4 / 100
第一章 冒険者の始まりと最初の出会い
004 街に入るには
しおりを挟む
2018. 1. 19
**********
マティアスとシェリスは、何度か野宿をして、ようやく大きな街にたどり着いた。
「ほぉ……高い壁だな……これを登るのか?」
「そんなわけないでしょう。あそこに門があります。そこから入るんです」
バカな事を言うマティアスに、シェリスが呆れながらツッコむ。もうこんなやり取りにも慣れたものだ。
「へぇ。モン……門か。あそこが入り口って事で……もしかして、村にあった柵の代わりがこれか?」
「そうですね。小規模な村では魔獣避けの柵があるでしょうが、それなりに町と呼べる場所では、こういった石の分厚い壁で囲うのが一般的です。敵は魔獣だけではありませんからね」
マティアスは少々引っかかりを覚えたが、これだけのものならばそれだけ安心できるものだというのは理解した。ディストレアか空から来るもの以外からは守られるだろうと考えながら見上げる。しかし、程なくして視線を引き戻された。
「さて、では一応確認しますが、身分証はありますか?」
「んん? ミブンショウ? なんだそれは」
「いえ……分からないのなら持っていないのでしょうね。因みに、これが身分証です。貴族でもなければ、冒険者ギルドか魔術師ギルド、又は商業ギルドで発行しなくてはなりません」
シェリスが見せたのは、大人の手のひら程の四角く薄い石のようで鉄のような、マティアスにはよく分からないものだった。
「これがない場合は、入り口で仮に許可証が発行されます。それにはお金が必要です」
更に、たった一人で町に入る場合は、許可証が発行される時に厳重な身体検査と質疑、魔術検査など、時間のかかる検査が必要となる。しかし、同行者がいる場合、その人に身元を保証してもらうことで、それらをパスすることができる。ただし、町の中で問題を起こした場合、同行者が責任を問われることになる。
「いくらいるんだ?」
「五千ルグです。ただし、ギルドで身分証を手に入れれば、三千ルグは戻ってきます。二千ルグは手間賃ですね」
発行費みたいなものなのだ。そこは納得するしかない。因みに、お金の単位はルグ。硬貨の種類は全部で七つある。
「ふむふむ、千がこの銀貨だったか」
小さな袋から取り出したのは、銀色に鈍く光る硬貨だ。それから手元を覗き込むようにして袋に残されている銀貨の数を確認する。
「そうです。五千ですから……」
「五枚だな。大丈夫だ」
「では行きましょう」
マティアスとシェリスは並んで門へと向かった。
門番の男は、事務的に仕事をこなしていた。しかし、マティアスとシェリスを見た途端、その目を見開いた。
「っ、ま、魔族の方とエルフの方ですね。身分証の提示をお願いいたします」
魔族とエルフ族が仲良く二人だけで旅をするというのは、中々あり得ないことなのだ。これは、種族間の性質の違いが問題となっている。
シェリスが先ずギルドカードを出し、ついでのように訂正した。
「彼女は人族です。それと、彼女には身分証がないので、許可証の発行をお願いします」
「はっ、人……そ、そうですか。はい。ではあちらへどうぞ……」
「ありがとなっ」
男の視線はマティアスの髪に釘付けだ。それを訝しげに思いながらもシェリスに先導されて発行窓口へ向かった。
「やはり、その髪は目立ちますね」
「目立つのは当然だ。これは誇りだからな」
「『ディストレアの』でしょう。確か『狩りの際の警告と強者の証』でしたか。ですが、ここは狩り場ではありません」
『赤い体毛を持った狼を見たなら、迷わず逃げろ』というのが世界共通のディストレアに対する対処法だ。決して立ち向かってはならない。
ディストレアの目立つ赤い体毛は、弱者への警告。ただし、獲物と認識されたなら、逃げる事など敵わない。その足の速さは何者にも負けることはないのだから。目立った所で敵もいないという絶対の自信の証が、その赤い体毛なのだと言われている。
「なるほど……確かに昔いた村では気味悪がられたな。ならば、隠せばいいのか?」
「そうですね……染めますか」
そんな提案をしながら待つこと数分。決して安いとは言えないお金を支払い、許可証を手に街に入った。
「すごいなぁ。人がいっぱいだ」
「余所見して歩くんじゃありません。危ないですよ」
「おう。それより、これからどこへ向かうんだ?」
注意されても嬉しそうに回りを見回すマティアス。田舎者丸出しである。ただし、心配するような人にぶつかったり迷惑になったりということはない。マティアスは視認するより、気配や感覚で人々を避けているのだ。
「あなたの視力なら見えますか? この先にあるクロスした剣とペンに盾のマークの旗がある建物です」
「剣とペン? あ、ああ、あの二つ目の大きな建物な」
「剣は勇猛、盾は果敢、ペンは英断を表していると言われています。あれが、冒険者ギルドのマークです。冒険者……あえて危険を冒しながらも前へ進む者という意味で使われます」
「冒険者か……いいな!」
その意味を噛み締め、マティアスは目を輝かせる。
「あそこであなたの身分証を発行します」
「おうっ」
シェリスに先導されながら、マティアスは軽い足取りでそこへ足を踏み入れる。後に伝説となる冒険者の偉大なる一歩がここにあった。
**********
舞台裏のお話。
門兵A 「ものすごい美人だったな……」
門兵B 「二人ともな!」
門兵A 「でも、声の感じから、あのエルフは男だよな?」
門兵B 「それでも良い。見られただけでいいっ」
門兵C 「それにしても、見事な赤だったなぁ」
門兵「「まるで伝説のディストレア!」」
門兵C 「本当にディストレアかもなぁ」
門兵「「……え……」
門兵C 「冗談だって。あははっ」
門兵A 「だ、だよなぁ……はは……」
門兵B 「……けど、本物見たことないし……」
門兵「「「……」」」
門兵A 「経過観察っ! 経過観察なっ!」
門兵B 「それとなく気にしとこうっ」
門兵C 「変に警戒すると危ないかもだけどなっ。はははっ」
門兵「「他人事じゃねぇだろ!!」」
つづく?
なんて事が起こってましたとさ☆
読んでくださりありがとうございます◎
呑気ですね。
次回、金曜26日0時です。
よろしくお願いします◎
**********
マティアスとシェリスは、何度か野宿をして、ようやく大きな街にたどり着いた。
「ほぉ……高い壁だな……これを登るのか?」
「そんなわけないでしょう。あそこに門があります。そこから入るんです」
バカな事を言うマティアスに、シェリスが呆れながらツッコむ。もうこんなやり取りにも慣れたものだ。
「へぇ。モン……門か。あそこが入り口って事で……もしかして、村にあった柵の代わりがこれか?」
「そうですね。小規模な村では魔獣避けの柵があるでしょうが、それなりに町と呼べる場所では、こういった石の分厚い壁で囲うのが一般的です。敵は魔獣だけではありませんからね」
マティアスは少々引っかかりを覚えたが、これだけのものならばそれだけ安心できるものだというのは理解した。ディストレアか空から来るもの以外からは守られるだろうと考えながら見上げる。しかし、程なくして視線を引き戻された。
「さて、では一応確認しますが、身分証はありますか?」
「んん? ミブンショウ? なんだそれは」
「いえ……分からないのなら持っていないのでしょうね。因みに、これが身分証です。貴族でもなければ、冒険者ギルドか魔術師ギルド、又は商業ギルドで発行しなくてはなりません」
シェリスが見せたのは、大人の手のひら程の四角く薄い石のようで鉄のような、マティアスにはよく分からないものだった。
「これがない場合は、入り口で仮に許可証が発行されます。それにはお金が必要です」
更に、たった一人で町に入る場合は、許可証が発行される時に厳重な身体検査と質疑、魔術検査など、時間のかかる検査が必要となる。しかし、同行者がいる場合、その人に身元を保証してもらうことで、それらをパスすることができる。ただし、町の中で問題を起こした場合、同行者が責任を問われることになる。
「いくらいるんだ?」
「五千ルグです。ただし、ギルドで身分証を手に入れれば、三千ルグは戻ってきます。二千ルグは手間賃ですね」
発行費みたいなものなのだ。そこは納得するしかない。因みに、お金の単位はルグ。硬貨の種類は全部で七つある。
「ふむふむ、千がこの銀貨だったか」
小さな袋から取り出したのは、銀色に鈍く光る硬貨だ。それから手元を覗き込むようにして袋に残されている銀貨の数を確認する。
「そうです。五千ですから……」
「五枚だな。大丈夫だ」
「では行きましょう」
マティアスとシェリスは並んで門へと向かった。
門番の男は、事務的に仕事をこなしていた。しかし、マティアスとシェリスを見た途端、その目を見開いた。
「っ、ま、魔族の方とエルフの方ですね。身分証の提示をお願いいたします」
魔族とエルフ族が仲良く二人だけで旅をするというのは、中々あり得ないことなのだ。これは、種族間の性質の違いが問題となっている。
シェリスが先ずギルドカードを出し、ついでのように訂正した。
「彼女は人族です。それと、彼女には身分証がないので、許可証の発行をお願いします」
「はっ、人……そ、そうですか。はい。ではあちらへどうぞ……」
「ありがとなっ」
男の視線はマティアスの髪に釘付けだ。それを訝しげに思いながらもシェリスに先導されて発行窓口へ向かった。
「やはり、その髪は目立ちますね」
「目立つのは当然だ。これは誇りだからな」
「『ディストレアの』でしょう。確か『狩りの際の警告と強者の証』でしたか。ですが、ここは狩り場ではありません」
『赤い体毛を持った狼を見たなら、迷わず逃げろ』というのが世界共通のディストレアに対する対処法だ。決して立ち向かってはならない。
ディストレアの目立つ赤い体毛は、弱者への警告。ただし、獲物と認識されたなら、逃げる事など敵わない。その足の速さは何者にも負けることはないのだから。目立った所で敵もいないという絶対の自信の証が、その赤い体毛なのだと言われている。
「なるほど……確かに昔いた村では気味悪がられたな。ならば、隠せばいいのか?」
「そうですね……染めますか」
そんな提案をしながら待つこと数分。決して安いとは言えないお金を支払い、許可証を手に街に入った。
「すごいなぁ。人がいっぱいだ」
「余所見して歩くんじゃありません。危ないですよ」
「おう。それより、これからどこへ向かうんだ?」
注意されても嬉しそうに回りを見回すマティアス。田舎者丸出しである。ただし、心配するような人にぶつかったり迷惑になったりということはない。マティアスは視認するより、気配や感覚で人々を避けているのだ。
「あなたの視力なら見えますか? この先にあるクロスした剣とペンに盾のマークの旗がある建物です」
「剣とペン? あ、ああ、あの二つ目の大きな建物な」
「剣は勇猛、盾は果敢、ペンは英断を表していると言われています。あれが、冒険者ギルドのマークです。冒険者……あえて危険を冒しながらも前へ進む者という意味で使われます」
「冒険者か……いいな!」
その意味を噛み締め、マティアスは目を輝かせる。
「あそこであなたの身分証を発行します」
「おうっ」
シェリスに先導されながら、マティアスは軽い足取りでそこへ足を踏み入れる。後に伝説となる冒険者の偉大なる一歩がここにあった。
**********
舞台裏のお話。
門兵A 「ものすごい美人だったな……」
門兵B 「二人ともな!」
門兵A 「でも、声の感じから、あのエルフは男だよな?」
門兵B 「それでも良い。見られただけでいいっ」
門兵C 「それにしても、見事な赤だったなぁ」
門兵「「まるで伝説のディストレア!」」
門兵C 「本当にディストレアかもなぁ」
門兵「「……え……」
門兵C 「冗談だって。あははっ」
門兵A 「だ、だよなぁ……はは……」
門兵B 「……けど、本物見たことないし……」
門兵「「「……」」」
門兵A 「経過観察っ! 経過観察なっ!」
門兵B 「それとなく気にしとこうっ」
門兵C 「変に警戒すると危ないかもだけどなっ。はははっ」
門兵「「他人事じゃねぇだろ!!」」
つづく?
なんて事が起こってましたとさ☆
読んでくださりありがとうございます◎
呑気ですね。
次回、金曜26日0時です。
よろしくお願いします◎
4
お気に入りに追加
600
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
交換された花嫁
秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
「お姉さんなんだから我慢なさい」
お姉さんなんだから…お姉さんなんだから…
我儘で自由奔放な妹の所為で昔からそればかり言われ続けてきた。ずっと我慢してきたが。公爵令嬢のヒロインは16歳になり婚約者が妹と共に出来きたが…まさかの展開が。
「お姉様の婚約者頂戴」
妹がヒロインの婚約者を寝取ってしまい、終いには頂戴と言う始末。両親に話すが…。
「お姉さんなのだから、交換して上げなさい」
流石に婚約者を交換するのは…不味いのでは…。
結局ヒロインは妹の要求通りに婚約者を交換した。
そしてヒロインは仕方無しに嫁いで行くが、夫である第2王子にはどうやら想い人がいるらしく…。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
義兄に甘えまくっていたらいつの間にか執着されまくっていた話
よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。大好きな推しであるユリウスと自分が結ばれることはない。ならば義妹として目一杯甘えまくって楽しもうと考えたのだが、気づけばユリウスにめちゃくちゃ執着されていた話。
「義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話」のifストーリーですが繋がりはなにもありません。
【完結】私が王太子殿下のお茶会に誘われたからって、今更あわてても遅いんだからね
江崎美彩
恋愛
王太子殿下の婚約者候補を探すために開かれていると噂されるお茶会に招待された、伯爵令嬢のミンディ・ハーミング。
幼馴染のブライアンが好きなのに、当のブライアンは「ミンディみたいなじゃじゃ馬がお茶会に出ても恥をかくだけだ」なんて揶揄うばかり。
「私が王太子殿下のお茶会に誘われたからって、今更あわてても遅いんだからね! 王太子殿下に見染められても知らないんだから!」
ミンディはブライアンに告げ、お茶会に向かう……
〜登場人物〜
ミンディ・ハーミング
元気が取り柄の伯爵令嬢。
幼馴染のブライアンに揶揄われてばかりだが、ブライアンが自分にだけ向けるクシャクシャな笑顔が大好き。
ブライアン・ケイリー
ミンディの幼馴染の伯爵家嫡男。
天邪鬼な性格で、ミンディの事を揶揄ってばかりいる。
ベリンダ・ケイリー
ブライアンの年子の妹。
ミンディとブライアンの良き理解者。
王太子殿下
婚約者が決まらない事に対して色々な噂を立てられている。
『小説家になろう』にも投稿しています
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
悪役令嬢カテリーナでございます。
くみたろう
恋愛
………………まあ、私、悪役令嬢だわ……
気付いたのはワインを頭からかけられた時だった。
どうやら私、ゲームの中の悪役令嬢に生まれ変わったらしい。
40歳未婚の喪女だった私は今や立派な公爵令嬢。ただ、痩せすぎて骨ばっている体がチャームポイントなだけ。
ぶつかるだけでアタックをかます強靭な骨の持ち主、それが私。
40歳喪女を舐めてくれては困りますよ? 私は没落などしませんからね。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる