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第ニ章 王都見学と初めての師匠

038 プロですからね

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2018. 11. 2

**********

マティアスは、何度か往復しながら地下で何やら調べているカルツォーネに声をかける。

「なぁ、ここって、なんか変な感じするよな?」
「うん? そうだね。ここには晶腐石が使われているから、魔術が働きにくいんだ」

そういえば、シェリスもそんなことを言っていたなと思い出す。

「そのショウフセキってぇのはなんだ?」
「石だよ。魔力を弾くっていうのかな……そもそも、魔術を働かせるには、精霊達の力がいるんだけど、それは分かるかい?」
「おう。ちっさいやつらだろ?」
「もしかして、見えるのかい?」

驚くような表情を向けられて、マティアスは首を傾げる。

「見ようと思えば見えるぞ? 一人の時とか、遊べって近付いてくるからな」

そこで気付く。いつもならば、マティアスが一人でいれば近付いてくるのが分かるのだが、この屋敷に入ってから一度もそんな感じがない。

「見ようと思えば? 常に見えてるんじゃなくて?」
「そうだ。いるって感覚は常にあるんだが、姿を見ようとこう……集中? すると見える。橙色のが一番寄ってくるな」
「それは火の精霊だね……でもそうか……普通の精霊使いとは違うんだね……」

三頭身の小さな子ども達。風は緑、水は青、火が橙で土が茶色、光が白で闇が黒。それぞれの属性を持つ精霊達は、ふわふわと漂っている。

「なんか、この屋敷に入ってから感じないんだよな。呼べば来るって感じで、いつもみたく寄ってこない。そのショウフセキってやつのせいか?」

建物の中にはあまり入ってくることはないが、全く気配が感じられないというのは珍しい。感じる違和感の元が、原因かと予想できた。

「そう。この石だよ」

見せられたのは、黒い水晶のような石の欠片だった。

「へぇ……たしかに、変な感じがするな。ゾワっとするっていうか……」
「君、感覚が優れているんだね。精霊が見えるのも頷けるよ」
「そうか? そんで、もしかして、この石……あの辺にもあるのか?」

これと同じものが、そこここに埋められている感じがあった。

「あ、分かるんだ。助かる。これでその位置に印をつけてくれないかい? 私では感覚が刺激され過ぎて細かい場所の特定がし難いんだ」
「いいぞ?」

受け取った白い石で件の石が埋められているらしい場所をマークしていく。壁や床、天井にもあった。

「これだけだな」
「結構あったね……ありがとう。場所さえ分かれば早く終わりそうだ」
「おう。こいつら連れてったら、手伝いに来ようか」
「いいのかい? お願いするよ」
「わかった。そんじゃ、すぐ戻る」

マティアスは、最後の三人を抱えて地下からシェリスの元へ急いだ。

「これで最後だぞ」
「ああ、マティ、お疲れ様です」
「おう。けど、下であの人の手伝いをしてくる」
「石の回収ですね……あれがなくならないと、この屋敷を調べられませんしね。わかりました。くれぐれも地下を崩壊させないように気を付けてください。なんだか、埋め込まれているような感じでしたから」

シェリスも場所は特定できなくても、石が壁や床に無数に埋め込まれているのは気付いていたらしい。

「仕掛けもあるようですし、本当にくれぐれも気を付けて」
「仕掛け? へぇ……任せろ」

その仕掛けとやらの説明は、カルツォーネに頼もうと決める。シェリスはメイド達を補佐に上手く使い、薬を作り続けている。こうして話していても、一度視線を寄越しただけだった。

邪魔はすまいとマティアスはもう一度メイド達に釘を刺してから地下へ戻った。

それから石を回収し、戻ってきたのは昼頃だ。

「結構時間がかかったなぁ」
「君のおかげで早い方だと思うけどね」

回収した石は、まとめて分厚い袋に入れ、既にカルツォーネの手の者が外に持っていった。

「二人とも、ちょうど食事の用意ができていますよ」

シェリスは全ての人の治療を終え、食事の用意をしてくれていたらしい。

別のテーブルには、軽めの食事が置かれており、行儀が悪いが、地下から運ばれた人々は座り込んでそれらを食べ始めていた。

マティアス達の食事が用意されているのは、シェリスが薬の調合をしていた小さめのテーブルの方だ。

「やぁ、嬉しいね。けど、あまり食欲はないかな」
「ん? 調子悪いのか?」
「はは、君はどうして平気なんだろうね……」

長時間、晶腐石の影響のある地下にいたのだ。魔力の高い魔族であるカルツォーネには少々きついものがあった。

「軽い魔力酔いでしょう。薬も用意してあります。先に飲んでしまってください」
「え、用意してくれたのかい?」

意外だという顔をするカルツォーネに、シェリスがぴくりと片眉を上げる。

「要りませんでしたか?」
「いやいや、嬉しいよっ。ありがとう! 代金はいかほどだい?」
「必要ありませんよ。在庫処分の一環です」
「本当に? エルフの薬なんて……すっごい貴重だよ?」

カルツォーネが動揺するのも無理はない。真実、エルフの薬は貴重だ。多少の販路はあるにせよ、エルフ自体が里からほとんど出ない。

そのせいで輸送費が必要になる。外に出回らないレシピの物も多く、調合できるのがエルフのみというのも貴重だと言われる理由でもある。

「要らないんですか?」
「っ、いただきます!」

一気に飲み干し、効果を実感すると、カルツォーネは更に驚いた。

「え……」

今回の薬は魔力酔いを治すための物。一般的に流通しているのは気つけ薬的な強いものだ。飲んだらしばらくは魔力が小康状態になるので、上手く魔術は使えない。

しかし、今カルツォーネが飲んだ物は違った。彼女が疑問を口にする前にシェリスが察してつまらなさそうに告げる。

「強さの調整くらいできますよ。流通しているのは、魔力酔いの症状が強い時のものに合わせてあります。薬師の持つレシピもそうですね。一気に魔力を抑え込んで一定に保ちます。そこから普段の状態に患者自身の体が調整できるまで魔術が使えなくなるんです」

魔力酔いと一言で言っても当然、症状の強さは人や場合による。けれど、薬として出回っているものは一種類のみ。元々、製薬が難しい薬で一定ラインの効果がなければ意味がない。

症状が小さくても一度魔力を最低限のラインまで抑え込むので、魔力が多い魔族なんかは普段の状態に戻るまで時間がかかったりするらしい。

「今回は程度の予想はできましたし、魔族用に調整もしましたから」
「ありがとう……助かったよ」

わざわざ用意して待っていてくれたとわかり、カルツォーネは嬉しそうに笑みを浮かべた。その笑顔を見たメイド達が固まっているのを、マティアスは面白そうに見つめていた。

シェリスを見て、照れているなと思いながら。

**********

舞台裏のお話。


メイドA  「ねぇ……」

メイドB  「う、うん……」

メイドC  「ステキ……」

メイドA・B  「「だよね!」」

メイドB  「エルフ様は人使い荒いけど、指示は的確で、デキる人って感じだしっ」

メイドA  「うんうんっ、それで、そんなエルフ様をあの赤髪のお姉様が大事にしてるって感じがイイのっ」

メイドB・C  「「だよね、だよねっ」」

メイドC  「極め付けがあの黒髪の王子様!!」

メイドA  「え、あれ? 女の人?」

メイドB  「でも紳士だよ! さっきお料理持っていったら爽やかに笑ってありがとうって! なにあの笑顔! あんなご褒美初めて!!」

メイドC  「ズルイ! 私も欲しい!」

メイドA  「もう、女の人でもいい! 王子様でしかない!」

メイドB・C  「「間違いない!」」

メイドC  「あ、デザート用意しなきゃ!」

メイドA  「私は紅茶を用意するわ!」

メイドB  「お皿下げてくる!」

メイド達  「「「ご褒美はいただきよ!!」」」



やる気充分なメイドさん達でした。

つづく?
なんて事が起こってましたとさ☆
読んでくださりありがとうございます◎


シェリスは親切ですね。


次回、金曜9日です。
よろしくお願いします◎
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