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第一章 冒険者の始まりと最初の出会い
027 在庫処分できました
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2018. 8. 10
**********
昼食が終わり、落ち着いた所で三人に話を聞くことにした。
「そんで? なんであんな奴の依頼なんて受けたんだ?」
あんな奴とは不当な奴隷契約の問題で拘束されたこの国の公爵のことだ。
「シェリーの話だと、もう捕まったんだよな?」
確認のためにマティアスはシェリスへ顔を向ける。すると、シェリスが頷いた。
「昨晩の内に捕縛されているはずです。今頃は、王都で査問にかけられているでしょう」
公爵の屋敷は、王都に馬車で半日とかからない距離にあるらしい。
盗賊に襲われていた場所は公爵領内で、既に屋敷へ帰っていたはずだ。捕縛もスムーズに進み、護送されたと報告されていた。
「そんな後のない奴の依頼なんて受けてどうするんだよ」
これにリーダーらしき細身の男が答えた。
「……はっきり言って、依頼の報酬に目が眩んだのだと思う……」
「報酬? 結構な金額だったのか?」
「違う……薬だ」
「薬?」
暗く、顔を伏せる三人を前に、マティアスは笑顔でシェリスへ目を向ける。
「へぇ、ならどうにかなるんじゃないか?」
「……マティ……」
薬のことならばシェリスが一番だ。旅の途中でも、時間があれば調薬の作業をする。そうして、たまに行商人に高く売りつけたり、村などで一宿の礼に渡す。
だから、ここでシェリスの作った薬を彼らにやっても問題ないだろうとマティアスは目で訴えた。
それを正確に読み取ったシェリスはため息をつきながら尋ねる。
「どうして薬が必要なのですか?」
「……俺らは小さな集落を作って暮らしてんだが、稼ぐために無茶して怪我した奴らが多い。元々、国を追い出されたりしたのの集まりだから、顔の割れるような表の仕事はできない。だから、必然的に裏の危険な仕事をすることになるんだが……それでも限界がある……」
苦々しく説明する彼を見ても、シェリスの顔色は変わらない。口にしたのも味気ないものだった。
「なるほど……それで薬ですか……」
「いいんじゃないか?」
能天気に言うマティスだが、エルフの作る薬というのは、本来、それだけで結構な価値を持っている。容易く人にあげて良いものではない。
効き目も確かで高ランクの薬や珍しい薬を生み出すことができるエルフは、その存在や知識だけで富を築ける。だから、無用な争いやトラブルを避けるためにも安請け合いはしないようにしているのだ。
シェリスがギルドではなく、その場限りの出会いとなる行商人に薬を売るのはそのためでもある。変に目立つべきではない。その辺の事情を、当然だがマティアスは理解していなかった。
「……マティ……そんな簡単なことではないのですが……まあいいでしょう……ランクは?」
とはいえ、彼らの境遇などを聞く限り、悪用するような問題はなさそうだと判断した。
「え、Bランクだが……」
「怪我となると治癒回復薬でいいのですね?」
「あ、ああ……」
「いくつです?」
「……俺らは五つも手に入ればと……」
「五つですか?」
確認しながら、シェリスはアイテムボックスから瓶を取り出して並べだした。
「その集落はここから何日かかります?」
「僕らの足なら二日もかからないよ」
「ああ、なら良いですね」
「あ、あの……」
シェリスは次々に鞄から出していく。その数が二十を超えた所で納得するように頷いた。
「これで全部ですね。どうぞ。Bランクの治癒回復薬です。ただ、効能が後一週間で切れるんですよ。さっさと使ってください。使い切れなかった分は、畑の養分にでもすればいいでしょう。意外と使えますから」
「……え……?」
三人は口をポカンと開けてそれらを見つめた。それを見て、マティアスは嬉しそうに声をあげる。
「あはは。よかったなぁ。シェリーも在庫処分できてスッキリしたっぽいし」
「ええ。まぁ、瓶代ぐらいは欲しいところですが、今回はサービスしておきます。その分はマティに貸しておきましょう」
「おう、いいぞ。持ってけ持ってけ」
まるで酒に酔って景気の良いことを言う親父のように、マティアスは豪快に笑い、そう彼らに促した。
**********
舞台裏のお話はお休み。
読んでくださりありがとうございます◎
きっと捨てるだけだったんでしょうね。
次回、金曜17日0時です。
よろしくお願いします◎
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昼食が終わり、落ち着いた所で三人に話を聞くことにした。
「そんで? なんであんな奴の依頼なんて受けたんだ?」
あんな奴とは不当な奴隷契約の問題で拘束されたこの国の公爵のことだ。
「シェリーの話だと、もう捕まったんだよな?」
確認のためにマティアスはシェリスへ顔を向ける。すると、シェリスが頷いた。
「昨晩の内に捕縛されているはずです。今頃は、王都で査問にかけられているでしょう」
公爵の屋敷は、王都に馬車で半日とかからない距離にあるらしい。
盗賊に襲われていた場所は公爵領内で、既に屋敷へ帰っていたはずだ。捕縛もスムーズに進み、護送されたと報告されていた。
「そんな後のない奴の依頼なんて受けてどうするんだよ」
これにリーダーらしき細身の男が答えた。
「……はっきり言って、依頼の報酬に目が眩んだのだと思う……」
「報酬? 結構な金額だったのか?」
「違う……薬だ」
「薬?」
暗く、顔を伏せる三人を前に、マティアスは笑顔でシェリスへ目を向ける。
「へぇ、ならどうにかなるんじゃないか?」
「……マティ……」
薬のことならばシェリスが一番だ。旅の途中でも、時間があれば調薬の作業をする。そうして、たまに行商人に高く売りつけたり、村などで一宿の礼に渡す。
だから、ここでシェリスの作った薬を彼らにやっても問題ないだろうとマティアスは目で訴えた。
それを正確に読み取ったシェリスはため息をつきながら尋ねる。
「どうして薬が必要なのですか?」
「……俺らは小さな集落を作って暮らしてんだが、稼ぐために無茶して怪我した奴らが多い。元々、国を追い出されたりしたのの集まりだから、顔の割れるような表の仕事はできない。だから、必然的に裏の危険な仕事をすることになるんだが……それでも限界がある……」
苦々しく説明する彼を見ても、シェリスの顔色は変わらない。口にしたのも味気ないものだった。
「なるほど……それで薬ですか……」
「いいんじゃないか?」
能天気に言うマティスだが、エルフの作る薬というのは、本来、それだけで結構な価値を持っている。容易く人にあげて良いものではない。
効き目も確かで高ランクの薬や珍しい薬を生み出すことができるエルフは、その存在や知識だけで富を築ける。だから、無用な争いやトラブルを避けるためにも安請け合いはしないようにしているのだ。
シェリスがギルドではなく、その場限りの出会いとなる行商人に薬を売るのはそのためでもある。変に目立つべきではない。その辺の事情を、当然だがマティアスは理解していなかった。
「……マティ……そんな簡単なことではないのですが……まあいいでしょう……ランクは?」
とはいえ、彼らの境遇などを聞く限り、悪用するような問題はなさそうだと判断した。
「え、Bランクだが……」
「怪我となると治癒回復薬でいいのですね?」
「あ、ああ……」
「いくつです?」
「……俺らは五つも手に入ればと……」
「五つですか?」
確認しながら、シェリスはアイテムボックスから瓶を取り出して並べだした。
「その集落はここから何日かかります?」
「僕らの足なら二日もかからないよ」
「ああ、なら良いですね」
「あ、あの……」
シェリスは次々に鞄から出していく。その数が二十を超えた所で納得するように頷いた。
「これで全部ですね。どうぞ。Bランクの治癒回復薬です。ただ、効能が後一週間で切れるんですよ。さっさと使ってください。使い切れなかった分は、畑の養分にでもすればいいでしょう。意外と使えますから」
「……え……?」
三人は口をポカンと開けてそれらを見つめた。それを見て、マティアスは嬉しそうに声をあげる。
「あはは。よかったなぁ。シェリーも在庫処分できてスッキリしたっぽいし」
「ええ。まぁ、瓶代ぐらいは欲しいところですが、今回はサービスしておきます。その分はマティに貸しておきましょう」
「おう、いいぞ。持ってけ持ってけ」
まるで酒に酔って景気の良いことを言う親父のように、マティアスは豪快に笑い、そう彼らに促した。
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