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第三章 面倒なドワーフの国民性

088 剣を授ける

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ダグストールだけを連れて、マティアスはレノンダラールの居る執務室へ向かった。

「入るぞ~」

扉前の騎士など気にせず、さっさとマティアスは自分で扉を開ける。苦笑する騎士には、ダグストールがすまんなと少し頭を下げていた。

「姐さん。何かありました?」

レノンダラールは大きく立派な執務机にかじりつくようにして書類に目を通していた。面積のある机には、いくつもの書類の束や本が置かれている。

「ああ。お前に会わせようと思ってな。ダグ」

当たり前のようにダグと呼ぶ。すると、ダグストールは照れたようにマティアスに目を向けてから前に歩み出た。

「ダグストールだ。新しい王となるあんたのことはマティから聞いた。そんで、王の剣を作るなら、俺が受けようと思ってな」
「っ、ど、ドワーフのあなたが王の剣を!? そ、それは誠ですか!」

飛び上がるように声を上げたのは、執務についての指導をしていた宰相だった。

「ああ。どうだ?」

これに、レノンダラールは立ち上がってダグストールの前まで歩み寄ると、静かに頭を下げた。

「是非、お願いします」
「任せろ」

ダグストールは嬉しそうだった。気に入ったということだろう。そう思うと、マティアスも嬉しかった。

「明日までに作ってやるよ。戴冠式にないのは格好がつかんからな」
「えっ。そんなすぐに出来るものですか!?」

頭を上げたレノンダラールも驚きの声を上げる。

「そんな時間かけて作るかよ。集中すりゃあ、問題ねえ。ただ、国に戻ってやると移動に時間がかかるからな。その辺で炉を借りるぞ。導具は持ってるからな」
「宰相」
「すぐに手配いたします!」

宰相が飛び出して行った。

そして、次の日。

煌びやかな王の剣が出来上がった。

「すごいな……」

受け取ったレノンダラールだけでなく、宰相や王妃達も感嘆の声を上げる。

「これをほとんど半日で……」

宰相は信じられないと震えていた。

「まあな。鞘の方が時間かかったぜ。だが、剣ももちろん使える実戦用だ。そんで、鞘に入れてる時は劣化防止が働く」
「……」
「だからって、ずっと宝物庫とかにしまっとくんじゃねえぞ?」
「わ、分かりました……」

普通は宝剣だろうと劣化防止など、普通付かない。その上、実戦で使えるようには作らない。ただの飾りとして持っているだけというのが、普通だ。しかし、それらを口にすることは出来なかった。もちろん、ダグストールも分かっているのだ。これが普通ではないのだと。

「お前を見た時。国を……民や家族を守れる力を欲しているのが見えた。戴冠式に間に合わせたのは、これがお前の今の想いを留められる物にするためだ」
「想いを……」

レノンダラールは手にした剣を見つめる。

「その剣を見れば、今の想いを思い出せるだろ。国王ってのは、一番初心を忘れちゃならねえ役職だ。そう……俺の親父は言っていた」
「父親ですか?」

どういうことだとレノンダラールが目を瞬かせる。これに、ダグストールは後ろ頭を掻きながら答えた。

「俺の親父はドワーフの国で王をやってる。だから、王ってのがどうゆうものなのか、分かってるつもりだ」
「……」

マティアスがダグストールをレノンダラールに会わせる時。これも期待していたのだ。だから、静かに見守る。

「何度も一日じゃ答えを出せない選択をするだろう。犠牲になると知って、決断することもある……忘れるな。今ある想いを、その剣に託せ」
「……」

ぐっと剣を握って見つめるレノンダラール。

「そんで、そいつを見た時に思い出せ。苦しい選択をする時。した時。それをまた剣の前で誓え。忘れないように」
「っ……はい! ありがとうございました……っ」
「おう」

照れたようにダグストールは目を逸らした。柄じゃないなと笑っていた。

そして、戴冠式が行われた。

つつがなく結婚式も終わり、ダシーラ王国は新たな時代を迎えた。

その裏にマティアス達が絡んでいると知る者は少ない。だが、王家には王の剣と一緒に伝わるようになる。

ディストレアに手を出したがために国は一度滅びたのだと。そして、新たな王をディストレアが選んだのだと。その時に与えられた王の剣に刻まれた想いは、決して忘れてはならないのだと。

更には、その剣はドワーフ最高峰の作品として伝わることになる。

国の繁栄を約束する剣として。

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読んでくださりありがとうございます◎
また二週空きます。
よろしくお願いします◎
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