一匹狼は辞めるつもりです!~赤狼は仲間と気ままに冒険希望~

紫南

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第一章 冒険者の始まりと最初の出会い

016 町は目前

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2018. 5. 4

**********

奴隷の少女達が解放されるくらいの金を稼ぐと決めてから五日後。

マティアス達は目的の町に到着しようとしていた。

「お~、前の町より立派だなぁ」
「この国の中では、王都に次ぐ主要の町ですからね」

シェリスが当たり前のように説明する。普通はこんな説明が人族でもない者から容易く出ることはない。しかし、シェリスにはほとんどの国の大まかな町の位置や名前などの知識があった。

それは、シェリスの性格にもよるものだが、彼は情報を持っていない場所にはまず行かない。全て知っていなくては落ち着かない性格。当然、異種族とあまり面識がなく、良い印象を持っていない場所かどうかの情報もしっかりと持っていた。トラブルは避けるのが賢い生き方だと知っている。

「さてと……あなた達、シャキッとしなさい。変に疑われますよ」
「は、はいぃぃぃ……」
「うぅ……」
「……もうダメかも……」

マティアスとシェリスの後からついてきていた三人の少女達の服は、ボロボロだった。明らかに何かに襲われ、疲弊している様子だ。

その出で立ちの理由は、ここまで、彼女達よりも遥かに強い魔獣と戦闘を繰り返したからだ。

理由は当然、彼女達自身を買い戻す資金を得るためだ。ただし、マティアスやシェリスがサポートしているとはいえ、内容は間違いなくスパルタ気味である。

「なんだ? シェリーの薬で痛いところもないだろう?」
「……は……い……っ」
「……キズは……」
「……心の問題……」
「まぁ、薬では精神的な疲労まで補えませんからね。そこまで回復する薬は……今度、開発してみるのも面白いかもしれませんね……」

体力や傷、魔力を回復する薬は存在しているが、精神まで回復する薬は存在しない。精神などという曖昧なものを回復させるということはできないのが当たり前だ。しかし、その当たり前を覆してみるのも面白いかもしれないとシェリスはクスリと笑う。

「お、悪巧みか?」
「そうですねぇ……苦もなく実験体は手に入れられそうですし……」
「いい笑顔だなっ」
「……」
「……いい……?」
「……あれは悪魔……」

新しい目標ができたことで、上機嫌になるシェリス。その笑みは、オモチャを見つけた子どものようであり、善悪の区別が付かない悪魔のような笑みだった。

マティアスはそれを見て楽しそうだという感想を抱き、三人の少女は身を寄せ合って震えていた。

いよいよ町の外壁が影を落とすようになると、シェリスはフードを目深にかぶる。そして、少女達を振り返った。

「そろそろですね。あなた達、一応これを着ていなさい」
「ん? 暑くないのか? そんなものを着て」

シェリスが鞄から取り出し、少女達に手渡したのは、灰色のローブだった。彼女達は文句も言わずに身に付け、シェリスのように深くフードを被った。

天気も良く、日差しで暑いくらいに感じていたマティアスが怪訝な様子でそれを見る。すると、シェリスは不服そうに説明した。

「ここは、人族の主要の町です。異種族の者はあまり出入りしません。一部には忌避する者もいるようですから、少々配慮する必要があるのですよ」

先日立ち寄った場所は比較的、多種族の旅人が通る場所であったことから、特に気にした様子もなく宿を取ったりと町を歩き回っていた。しかし、この町は違う。

半数とは言わないが、ある程度の数の者達が異種族をあまり良く思っていない。刺激しないためにも特徴ある容姿は隠しておくに限る。

「なんだよそれ。面倒くせぇな」
「私もそう思いますが、いらぬトラブルを避けるためですよ。まぁ、冒険者ギルドでは種族など関係ありませんけどね」
「へぇ。ならさっさとギルドに行こうぜ」

冒険者ギルドは種族に関係なく、国境も関係ない。『冒険者』という存在で成り立っている。強さを認め合い、種族間での関係を作ることで、更に己を磨き、強くなっていくことを望む者達なのだ。むしろ、こんな町では他種族の者は歓迎される。

「この町であまり長居をする気はありませんでしたが、彼女達の手続きに時間がかかるかもしれません。その時は……」
「さっきの小川があるところ。あそこで寝泊まりってことだろ?」
「そういうことです」

マティアスは、シェリスが言わんとすることを察する力が付いてきていた。世間の常識は知らないが、頭の回転は早く、倫理感もあるとシェリスは評価している。

「あ、あの……もしかして、私たちのせいでこの町に……」

灰色の耳を持つ少女が、申し訳なさそうに目を伏せる。

「いや。シェリー、元々ここに来るつもりだっただろ?」
「ええ。マティに常識を教えるには、色々な町を見せる必要があると思っていましたからね」
「おうっ。これで人生で二つ目の町体験だ」

胸を張るマティアスに、気の強そうなつり目をした黒い耳を持つ少女は、その目を目一杯見開いた。

「二つ目? あれだけ強いのにですか?」

マティアスの強さは、一つの町を拠点にしているだけの冒険者のそれではない。多くの土地を回って得られるものだと彼女は理解していた。

「育ててくれたトヤが強かったからなぁ。それより強いヤツはいないかもな。だから、私も強い」

ドヤ顔のマティに、シェリスが呆れていた。

最後に赤茶色の耳を持つ、無表情な少女が一言。

「野生の強さ。尊敬する」
「おう、ありがとなっ」
「……マティにとっては褒め言葉なのですね……」

ニカっと笑うマティアスに、シェリスは今度はため息をつく。シェリスとしては、その野生的な考えから離れて、人としての常識を学んでもらいたいのだから複雑だった。

**********

舞台裏のお話。

マティアス 「あいつら、結構やるようになったなぁ」

シェリス  「あなたの教え方が、彼女達に合ったやうですね」

マティアス  「そうか。それはよかった」

シェリス  「ディストレアに育てられただけはあります」

マティアス  「あはは。だってあいつら、戦う時の気配が獣とおんなじだもんな」

シェリス  「そうですか?」

マティアス  「なんか、体の調子が良くなるっていうか」

シェリス  「ああ。魔力循環ですね」

マティアス  「なんだそれ?」

シェリス  「あなたも戦闘の時にはやっているでしょう」

マティアス  「ん? 『やるぞー!』って気合いいれるやつがそうか?」

シェリス  「……恐らくそれですね……」

マティアス  「へぇ。お、倒したか。良くやったな」

シェリス  「……あれは、よく分かっていない時の顔ですね……」



つづく?
なんて事が起こってましたとさ☆
読んでくださりありがとうございます◎


感覚の人ですから。

まだまだ学んでいる途中です。


次回、一度お休みさせていただき
金曜18日0時です。
よろしくお願いします◎
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