異世界『魔術師』の孫〜婚約者のためなら国一つ消しても良いと思ってます(本音)〜

紫南

文字の大きさ
上 下
74 / 80
第七章 思い描いた未来

074 兄を慕っています

しおりを挟む
ウィルバートはこの日、定期的に行っているサンドリュークと、元ダグストであるディオリュート王国の国境のある森の見回りに来ていた。

「このくらいか……」

ディオリュートに近い場所の見回りは念入りに。危険な魔獣は退治して回る。勿論、これはウィルバートが自主的にやっている事なので、別にやらなくてはならない事ではない。それでも自らこんな事をしているのは、ウィルバートが今のディオリュートとの関係を好ましく思っているからだった。

そんなウィルバートが、そろそろ帰ろうかと思っていた所に拓海と明良が現れたのだ。

「ウィル兄さんっ」
「二人揃ってこんな所にどうした?」

ウィルバートは、既に気配を読み、二人が国に向かっていることは知っていた。だが、てっきりこの場を素通りして理修の所へと向かうものだと思っていた為、少し驚いたのだ。

「こんな所っていうのはお返しするよ。また一人だし」
「ウィル兄。一人で大丈夫なのは分かってっけど、近衛の人にまた怒られるぜ?」

そんな二人の言葉に、毎度の事とはいえ、何も言わずに出てきたウィルバートは苦笑する。

「リズならば、気付かないあれらが悪いと言うから問題ない」

理修のこんな言い訳も、ウィルバートには正しいものになっているようだ。

「兄さん。何度も言うけど、理修の言ってる事が全部正しい訳じゃないから」
「分かっている。だが、多くはリズに理がある」
「……ウィル兄……理修を信用し過ぎ……」

理修自身、気を付けてはいるようだが、ウィルバートは理修の言葉を簡単に肯定する事が多い。

惚れた弱みと言えばそれまでだが、二人にはウィルバートにとって、理修の常識が正しいものになりつつあるように思えてならない。

「兄さん。気を付けてよ?王なんだから、理修の常識に合わせてたら、本当に魔王になる」
「あ~……なるな……既に理修なんて、ディオリュートじゃぁ、陰で『魔女まじょ王』って呼ばれてるらしいし……」

ディオリュートでは、ダグストが崩壊したあの日から、理修の恐怖の魔女としての姿が語り継がれている。

小さな子ども達にも、悪い事をすれば、魔族の国から魔女がやってきて消されてしまうと言って躾ている程だ。

「『魔女王』……悪くないな」
「「え……」」
「ふむ……リズが王と呼ばれ、畏れられる程、素晴らしい魔女だと認められているという事だ」
「「……」」

明らかに『おそれられる』の意味が違うだろうと、二人はツッコみたいのをなんとか堪える。

「これは良い事を聞いた」
「……お、おう……理修はすげぇヨナ……」
「とても真似できないよ……」
「そうだな。それに、最近は特にリュートリールを思い出す。本当に良く似ている」
「それは……得したね……」
「ビミョー……」

ウィルバートには、無二の親友とさえ呼べるリュートリールを思い出す事もできて嬉しいようだ。しかし、それはイコール『破天荒な天才魔術師』と呼ばれる事もあったリュートリールと同じ行動や思考を、理修が見せているという事。それはとても危険な事だろう。

「なぁ、大丈夫なのか?着々と俺ら世間一般のもつ魔族とか魔王のイメージに近付いてねぇ?」

明良は、理修が国のイメージに与える影響が気になっていた。

「兄さんが良い人過ぎて、理修の悪い所が際立ってるんだ……まぁ、結婚した事で、理修のなにかも外れてるようにも見えるけど……」

地球の常識を脱ぎ捨てる勢いで、理修は急速にこちらへと馴染んでいると二人は感じている。王を支える王妃としての立場も、それを助長させているのだろう。

そんな二人の不安など気にする事もなく、ウィルバートは、不思議そうに改めて二人の弟達を見つめた。

「それはそうと、何か私に用があったのではないのか?」
「「あっ」」

そう言われて、ウィルバートを探していた理由を思い出した二人は、気を取り直し、理修が『守護の魔女』となる話を持ちかけたのだった。

**********
読んでくださりありがとうございます◎
しおりを挟む
感想 30

あなたにおすすめの小説

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

【完結】どうやら魔森に捨てられていた忌子は聖女だったようです

山葵
ファンタジー
昔、双子は不吉と言われ後に産まれた者は捨てられたり、殺されたり、こっそりと里子に出されていた。 今は、その考えも消えつつある。 けれど貴族の中には昔の迷信に捕らわれ、未だに双子は家系を滅ぼす忌子と信じる者もいる。 今年、ダーウィン侯爵家に双子が産まれた。 ダーウィン侯爵家は迷信を信じ、後から産まれたばかりの子を馭者に指示し魔森へと捨てた。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

聖女の私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。

重田いの
ファンタジー
聖女である私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。 あのお、私はともかくお父さんがいなくなるのは国としてマズイと思うのですが……。 よくある聖女追放ものです。

処理中です...