一匹狼は辞めるつもりです!~赤狼は仲間と気ままに冒険希望~

紫南

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第一章 冒険者の始まりと最初の出会い

019 今更ながらに仲間だと自覚しました

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2018. 6. 1

**********

冒険者ギルドで奴隷の少女達のことを届け出たシェリスだったが、あの公爵はどうやらこちらにも手を回していたらしい。

「そちらの方々は既に引き取り申請が来ております」

臆面もなくそう告げるギルド職員の女性に、シェリスは不快感をあらわにする。そして、威圧気味に尋ねた。

「調査の申請が先だと思いますが? それとも、それがもう済んでいると? それならば、その調査書類を見せていただきたいですね。彼女達を引き渡すのはそのあとです。これは正当な手順のはずですよ?」
「っ……そ、そうですが……その必要はないと契約者の方が……」

職員の女性は目を泳がせる。それを見逃さなかったシェリスは、大きなため息をついて見せた。

「話になりませんね。マスターを出しなさい。規則や手順を省くような職員を雇っているのですから、責任は取ってもらわなくてはなりません」
「なっ……マスターはお忙しいのです。一介の冒険者が呼びつけるなどあってはなりませんっ」
「あなたでは話にならないと言っているのです。はっきり言いましょう。貴族に買収される無能なギルド職員は更迭されて然るべきです」
「っ!?」

決して大きすぎるものではないが、その声は一部の者にはっきりと届いていた。

「あの、失礼いたします。彼女が何か……」

隣の受付にいたギルド職員の年配の女性がやってくる。

「旅の途中で彼女たちを保護したのです。ここまでの道中に話を聞いた所によると、どうにも不当な扱いを受けている様子。仕えていたのは公爵であるらしいのですが、あまり良い噂を聞きません。そこで、ギルド経由での調査申請をお願いしようとしたところ、この職員が既に引き取り申請が来ているのですぐに引き渡せというのです。おかしな対応だとは思いませんか? ギルドの決まりは全ての国共通です。このギルドだけが違うとなると……創設時の誓約違反となると思うのですが?」

一気にまくし立てると、さすがに年配の女性職員も面食らった様子だったが、全てを聞き終えて一呼吸後、俯いている女性職員を睨みつけた。

「仰る通りです。彼女は拘束いたします。それと、早急に調査を進めますが、結果がわかるまでそちらの奴隷はギルドが責任を持って保護させていただきます」
「当然ですね。それと、ここまでの道中で彼女たちと狩った魔獣や薬草なのですが、全て換金して彼女たちに分配していただけますか。正当な報酬ですので」
「わかりました。そちらも早急に対応させていただきます。こちらの番号札を買取カウンターにご提示ください。調査結果につきましては、明日にはお伝えできると思います」
「ほぉ、期待しています」

札を受け取る時、女性職員が拘束されて行った。それを見送り、次に奴隷の少女達を任せる。

部屋へと案内されていく少女達。彼女達は少ししたところで振り返って丁寧にシェリスへと頭を下げた。

「ありがとうございました」
「ご恩は忘れません」
「……あの方にもよろしく……」

そう告げて彼女達はギルドの奥へと消えて行く。

シェリスはすぐに買取カウンターへ向かった。そこで番号札を渡し、ここまでの道中で狩った魔獣や薬草を取り出す。

「こ、こんなにっ」
「では私はこれで。後は任せます」
「は、はいっ! お疲れ様でした!」

換金の金額は、安く見積もっても二人分は余裕で奴隷から解放される値段になる。これまでの従属年数も聞くところによると、三人ともが問題なく解放されるだろう。金額的には充分だ。

シェリスはギルドを出る。明日の彼女達の調査結果が出るまではこの町に滞在しなくてはならない。

とはいえ、暇を持て余すことはなさそうだ。

「……やはり居ますね……」

呟きながらフードを整え、先ずは市場の方へ向かう。当然のように後をつけて来る者達も引き連れてだ。

そんな不穏な気配を感じながらも、気付いていることを表には出さない。市場を見て回りつつ、珍しい食材は遠慮なく買い求めていく。

「お客さん、気持ちのいい買い方をしてくれるねぇ。お国への土産かい?」
「土産……そうですね。この町へ来られなかった人へのものです」

今頃マティアスは一人でつまらなさそうな顔でもしているだろうと想像して、クスリと笑う。今買っているのは、彼女のためのものだ。世界を知らない彼女ならこれらの食材を嬉々として食べたがるだろう。

そう、土産だ。ふと思ったのは、土産などというものを用意したのは初めてだなということだった。その不思議な感慨を覚える前に、また店主が思わぬ言葉を口にした。

「そりゃぁ、気の毒なお仲間さんだ」
「仲間……?」
「違うのかい?」
「あ、いえ……仲間……ですね。共に旅をしているのですから」
「はは、改めて確認するなんて、もしや恋人だったかい?」
「それはないです」
「お、おう……そりゃ失礼したな。ほれ、釣りだ。毎度あり」

お釣りを受け取り、シェリスは市場を後にする。道すがら先ほどの会話を反芻していた。

マティアスは断じて恋人という認識はない。当てはまるとしたら、手のかかる子どもだろう。けれど、それ以上に『仲間』という言葉がしっくりくることに気付いた。

「仲間……仲間ですか……ふふっ、私が仲間……」

そんなものが出来るなんて、つい最近まで思いもしなかった。自分でも気付かなかったその変化が面白くてシェリスは珍しく上機嫌で宿探しを始める。

つけて来ている者達をそのままに、悠々と大通りを進むのだった。

**********

舞台裏のお話。


店主A  「えらいべっぴんさんだったなぁ」

店主B  「声的には男? だよな?」

店主A  「あの手は男だな。そして、土産を渡すお仲間は女と見た」

店主B  「あれだけキレイな兄さんの相手って……凄そうだな」

店主A  「俺も思った」

店主C  「それよりも俺が気になったのは、つけられてるのに気付いてて、よくあれだけ平然としていられるなってことだよ」

店主B  「マジ? お前、よく気付いたな。さすがは元冒険者だ。けどあれだけの美人さんだと、つけられるのも仕方ねぇよな」

店主C  「いやいや、好意とか下衆な感じじゃなかったんだって。寧ろ殺す気満々の奴らだったぜ?」

店主A  「なにっ!? そりゃぁ大変だっ。すぐに衛兵に保護してもらわにゃ」

店主C  「必要ねぇよ。あれに気付いてて平然としてんだ。返り討ちにされるよ」

店主A  「あの兄ちゃん強いのか?」

店主B  「美人なのに?」

店主C  「強さに美醜は関係ねぇだろ……」

店主B  「ははっ。まぁ、強いならいいか。とりあえず、そのつけてた奴らの冥福を祈ってやろうぜ」

店主A  「わははっ。そりゃぁいい! なら、この辺のを値引きだ! 冥福を祈って!」

店主B  「おっしゃ、乗ったるぜっ。こっちも値引きだ!」

店主C  「……冗談じゃないんだけどな……」



つづく?
なんて事が起こってましたとさ☆
読んでくださりありがとうございます◎


彼らなりの供養の仕方です。

さて、つけている彼らの運命は?


次回、一度お休みさせていただき
金曜15日0時です。
よろしくお願いします◎
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