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第三章 面倒なドワーフの国民性

081 王の凱旋?

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 レノンダラール・ダシーラ

その名を聞いて、マティアスはかつてトアに聞いた話をふと思い出しかけた。

しかし、すぐに現実に戻される。

あねさん、ここが三つ目の領城です」
「お、あれだな」

マティアスは、この国の要らない領主の城を全部確認して回っている所だった。盗賊達が取り囲むのも、評判の悪い領主の所だけにするらしい。

「よし。次だ」
「後四つ回ったら王都です」
「分かった」

レノンダラールは別に国はどうでも良いという口振りだったが、かなり国のことを調べていたらしい。

「お前、ホントに優秀だな。きっちり最短ルートだろ、これ」
「あはは。褒められたっすね。いやあ、村でやられてから、生き残るにはどうすべきかを必死で考えたっすからね」

頭領の男と同じ。唯一の家族であった母親を連れ去られて、レノンダラールは必死で考えた。鍛えたとしても自分の身を守ることで精一杯。新しい居場所を守るため、仲間を守るためにはどうすべきかを考えたのだ。

昔から考えることは好きで、盗賊となってからは、作戦を練ることも悪くないと気付いた。仲間を生かすために考えること。それがレノンダラールの存在意義になった。

「仲間が生きるためなら、すり寄って来る奴らも利用したっす。汚れ仕事を任せようとする奴の弱みはガッツリ握るってえのも、覚えたっすね」

盗賊として生きながらも、時折腐った領主の裏の依頼なんかも請け負っていた。

「へえ……お前とか、そこのクソ真面目な騎士はそういうの流されてもやらねえんじゃねえ?」
「……姉さんって、本当に凄いっすね。洞察力が高いっていうか……まあ、その通りっすよ。弱み握るには、そいつが邪魔に思った奴を握っとくのが一番っす。依頼を達成したと見せかけて他国に亡命させてましたね」

上手く頭領に言って、そうしていたらしい。決して、仲間達が自分達を絶望させた奴らと同じ所まで落ちないように考えていたという。

かしらは、見た目アレっすけど、素直なんすよ」
「分かる分かる。アレは純粋ってやつだ」
《お人好し……》
「あはは。そうそう。お人好しだ」

プリシィーラがボソリと呟いたその言葉に、マティアスは爆笑し、レノンダラールは苦笑した。

「いや、まあそうっすね。なんで、非情なことしたって後、一日か二日落ち込むんすよ」
「は? それ、盗賊としてどうなんだ?」
「いやあ、基本いい人なんすよ。仲間たちも、それ察してて。頭が盗賊って態度を必死に装ってる感じがまた……可愛いじゃないっすか」
「……お前ら、過保護か」

真面目な顔で何言ってんだとマティアスは真顔になった。

「単純じゃないんすけど、根本的に悪役になりきれないってんですか? 女抱くのも優しいんすよ。頭的には乱暴にしてるって思ってるみたいなんすけど。どうも、惚れてもいない女を抱くってのが乱暴してるって思い込んでるみたいで。あ、すんません。姉さん相手に」
「いや……マジで、お前らよく盗賊やれてたな……まあ、お前がそれっぽくしてたんか」
「はい。頑張りました」

爽やかな笑みだった。考えを改める。

「……お前はアレだ……王よか宰相向きなのか?」
「いやいや、そんな頭良くないっすから」
「……まあ、お前なら傀儡にならんでも済むかもな」
「頑張るっすよー」

この言葉遣いも、シェリス辺りに直されそうだというのは口にしなかった。

「あ、あそこの城っす」
「よし、なら次だ」
「了解っす」

こうして城を回っていき、王都に向かった。

「注目されるなあ」
「後ろっすね」
《……あわれ……》

プリシィーラは結構辛辣しんらつだ。

マティアス達の後ろには、板に乗せられて目を回す騎士達。振動がヤバそうだ。どうも、吐いている者もいて、かなり酷い状態になっている。

引きずっている馬達は、もう元主人とも思っていなさそうだ。ただの汚い荷物扱い。たまにわざと泥などを後ろに撥ね上げているのがその証拠だ。

この馬達に彼らはどんな扱いをしていたのだろうか。

そうして、そのまま連れ回した結果、彼らは見た者たちに罪人だと思われていた。マティアス  も思わせようと考えていたので、問題はない。

そうなると、回った町に住んでいた者たちは、国が変わる時が来たのだと感じたようだ。特に、ロクでもない領主の元にいる彼らにとって、それは希望だった。

「ん? なんか来るな」

王都に近づくに従って、大人数が集まってきていた。これに目を向けていたのは騎士に憧れる青年。

「フースの領主です」

知った顔だったらしい。警戒はない。

「ああ。なら、改革派っすね。王城を落とす好機と思ったんでしょう」
「勘が良いな」
「それで生き抜いてきた奴らっすよ」
「お前を王にススメてんのも?」
「奴らっす。まあ、悪い人らじゃないっすよ。今まで何もせずにいたことを『機を見ていた』とか堂々と言い訳する気満々の貴族らしい貴族っすわ」
「なるほど」

確かに貴族の中では悪い人ではない。それはそれで認めてやるべきだろう。

「あ、門は……」
「いい。このまま押し通る」
「え?」
「……?」

王都の門を通るためにどうするか。応援というか、便乗しようと来た貴族達がいるのだ。門を通るのは、せめて彼らに頼もうと考えたレノンダラール。だが、マティアスは構わず駆けていく。

《……やる……》
「いいぞ……やれ! シィラ!」
《ん!》

キラキラと輝く風が門へ向かう。その風圧で、門に並んでいた入場待ちの列が二つに割れた。

人々には自分たちの身に何が起きたのか分からなかった。優しく押されただけ。自然に振り向いて、マティアス達の姿を認めると、数歩後退る。そんな自然な動きで、門までの道が出来たのだ。

まるで、凱旋する英雄を迎えるように。そのまま門を通り過ぎ、王城まで伸びる大通りも綺麗に道が出来ていた。

「ちょっ、何すかコレ!」
「シャキッとしろ。王の凱旋だって思ってな」
「っ、了解したっす」

後から追いかけて来た領主達も目を丸くする。そんな不思議な光景が目の前にあった。

マティアスは初めは動揺していたレノンダラールがすぐにそれらしく振る舞ったのを見て、満足げに笑う。

「よし、まずはお前の親父、元王を捕まえるぞ。一発殴ってやれ」
「はい!」
「はっ!」
《ん》

一行はそのまま王城の門さえも越えていたのだった。

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読んでくださりありがとうございます◎
また二週空きます。
よろしくお願いします◎
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