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第七章 思い描いた未来
074 兄を慕っています
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ウィルバートはこの日、定期的に行っているサンドリュークと、元ダグストであるディオリュート王国の国境のある森の見回りに来ていた。
「このくらいか……」
ディオリュートに近い場所の見回りは念入りに。危険な魔獣は退治して回る。勿論、これはウィルバートが自主的にやっている事なので、別にやらなくてはならない事ではない。それでも自らこんな事をしているのは、ウィルバートが今のディオリュートとの関係を好ましく思っているからだった。
そんなウィルバートが、そろそろ帰ろうかと思っていた所に拓海と明良が現れたのだ。
「ウィル兄さんっ」
「二人揃ってこんな所にどうした?」
ウィルバートは、既に気配を読み、二人が国に向かっていることは知っていた。だが、てっきりこの場を素通りして理修の所へと向かうものだと思っていた為、少し驚いたのだ。
「こんな所っていうのはお返しするよ。また一人だし」
「ウィル兄。一人で大丈夫なのは分かってっけど、近衛の人にまた怒られるぜ?」
そんな二人の言葉に、毎度の事とはいえ、何も言わずに出てきたウィルバートは苦笑する。
「リズならば、気付かないあれらが悪いと言うから問題ない」
理修のこんな言い訳も、ウィルバートには正しいものになっているようだ。
「兄さん。何度も言うけど、理修の言ってる事が全部正しい訳じゃないから」
「分かっている。だが、多くはリズに理がある」
「……ウィル兄……理修を信用し過ぎ……」
理修自身、気を付けてはいるようだが、ウィルバートは理修の言葉を簡単に肯定する事が多い。
惚れた弱みと言えばそれまでだが、二人にはウィルバートにとって、理修の常識が正しいものになりつつあるように思えてならない。
「兄さん。気を付けてよ?王なんだから、理修の常識に合わせてたら、本当に魔王になる」
「あ~……なるな……既に理修なんて、ディオリュートじゃぁ、陰で『魔女王』って呼ばれてるらしいし……」
ディオリュートでは、ダグストが崩壊したあの日から、理修の恐怖の魔女としての姿が語り継がれている。
小さな子ども達にも、悪い事をすれば、魔族の国から魔女がやってきて消されてしまうと言って躾ている程だ。
「『魔女王』……悪くないな」
「「え……」」
「ふむ……リズが王と呼ばれ、畏れられる程、素晴らしい魔女だと認められているという事だ」
「「……」」
明らかに『おそれられる』の意味が違うだろうと、二人はツッコみたいのをなんとか堪える。
「これは良い事を聞いた」
「……お、おう……理修はすげぇヨナ……」
「とても真似できないよ……」
「そうだな。それに、最近は特にリュートリールを思い出す。本当に良く似ている」
「それは……得したね……」
「ビミョー……」
ウィルバートには、無二の親友とさえ呼べるリュートリールを思い出す事もできて嬉しいようだ。しかし、それはイコール『破天荒な天才魔術師』と呼ばれる事もあったリュートリールと同じ行動や思考を、理修が見せているという事。それはとても危険な事だろう。
「なぁ、大丈夫なのか?着々と俺ら世間一般のもつ魔族とか魔王のイメージに近付いてねぇ?」
明良は、理修が国のイメージに与える影響が気になっていた。
「兄さんが良い人過ぎて、理修の悪い所が際立ってるんだ……まぁ、結婚した事で、理修のなにかも外れてるようにも見えるけど……」
地球の常識を脱ぎ捨てる勢いで、理修は急速にこちらへと馴染んでいると二人は感じている。王を支える王妃としての立場も、それを助長させているのだろう。
そんな二人の不安など気にする事もなく、ウィルバートは、不思議そうに改めて二人の弟達を見つめた。
「それはそうと、何か私に用があったのではないのか?」
「「あっ」」
そう言われて、ウィルバートを探していた理由を思い出した二人は、気を取り直し、理修が『守護の魔女』となる話を持ちかけたのだった。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
「このくらいか……」
ディオリュートに近い場所の見回りは念入りに。危険な魔獣は退治して回る。勿論、これはウィルバートが自主的にやっている事なので、別にやらなくてはならない事ではない。それでも自らこんな事をしているのは、ウィルバートが今のディオリュートとの関係を好ましく思っているからだった。
そんなウィルバートが、そろそろ帰ろうかと思っていた所に拓海と明良が現れたのだ。
「ウィル兄さんっ」
「二人揃ってこんな所にどうした?」
ウィルバートは、既に気配を読み、二人が国に向かっていることは知っていた。だが、てっきりこの場を素通りして理修の所へと向かうものだと思っていた為、少し驚いたのだ。
「こんな所っていうのはお返しするよ。また一人だし」
「ウィル兄。一人で大丈夫なのは分かってっけど、近衛の人にまた怒られるぜ?」
そんな二人の言葉に、毎度の事とはいえ、何も言わずに出てきたウィルバートは苦笑する。
「リズならば、気付かないあれらが悪いと言うから問題ない」
理修のこんな言い訳も、ウィルバートには正しいものになっているようだ。
「兄さん。何度も言うけど、理修の言ってる事が全部正しい訳じゃないから」
「分かっている。だが、多くはリズに理がある」
「……ウィル兄……理修を信用し過ぎ……」
理修自身、気を付けてはいるようだが、ウィルバートは理修の言葉を簡単に肯定する事が多い。
惚れた弱みと言えばそれまでだが、二人にはウィルバートにとって、理修の常識が正しいものになりつつあるように思えてならない。
「兄さん。気を付けてよ?王なんだから、理修の常識に合わせてたら、本当に魔王になる」
「あ~……なるな……既に理修なんて、ディオリュートじゃぁ、陰で『魔女王』って呼ばれてるらしいし……」
ディオリュートでは、ダグストが崩壊したあの日から、理修の恐怖の魔女としての姿が語り継がれている。
小さな子ども達にも、悪い事をすれば、魔族の国から魔女がやってきて消されてしまうと言って躾ている程だ。
「『魔女王』……悪くないな」
「「え……」」
「ふむ……リズが王と呼ばれ、畏れられる程、素晴らしい魔女だと認められているという事だ」
「「……」」
明らかに『おそれられる』の意味が違うだろうと、二人はツッコみたいのをなんとか堪える。
「これは良い事を聞いた」
「……お、おう……理修はすげぇヨナ……」
「とても真似できないよ……」
「そうだな。それに、最近は特にリュートリールを思い出す。本当に良く似ている」
「それは……得したね……」
「ビミョー……」
ウィルバートには、無二の親友とさえ呼べるリュートリールを思い出す事もできて嬉しいようだ。しかし、それはイコール『破天荒な天才魔術師』と呼ばれる事もあったリュートリールと同じ行動や思考を、理修が見せているという事。それはとても危険な事だろう。
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「兄さんが良い人過ぎて、理修の悪い所が際立ってるんだ……まぁ、結婚した事で、理修のなにかも外れてるようにも見えるけど……」
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そんな二人の不安など気にする事もなく、ウィルバートは、不思議そうに改めて二人の弟達を見つめた。
「それはそうと、何か私に用があったのではないのか?」
「「あっ」」
そう言われて、ウィルバートを探していた理由を思い出した二人は、気を取り直し、理修が『守護の魔女』となる話を持ちかけたのだった。
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