60 / 100
第三章 面倒なドワーフの国民性
060 そういう研究って……
しおりを挟む
●速報●
(活動報告でも近々お知らせ予定)
7月に『女神なんてお断りですっ。』
文庫第一巻が発売されます。
(以降続巻毎月発売予定)
とっておきの番外編を書き下ろしましたので
よろしくお願いします◎
**********
マティアス、シェリス、カルツォーネ、プリシィラは暗い洞窟を進んでいた。
道幅は馬車さえ通れるくらいの広さと高さがあるのだが、分かれ道が多く迷いそうだった。そして、多くの冒険者達がそこで右往左往している。
「な~あんか、変な感じのする場所だなあ」
「噂には聞いていたけど、本当に迷いの術がかけられてるんだねえ……」
「これはもう、軽くダンジョンと言っていいのでは?」
カルツォーネからある程度は聞いていた。ドワーフの国へ行けるのは極少数の選ばれた者だけ。その間にあるこの洞窟には、迷いの術がかけられているのだと。
「カルも行ったことはないのですか? 結構な武器とかお屋敷にありましたけど」
「あ~、うん。国からの依頼として送ってもらってたんだ。受け取りは専門の商隊が国境まで持ってきてくれてね。けど、母上は直接出向けていたよ。あのハルバードの調整ってその辺の鍛治師ではできなくてね」
けれど、入れるのはカルツォーネが知る限り、ベラントだけだったらしい。
「連れて行ってもらったっていうこともないのか?」
「母上には『職人に逃げられたらどうしてくれる』って半ば脅されるように断られたからね。兄貴達も父上でさえついて行ったことはなかったと思うよ」
かなり徹底して制限しているようだというのがよく分かる。
「ただ、ここを抜けて里に辿り着けたら認められたということになるらしいんだ。母上も、最初はそうやって入ったって言ってたからね。頑張って出口を探そう」
「ふ~ん……そういうやつらがこうしてここに溜まりまくってるってことか」
この洞窟、魔獣や魔物の類いは出てこない。なので、とても安全だ。お陰で少々拓けた場所では、完全なキャンプ地となっている。
「こんなに人がいるのに、すっげぇ殺伐としてんのな」
「情報共有なんて絶対しないって感じですね」
「そりゃあねえ。ドワーフの里に行ければ、最高の武器が手に入るんだ。一攫千金を狙ってる者達は多いんだよ」
とはいえ、武器を売り払うような者達にこの洞窟は抜けられない。だが、わかっていても心情は別だ。
「後は……ほら」
「ん?」
「あの人……狙われていますね」
カルツォーネが目で示した先には、肩を落としながらも大切に布に包まれた何かを抱える男とそれを守ろうとする女性がいた。
その周りにはギラギラとした目で二人を見つめる冒険者達。殺されそうなくらいに、意識が二人に集中していた。
「なんだ? あんなあからさまに……命を狙われてんのか?」
「あの持っている物を狙っているんでしょうか? そんな高価な物をこんな所には持ってきませんよね……となると……もしや、武器ですか?」
シェリスはこの場所との関係を考えて思い当たったらしい。これに、声を落としてカルツォーネが答える。
「武器を直してもらおうとしてるんだろうね。ああいう人達の方が里に通される確率が高いらしくて、一緒に通り抜けられないかってその時を狙ってるのさ」
「やな奴らだなあ……」
「実際どうなのです? 一緒に抜けれたりするんですか?」
これは純粋な疑問なのだろう。答えを求めるようにマティアスとシェリスはカルツォーネに目を向ける。
カルツォーネは首を傾げ視線を宙に投げた。
「どうだろう。確率は高いって聞いたことあるけど……あ~、いや。多分無理だね。そこはきっちりしているって研究結果があった気がする」
「……何を研究してるんですか……」
何でも興味を持ったことに真っ直ぐに向き合う研究志向の魔族達のことは、滞在中にシェリスも嫌というほど理解していた。
確かに統計とか取っていそうだと思えてしまう。
「珍しいんだよ? ほら、現地調査になるだろう? その人、ここに十五年滞在してたらしいし」
「それは……というか、十五年も家に帰らなかったんですね……」
「そうそう。ようやく立った我が子を置いて十五年。すっかりお腹を痛めて産んだ子どもに忘れ去られていたって笑ってたよ」
「笑って済むものとは思えないんですけどね」
そして女だったのかとツッコミ所満載だった。
「で? あいつらだけは行けそうなのか?」
マティアスは綺麗に色々スルーして気になっていたことだけ尋ねる。
あれだけ落ち込んでいるのだ。周りも見えてはいない。そんな人には辿り着いて欲しいと思うのは当然だった。
「あの武器によるかな」
「壊れてるやつか?」
「そう。ドワーフの鍛えた武器である場合か、ドワーフでも興味を持つことのできる性能の武器であった場合。あとは、彼が直した武器に相応しい技量を持っている場合は招いてもらえるらしい」
「……条件あり過ぎじゃねえ? っていうか、その条件に合ってるかどうか、どこで判断してんだ?」
「「あ、なるほど」」
このマティアスの言葉でカルツォーネとシェリスは周りを見回す。
「どうした?」
「うん。判断する人がここに居るのかも」
「そっちの方が気にならなかったんですかね?」
シェリスは、そこを研究してもらいたかったと零しならがも気配を探る。
「いやあ、研究って統計を取ったり、検証するから面白いんだよ。こういう、どっちかっていうと推理して犯人を見つける的な奴は比較的すぐに答えた出ちゃったりして、好む人が少ないんだよね~」
カルツォーネはそう答えながら、目をあまり動かすことなく集中して違和感を探す。
「わからなくもないと思ってしまう自分が嫌になります」
「あはは。シェリーも大概だなあ」
そうしてながらも、二人は感覚は研ぎ澄ませていた。
そんな中、マティアスは不意に軽快な足取りで件の男女二人組に近付いていくのだった。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
また一週空きます。
よろしくお願いします◎
2019. 6. 28
(活動報告でも近々お知らせ予定)
7月に『女神なんてお断りですっ。』
文庫第一巻が発売されます。
(以降続巻毎月発売予定)
とっておきの番外編を書き下ろしましたので
よろしくお願いします◎
**********
マティアス、シェリス、カルツォーネ、プリシィラは暗い洞窟を進んでいた。
道幅は馬車さえ通れるくらいの広さと高さがあるのだが、分かれ道が多く迷いそうだった。そして、多くの冒険者達がそこで右往左往している。
「な~あんか、変な感じのする場所だなあ」
「噂には聞いていたけど、本当に迷いの術がかけられてるんだねえ……」
「これはもう、軽くダンジョンと言っていいのでは?」
カルツォーネからある程度は聞いていた。ドワーフの国へ行けるのは極少数の選ばれた者だけ。その間にあるこの洞窟には、迷いの術がかけられているのだと。
「カルも行ったことはないのですか? 結構な武器とかお屋敷にありましたけど」
「あ~、うん。国からの依頼として送ってもらってたんだ。受け取りは専門の商隊が国境まで持ってきてくれてね。けど、母上は直接出向けていたよ。あのハルバードの調整ってその辺の鍛治師ではできなくてね」
けれど、入れるのはカルツォーネが知る限り、ベラントだけだったらしい。
「連れて行ってもらったっていうこともないのか?」
「母上には『職人に逃げられたらどうしてくれる』って半ば脅されるように断られたからね。兄貴達も父上でさえついて行ったことはなかったと思うよ」
かなり徹底して制限しているようだというのがよく分かる。
「ただ、ここを抜けて里に辿り着けたら認められたということになるらしいんだ。母上も、最初はそうやって入ったって言ってたからね。頑張って出口を探そう」
「ふ~ん……そういうやつらがこうしてここに溜まりまくってるってことか」
この洞窟、魔獣や魔物の類いは出てこない。なので、とても安全だ。お陰で少々拓けた場所では、完全なキャンプ地となっている。
「こんなに人がいるのに、すっげぇ殺伐としてんのな」
「情報共有なんて絶対しないって感じですね」
「そりゃあねえ。ドワーフの里に行ければ、最高の武器が手に入るんだ。一攫千金を狙ってる者達は多いんだよ」
とはいえ、武器を売り払うような者達にこの洞窟は抜けられない。だが、わかっていても心情は別だ。
「後は……ほら」
「ん?」
「あの人……狙われていますね」
カルツォーネが目で示した先には、肩を落としながらも大切に布に包まれた何かを抱える男とそれを守ろうとする女性がいた。
その周りにはギラギラとした目で二人を見つめる冒険者達。殺されそうなくらいに、意識が二人に集中していた。
「なんだ? あんなあからさまに……命を狙われてんのか?」
「あの持っている物を狙っているんでしょうか? そんな高価な物をこんな所には持ってきませんよね……となると……もしや、武器ですか?」
シェリスはこの場所との関係を考えて思い当たったらしい。これに、声を落としてカルツォーネが答える。
「武器を直してもらおうとしてるんだろうね。ああいう人達の方が里に通される確率が高いらしくて、一緒に通り抜けられないかってその時を狙ってるのさ」
「やな奴らだなあ……」
「実際どうなのです? 一緒に抜けれたりするんですか?」
これは純粋な疑問なのだろう。答えを求めるようにマティアスとシェリスはカルツォーネに目を向ける。
カルツォーネは首を傾げ視線を宙に投げた。
「どうだろう。確率は高いって聞いたことあるけど……あ~、いや。多分無理だね。そこはきっちりしているって研究結果があった気がする」
「……何を研究してるんですか……」
何でも興味を持ったことに真っ直ぐに向き合う研究志向の魔族達のことは、滞在中にシェリスも嫌というほど理解していた。
確かに統計とか取っていそうだと思えてしまう。
「珍しいんだよ? ほら、現地調査になるだろう? その人、ここに十五年滞在してたらしいし」
「それは……というか、十五年も家に帰らなかったんですね……」
「そうそう。ようやく立った我が子を置いて十五年。すっかりお腹を痛めて産んだ子どもに忘れ去られていたって笑ってたよ」
「笑って済むものとは思えないんですけどね」
そして女だったのかとツッコミ所満載だった。
「で? あいつらだけは行けそうなのか?」
マティアスは綺麗に色々スルーして気になっていたことだけ尋ねる。
あれだけ落ち込んでいるのだ。周りも見えてはいない。そんな人には辿り着いて欲しいと思うのは当然だった。
「あの武器によるかな」
「壊れてるやつか?」
「そう。ドワーフの鍛えた武器である場合か、ドワーフでも興味を持つことのできる性能の武器であった場合。あとは、彼が直した武器に相応しい技量を持っている場合は招いてもらえるらしい」
「……条件あり過ぎじゃねえ? っていうか、その条件に合ってるかどうか、どこで判断してんだ?」
「「あ、なるほど」」
このマティアスの言葉でカルツォーネとシェリスは周りを見回す。
「どうした?」
「うん。判断する人がここに居るのかも」
「そっちの方が気にならなかったんですかね?」
シェリスは、そこを研究してもらいたかったと零しならがも気配を探る。
「いやあ、研究って統計を取ったり、検証するから面白いんだよ。こういう、どっちかっていうと推理して犯人を見つける的な奴は比較的すぐに答えた出ちゃったりして、好む人が少ないんだよね~」
カルツォーネはそう答えながら、目をあまり動かすことなく集中して違和感を探す。
「わからなくもないと思ってしまう自分が嫌になります」
「あはは。シェリーも大概だなあ」
そうしてながらも、二人は感覚は研ぎ澄ませていた。
そんな中、マティアスは不意に軽快な足取りで件の男女二人組に近付いていくのだった。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
また一週空きます。
よろしくお願いします◎
2019. 6. 28
6
お気に入りに追加
602
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

冷遇妻に家を売り払われていた男の裁判
七辻ゆゆ
ファンタジー
婚姻後すぐに妻を放置した男が二年ぶりに帰ると、家はなくなっていた。
「では開廷いたします」
家には10億の価値があったと主張し、妻に離縁と損害賠償を求める男。妻の口からは二年の事実が語られていく。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

もしかして寝てる間にざまぁしました?
ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。
内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。
しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。
私、寝てる間に何かしました?

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ!
タヌキ汁
ファンタジー
国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。
これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。
お兄様の指輪が壊れたら、溺愛が始まりまして
みこと。
恋愛
お兄様は女王陛下からいただいた指輪を、ずっと大切にしている。
きっと苦しい片恋をなさっているお兄様。
私はただ、お兄様の家に引き取られただけの存在。血の繋がってない妹。
だから、早々に屋敷を出なくては。私がお兄様の恋路を邪魔するわけにはいかないの。私の想いは、ずっと秘めて生きていく──。
なのに、ある日、お兄様の指輪が壊れて?
全7話、ご都合主義のハピエンです! 楽しんでいただけると嬉しいです!
※「小説家になろう」様にも掲載しています。

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます
七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。
「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」
そう言われて、ミュゼは城を追い出された。
しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。
そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる