一匹狼は辞めるつもりです!~赤狼は仲間と気ままに冒険希望~

紫南

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第三章 面倒なドワーフの国民性

060 そういう研究って……

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●速報●
(活動報告でも近々お知らせ予定)
7月に『女神なんてお断りですっ。』
文庫第一巻が発売されます。
(以降続巻毎月発売予定)
とっておきの番外編を書き下ろしましたので
よろしくお願いします◎

**********

マティアス、シェリス、カルツォーネ、プリシィラは暗い洞窟を進んでいた。

道幅は馬車さえ通れるくらいの広さと高さがあるのだが、分かれ道が多く迷いそうだった。そして、多くの冒険者達がそこで右往左往している。

「な~あんか、変な感じのする場所だなあ」
「噂には聞いていたけど、本当に迷いの術がかけられてるんだねえ……」
「これはもう、軽くダンジョンと言っていいのでは?」

カルツォーネからある程度は聞いていた。ドワーフの国へ行けるのは極少数の選ばれた者だけ。その間にあるこの洞窟には、迷いの術がかけられているのだと。

「カルも行ったことはないのですか? 結構な武器とかお屋敷にありましたけど」
「あ~、うん。国からの依頼として送ってもらってたんだ。受け取りは専門の商隊が国境まで持ってきてくれてね。けど、母上は直接出向けていたよ。あのハルバードの調整ってその辺の鍛治師ではできなくてね」

けれど、入れるのはカルツォーネが知る限り、ベラントだけだったらしい。

「連れて行ってもらったっていうこともないのか?」
「母上には『職人に逃げられたらどうしてくれる』って半ば脅されるように断られたからね。兄貴達も父上でさえついて行ったことはなかったと思うよ」

かなり徹底して制限しているようだというのがよく分かる。

「ただ、ここを抜けて里に辿り着けたら認められたということになるらしいんだ。母上も、最初はそうやって入ったって言ってたからね。頑張って出口を探そう」
「ふ~ん……そういうやつらがこうしてここに溜まりまくってるってことか」

この洞窟、魔獣や魔物の類いは出てこない。なので、とても安全だ。お陰で少々拓けた場所では、完全なキャンプ地となっている。

「こんなに人がいるのに、すっげぇ殺伐としてんのな」
「情報共有なんて絶対しないって感じですね」
「そりゃあねえ。ドワーフの里に行ければ、最高の武器が手に入るんだ。一攫千金を狙ってる者達は多いんだよ」

とはいえ、武器を売り払うような者達にこの洞窟は抜けられない。だが、わかっていても心情は別だ。

「後は……ほら」
「ん?」
「あの人……狙われていますね」

カルツォーネが目で示した先には、肩を落としながらも大切に布に包まれた何かを抱える男とそれを守ろうとする女性がいた。

その周りにはギラギラとした目で二人を見つめる冒険者達。殺されそうなくらいに、意識が二人に集中していた。

「なんだ? あんなあからさまに……命を狙われてんのか?」
「あの持っている物を狙っているんでしょうか? そんな高価な物をこんな所には持ってきませんよね……となると……もしや、武器ですか?」

シェリスはこの場所との関係を考えて思い当たったらしい。これに、声を落としてカルツォーネが答える。

「武器を直してもらおうとしてるんだろうね。ああいう人達の方が里に通される確率が高いらしくて、一緒に通り抜けられないかってその時を狙ってるのさ」
「やな奴らだなあ……」
「実際どうなのです? 一緒に抜けれたりするんですか?」

これは純粋な疑問なのだろう。答えを求めるようにマティアスとシェリスはカルツォーネに目を向ける。

カルツォーネは首を傾げ視線を宙に投げた。

「どうだろう。確率は高いって聞いたことあるけど……あ~、いや。多分無理だね。そこはきっちりしているって研究結果があった気がする」
「……何を研究してるんですか……」

何でも興味を持ったことに真っ直ぐに向き合う研究志向の魔族達のことは、滞在中にシェリスも嫌というほど理解していた。

確かに統計とか取っていそうだと思えてしまう。

「珍しいんだよ? ほら、現地調査になるだろう? その人、ここに十五年滞在してたらしいし」
「それは……というか、十五年も家に帰らなかったんですね……」
「そうそう。ようやく立った我が子を置いて十五年。すっかりお腹を痛めて産んだ子どもに忘れ去られていたって笑ってたよ」
「笑って済むものとは思えないんですけどね」

そして女だったのかとツッコミ所満載だった。

「で? あいつらだけは行けそうなのか?」

マティアスは綺麗に色々スルーして気になっていたことだけ尋ねる。

あれだけ落ち込んでいるのだ。周りも見えてはいない。そんな人には辿り着いて欲しいと思うのは当然だった。

「あの武器によるかな」
「壊れてるやつか?」
「そう。ドワーフの鍛えた武器である場合か、ドワーフでも興味を持つことのできる性能の武器であった場合。あとは、彼が直した武器に相応しい技量を持っている場合は招いてもらえるらしい」
「……条件あり過ぎじゃねえ? っていうか、その条件に合ってるかどうか、どこで判断してんだ?」
「「あ、なるほど」」

このマティアスの言葉でカルツォーネとシェリスは周りを見回す。

「どうした?」
「うん。判断する人がここに居るのかも」
「そっちの方が気にならなかったんですかね?」

シェリスは、そこを研究してもらいたかったと零しならがも気配を探る。

「いやあ、研究って統計を取ったり、検証するから面白いんだよ。こういう、どっちかっていうと推理して犯人を見つける的な奴は比較的すぐに答えた出ちゃったりして、好む人が少ないんだよね~」

カルツォーネはそう答えながら、目をあまり動かすことなく集中して違和感を探す。

「わからなくもないと思ってしまう自分が嫌になります」
「あはは。シェリーも大概だなあ」

そうしてながらも、二人は感覚は研ぎ澄ませていた。

そんな中、マティアスは不意に軽快な足取りで件の男女二人組に近付いていくのだった。

**********
読んでくださりありがとうございます◎
また一週空きます。
よろしくお願いします◎
2019. 6. 28
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