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第七章 思い描いた未来
077 祖父が残した研究
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「近いうちにそっちに顔を出すわ。総帥とジェス姐達によろしく伝えて。そうとなれば……」
そう言うと、理修は話は済んだといった態度で手元の本に目を落とした。どうやら忙しいらしいと拓海と明良は顔を見合わせる。
こんな時、二人を相手するのはウィルバートだ。
「二人ともお茶でも淹れよう。リズ、あまり根を詰めないようにな」
「ええ」
そんな理修の空返事に苦笑し、ウィルバートは拓海と明良を伴って図書室を後にした。
静かな静寂に包まれたこの場所で、理修は祖父、リュートリールの手記を読み進めていく。
その右手側には、地球から持ち込んだ大学ノートが広げられ、手記の中から読み解いた役に立ちそうな数式や術式の案などを細かく書き記している。
手にはこの場に不似合いな地球産のボールペン。
この世界で使われるつけペンは、どうにも集中力が続かない。ボールペンを知っている理修には、インクをつけるのが面倒に感じられてしまうのだ。
特に、思い付いた事を即座に、思い付くままに書き続けたい時には不向きだ。適量を見極め、インクをつけている間にそのイメージが霧散してしまう事もある。
しばらくの間、部屋に響くペンが紙を滑る音と紙を捲る音も聞こえてはいないほど集中していた理修だったが、その手を不意に止めた。
「……」
大きく息を吸い込み、前のめりになっていた体をゆっくりと起こす。
「やっぱりあった……」
理修は守護の魔女になってくれと言われるようになってから、長くリュートリールの手記からある情報がないかと探していた。
それは、リュートリールをよく知る理修だからこそ、あるはずだと確信を得て探していたもの。
その記述の最初にはこう書かれていた。
「『尊き守護の魔女達の在り方について考えさせられる』……『大きな責任と、負荷の掛かる役目』……」
リュートリールは、魔術を知らない者達が主導権を握る地球を見て、その裏側で、魔女や異能者と呼ばれてひっそりと生きる者達を尊敬していた。
異端と呼ばれ、時に忌み嫌われながら生きてきた彼ら……シャドーフィールドに所属する者達。世界の主導権が彼らにはなくても、彼らはその世界を護っているのだ。
忌み嫌われた過去を忘れた訳ではないのに、それでもそんな世界を護ろうと努力する彼らを、リュートリールは素直に称賛していた。
「じい様……ふふっ、私もじい様も、こんな事、素直に口にしたり出来ないものね……でも……」
最も重要で重責のある守護の魔女となった五人の魔女達。その彼女達の重圧や、守護の結界を張る為に力を使う負担を、少しでも軽く出来ればとリュートリールは密かに考えていたのだ。
「じい様も、考える事は同じよね」
理修は、守護の魔女の話を聞いてすぐ、頭を過った事があった。
それが、守護の魔女としての力を補助する魔導具を作れないかという事。
そう思った時、リュートリールの手記の中に、同じ様に考え、作ろうとした記録があるのではないかと思ったのだ。
そして、今日、ようやくそれを見つける事が出来た。
「……やっぱり、完成はしてない……か」
いくらリュートリールが天才でも、さすがに次元を丸ごと護る魔女達の力になれる魔導具の考案は難航していたらしい。
「仕方ない。ここまでまとまっていれば、後数年で何とかなるでしょう」
壮大な研究だ。一朝一夕でどうにかなるものではないという覚悟はある。
「ウィルもいるし、守護の魔女としての関わりを知れば、また見えてくるでしょう」
どう力を使うのか。それが分かれば、また違った案も浮かぶだろう。それは、魔導具作成に役に立つ。
理修はそっと手記に手を伸ばして苦笑を浮かべた。
「こんな事を考えてるって、ジェス姐に話せば、こんなに悩まなくて良かったんじゃないの?」
手が触れた場所には、考案の途中で何度も斜線を引き、書き直した痕があった。
守護の魔女であるジェスラートに直接相談していれば、もと早く答えが出たのではないかと思うのだ。
「素直じゃないんだから……」
それは、そのまま自身に返ってくる言葉なのだが、そんな自覚はない理修だった。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
そう言うと、理修は話は済んだといった態度で手元の本に目を落とした。どうやら忙しいらしいと拓海と明良は顔を見合わせる。
こんな時、二人を相手するのはウィルバートだ。
「二人ともお茶でも淹れよう。リズ、あまり根を詰めないようにな」
「ええ」
そんな理修の空返事に苦笑し、ウィルバートは拓海と明良を伴って図書室を後にした。
静かな静寂に包まれたこの場所で、理修は祖父、リュートリールの手記を読み進めていく。
その右手側には、地球から持ち込んだ大学ノートが広げられ、手記の中から読み解いた役に立ちそうな数式や術式の案などを細かく書き記している。
手にはこの場に不似合いな地球産のボールペン。
この世界で使われるつけペンは、どうにも集中力が続かない。ボールペンを知っている理修には、インクをつけるのが面倒に感じられてしまうのだ。
特に、思い付いた事を即座に、思い付くままに書き続けたい時には不向きだ。適量を見極め、インクをつけている間にそのイメージが霧散してしまう事もある。
しばらくの間、部屋に響くペンが紙を滑る音と紙を捲る音も聞こえてはいないほど集中していた理修だったが、その手を不意に止めた。
「……」
大きく息を吸い込み、前のめりになっていた体をゆっくりと起こす。
「やっぱりあった……」
理修は守護の魔女になってくれと言われるようになってから、長くリュートリールの手記からある情報がないかと探していた。
それは、リュートリールをよく知る理修だからこそ、あるはずだと確信を得て探していたもの。
その記述の最初にはこう書かれていた。
「『尊き守護の魔女達の在り方について考えさせられる』……『大きな責任と、負荷の掛かる役目』……」
リュートリールは、魔術を知らない者達が主導権を握る地球を見て、その裏側で、魔女や異能者と呼ばれてひっそりと生きる者達を尊敬していた。
異端と呼ばれ、時に忌み嫌われながら生きてきた彼ら……シャドーフィールドに所属する者達。世界の主導権が彼らにはなくても、彼らはその世界を護っているのだ。
忌み嫌われた過去を忘れた訳ではないのに、それでもそんな世界を護ろうと努力する彼らを、リュートリールは素直に称賛していた。
「じい様……ふふっ、私もじい様も、こんな事、素直に口にしたり出来ないものね……でも……」
最も重要で重責のある守護の魔女となった五人の魔女達。その彼女達の重圧や、守護の結界を張る為に力を使う負担を、少しでも軽く出来ればとリュートリールは密かに考えていたのだ。
「じい様も、考える事は同じよね」
理修は、守護の魔女の話を聞いてすぐ、頭を過った事があった。
それが、守護の魔女としての力を補助する魔導具を作れないかという事。
そう思った時、リュートリールの手記の中に、同じ様に考え、作ろうとした記録があるのではないかと思ったのだ。
そして、今日、ようやくそれを見つける事が出来た。
「……やっぱり、完成はしてない……か」
いくらリュートリールが天才でも、さすがに次元を丸ごと護る魔女達の力になれる魔導具の考案は難航していたらしい。
「仕方ない。ここまでまとまっていれば、後数年で何とかなるでしょう」
壮大な研究だ。一朝一夕でどうにかなるものではないという覚悟はある。
「ウィルもいるし、守護の魔女としての関わりを知れば、また見えてくるでしょう」
どう力を使うのか。それが分かれば、また違った案も浮かぶだろう。それは、魔導具作成に役に立つ。
理修はそっと手記に手を伸ばして苦笑を浮かべた。
「こんな事を考えてるって、ジェス姐に話せば、こんなに悩まなくて良かったんじゃないの?」
手が触れた場所には、考案の途中で何度も斜線を引き、書き直した痕があった。
守護の魔女であるジェスラートに直接相談していれば、もと早く答えが出たのではないかと思うのだ。
「素直じゃないんだから……」
それは、そのまま自身に返ってくる言葉なのだが、そんな自覚はない理修だった。
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