47 / 100
第ニ章 王都見学と初めての師匠
047 新しいことにチャレンジしたい
しおりを挟む
2019. 1. 18
**********
マティアスは精霊達に導かれるままに狭い路地へと入り込んでいく。
すると、突然拓けた場所に出た。
「おや、広場に出てしまったね。近道を教えてくれたのかな?」
何度もこの王都へ来ているカルツォーネからしてみると、広場に出るまでの道はかなりの近道だったようだ。
しかし、精霊達はまだ進んでいく。
「マティ、気をつけてくださいね」
「ん? あ、ああ。少し距離を取るからな」
シェリスが注意したのは、精霊達の存在を認識していると他人に知られないようにということだ。
広場には先ほどまで通ってきた路地とは違い、当然だが、周りには人がいる。何か見えないものを見ている様子や、同じように精霊が見える者にマティアスが精霊を見ているということを気付かれないようにしなくてはならない。
『少し距離を取る』とマティアスが伝えたのは精霊達にだ。こちらの事情を理解しているらしく、精霊達も何気ない様子を装って進んでいく。
「一体、どこに行くんだろうね」
「これだけ人がいる場所というのは厄介ですね」
何かの拍子に精霊を追っていることを悟られかねない。普段、あまり人と積極的に関わろうとしない精霊達が、こうして人のいる場所に呼ぶというのは予想外だ。
だが、しばらくすると、人の少ない場所へと来ていた。
「静かな所だね」
「この広場、かなり広いのですね。この辺りはバラ園ですか」
「そうだね。迷いそうだ」
バラの垣根が作られ、迷路のように道が出来ている。そこへと、精霊達は迷わず入っていったのだ。
「こんな所に一体何があるんでしょう……」
まさか、ここまで来て精霊のいたずらで、この中で迷わせる気ではないかと疑ってしまう。
マティアスは精霊を見失わないように真っ直ぐ見つめる。人の気配がなくなったので、気を使う必要もない。
そうして進むと、不意に前方で精霊達が固まっている場所があった。
「あ、着いたみたいだ」
「ここですか?」
「微妙な場所じゃないかい?」
中央でもなく、とても微妙な位置だ。まだ道は先に続いている。行き止まりになっているわけでもなかった。
《ここ~》
《した~》
《あ~け~て~》
精霊達が地面に集まり、訴えてきていた。
「下?」
「下ですか?」
「下って……あっ、なんか切れ込みがあるように見えないかい?」
「……確かにそうですね……」
一箇所。精霊達が集まっている場所に、人一人が納まるくらいの四角い切れ込みがあるように見えた。
「開けるって言ってるんだが」
マティアスがシェリスとカルツォーネに伝えると、二人でその場所を覗き込むようにして見つめる。
「……魔術で封印されているようですね……」
「随分古いよ。けど、解けなくはなさそうだね」
二人は楽しそうに笑い合う。どうやら、二人とも魔術関係のものが好きなようだ。
「鍵穴があれば開けるんだがなあ」
マティアスは役に立てないと思いながらも、どうやるのか観察する構えだ。
そこで、マティアスはふと公爵の屋敷を出る直前に鞄に入れた物のことを思い出す。
二人は魔術の封印を解くことに集中しているので気付かない。
取り出したのは、小さな鍵だった。それも、鉄ではなく、魔石で作られたらしい美しいクリスタルのように輝く鍵だ。
「どこの鍵だ?」
それをマジマジと観察している間に、シェリスとカルツォーネが解除に成功したようだ。これでまた先に進めるなと思いながら、マティアスは再びその鍵を鞄に入れた。
カタンと音を出し、そこにあの公爵の屋敷で見たような階段が現れた。その中へと精霊達が飛び込んで行く。
「この先に行くみたいだぞ」
「おかしな臭いもしませんから大丈夫だと思いますが、気を付けて進んでくださいね。万が一の為、周りに風の障壁を作って行きましょう」
「わかった」
「壁に当たらないようにね」
「あ~……こうか?」
なるべく自身の体の大きさに合わせて、薄い風の膜を張る。そうして、更にその先へと進んで行った。
三人が階段を降り切った所で、ゆっくりと入ってきた穴が塞がれる。
「閉ちまったぞ?」
「ええ。時間で閉まるようでしたからね」
シェリスとカルツォーネは分かっていたらしい。
「大丈夫だよ。もうあの解除式は覚えたから、何度だって開けられるよ。降りる時に確認したけど、こちら側からも同じ式で大丈夫みたいだった」
シェリスもカルツォーネも、こうした仕掛けのある遺跡やダンジョンと呼ばれる場所へ行ったことがある。そのため、帰りのことも考えて確認は怠らなかったのだ。
「へぇ……なあ、今度私にもああいうやつの解除の仕方教えてくれよ」
「いいですけど……」
「普通の鍵開けだけじゃ満足しないんだ?」
「だって、気になる」
拗ねたように口を尖らせるマティアスに、二人は顔を見合わせる。鍵開けもできるのに、更に魔術の解除の仕方まで知れたら、マティアスに開けられないものはなくなるのではないか。
「……色んな鍵を開けまくりそうだね……」
「罠が全て解除可能になりそうです……」
「言えてる」
マティアスに怖いものはなにもなくなりそうだった。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
次回、一度お休みさせていただき
金曜1日です。
よろしくお願いします◎
**********
マティアスは精霊達に導かれるままに狭い路地へと入り込んでいく。
すると、突然拓けた場所に出た。
「おや、広場に出てしまったね。近道を教えてくれたのかな?」
何度もこの王都へ来ているカルツォーネからしてみると、広場に出るまでの道はかなりの近道だったようだ。
しかし、精霊達はまだ進んでいく。
「マティ、気をつけてくださいね」
「ん? あ、ああ。少し距離を取るからな」
シェリスが注意したのは、精霊達の存在を認識していると他人に知られないようにということだ。
広場には先ほどまで通ってきた路地とは違い、当然だが、周りには人がいる。何か見えないものを見ている様子や、同じように精霊が見える者にマティアスが精霊を見ているということを気付かれないようにしなくてはならない。
『少し距離を取る』とマティアスが伝えたのは精霊達にだ。こちらの事情を理解しているらしく、精霊達も何気ない様子を装って進んでいく。
「一体、どこに行くんだろうね」
「これだけ人がいる場所というのは厄介ですね」
何かの拍子に精霊を追っていることを悟られかねない。普段、あまり人と積極的に関わろうとしない精霊達が、こうして人のいる場所に呼ぶというのは予想外だ。
だが、しばらくすると、人の少ない場所へと来ていた。
「静かな所だね」
「この広場、かなり広いのですね。この辺りはバラ園ですか」
「そうだね。迷いそうだ」
バラの垣根が作られ、迷路のように道が出来ている。そこへと、精霊達は迷わず入っていったのだ。
「こんな所に一体何があるんでしょう……」
まさか、ここまで来て精霊のいたずらで、この中で迷わせる気ではないかと疑ってしまう。
マティアスは精霊を見失わないように真っ直ぐ見つめる。人の気配がなくなったので、気を使う必要もない。
そうして進むと、不意に前方で精霊達が固まっている場所があった。
「あ、着いたみたいだ」
「ここですか?」
「微妙な場所じゃないかい?」
中央でもなく、とても微妙な位置だ。まだ道は先に続いている。行き止まりになっているわけでもなかった。
《ここ~》
《した~》
《あ~け~て~》
精霊達が地面に集まり、訴えてきていた。
「下?」
「下ですか?」
「下って……あっ、なんか切れ込みがあるように見えないかい?」
「……確かにそうですね……」
一箇所。精霊達が集まっている場所に、人一人が納まるくらいの四角い切れ込みがあるように見えた。
「開けるって言ってるんだが」
マティアスがシェリスとカルツォーネに伝えると、二人でその場所を覗き込むようにして見つめる。
「……魔術で封印されているようですね……」
「随分古いよ。けど、解けなくはなさそうだね」
二人は楽しそうに笑い合う。どうやら、二人とも魔術関係のものが好きなようだ。
「鍵穴があれば開けるんだがなあ」
マティアスは役に立てないと思いながらも、どうやるのか観察する構えだ。
そこで、マティアスはふと公爵の屋敷を出る直前に鞄に入れた物のことを思い出す。
二人は魔術の封印を解くことに集中しているので気付かない。
取り出したのは、小さな鍵だった。それも、鉄ではなく、魔石で作られたらしい美しいクリスタルのように輝く鍵だ。
「どこの鍵だ?」
それをマジマジと観察している間に、シェリスとカルツォーネが解除に成功したようだ。これでまた先に進めるなと思いながら、マティアスは再びその鍵を鞄に入れた。
カタンと音を出し、そこにあの公爵の屋敷で見たような階段が現れた。その中へと精霊達が飛び込んで行く。
「この先に行くみたいだぞ」
「おかしな臭いもしませんから大丈夫だと思いますが、気を付けて進んでくださいね。万が一の為、周りに風の障壁を作って行きましょう」
「わかった」
「壁に当たらないようにね」
「あ~……こうか?」
なるべく自身の体の大きさに合わせて、薄い風の膜を張る。そうして、更にその先へと進んで行った。
三人が階段を降り切った所で、ゆっくりと入ってきた穴が塞がれる。
「閉ちまったぞ?」
「ええ。時間で閉まるようでしたからね」
シェリスとカルツォーネは分かっていたらしい。
「大丈夫だよ。もうあの解除式は覚えたから、何度だって開けられるよ。降りる時に確認したけど、こちら側からも同じ式で大丈夫みたいだった」
シェリスもカルツォーネも、こうした仕掛けのある遺跡やダンジョンと呼ばれる場所へ行ったことがある。そのため、帰りのことも考えて確認は怠らなかったのだ。
「へぇ……なあ、今度私にもああいうやつの解除の仕方教えてくれよ」
「いいですけど……」
「普通の鍵開けだけじゃ満足しないんだ?」
「だって、気になる」
拗ねたように口を尖らせるマティアスに、二人は顔を見合わせる。鍵開けもできるのに、更に魔術の解除の仕方まで知れたら、マティアスに開けられないものはなくなるのではないか。
「……色んな鍵を開けまくりそうだね……」
「罠が全て解除可能になりそうです……」
「言えてる」
マティアスに怖いものはなにもなくなりそうだった。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
次回、一度お休みさせていただき
金曜1日です。
よろしくお願いします◎
5
お気に入りに追加
602
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

冷遇妻に家を売り払われていた男の裁判
七辻ゆゆ
ファンタジー
婚姻後すぐに妻を放置した男が二年ぶりに帰ると、家はなくなっていた。
「では開廷いたします」
家には10億の価値があったと主張し、妻に離縁と損害賠償を求める男。妻の口からは二年の事実が語られていく。

もしかして寝てる間にざまぁしました?
ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。
内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。
しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。
私、寝てる間に何かしました?
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ!
タヌキ汁
ファンタジー
国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。
これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります
真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」
婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。
そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。
脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。
王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

もう、終わった話ですし
志位斗 茂家波
ファンタジー
一国が滅びた。
その知らせを聞いても、私には関係の無い事。
だってね、もう分っていたことなのよね‥‥‥
‥‥‥たまにやりたくなる、ありきたりな婚約破棄ざまぁ(?)もの
少々物足りないような気がするので、気が向いたらオマケ書こうかな?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる