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第三章 面倒なドワーフの国民性
078 まだマシ
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マティアスは一人で盗賊達を待っていた。この場所は広さも十分。マティアスは必ず盗賊達がここへ来ると確信している。
ダグストールから受け取ったハルバードはマジックバックに入れていた。取り出して眺め透かし、振り回したいのをグッと我慢している。
土の魔術で作った丸い椅子に座り、暇潰しのために持っている古いナイフを磨く。これは旅の途中で寄った町の露店で見つけたナイフで、シェリス曰く、見た目は悪いが、手入れすればとても良い物らしい。
実際にそうして磨いて研いでみると、ものすごく良い業物だった。それからは、マティアスも楽しくなり、目利きの練習にもなるからと幾つかの露店で格安で手に入れたナイフをいくつも所持していた。
「おっ、どうだシィラ。ちょっと青い色が入っていないか?」
《(コクコク! キラキラ~)》
「すげぇ、綺麗な色だな」
《(コクコク!)》
そうして、キラキラと光を反射させることで、盗賊達も気付く。その上、マティアスはディストレアと同じ。珍しい赤い色を持っている。目立つに決まっていた。
「来たな」
ヒュンっと風が鳴る。マティアスの手には、弓矢が握られていた。
《(パチパチパチ)》
プリシィラも慣れてきたらしく、この頃はビクビクしない。
「ふふっ。さてと……」
立ち上がる。座っていた椅子は土に戻した。
しばらく待っていると、何本か弓矢が飛んでくるが、すべて避けて後ろに流している。マティアスの少し後ろには、弓矢が幾つも転がっていた。
それを確認して、マティアスは呑気に感想を零す。
「山を住処にしている割には、ただの石を使っているのか……削りもイマイチだな」
辛口評価はシェリス譲りだ。
そうして、ようやく盗賊達が到着した。
「おう。姉ちゃん。こんな所で一人で居るのは危ねえぜ?」
「……」
「はっはっはっ。びびっちまって声も出ねえってか? 素直に捕まるか?」
「なあ……お前ら、後ろのあの弓矢の残骸を見て何も考えんの?」
ちょっとマティアスも呆然としてしまった。
「は? 何言ってんだ」
「いや、寧ろこっちがびっくりなんだが……お前らのお仲間が射ってきたやつがこんだけ避けられていて、私が弱いわけねえだろ」
「……」
盗賊の頭領らしき男は、マティアスの後ろを身を乗り出すようにして確認する。そして、マティアスを見て、もう一度後ろを見る。
「意味わかったか?」
「……分かった……かも」
「そうか。良かったな。で? ヤって良いんだよな?」
「っ、いやいやいやっ。俺らは本当に、姉サンを気にして……すんませんっ。見逃してください!」
頭領が何を確認したのかを知って下っ端達は一緒に土下座した。後ろの方にいた弓矢を持った男三人は、カタカタと震えながら、弓矢を下に置き、両手を上げている。
「お前らな……仮に私がディストレアだったらどうする? 助かると思うか?」
「ひっ、思いません!!」
「だよな? なら、潔く……」
そう言う途中で、プリシィラが飛んだ。
「っ、シィラ!? 飛べるようになったのか!?」
「へ!? よ、妖精族!?」
マティアスが驚く声に驚いて顔を上げた盗賊達がマティアスの顔の前で飛ぶプリシィラを見つめる。
《っ……いじめる……ダメ》
「声も出るようになったのか! やったなシィラ!」
マティアスが喜べば、プリシィラは嬉しそうに笑って頷いた。
《反省……してる……から……殺しちゃ……ダメ》
「こいつらを? でもなあ……せっかくの武器を試す機会だぞ……」
《……なら、殺さない……程度に》
「そうするっ。ってことで、お前ら、遊んでけ」
「ひぃぃぃぃっ!」
騎士達に稽古を付ける時よりも楽しそうに、盗賊達全員が倒れるまで遊んだ。
「は~ぁぁぁっ、あとは斬れ味の確認だよなっ。バランス最高だしっ」
疲れた様子など皆無。うっとりとハルバードを見つめるマティアス。その周りには、全力疾走後のような息を必死でする男達。
その上を飛んで、妖精族特有の癒しの術を行使するプリシィラ。
《生きて……る?》
「い、生きてマス……お気遣い……恐れ入りやすっ」
《ん……もう少し休む》
「了解ッス……」
ここまで来ると、盗賊達もただの男に戻っている。
未だハルバードに夢中なマティアスを他所に、プリシィラへと独白し始める盗賊達。
「俺らも、最初っから盗賊をやってたわけじゃねえッス……無能な領主に両親を殺されて……奪われる者から、奪う者にならないとダメだと思ったんスよ……今思うと、ガキの思考っスよね……」
隣にある人族の国の小さな村出身で、頭領の男は村長の息子だった。不作で税が払えないと訴えた両親は、無情にも領主に斬り捨てられたらしい。
やがて近隣の村人達が集まって立ち上がり、領主へ立ち向かった。だが、やはり敵わなかったのだ。
村に残っていた女達も連れて行かれた。残されたのは、男を中心とした幼い子ども達だけ。そうして、生きるために盗みを覚え、盗賊になった。
「人も殺した……女も犯した……人を売った……バカだよな……これじゃあ、あの領主とおんなじだ……」
《……一緒じゃない……》
「いや、でも……」
《きっと……その領主は……自分がバカだって……気付いてない……から……一緒じゃない。まだ……マシ》
「っ……そうか……あいつよりマシか……っ、ははっ……そうかっ……っ、うっ、うっ、ふっ……っ」
それがきっかけだった。盗賊達は、自分たちのバカさ加減に気付き、後悔で涙を流した。
「ん? どうなってんだ? これ……」
マティアスだけがこの状況に取り残されていた。
************
読んでくださりありがとうございます◎
ダグストールから受け取ったハルバードはマジックバックに入れていた。取り出して眺め透かし、振り回したいのをグッと我慢している。
土の魔術で作った丸い椅子に座り、暇潰しのために持っている古いナイフを磨く。これは旅の途中で寄った町の露店で見つけたナイフで、シェリス曰く、見た目は悪いが、手入れすればとても良い物らしい。
実際にそうして磨いて研いでみると、ものすごく良い業物だった。それからは、マティアスも楽しくなり、目利きの練習にもなるからと幾つかの露店で格安で手に入れたナイフをいくつも所持していた。
「おっ、どうだシィラ。ちょっと青い色が入っていないか?」
《(コクコク! キラキラ~)》
「すげぇ、綺麗な色だな」
《(コクコク!)》
そうして、キラキラと光を反射させることで、盗賊達も気付く。その上、マティアスはディストレアと同じ。珍しい赤い色を持っている。目立つに決まっていた。
「来たな」
ヒュンっと風が鳴る。マティアスの手には、弓矢が握られていた。
《(パチパチパチ)》
プリシィラも慣れてきたらしく、この頃はビクビクしない。
「ふふっ。さてと……」
立ち上がる。座っていた椅子は土に戻した。
しばらく待っていると、何本か弓矢が飛んでくるが、すべて避けて後ろに流している。マティアスの少し後ろには、弓矢が幾つも転がっていた。
それを確認して、マティアスは呑気に感想を零す。
「山を住処にしている割には、ただの石を使っているのか……削りもイマイチだな」
辛口評価はシェリス譲りだ。
そうして、ようやく盗賊達が到着した。
「おう。姉ちゃん。こんな所で一人で居るのは危ねえぜ?」
「……」
「はっはっはっ。びびっちまって声も出ねえってか? 素直に捕まるか?」
「なあ……お前ら、後ろのあの弓矢の残骸を見て何も考えんの?」
ちょっとマティアスも呆然としてしまった。
「は? 何言ってんだ」
「いや、寧ろこっちがびっくりなんだが……お前らのお仲間が射ってきたやつがこんだけ避けられていて、私が弱いわけねえだろ」
「……」
盗賊の頭領らしき男は、マティアスの後ろを身を乗り出すようにして確認する。そして、マティアスを見て、もう一度後ろを見る。
「意味わかったか?」
「……分かった……かも」
「そうか。良かったな。で? ヤって良いんだよな?」
「っ、いやいやいやっ。俺らは本当に、姉サンを気にして……すんませんっ。見逃してください!」
頭領が何を確認したのかを知って下っ端達は一緒に土下座した。後ろの方にいた弓矢を持った男三人は、カタカタと震えながら、弓矢を下に置き、両手を上げている。
「お前らな……仮に私がディストレアだったらどうする? 助かると思うか?」
「ひっ、思いません!!」
「だよな? なら、潔く……」
そう言う途中で、プリシィラが飛んだ。
「っ、シィラ!? 飛べるようになったのか!?」
「へ!? よ、妖精族!?」
マティアスが驚く声に驚いて顔を上げた盗賊達がマティアスの顔の前で飛ぶプリシィラを見つめる。
《っ……いじめる……ダメ》
「声も出るようになったのか! やったなシィラ!」
マティアスが喜べば、プリシィラは嬉しそうに笑って頷いた。
《反省……してる……から……殺しちゃ……ダメ》
「こいつらを? でもなあ……せっかくの武器を試す機会だぞ……」
《……なら、殺さない……程度に》
「そうするっ。ってことで、お前ら、遊んでけ」
「ひぃぃぃぃっ!」
騎士達に稽古を付ける時よりも楽しそうに、盗賊達全員が倒れるまで遊んだ。
「は~ぁぁぁっ、あとは斬れ味の確認だよなっ。バランス最高だしっ」
疲れた様子など皆無。うっとりとハルバードを見つめるマティアス。その周りには、全力疾走後のような息を必死でする男達。
その上を飛んで、妖精族特有の癒しの術を行使するプリシィラ。
《生きて……る?》
「い、生きてマス……お気遣い……恐れ入りやすっ」
《ん……もう少し休む》
「了解ッス……」
ここまで来ると、盗賊達もただの男に戻っている。
未だハルバードに夢中なマティアスを他所に、プリシィラへと独白し始める盗賊達。
「俺らも、最初っから盗賊をやってたわけじゃねえッス……無能な領主に両親を殺されて……奪われる者から、奪う者にならないとダメだと思ったんスよ……今思うと、ガキの思考っスよね……」
隣にある人族の国の小さな村出身で、頭領の男は村長の息子だった。不作で税が払えないと訴えた両親は、無情にも領主に斬り捨てられたらしい。
やがて近隣の村人達が集まって立ち上がり、領主へ立ち向かった。だが、やはり敵わなかったのだ。
村に残っていた女達も連れて行かれた。残されたのは、男を中心とした幼い子ども達だけ。そうして、生きるために盗みを覚え、盗賊になった。
「人も殺した……女も犯した……人を売った……バカだよな……これじゃあ、あの領主とおんなじだ……」
《……一緒じゃない……》
「いや、でも……」
《きっと……その領主は……自分がバカだって……気付いてない……から……一緒じゃない。まだ……マシ》
「っ……そうか……あいつよりマシか……っ、ははっ……そうかっ……っ、うっ、うっ、ふっ……っ」
それがきっかけだった。盗賊達は、自分たちのバカさ加減に気付き、後悔で涙を流した。
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セレスティナ 12才(変更前)→15才(変更後) シャーロット 13才(変更前)→16才(変更後)
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