いだことは?」
「ん? あるぞ。なんか吸われる感じが面白くてな。何年かに一回、あの人を思い出してはそれで遊んでた」
「やはり……なら、魔導具の発動を意識するようにしてみてください」
「発動? う~む……あまりやったことがないが、やってみよう」
そうして、手渡された物に集中する。すると、ソレから力が放出された。
「んん!? なんか出てくる!?」
出てきたのは光の帯だ。よく見ると魔術式と呼ばれる文字がギッシリと並べられている。それはマティアスを中心に広がり、光の奔流に目を閉じた。
「うっ」
止まったと感じて目を開けたマティアスは、なぜかどこかも分からない家の中に一人立っていたのだ。
**********
舞台裏のお話。
ギルド職員A 「マティアスさんかぁ。美人だったなぁ」
ギルド職員B 「クエストは受けないのかな? 外から来た人って、だいたい、カード作って即クエスト受けるよね?」
ギルド職員A 「どんなのを最初に受けるか賭ける?」
ギルド職員B 「いいね。私は魔獣の討伐系かな」
ギルド職員A 「無難に採取依頼」
ギルド職員C 「なら、私は人探し」
ギルド職員A 「え~っ、そんな地味な」
ギルド職員C 「あら、ああいう人は、人情に厚いのよ?」
ギルド職員達 「「う~ん」」
つづく?
なんて事が起こってましたとさ☆
読んでくださりありがとうございます◎
どうでしょうね。
さて、魔導具の正体は。
次回、来週23日0時です。
よろしくお願いします◎
**********
ギルドマスターであるエンカーがカードを持って戻ってくる。
「待たせてすまない。これが、マティアス殿のギルドカードだ。決まりだから、少しだけ説明するぞ」
「頼む」
シェリスに聞けばいいので説明は不要だと思ったのだが、決まりと言われては仕方がないと頷いた。
「普段、数値などの情報は、自身の魔力のみに反応し表示することができる。他人がいくら魔力を流しても、所有者でなければ見ることはできん」
つまり、見た目は同じでも、使えるのは自身の一つだけということだ。
「ただし、例外があり、発行したギルド……つまり、冒険者ギルドでは、その情報が特殊な魔導具によって確認することができる。クエストや旅の途中で亡くなった者のギルドカードを見つけた場合は、ギルドに届けて欲しい。故人の特定ができるからな」
「それって、生きてるか死んでるか判断できるのか? ただ拾っただけの時だってあるだろ」
近くに遺体はあるが、そこに落ちていたギルドカードがその故人のものかは分からないのではないかと思ったのだ。
「その場合の判断は神教会に委ねることになっている。何らかの魔導具で、生死の確認が出来るらしいんだ。その辺、俺らは良く分からんけどな」
「へぇ。便利なもんだな。わかった。とりあえず、拾ったら持ってこればいいんだな」
「ああ。クエストによっては、犯罪者手配されている者を相手にする場合もある。手にかけた時には、なるべく回収するようにしてくれ」
「そういう事もあるのか」
確実に生死の判断もできるので、これは必須だろう。
「あとは、比較的大きな町や国境では、カードの提示が求められる。場所によっては、その時に魔導具が使われる場合がある。これでは、名前とランクだけが表示されるようになっている。それは了承してもらうことになる」
「別にいいんじゃないか?」
「マティ……いえ、あとでそのことについてはこちらで説明しますので大丈夫です」
「そうか。では了承したということでカードを渡させてもらおう。とはいえ、現状ではそれこそ名前とランクぐらいしか確認できない物だがな」
そう言って、エンカーがマティアスに手渡したのは、黒く薄い手のひらサイズの石のようなカードだった。
「へぇ……不思議な手触りだな」
「軌箒石《キソウセキ》という鉱石を使っているんです。世界樹の傍に現れる水晶が元になっています」
「世界樹か。一度見てみたいな」
「そのうち、里に、世界樹の所に案内しますよ」
「マジ? 楽しみだ」
新しいオモチャをもらった子どものように、はしゃいでいるマティアスを見て、シェリスは苦笑を浮かべる。
一方、世界樹へ案内すると言われていることが大きな意味を持つと知っているエンカーは目を見開いていた。しかし、そう口にしたのがハイエルフであったと思い出し、表情を引きつらせながらも納得する。
「さて、カードも受け取りましたし、失礼しましょう」
「ああ。ありがとな」
「い、いや、これからの活躍に期待している」
マティアスとシェリスはギルドを後にすると、宿屋を手配し、一度町を出た。
「ここまで来れば問題ないでしょう。では、その魔導具というのを見せてください」
「おう」
街道からも充分離れた拓けた場所。そこに来た理由は、マティアスが持っているという魔導具の検証をするためだった。
正体不明の魔導具を検証するのだ。街中でするのは危険だろう。そこで移動したというわけだ。
マティアスが取り出したのは、一見、卵のようなものだった。しかし、触れてみると石のように思える。
「これをどこで?」
「確か、ケル……いや、ゲル『ゲルヴァローズ遺跡』だったかな。不自然に住居だけがない奇妙な遺跡でだ」
「っ、あんな所に行ったのですか!? 秘境も秘境じゃないですか……」
「はははっ。確かになっ。あの時はワイバーンを乗り捨てながら行ったんだ。一緒に行った魔術師が懐かれやすい体質で助かった」
「どんな人ですか……」
普通、ワイバーンを手懐けるなどできはしない。それをやれるとすれば、魔獣と心を通わせ、騎獣の誓約ができる一流の『獣騎師』という特別な能力を持った者だけだろう。
シェリスはその可能性を考え、納得しておく。マティアスの魔術の師という人の正体よりも、コレが何なのかを知りたいという思いの方が強かったのだ。
「これは確かに魔導具のように魔力を……この感じはもしや……いや、そうなると……」
ブツブツと呟きながら、いつの間にか地面に腰を下ろして眺め透かす。その様子を退屈そうに周りの景色を見ながら、マティアスはたまにはと思い至り、魔術の訓練を始めた。
どれだけ時間が経っただろうか。火の玉を打ち上げて下から風の魔術を命中させ、空中でボールを弾ませるようにして遊んでいたマティアスを見てシェリスがふと提案した。
「マティ、これに魔力を注いだことは?」
「ん? あるぞ。なんか吸われる感じが面白くてな。何年かに一回、あの人を思い出してはそれで遊んでた」
「やはり……なら、魔導具の発動を意識するようにしてみてください」
「発動? う~む……あまりやったことがないが、やってみよう」
そうして、手渡された物に集中する。すると、ソレから力が放出された。
「んん!? なんか出てくる!?」
出てきたのは光の帯だ。よく見ると魔術式と呼ばれる文字がギッシリと並べられている。それはマティアスを中心に広がり、光の奔流に目を閉じた。
「うっ」
止まったと感じて目を開けたマティアスは、なぜかどこかも分からない家の中に一人立っていたのだ。
**********
舞台裏のお話。
ギルド職員A 「マティアスさんかぁ。美人だったなぁ」
ギルド職員B 「クエストは受けないのかな? 外から来た人って、だいたい、カード作って即クエスト受けるよね?」
ギルド職員A 「どんなのを最初に受けるか賭ける?」
ギルド職員B 「いいね。私は魔獣の討伐系かな」
ギルド職員A 「無難に採取依頼」
ギルド職員C 「なら、私は人探し」
ギルド職員A 「え~っ、そんな地味な」
ギルド職員C 「あら、ああいう人は、人情に厚いのよ?」
ギルド職員達 「「う~ん」」
つづく?
なんて事が起こってましたとさ☆
読んでくださりありがとうございます◎
どうでしょうね。
さて、魔導具の正体は。
次回、来週23日0時です。
よろしくお願いします◎
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