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第四章 国を渡り歩く狐
097 戦い方って……
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せっかくなので案内してやると、次の日から、精霊王達に先導されて、その洞窟へやって来た。
「……ここにいるのか? 入り口ちっさ!」
これがマティアスの最初の感想だ。
「確かに小さいなあ。俺らの所の五分の一くらいか? これは、人一人入るのもやっとだな」
ダグストールの国の入り口と比べると、本当に小さい。マティアスは納得できないと顔を顰めた。
「仮にも王が居るんだよな? 王の家ってことだよな?」
《だから言ったでしょう? 引きこもりのヘタレだと》
風王ウィルミナが苦笑して告げる。そういえばそう言っていたなとマティアスは頷いた。だが、納得はできない。
「それにしてもさあ。ただの穴じゃん。せめて扉とかさあ。中は違うとか?」
「迷宮になっているでしょうし、中は少し違うのではありませんか?」
シェリスがそうフォローする。ならばとマティアスは躊躇わず足を踏み出した。
「なら行くか」
ちょっと楽しみだという顔になったのは、ドワーフの国で迷宮体験したからだ。
幻だがそれが本物のように見える。それが王ならば、どれほどのことが出来るかと楽しみになったようだ。
そこで、マティアスは精霊王達を振り返る。
「じゃあ、行ってみる。案内ありがとな。また呼ぶよ」
《ええ。ならまた後で》
《せめて遊んでやるといいわ》
《引きこもりを引っ張り出すのも面白いぞい》
《……楽しんで……》
「おうっ。またな」
精霊王達が姿を消す。それを確認して、マティアス達は洞窟の中へ入った。
しばらくは狭いただの洞窟でしかなかった。とはいえ、二人が並べるくらいの幅はできていた。
「このままとかだったら面白くないなあ」
「他の迷宮とかだと、魔獣が出らしいんだが……」
カルツォーネが首を捻っていると、それが出始めた。
「おっ! 魔獣が出た! けど……変な感じのする魔獣? だな?」
「アレも幻のようなものです。ただ、強い精神魔術のようなもので可視化されているので、受ける攻撃も本物だそうですが……」
シェリスも話に聞いたことがあるだけで、そうそう迷宮に入る機会などない。旨味もそれほどないと言われているからだ。人里から離れた辺鄙な場所に現れるということもある。
更に、迷宮はただの妖精達の住処という認識しかなく、妖精を愛でたいと考える人族が、たまに入るくらい。それほど入ろうと思える場所ではなかったのだ。
しかし、今回、こうしてマティアス達が妖精王に出会うことで、迷宮という存在は広く人族にも知られ、多くの利益を得られる特別な場所となる。
この日が妖精達にとっても転機となるのだが、それはまだ誰も知らない。
マティアスは、早速試しというように、目の前に現れたブラックベアを殴り倒した。これにはシェリス以外が呆然とした。
「……え……」
「素手……」
「お、おう……?」
「……マティ……」
シェリスが大きくため息を吐く頃。ブラックベアが淡く光ってそれが弾けるように消えた。これに驚いて、マティアスは笑顔で振り返った。面白いと顔に書いてある。
「うおっ。消えた! ってか、感触はまんまだ! 何これ! マジおもろい!」
大興奮するマティアス。よっぽど消えるというのが楽しかったらしい。
「ってか消えた! ちょい肉を期待……肉の塊がある!!」
大きな腐敗を抑える効果のある葉っぱに包まれた肉塊がそこに置かれていた。
「なんだこれ! あ、ブラックベアの肉だ。この臭いは間違いない!」
「……臭いで判断するのやめなさい……」
それも生肉。確かにどうかと思う。だが、このシェリスの指摘よりも、サクヤ達は気になることがあった。
「ちょ、ちょっと! ブラックベアを殴り倒すとか、何考えてんのよ! 危ないでしょ!」
「ん? いや。だって、ベア系は素手でやるのが礼儀だって、トヤが言ってた」
「それ、ディストレアよね!? 常に素手みたいなものでしょ!」
「ん? 人の常識だって聞いたぞ?」
「そんな常識、人にないわよ!」
「そうなのか?」
確認する相手は、マティアスの常識の先生であるシェリスだ。彼は頭を抱えていたが、すぐにその手を離し、にこりと笑った。
「戦いやすいようですからね。良い手だと認めましょう」
「だよな! うん。やっぱ、ベア系には素手だ。よし! 次は何が出るかな~♪」
シュッシュッと拳を前に出しながら再び先頭を歩き出したマティアス。それにシェリスは笑顔のままについていく。それを追いかけながら、サクヤが耳打ちした。
「ちょっと、あれいいの?」
「危なげないですし、確実にやれるなら良いでしょう。何より、育ての親は武器を使わない方だったんですからね。良いんです。コレはこれで。そこまで面倒みません」
諦めたとも言う。
「……まあ……いいわ……」
これ以降、一同はマティアスの戦い方については、口を出さないことに決めたのだった。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
また二週空きます。
よろしくお願いします◎
「……ここにいるのか? 入り口ちっさ!」
これがマティアスの最初の感想だ。
「確かに小さいなあ。俺らの所の五分の一くらいか? これは、人一人入るのもやっとだな」
ダグストールの国の入り口と比べると、本当に小さい。マティアスは納得できないと顔を顰めた。
「仮にも王が居るんだよな? 王の家ってことだよな?」
《だから言ったでしょう? 引きこもりのヘタレだと》
風王ウィルミナが苦笑して告げる。そういえばそう言っていたなとマティアスは頷いた。だが、納得はできない。
「それにしてもさあ。ただの穴じゃん。せめて扉とかさあ。中は違うとか?」
「迷宮になっているでしょうし、中は少し違うのではありませんか?」
シェリスがそうフォローする。ならばとマティアスは躊躇わず足を踏み出した。
「なら行くか」
ちょっと楽しみだという顔になったのは、ドワーフの国で迷宮体験したからだ。
幻だがそれが本物のように見える。それが王ならば、どれほどのことが出来るかと楽しみになったようだ。
そこで、マティアスは精霊王達を振り返る。
「じゃあ、行ってみる。案内ありがとな。また呼ぶよ」
《ええ。ならまた後で》
《せめて遊んでやるといいわ》
《引きこもりを引っ張り出すのも面白いぞい》
《……楽しんで……》
「おうっ。またな」
精霊王達が姿を消す。それを確認して、マティアス達は洞窟の中へ入った。
しばらくは狭いただの洞窟でしかなかった。とはいえ、二人が並べるくらいの幅はできていた。
「このままとかだったら面白くないなあ」
「他の迷宮とかだと、魔獣が出らしいんだが……」
カルツォーネが首を捻っていると、それが出始めた。
「おっ! 魔獣が出た! けど……変な感じのする魔獣? だな?」
「アレも幻のようなものです。ただ、強い精神魔術のようなもので可視化されているので、受ける攻撃も本物だそうですが……」
シェリスも話に聞いたことがあるだけで、そうそう迷宮に入る機会などない。旨味もそれほどないと言われているからだ。人里から離れた辺鄙な場所に現れるということもある。
更に、迷宮はただの妖精達の住処という認識しかなく、妖精を愛でたいと考える人族が、たまに入るくらい。それほど入ろうと思える場所ではなかったのだ。
しかし、今回、こうしてマティアス達が妖精王に出会うことで、迷宮という存在は広く人族にも知られ、多くの利益を得られる特別な場所となる。
この日が妖精達にとっても転機となるのだが、それはまだ誰も知らない。
マティアスは、早速試しというように、目の前に現れたブラックベアを殴り倒した。これにはシェリス以外が呆然とした。
「……え……」
「素手……」
「お、おう……?」
「……マティ……」
シェリスが大きくため息を吐く頃。ブラックベアが淡く光ってそれが弾けるように消えた。これに驚いて、マティアスは笑顔で振り返った。面白いと顔に書いてある。
「うおっ。消えた! ってか、感触はまんまだ! 何これ! マジおもろい!」
大興奮するマティアス。よっぽど消えるというのが楽しかったらしい。
「ってか消えた! ちょい肉を期待……肉の塊がある!!」
大きな腐敗を抑える効果のある葉っぱに包まれた肉塊がそこに置かれていた。
「なんだこれ! あ、ブラックベアの肉だ。この臭いは間違いない!」
「……臭いで判断するのやめなさい……」
それも生肉。確かにどうかと思う。だが、このシェリスの指摘よりも、サクヤ達は気になることがあった。
「ちょ、ちょっと! ブラックベアを殴り倒すとか、何考えてんのよ! 危ないでしょ!」
「ん? いや。だって、ベア系は素手でやるのが礼儀だって、トヤが言ってた」
「それ、ディストレアよね!? 常に素手みたいなものでしょ!」
「ん? 人の常識だって聞いたぞ?」
「そんな常識、人にないわよ!」
「そうなのか?」
確認する相手は、マティアスの常識の先生であるシェリスだ。彼は頭を抱えていたが、すぐにその手を離し、にこりと笑った。
「戦いやすいようですからね。良い手だと認めましょう」
「だよな! うん。やっぱ、ベア系には素手だ。よし! 次は何が出るかな~♪」
シュッシュッと拳を前に出しながら再び先頭を歩き出したマティアス。それにシェリスは笑顔のままについていく。それを追いかけながら、サクヤが耳打ちした。
「ちょっと、あれいいの?」
「危なげないですし、確実にやれるなら良いでしょう。何より、育ての親は武器を使わない方だったんですからね。良いんです。コレはこれで。そこまで面倒みません」
諦めたとも言う。
「……まあ……いいわ……」
これ以降、一同はマティアスの戦い方については、口を出さないことに決めたのだった。
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また二週空きます。
よろしくお願いします◎
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