上 下
7 / 100
第一章 冒険者の始まりと最初の出会い

007 魔導具の解析は町の外で

しおりを挟む
2018. 2. 16

**********

ギルドマスターであるエンカーがカードを持って戻ってくる。

「待たせてすまない。これが、マティアス殿のギルドカードだ。決まりだから、少しだけ説明するぞ」
「頼む」

シェリスに聞けばいいので説明は不要だと思ったのだが、決まりと言われては仕方がないと頷いた。

「普段、数値などの情報は、自身の魔力のみに反応し表示することができる。他人がいくら魔力を流しても、所有者でなければ見ることはできん」

つまり、見た目は同じでも、使えるのは自身の一つだけということだ。

「ただし、例外があり、発行したギルド……つまり、冒険者ギルドでは、その情報が特殊な魔導具によって確認することができる。クエストや旅の途中で亡くなった者のギルドカードを見つけた場合は、ギルドに届けて欲しい。故人の特定ができるからな」
「それって、生きてるか死んでるか判断できるのか? ただ拾っただけの時だってあるだろ」

近くに遺体はあるが、そこに落ちていたギルドカードがその故人のものかは分からないのではないかと思ったのだ。

「その場合の判断は神教会に委ねることになっている。何らかの魔導具で、生死の確認が出来るらしいんだ。その辺、俺らは良く分からんけどな」
「へぇ。便利なもんだな。わかった。とりあえず、拾ったら持ってこればいいんだな」
「ああ。クエストによっては、犯罪者手配されている者を相手にする場合もある。手にかけた時には、なるべく回収するようにしてくれ」
「そういう事もあるのか」

確実に生死の判断もできるので、これは必須だろう。

「あとは、比較的大きな町や国境では、カードの提示が求められる。場所によっては、その時に魔導具が使われる場合がある。これでは、名前とランクだけが表示されるようになっている。それは了承してもらうことになる」
「別にいいんじゃないか?」
「マティ……いえ、あとでそのことについてはこちらで説明しますので大丈夫です」
「そうか。では了承したということでカードを渡させてもらおう。とはいえ、現状ではそれこそ名前とランクぐらいしか確認できない物だがな」

そう言って、エンカーがマティアスに手渡したのは、黒く薄い手のひらサイズの石のようなカードだった。

「へぇ……不思議な手触りだな」
「軌箒石《キソウセキ》という鉱石を使っているんです。世界樹の傍に現れる水晶が元になっています」
「世界樹か。一度見てみたいな」
「そのうち、里に、世界樹の所に案内しますよ」
「マジ? 楽しみだ」

新しいオモチャをもらった子どものように、はしゃいでいるマティアスを見て、シェリスは苦笑を浮かべる。

一方、世界樹へ案内すると言われていることが大きな意味を持つと知っているエンカーは目を見開いていた。しかし、そう口にしたのがハイエルフであったと思い出し、表情を引きつらせながらも納得する。

「さて、カードも受け取りましたし、失礼しましょう」
「ああ。ありがとな」
「い、いや、これからの活躍に期待している」

マティアスとシェリスはギルドを後にすると、宿屋を手配し、一度町を出た。

「ここまで来れば問題ないでしょう。では、その魔導具というのを見せてください」
「おう」

街道からも充分離れた拓けた場所。そこに来た理由は、マティアスが持っているという魔導具の検証をするためだった。

正体不明の魔導具を検証するのだ。街中でするのは危険だろう。そこで移動したというわけだ。

マティアスが取り出したのは、一見、卵のようなものだった。しかし、触れてみると石のように思える。

「これをどこで?」
「確か、ケル……いや、ゲル『ゲルヴァローズ遺跡』だったかな。不自然に住居だけがない奇妙な遺跡でだ」
「っ、あんな所に行ったのですか!? 秘境も秘境じゃないですか……」
「はははっ。確かになっ。あの時はワイバーンを乗り捨てながら行ったんだ。一緒に行った魔術師が懐かれやすい体質で助かった」
「どんな人ですか……」

普通、ワイバーンを手懐けるなどできはしない。それをやれるとすれば、魔獣と心を通わせ、騎獣の誓約ができる一流の『獣騎師』という特別な能力を持った者だけだろう。

シェリスはその可能性を考え、納得しておく。マティアスの魔術の師という人の正体よりも、コレが何なのかを知りたいという思いの方が強かったのだ。

「これは確かに魔導具のように魔力を……この感じはもしや……いや、そうなると……」

ブツブツと呟きながら、いつの間にか地面に腰を下ろして眺め透かす。その様子を退屈そうに周りの景色を見ながら、マティアスはたまにはと思い至り、魔術の訓練を始めた。

どれだけ時間が経っただろうか。火の玉を打ち上げて下から風の魔術を命中させ、空中でボールを弾ませるようにして遊んでいたマティアスを見てシェリスがふと提案した。

「マティ、これに魔力を注いだことは?」
「ん? あるぞ。なんか吸われる感じが面白くてな。何年かに一回、あの人を思い出してはそれで遊んでた」
「やはり……なら、魔導具の発動を意識するようにしてみてください」
「発動? う~む……あまりやったことがないが、やってみよう」

そうして、手渡された物に集中する。すると、ソレから力が放出された。

「んん!? なんか出てくる!?」

出てきたのは光の帯だ。よく見ると魔術式と呼ばれる文字がギッシリと並べられている。それはマティアスを中心に広がり、光の奔流に目を閉じた。

「うっ」

止まったと感じて目を開けたマティアスは、なぜかどこかも分からない家の中に一人立っていたのだ。

**********

舞台裏のお話。

ギルド職員A  「マティアスさんかぁ。美人だったなぁ」

ギルド職員B  「クエストは受けないのかな? 外から来た人って、だいたい、カード作って即クエスト受けるよね?」

ギルド職員A  「どんなのを最初に受けるか賭ける?」

ギルド職員B  「いいね。私は魔獣の討伐系かな」

ギルド職員A  「無難に採取依頼」

ギルド職員C  「なら、私は人探し」

ギルド職員A 「え~っ、そんな地味な」

ギルド職員C  「あら、ああいう人は、人情に厚いのよ?」

ギルド職員達  「「う~ん」」


つづく?
なんて事が起こってましたとさ☆
読んでくださりありがとうございます◎


どうでしょうね。
さて、魔導具の正体は。


次回、来週23日0時です。
よろしくお願いします◎
しおりを挟む
感想 74

あなたにおすすめの小説

側妃ですか!? ありがとうございます!!

Ryo-k
ファンタジー
『側妃制度』 それは陛下のためにある制度では決してなかった。 ではだれのためにあるのか…… 「――ありがとうございます!!」

冷たかった夫が別人のように豹変した

京佳
恋愛
常に無表情で表情を崩さない事で有名な公爵子息ジョゼフと政略結婚で結ばれた妻ケイティ。義務的に初夜を終わらせたジョゼフはその後ケイティに触れる事は無くなった。自分に無関心なジョゼフとの結婚生活に寂しさと不満を感じながらも簡単に離縁出来ないしがらみにケイティは全てを諦めていた。そんなある時、公爵家の裏庭に弱った雄猫が迷い込みケイティはその猫を保護して飼うことにした。 ざまぁ。ゆるゆる設定

【短編】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか
恋愛
 もうすぐ、赤ちゃんが生まれる。  誕生を祝いに、領地から父の辺境伯が訪ねてくるのを心待ちにしているアリシア。 でも、夫と赤髪メイドのメリッサが口づけを交わしているのを見てしまう。 「なぜ、メリッサもお腹に赤ちゃんがいるの!?」  アリシアは夫の愛を疑う。 小説家になろう様にも投稿しています。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

太夫→傾国の娼妓からの、やり手爺→今世は悪妃の称号ご拝命〜数打ち妃は悪女の巣窟(後宮)を謳歌する

嵐華子
キャラ文芸
ただ1人だけを溺愛する皇帝の4人の妻の1人となった少女は密かに怒っていた。 初夜で皇帝に首を切らせ(→ん?)、女官と言う名の破落戸からは金を巻き上げ回収し、過去の人生で磨いた芸と伝手と度胸をもって後宮に新風を、世に悪妃の名を轟かす。  太夫(NO花魁)、傾国の娼妓からのやり手爺を2度の人生で経験しつつ、3度目は後宮の数打ち妃。 「これ、いかに?」  と首を捻りつつも、今日も今日とて寂れた宮で芸を磨きつつ金儲けを考えつつ、悪女達と渡り合う少女のお話。 ※1話1,600文字くらいの、さくさく読めるお話です。 ※下スクロールでささっと読めるよう基本的に句読点改行しています。 ※勢いで作ったせいか設定がまだゆるゆるしています。 ※他サイトに掲載しています。

そして、アドレーヌは眠る。

緋島礼桜
ファンタジー
長く続いた大戦、それにより腐りきった大地と生命を『奇跡の力』で蘇らせ終戦へと導いた女王――アドレーヌ・エナ・リンクス。 彼女はその偉業と引き換えに長い眠りについてしまいました。彼女を称え、崇め、祀った人々は彼女の名が付けられた新たな王国を創りました。 眠り続けるアドレーヌ。そこに生きる者たちによって受け継がれていく物語―――そして、辿りつく真実と結末。 これは、およそ千年続いたアドレーヌ王国の、始まりと終わりの物語です。 *あらすじ* ~第一篇~ かつての大戦により鉄くずと化し投棄された負の遺産『兵器』を回収する者たち―――狩人(ハンター)。 それを生業とし、娘と共に旅をするアーサガ・トルトはその活躍ぶりから『漆黒の弾丸』と呼ばれていた。 そんな彼はとある噂を切っ掛けに、想い人と娘の絆が揺れ動くことになる―――。 ~第二篇~ アドレーヌ女王の血を継ぐ王族エミレス・ノト・リンクス王女は王国東方の街ノーテルの屋敷で暮らしていた。 中肉中背、そばかすに見た目も地味…そんな引け目から人前を避けてきた彼女はある日、とある男性と出会う。 それが、彼女の過去と未来に関わる大切な恋愛となっていく―――。 ~第三篇~ かつての反乱により一斉排除の対象とされ、長い年月虐げられ続けているイニム…ネフ族。 『ネフ狩り』と呼ばれる駆逐行為は隠れ里にて暮らしていた青年キ・シエの全てを奪っていった。 愛する者、腕、両目を失った彼は名も一族の誇りすらも捨て、復讐に呑まれていく―――。 ~第四篇~ 最南端の村で暮らすソラはいつものように兄のお使いに王都へ行った帰り、謎の男二人組に襲われる。 辛くも通りすがりの旅人に助けられるが、その男もまた全身黒尽くめに口紅を塗った奇抜な出で立ちで…。 この出会いをきっかけに彼女の日常は一変し歴史を覆すような大事件へと巻き込まれていく―――。 * *2020年まで某サイトで投稿していたものですがサイト閉鎖に伴い、加筆修正して完結を目標に再投稿したいと思います。 *他小説家になろう、アルファポリスでも投稿しています。 *毎週、火・金曜日に更新を予定しています。

父が再婚してから酷い目に遭いましたが、最終的に皆罪人にして差し上げました

四季
恋愛
母親が亡くなり、父親に新しい妻が来てからというもの、私はいじめられ続けた。 だが、ただいじめられただけで終わる私ではない……!

処理中です...