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第三章 面倒なドワーフの国民性
066 静かな国
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店の出店について、一考の余地ありとしたヤンダール王。とはいえ、これは国の問題でもある。まずはと町に降りた。
マティアス達は、ヤンダール王に案内され、とある工房に向かっていた。因みにレイシィムは表の審査業務に戻っている。国王夫妻は外周りや外交を妻が、国内を夫が担当して、区別しているらしい。
こうして、国王が町を歩いているのを見て不思議そうに顔を上げる者達の中に職人はいない。たまたま目が合っても黙って頭を下げるだけだ。
魔族の国では王妃でも王でも、声が聞こえたら弾かれたように顔を上げて駆け寄ってきた。その違いをマティアスは面白がっていた。
「静かな国だな」
「そうか? 音はこうして響いているが?」
そこかしこからカンカン、コンコン音は聞こえてきていた。
「人の声があまりしてないなと思ってさ」
「ああ。確かにな。そういう意味では静かだろう」
ヤンダール王はその通りだなと笑った。
「気になっていたのだが、工房にランクとかはあるのだろうか?」
カルツォーネの質問にヤンダールが頷く。
「あるぞ。三年に一度、各工房から代表を選出して品評会をする。そこで工房のランクを査定するんだ」
「そのランクはどこで分かるんです?」
シェリスは工房をそれとなく注視しながら尋ねた。一見したところ、ランクが分かりそうなものは見られない。
「店ん中にあるからな。外からは分からん。昔はそれを看板の下に掲げてたんだが……どうせ客の方は職人を選べんのだ。意味ねえなってことになってな」
「確かに、そういや、鍛治師の方が客を選ぶんだもんなあ」
「そういうこった」
『どこそこの工房はランクが高いからそこで発注しよう』ということにはならないのがドワーフの国だ。
「なら、今案内してくれてる所はいいのか?」
こっちが工房を選ぶのと一緒ではないかと、マティアスは不思議だった。
「言ったろ。昔は看板の下にランクを掲げてたって」
「ああ」
「昔はなあ、ちゃんと客が工房の方を選べてたらしい。知り合いの推薦とかも普通だった。俺が生まれた時にはもう今の体制だったんだが、もっと何百年と前はそうだったらしい」
ドワーフ達は『使い手に相応しい武器を作る』というのを理念として持っている。それがいつの間にか『使い手として相応しい者に武器を作る』というものに意味合いが変わってしまったようだ。
「客が誰であっても、そいつを見て相応しい武器を作るのが、本来の姿だ。それが今出来るのが、この国に一人だけいる」
そこへ案内するつもりなのは分かった。ただ、先ほどから多くの工房が立ち並んでいた区画から離れている気がする。
マティアスは周りをみながら確認する。
「へえ。一人だけ?」
「ああ。一人だけだ。そんで……俺の息子だ」
「「「息子!?」」」
これには、カルツォーネとシェリスも驚きの声を上げた。彼の妻はレイシィムだと知っているのだ。驚くのも無理はない。マティアスは知らないが、妖精との子どもはできない。
その驚きの意味にヤンダール王も気付いた。
「あ~、悪い。あいつとの子じゃなくてな。死んだ前妻との子だ」
「そうなのか……その人はドワーフなのか?」
「おう。ドワーフの国始まって以来の純血種で冒険者になった女でなあ。自分で武器も作って、仲間の武器も作っていた。強い良い女だったよ。本格的に妖精族と契約したのがあいつの一族でな。直接妖精王に頭下げて協力を取り付けたっていう血が、外へ出るのを厭わせなかったんだろう」
そんな血を引いているのが彼だった。
***********
読んでくださりありがとうございます◎
仕事の関係でまた二週空きます。
よろしくお願いします◎
『女神なんてお断りですっ。』4巻発売されました!
是非、番外編も楽しんでください◎
マティアス達は、ヤンダール王に案内され、とある工房に向かっていた。因みにレイシィムは表の審査業務に戻っている。国王夫妻は外周りや外交を妻が、国内を夫が担当して、区別しているらしい。
こうして、国王が町を歩いているのを見て不思議そうに顔を上げる者達の中に職人はいない。たまたま目が合っても黙って頭を下げるだけだ。
魔族の国では王妃でも王でも、声が聞こえたら弾かれたように顔を上げて駆け寄ってきた。その違いをマティアスは面白がっていた。
「静かな国だな」
「そうか? 音はこうして響いているが?」
そこかしこからカンカン、コンコン音は聞こえてきていた。
「人の声があまりしてないなと思ってさ」
「ああ。確かにな。そういう意味では静かだろう」
ヤンダール王はその通りだなと笑った。
「気になっていたのだが、工房にランクとかはあるのだろうか?」
カルツォーネの質問にヤンダールが頷く。
「あるぞ。三年に一度、各工房から代表を選出して品評会をする。そこで工房のランクを査定するんだ」
「そのランクはどこで分かるんです?」
シェリスは工房をそれとなく注視しながら尋ねた。一見したところ、ランクが分かりそうなものは見られない。
「店ん中にあるからな。外からは分からん。昔はそれを看板の下に掲げてたんだが……どうせ客の方は職人を選べんのだ。意味ねえなってことになってな」
「確かに、そういや、鍛治師の方が客を選ぶんだもんなあ」
「そういうこった」
『どこそこの工房はランクが高いからそこで発注しよう』ということにはならないのがドワーフの国だ。
「なら、今案内してくれてる所はいいのか?」
こっちが工房を選ぶのと一緒ではないかと、マティアスは不思議だった。
「言ったろ。昔は看板の下にランクを掲げてたって」
「ああ」
「昔はなあ、ちゃんと客が工房の方を選べてたらしい。知り合いの推薦とかも普通だった。俺が生まれた時にはもう今の体制だったんだが、もっと何百年と前はそうだったらしい」
ドワーフ達は『使い手に相応しい武器を作る』というのを理念として持っている。それがいつの間にか『使い手として相応しい者に武器を作る』というものに意味合いが変わってしまったようだ。
「客が誰であっても、そいつを見て相応しい武器を作るのが、本来の姿だ。それが今出来るのが、この国に一人だけいる」
そこへ案内するつもりなのは分かった。ただ、先ほどから多くの工房が立ち並んでいた区画から離れている気がする。
マティアスは周りをみながら確認する。
「へえ。一人だけ?」
「ああ。一人だけだ。そんで……俺の息子だ」
「「「息子!?」」」
これには、カルツォーネとシェリスも驚きの声を上げた。彼の妻はレイシィムだと知っているのだ。驚くのも無理はない。マティアスは知らないが、妖精との子どもはできない。
その驚きの意味にヤンダール王も気付いた。
「あ~、悪い。あいつとの子じゃなくてな。死んだ前妻との子だ」
「そうなのか……その人はドワーフなのか?」
「おう。ドワーフの国始まって以来の純血種で冒険者になった女でなあ。自分で武器も作って、仲間の武器も作っていた。強い良い女だったよ。本格的に妖精族と契約したのがあいつの一族でな。直接妖精王に頭下げて協力を取り付けたっていう血が、外へ出るのを厭わせなかったんだろう」
そんな血を引いているのが彼だった。
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