一匹狼は辞めるつもりです!~赤狼は仲間と気ままに冒険希望~

紫南

文字の大きさ
上 下
52 / 100
第ニ章 王都見学と初めての師匠

052 夢のお泊まり会へ

しおりを挟む
2019. 3. 8

**********

この町で長いをすると、また公爵辺りの問題で面倒事に巻き込まれる可能性がある。

そう判断したマティアス達は次の日、魔族の国へ向けて出発した。

「やっぱり町の外が良いなあ」

伸びをするマティアス。その胸ポケットには、妖精のプリシィラがおり、マティアスの真似をしていた。

「人がいっぱいいる場所は合わないかい?」

案内役のカルツォーネは、そんなマティアス達を見て笑っている。

「なんか色んな匂いがするだろう? それがなあ……慣れん」

露天や出店での様々な匂いに加え、貴族の女性達などは、体臭を誤魔化すために香や薬の匂いをさせている。冒険者の特に男達は何日も体を洗っていない者も多いため、実は混ざり合ってすごい匂いになっている。

シェリスやカルツォーネも気にする方ではあるが、冒険者をしていると次第に慣れてくるものだ。だいたい、冒険者ギルドの匂いはどこもあまり変わらないのだから。

「鼻が利くのもあるのかな?」
「あ~、それはあるかもしれん」

森の中で長く暮らしていたのだ。その上に育ての親といえばディストレア。伝説の最強の神獣とまで言われているらしい獣の王者だ。

同じように生活していれば、臭いにも敏感に反応できるようになる。

「マティはキレイ好きですしね。毎日必ず水浴びしてから寝ますよね」
「寝床に入る前に色んな臭いを消したいんだよ。そのまま臭いが寝床に移るの嫌でさ」
「それはその育ての親の教えですか?」
「ああ。ラダもトヤもこれだけは絶対って」

臭いが付いたままでは、安心して眠れないのだ。もしも何かが近付いてきた場合、自身に付いた臭いによって反応が遅れてはいけない。これがトヤ達に教えられたことだ。

「こうやって聞いていると、本当にディストレアっていうのは頭が良いんだね」
「そうですね。一度会ってみたいです」

シェリスとカルツォーネは、当然のようにディストレアを見たことがない。その存在自体が伝説だ。空想上の生き物だと思ってさえいたほどだった。

「それいいなあっ。あれだろっ。親に友達とか仲間は紹介するんだよなっ。そんでお泊まり会とかするんだろっ」
「……話には聞いたことがあります……」

シェリスはなぜか目が泳いでいる。珍しい反応だ。

「ふふっ、そういうの、君もやったことないのかい?」
「っ、ありませんよっ。べ、べつにやりたいとも思いません」
「そうかい?」
「っ……」

そんなシェリスの様子を見ていたマティアスが彼の心情を言い当てる。

「シェリーもやってみたかったんだろう? 仲間は私が初めてだし」
「あ、なるほど」

カルツォーネも確信を得た。言い当てられたシェリスは耳を赤くしていた。

「っ……わ、悪いですかっ? 友人などいませんしねっ」

そっぽを向くシェリスを見て、カルツォーネはクスクスと笑った。

「大丈夫だよ。私もそういう経験はないしね。是非やってみたかったんだ。だから、これから一緒に体験しよう。私の実家に招待するからねっ」
「おおっ」
「っ……」

実はカルツォーネもそういうことはできなかった。だから、マティアスの話を聞いてちょっと楽しみになっていたのだ。

「けど、すぐには無理かもしれなくてね。こればっかりはタイミングというか……ちょっと実家の方に問題があるんだけどね」

楽しみではあるが、困ったなという表情。マティアスが理由を尋ねる。

「ん? 入れてもらえないのか?」
「う~ん。本当にタイミングの問題なんだ。その……実はうちの両親の夫婦喧嘩が激しくてね」
「ん?」
「喧嘩……」

なるほど。夫婦喧嘩の真っ最中ではお邪魔できそうにない。

「激しい時は国にも入れるかどうか……」
「どんな喧嘩なんだそれ?」

首を傾げるマティアスに、カルツォーネが頭をかきながら答えた。

「いやあ、あれでも魔族で最強の国王と王妃の喧嘩だからね~」
「「はあ!?」」
「もう町を守るだけで周りが精一杯で……あ、国に入ったら『喧嘩警報』に注意してね。色々飛んでくるから結界系の魔術は全開で頼むよ」
「「えっ!?」」

あははと笑うカルツォーネに、どう突っ込んでいいのかわからなかった。

**********
読んでくださりありがとうございます◎
次回、18日の予定です。
よろしくお願いします◎
しおりを挟む
感想 74

あなたにおすすめの小説

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

交換された花嫁

秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
「お姉さんなんだから我慢なさい」 お姉さんなんだから…お姉さんなんだから… 我儘で自由奔放な妹の所為で昔からそればかり言われ続けてきた。ずっと我慢してきたが。公爵令嬢のヒロインは16歳になり婚約者が妹と共に出来きたが…まさかの展開が。 「お姉様の婚約者頂戴」 妹がヒロインの婚約者を寝取ってしまい、終いには頂戴と言う始末。両親に話すが…。 「お姉さんなのだから、交換して上げなさい」 流石に婚約者を交換するのは…不味いのでは…。 結局ヒロインは妹の要求通りに婚約者を交換した。 そしてヒロインは仕方無しに嫁いで行くが、夫である第2王子にはどうやら想い人がいるらしく…。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

義兄に甘えまくっていたらいつの間にか執着されまくっていた話

よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。大好きな推しであるユリウスと自分が結ばれることはない。ならば義妹として目一杯甘えまくって楽しもうと考えたのだが、気づけばユリウスにめちゃくちゃ執着されていた話。 「義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話」のifストーリーですが繋がりはなにもありません。

【完結】私が王太子殿下のお茶会に誘われたからって、今更あわてても遅いんだからね

江崎美彩
恋愛
 王太子殿下の婚約者候補を探すために開かれていると噂されるお茶会に招待された、伯爵令嬢のミンディ・ハーミング。  幼馴染のブライアンが好きなのに、当のブライアンは「ミンディみたいなじゃじゃ馬がお茶会に出ても恥をかくだけだ」なんて揶揄うばかり。 「私が王太子殿下のお茶会に誘われたからって、今更あわてても遅いんだからね! 王太子殿下に見染められても知らないんだから!」  ミンディはブライアンに告げ、お茶会に向かう…… 〜登場人物〜 ミンディ・ハーミング 元気が取り柄の伯爵令嬢。 幼馴染のブライアンに揶揄われてばかりだが、ブライアンが自分にだけ向けるクシャクシャな笑顔が大好き。 ブライアン・ケイリー ミンディの幼馴染の伯爵家嫡男。 天邪鬼な性格で、ミンディの事を揶揄ってばかりいる。 ベリンダ・ケイリー ブライアンの年子の妹。 ミンディとブライアンの良き理解者。 王太子殿下 婚約者が決まらない事に対して色々な噂を立てられている。 『小説家になろう』にも投稿しています

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

悪役令嬢カテリーナでございます。

くみたろう
恋愛
………………まあ、私、悪役令嬢だわ…… 気付いたのはワインを頭からかけられた時だった。 どうやら私、ゲームの中の悪役令嬢に生まれ変わったらしい。 40歳未婚の喪女だった私は今や立派な公爵令嬢。ただ、痩せすぎて骨ばっている体がチャームポイントなだけ。 ぶつかるだけでアタックをかます強靭な骨の持ち主、それが私。 40歳喪女を舐めてくれては困りますよ? 私は没落などしませんからね。

処理中です...