一匹狼は辞めるつもりです!~赤狼は仲間と気ままに冒険希望~

紫南

文字の大きさ
上 下
18 / 100
第一章 冒険者の始まりと最初の出会い

018 笑えることに気づいて

しおりを挟む
2018. 5. 25

**********

シェリスは本来、こうして人助けをするようなことを進んでしたりしない。そもそも、他人に興味がなかった。

エルフ達が暮らす国は、広大な森の中にあり、三つの里が集まってできている。その里の中央にある世界樹を守るのがエルフという種族の宿命だ。

世界樹は、この世界ができた創世の頃に初めて生まれた命。世界の全てを見てきた神のような存在だ。精霊達によって世界の言葉を伝えることもある。

シェリスはそんなエルフの里の長の血を引いている。よって、いつかは里長にならなくてはならない。

もちろん、世界樹を大切だと思う心。畏敬の念もある。けれど、自身に自由がなくなるというのがどうしても納得できなかった。

豊富な薬学の知識を持ち、魔術に長けたエルフとして生きることを否定しているわけではない。ただ、それらにしか興味が持てない自分が、里のため、里に生きる他人のために尽くすという生き方はできないのはわかりきっていた。

世界樹を守っているというのに、世界を知らないというのもシェリスには奇妙に思えてならなかったのだ。

そんなことに疑問も抱かない同胞達にも嫌気がさしていた。そこでシェリスは旅に出ることにした。同胞とも上手く付き合えないのならば、もういっそのこと、一人で生きてみようと思ったのだ。

そうして飛び出し、里では知り得なかった物や世界を見て回るのはとても楽しかった。危険な場所や、凶暴な魔獣に行き合ったとしても、死にものぐるいでなんとかしてきた。たった一人、誰の力も借りることなく生き残った。

お陰で強さもそれなりだ。里に居たのではここまで強くはなれなかっただろう。魔術だって、里に居た頃に比べて格段に上手く扱えるようになった。

若くしてハイエルフになったのもその影響だ。そう、里に居た頃はエルフだった。薬学の研究も旅をしながら続けてきた。里では手に入らない薬草を知り、新たな薬をいくつも開発した。

世界に出たことで知ったのだ。薬学も魔術も可能性は無限であり、全てを修めることなどできないのだと。何より、自分の中から新しいものがいくつでも生まれ得るのだと。

だから、ずっと飽きることなく、一人でも生きていけるのだと知ってしまった。

そんな風に生きてきたのだ。誰かと一緒に行動しようと思ったことはこれまで一度もなかった。けれど今はマティアスと共に旅をしている。

まだほんの数日ではあるが、今までに感じたことのない思いが自分の中にあることに気付いていた。

誰かと一緒にいて楽しいと思える感覚。それは初めて自覚した思いだった。血の繋がった家族にもこんな思いはついぞ感じた覚えはない。それほど希薄だった他人との繋がり。

その上に、今度はやったこともない人助けということをしようとしている。

マティアスの楽しそうな背中が遠ざかっていく。背中を見れば分かるなど、物語の中だけの表現だと思っていた。

けれど今、囮となって騎士を二人引き連れ、駆け去って行くマティアスの背中を見ると、この状況を楽しんでいるという彼女の心が手に取るようにわかった。

「……不思議ですね……」

こんな他人の気持ちが分かるようになるなんて、自分にはあり得ないことだと思っていたのだ。

「どうされたのですか? なんだか……楽しそうですね」

不意に、隣にいた奴隷の少女がそんなことを口にする。

「私がですか?」

確かに、少し面白いと思っているのだが、なぜわかったのだろうか。けれど、その答えは案外簡単だった。

「ええ。だって、笑っていらっしゃいますよ」
「……っ」

笑っていると聞いて、内心驚く。頬が緩んでいるとは思わなかった。里でも無表情で何を考えているのか分からないと言われてきた。自分には笑顔など作れないと思っていたのだ。

「そうですか……ふふっ、そういえば、マティと会ってからよく笑っているかもしれませんね……」

今気付いた。思い返してみれば、自分はマティアスと出会ってから、声を上げて笑うこともしている。それは、里では考えられなかったことだ。

思えば、先の町でも多くの視線を感じた。今までは目を逸らされる事の方が多かったが、どうやら、知らず微笑みを常に浮かべていたようだ。

「私も笑えるのですね……知りませんでした」
「もしかして、ずっとお一人だったのですか?」
「なぜです?」

こうして自然に誰かと話すのも、いつの間にか慣れてきているようだ。

「だって、気になる誰かや何か思いを感じるから笑えるんですよね。一人では普通そんな風に笑えません。そうだよね」
「そうです。誰かがいるから、その人のことを考えたり、共感するから笑えるんだと思います」
「……周りを拒絶してたら笑えない……それでも笑えたら……それは危ない人……」

思えば、彼女達も最初に比べると、たった数日で表情が豊かになった。疲れは見せていても、笑顔を見せる。無表情だと思っていた無口な少女でさえ、微笑むことが多々あるのだ。

気付けば、色々なことが自分の周りで変わっている。

「……誰かに教えられるとは……」

傲慢になっていた。自覚がなかったわけではない。けれど、他人から教わることもまだまだあるのだと認めるのは初めてかもしれない。

「私も言うほど常識を知らないということでしょうかね……」

なるほど。これは面白い。まだまだこんな身近にも知らないことが沢山あったようだ。ならば、マティアスと共にいることで、こうしたことも知ることができるかもしれない。

今まで知りようのなかった他人との関わり方。それもきっと分かるかもしれないと思う。

「ふふっ。面白くなりそうです。さぁ、町へ入りますよ。さっさと用を済ませてマティを迎えに行かなくてはなりませんからね」

そうして、また一緒に旅をするのだ。きっと楽しいに違いない。

シェリス達は予定通りあっさりと門を通ると、大通りを悠々と進み、目的の冒険者ギルドへと急いだのだった。

**********

舞台裏のお話。

少女A  「列の進みが速くなりましたね」

少女B  「あの騎士達がいなくなったから……」

少女C  「……迷惑だった……」

シェリス  「予想通りですね。さっさと通りましょう」

門番 「お待たせして申し訳ありませんでした」

シェリス  「構いませんよ。あなた方も苦労しているようですね」

門番  「そう言っていただけると……はい、確認いたしました。そちらは……あっ、いえ、気付かなかったことにさせていただきます」

シェリス  「すみませんね。これは気持ちです。傷薬ですがよろしければ…….あちらの門番の方と分けてください」

門番  「ありがとうございます。薬は助かります。はい、こちらの方々の入町料も確かに。どうぞお通りください」

シェリス  「では」


つづく?
なんて事が起こってましたとさ☆
読んでくださりありがとうございます◎


門番さん達も迷惑だったみたいです。

シェリスも変わってきています。


次回、金曜1日0時です。
よろしくお願いします◎
しおりを挟む
感想 74

あなたにおすすめの小説

交換された花嫁

秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
「お姉さんなんだから我慢なさい」 お姉さんなんだから…お姉さんなんだから… 我儘で自由奔放な妹の所為で昔からそればかり言われ続けてきた。ずっと我慢してきたが。公爵令嬢のヒロインは16歳になり婚約者が妹と共に出来きたが…まさかの展開が。 「お姉様の婚約者頂戴」 妹がヒロインの婚約者を寝取ってしまい、終いには頂戴と言う始末。両親に話すが…。 「お姉さんなのだから、交換して上げなさい」 流石に婚約者を交換するのは…不味いのでは…。 結局ヒロインは妹の要求通りに婚約者を交換した。 そしてヒロインは仕方無しに嫁いで行くが、夫である第2王子にはどうやら想い人がいるらしく…。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

義兄に甘えまくっていたらいつの間にか執着されまくっていた話

よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。大好きな推しであるユリウスと自分が結ばれることはない。ならば義妹として目一杯甘えまくって楽しもうと考えたのだが、気づけばユリウスにめちゃくちゃ執着されていた話。 「義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話」のifストーリーですが繋がりはなにもありません。

【完結】私が王太子殿下のお茶会に誘われたからって、今更あわてても遅いんだからね

江崎美彩
恋愛
 王太子殿下の婚約者候補を探すために開かれていると噂されるお茶会に招待された、伯爵令嬢のミンディ・ハーミング。  幼馴染のブライアンが好きなのに、当のブライアンは「ミンディみたいなじゃじゃ馬がお茶会に出ても恥をかくだけだ」なんて揶揄うばかり。 「私が王太子殿下のお茶会に誘われたからって、今更あわてても遅いんだからね! 王太子殿下に見染められても知らないんだから!」  ミンディはブライアンに告げ、お茶会に向かう…… 〜登場人物〜 ミンディ・ハーミング 元気が取り柄の伯爵令嬢。 幼馴染のブライアンに揶揄われてばかりだが、ブライアンが自分にだけ向けるクシャクシャな笑顔が大好き。 ブライアン・ケイリー ミンディの幼馴染の伯爵家嫡男。 天邪鬼な性格で、ミンディの事を揶揄ってばかりいる。 ベリンダ・ケイリー ブライアンの年子の妹。 ミンディとブライアンの良き理解者。 王太子殿下 婚約者が決まらない事に対して色々な噂を立てられている。 『小説家になろう』にも投稿しています

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

悪役令嬢カテリーナでございます。

くみたろう
恋愛
………………まあ、私、悪役令嬢だわ…… 気付いたのはワインを頭からかけられた時だった。 どうやら私、ゲームの中の悪役令嬢に生まれ変わったらしい。 40歳未婚の喪女だった私は今や立派な公爵令嬢。ただ、痩せすぎて骨ばっている体がチャームポイントなだけ。 ぶつかるだけでアタックをかます強靭な骨の持ち主、それが私。 40歳喪女を舐めてくれては困りますよ? 私は没落などしませんからね。

冷遇妻に家を売り払われていた男の裁判

七辻ゆゆ
ファンタジー
婚姻後すぐに妻を放置した男が二年ぶりに帰ると、家はなくなっていた。 「では開廷いたします」 家には10億の価値があったと主張し、妻に離縁と損害賠償を求める男。妻の口からは二年の事実が語られていく。

処理中です...