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第ニ章 王都見学と初めての師匠
049 珍しい存在です
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2019. 2. 8
**********
大きさとしては、ワイングラスの高さよりも少しだけ低いくらいだろうか。
眠っている妖精は痩せ細った女性だった。
「酷いことをするね」
カルツォーネがどうしたらその鳥かごを開けられるかと確認しながら呟く。
「なあ、シェリー。妖精って? 初めて見たんだが」
「私も初めてですよ」
「そうなのか?」
シェリスは難しい顔をしながら、その妖精を見つめていた。
マティアスは、シェリスならば何でも知っているように思っていた。だから、シェリスが初めて見るということは、本当に珍しい存在なのだと認識する。
「妖精はダンジョンの管理者です。まず人の前に姿を現わすことはありません」
「ダンジョンか……でも、妖精って存在は知ってんだな」
「そうですね。文献には記されていますし、人の中にも変わり者がいるように、妖精の中にもそういった者がいるようです。全く姿を見せないということはないのでしょう」
妖精たちはダンジョンに棲むのだが、時折、そこから離れて新たな新天地を探すためであったり、多種族と交流を持つために、はぐれて外に出てくる者もいるらしい。
そういった者達の記録が、文献で残されているのだ。
「けど、これは明らかに彼女の本意ではないだろうね。このカゴ、魔力干渉ができない古い封印の術式が込められているみたいだ」
「遺物ですか。そうなると、どうしたものか……」
カルツォーネは一通り確認して、その結論に至ったらしい。
鍵穴というにはとても小さなものはあるが、単純な機構ではないだろう。まず、その穴に何かをさし込もうとすると、封印術に弾かれてしまうのだ。
「カゴに触れることはできるけど、動かせないみたいだし、中に指も通らない。鍵穴もそうだね。素晴らしい封印術だよ」
「感心している場合ですか……鍵穴があるということは、鍵さえあれば開けられるということです。そこに封印術を解く術式が刻まれているのかもしれませんね」
古代の遺物と呼ばれるものは、ほとんどその仕組みを理解することができず、世界に埋もれている。
その一つなのだろうこと分かったところで、開けられないという事実を確認しただけに過ぎない。
しかし、そこでマティアスは精霊達が腰の鞄の辺りをずっと気にしていることに気付いた。
《あるでしょ?》
《ちいさいやつ》
《あ~け~て~》
鞄に群がり、中に潜り込もうとしていた。
「おい、お前たち……あ、そうかっ」
「マティ?」
シェリスやカルツォーネには、マティアスの様子で鞄に何かあるということしか分からない。
マティアスはそこで小さなクリスタルに輝く鍵を取り出した。
「それ、どうしたんです?」
「うわぁ、なにそれ。水晶でもないね……なんだかすごい術式が付与されているような……」
精霊たちが嬉しそうにそれを摘み持つマティアスの手のところに集まり、鍵穴を指差していた。
マティアスは承知したという風に笑いながら、特になにも考えることもなく、疑うこともせずに鍵穴にそれを差し込もうとする。
「宝箱っぽいのあっただろう? そのフタのところからコロッと落ちてきたから、思わず鞄に入れてたんだ。これがあるから、お前らは呼んだんだな?」
《そうだよ~》
《そのとおり》
《せいかい!》
クスクス笑いながら、マティアスは鍵穴にそれを差し込んだ。
「マティ……あなたって人は……」
「まあまあ、これで妖精を救えるんだし、いいじゃないか」
二人の保護者たちが呆れているようだが、気にしない。
鍵はすんなり回った。
すると、ふわりと金の風が剥がれ落ちるように、カゴから力が失われた。
小さな扉を開けると、そっとすくい上げるように妖精を外に出す。
「この鎖、千切っていいかな」
「そう言いながらもう千切ってるじゃないですか……」
「あはは。思い切ったことするなあ」
引っ張り出すのに邪魔だったのだ。カゴから妖精の片足と片腕につけられていた鎖を遠慮なく引き千切った。
すると、ホロホロと崩れるように手足に付いていた枷も千切った鎖も砂になって消えた。
「あ~っ、どういう仕掛けなのか研究したかったな」
「不思議ですね……カゴはどうします?」
「それはもちろん、もらっていくよ」
「賛成です」
妖精よりも、カルツォーネとシェリスにとっては、不可思議な力を持つ遺物である鳥かごの方に興味津々らしい。
マティアスは、妖精がちゃんと息をしており、体温もあることを確認するのに忙しく、そんな二人のことなど気にしていなかった。
「どうすっかなあ」
《ぽっけにいれる》
《つぶさないでね》
《そっとね》
「お、おう……そういや、こうやって鳥のヒナとか温めてやったな……」
そんなことを懐かしく思いながら、マティアスは眠ったままの妖精を胸のポケットに入れてやった。
その時だ。
部屋の外で物音が聞こえた。
「誰か来たようですね」
「一番近い扉が開いたみたいだ」
いつの間にかカゴをどこかへしまい込んだらしいカルツォーネとシェリスは、感覚を研ぎ澄まし部屋の外へ集中する。
そこでマティアスは気付いた。
「あ、これブタだ」
「……公爵ですか……」
「おやおや……」
たった一人、罪人として捕らえられていたはずの公爵がやって来たようだった。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
次回、15日の予定です。
よろしくお願いします◎
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大きさとしては、ワイングラスの高さよりも少しだけ低いくらいだろうか。
眠っている妖精は痩せ細った女性だった。
「酷いことをするね」
カルツォーネがどうしたらその鳥かごを開けられるかと確認しながら呟く。
「なあ、シェリー。妖精って? 初めて見たんだが」
「私も初めてですよ」
「そうなのか?」
シェリスは難しい顔をしながら、その妖精を見つめていた。
マティアスは、シェリスならば何でも知っているように思っていた。だから、シェリスが初めて見るということは、本当に珍しい存在なのだと認識する。
「妖精はダンジョンの管理者です。まず人の前に姿を現わすことはありません」
「ダンジョンか……でも、妖精って存在は知ってんだな」
「そうですね。文献には記されていますし、人の中にも変わり者がいるように、妖精の中にもそういった者がいるようです。全く姿を見せないということはないのでしょう」
妖精たちはダンジョンに棲むのだが、時折、そこから離れて新たな新天地を探すためであったり、多種族と交流を持つために、はぐれて外に出てくる者もいるらしい。
そういった者達の記録が、文献で残されているのだ。
「けど、これは明らかに彼女の本意ではないだろうね。このカゴ、魔力干渉ができない古い封印の術式が込められているみたいだ」
「遺物ですか。そうなると、どうしたものか……」
カルツォーネは一通り確認して、その結論に至ったらしい。
鍵穴というにはとても小さなものはあるが、単純な機構ではないだろう。まず、その穴に何かをさし込もうとすると、封印術に弾かれてしまうのだ。
「カゴに触れることはできるけど、動かせないみたいだし、中に指も通らない。鍵穴もそうだね。素晴らしい封印術だよ」
「感心している場合ですか……鍵穴があるということは、鍵さえあれば開けられるということです。そこに封印術を解く術式が刻まれているのかもしれませんね」
古代の遺物と呼ばれるものは、ほとんどその仕組みを理解することができず、世界に埋もれている。
その一つなのだろうこと分かったところで、開けられないという事実を確認しただけに過ぎない。
しかし、そこでマティアスは精霊達が腰の鞄の辺りをずっと気にしていることに気付いた。
《あるでしょ?》
《ちいさいやつ》
《あ~け~て~》
鞄に群がり、中に潜り込もうとしていた。
「おい、お前たち……あ、そうかっ」
「マティ?」
シェリスやカルツォーネには、マティアスの様子で鞄に何かあるということしか分からない。
マティアスはそこで小さなクリスタルに輝く鍵を取り出した。
「それ、どうしたんです?」
「うわぁ、なにそれ。水晶でもないね……なんだかすごい術式が付与されているような……」
精霊たちが嬉しそうにそれを摘み持つマティアスの手のところに集まり、鍵穴を指差していた。
マティアスは承知したという風に笑いながら、特になにも考えることもなく、疑うこともせずに鍵穴にそれを差し込もうとする。
「宝箱っぽいのあっただろう? そのフタのところからコロッと落ちてきたから、思わず鞄に入れてたんだ。これがあるから、お前らは呼んだんだな?」
《そうだよ~》
《そのとおり》
《せいかい!》
クスクス笑いながら、マティアスは鍵穴にそれを差し込んだ。
「マティ……あなたって人は……」
「まあまあ、これで妖精を救えるんだし、いいじゃないか」
二人の保護者たちが呆れているようだが、気にしない。
鍵はすんなり回った。
すると、ふわりと金の風が剥がれ落ちるように、カゴから力が失われた。
小さな扉を開けると、そっとすくい上げるように妖精を外に出す。
「この鎖、千切っていいかな」
「そう言いながらもう千切ってるじゃないですか……」
「あはは。思い切ったことするなあ」
引っ張り出すのに邪魔だったのだ。カゴから妖精の片足と片腕につけられていた鎖を遠慮なく引き千切った。
すると、ホロホロと崩れるように手足に付いていた枷も千切った鎖も砂になって消えた。
「あ~っ、どういう仕掛けなのか研究したかったな」
「不思議ですね……カゴはどうします?」
「それはもちろん、もらっていくよ」
「賛成です」
妖精よりも、カルツォーネとシェリスにとっては、不可思議な力を持つ遺物である鳥かごの方に興味津々らしい。
マティアスは、妖精がちゃんと息をしており、体温もあることを確認するのに忙しく、そんな二人のことなど気にしていなかった。
「どうすっかなあ」
《ぽっけにいれる》
《つぶさないでね》
《そっとね》
「お、おう……そういや、こうやって鳥のヒナとか温めてやったな……」
そんなことを懐かしく思いながら、マティアスは眠ったままの妖精を胸のポケットに入れてやった。
その時だ。
部屋の外で物音が聞こえた。
「誰か来たようですね」
「一番近い扉が開いたみたいだ」
いつの間にかカゴをどこかへしまい込んだらしいカルツォーネとシェリスは、感覚を研ぎ澄まし部屋の外へ集中する。
そこでマティアスは気付いた。
「あ、これブタだ」
「……公爵ですか……」
「おやおや……」
たった一人、罪人として捕らえられていたはずの公爵がやって来たようだった。
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