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第六章 終わりと始まり
070 未来のカタチ
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初めての穏やかな家族団欒を過ごした次の日。
この日は、連休最後の休日だ。
理修はオルバルトへ報告する為、シャドーフィールドへ来ていた。
「良い顔をしておるのぉ」
「っ……ナキ様……先日はご忠告、ありがとうございました」
入り口を入り二階へと上がった所で、ひょっこりと顔を出したナキに、理修は丁寧に礼をする。それに得意気な表情を浮かべたナキが、笑みを深めて答えた。
「うむ。食い止められたようで良かったな」
ナキが言うのは占い事。ナキは、魔人の復活を予知していたのだ。
「はい。危うく焦土になる……」
「本当に良かった。お主がキレて大地を赤く染める事もなくてな」
「はい?」
フワフワのピンクのドレスを着たナキは、得意気に腰に両手を当てて胸を張る。
「わしのお陰じゃな」
「……ナキ様……私がとはどういう……」
「む?おう、お主と魔人、両方の未来が見えたのじゃ。確定できん状態でのぉ。わしにはどちらがとは、わからなんだ」
ナキが言うには、予知した未来は二つあったそうだ。一つは魔人が、一つは理修が大地を赤く染める様子が見えていたらしい。
「……ナキ様は魔人がと言いませんでしたか?」
「うむ?まぁ良いではないか。お主も魔人のようなものじゃろ?」
「違います」
失礼なと、理修は表情を歪めるが、ナキの表情は先ほどからほとんど変わらない。
そして、確信を持って最後にこう言った。
「そのうち気にならんようになる」
「はい?」
全く意味の分からないその一言を残し、ナキはスキップをしながら浮かび上がると、天井へと吸い込まれて消えていった。
「……なにが……」
のちにダグストの住人達が囁き始める事になる呼び名。それが関係しているとは、この時の理修に知る由はない。
不審に思いながらも、少々過保護になっているだろうオルバルトを宥める為、気合いを入れて歩き出す。
近付いてきた婚約式についての話もしなくてはならない。だが、そんな未来の事を、今の理修は清々しい思いで話す事が出来る。
それは、家族との和解が大きいだろう。
留守を任せた頼りになる仲間達にも、ちゃんと話さなくてはと、先ほどよりも足取り軽く、目的の部屋へと向かうのだった。
◆ ◆ ◆
数年後ーー
今し方仕事を終えた一人の冒険者らしき青年が、街の西寄りに建つ立派な城へと駆け込んでいく。
「よっと」
「あっ」
身軽に高い塀を飛び越え、美しい庭を横切る。
すると、その姿を見た兵達が苦笑を浮かべながら、もう決まり文句になった言葉を口にする。
「っ、陛下っ!また抜け出してたんですかっ!!」
「おうっ、今日は大漁だからなっ」
言われた青年は、快活な笑みを浮かべてそう言ってのけた。
「誰も褒めませんからねっ!」
「護衛を振り切るのはやめてくださいっ!」
「ついて来れんお前達が悪い」
「「「陛下っ!!」」」
ニヤリと不適な笑みを見せながら、そう言って手近な窓から城へと入っていった。
廊下を走っていくと、かち合った兵達に先ほど同様の文句を言われる。それに構わず、青年は一つの部屋へと飛び込んだ。
「おう、来てたのか」
「兄上……変わりませんね……」
その部屋にいたのは、青年よりも少々年下の、まだ少年のあどけなさが残る男の子だ。
その服装は、この世界では見慣れない黒いスーツだった。
困り顔のその男の子に、青年は全く悪びれる事なく着替える為の個室へ進む。
「どうやって来たんだ?」
薄い壁越しにそう青年が訊ねると、男の子は部屋にある椅子に腰掛けながら告げた。
「拓海さんと明良さんが連れて来てくれました」
「お二人が?リズ様に用か?」
「お祖母様の誕生日パーティの誘いですよ。忘れたんですか?」
そう仕方のない人だと男の子はため息をつく。
「忘れてないさ。まだ言ってなかったのか」
少々言い訳臭く青年はそう答え、着替え終わって部屋から出てくる。
「……その格好も似合うようになりましたね」
「まぁな。これでも王だぞ」
「その自覚があるなら、一人で城を抜け出すのはやめてやってくださいね」
「それとこれとは別だ」
「……まったく……」
煌めく細かい装飾も見事な王の服へと着替えた青年は、その不敵な笑みと合間って、ちゃんと若い王らしく見えていた。
「母上に挨拶はしたか?」
「まだです。兄上が戻られるのを待っていたんです」
「そうか。ならば行こう。今は……神殿におられるな」
そう言って、二人は部屋を後にしたのだった。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
この日は、連休最後の休日だ。
理修はオルバルトへ報告する為、シャドーフィールドへ来ていた。
「良い顔をしておるのぉ」
「っ……ナキ様……先日はご忠告、ありがとうございました」
入り口を入り二階へと上がった所で、ひょっこりと顔を出したナキに、理修は丁寧に礼をする。それに得意気な表情を浮かべたナキが、笑みを深めて答えた。
「うむ。食い止められたようで良かったな」
ナキが言うのは占い事。ナキは、魔人の復活を予知していたのだ。
「はい。危うく焦土になる……」
「本当に良かった。お主がキレて大地を赤く染める事もなくてな」
「はい?」
フワフワのピンクのドレスを着たナキは、得意気に腰に両手を当てて胸を張る。
「わしのお陰じゃな」
「……ナキ様……私がとはどういう……」
「む?おう、お主と魔人、両方の未来が見えたのじゃ。確定できん状態でのぉ。わしにはどちらがとは、わからなんだ」
ナキが言うには、予知した未来は二つあったそうだ。一つは魔人が、一つは理修が大地を赤く染める様子が見えていたらしい。
「……ナキ様は魔人がと言いませんでしたか?」
「うむ?まぁ良いではないか。お主も魔人のようなものじゃろ?」
「違います」
失礼なと、理修は表情を歪めるが、ナキの表情は先ほどからほとんど変わらない。
そして、確信を持って最後にこう言った。
「そのうち気にならんようになる」
「はい?」
全く意味の分からないその一言を残し、ナキはスキップをしながら浮かび上がると、天井へと吸い込まれて消えていった。
「……なにが……」
のちにダグストの住人達が囁き始める事になる呼び名。それが関係しているとは、この時の理修に知る由はない。
不審に思いながらも、少々過保護になっているだろうオルバルトを宥める為、気合いを入れて歩き出す。
近付いてきた婚約式についての話もしなくてはならない。だが、そんな未来の事を、今の理修は清々しい思いで話す事が出来る。
それは、家族との和解が大きいだろう。
留守を任せた頼りになる仲間達にも、ちゃんと話さなくてはと、先ほどよりも足取り軽く、目的の部屋へと向かうのだった。
◆ ◆ ◆
数年後ーー
今し方仕事を終えた一人の冒険者らしき青年が、街の西寄りに建つ立派な城へと駆け込んでいく。
「よっと」
「あっ」
身軽に高い塀を飛び越え、美しい庭を横切る。
すると、その姿を見た兵達が苦笑を浮かべながら、もう決まり文句になった言葉を口にする。
「っ、陛下っ!また抜け出してたんですかっ!!」
「おうっ、今日は大漁だからなっ」
言われた青年は、快活な笑みを浮かべてそう言ってのけた。
「誰も褒めませんからねっ!」
「護衛を振り切るのはやめてくださいっ!」
「ついて来れんお前達が悪い」
「「「陛下っ!!」」」
ニヤリと不適な笑みを見せながら、そう言って手近な窓から城へと入っていった。
廊下を走っていくと、かち合った兵達に先ほど同様の文句を言われる。それに構わず、青年は一つの部屋へと飛び込んだ。
「おう、来てたのか」
「兄上……変わりませんね……」
その部屋にいたのは、青年よりも少々年下の、まだ少年のあどけなさが残る男の子だ。
その服装は、この世界では見慣れない黒いスーツだった。
困り顔のその男の子に、青年は全く悪びれる事なく着替える為の個室へ進む。
「どうやって来たんだ?」
薄い壁越しにそう青年が訊ねると、男の子は部屋にある椅子に腰掛けながら告げた。
「拓海さんと明良さんが連れて来てくれました」
「お二人が?リズ様に用か?」
「お祖母様の誕生日パーティの誘いですよ。忘れたんですか?」
そう仕方のない人だと男の子はため息をつく。
「忘れてないさ。まだ言ってなかったのか」
少々言い訳臭く青年はそう答え、着替え終わって部屋から出てくる。
「……その格好も似合うようになりましたね」
「まぁな。これでも王だぞ」
「その自覚があるなら、一人で城を抜け出すのはやめてやってくださいね」
「それとこれとは別だ」
「……まったく……」
煌めく細かい装飾も見事な王の服へと着替えた青年は、その不敵な笑みと合間って、ちゃんと若い王らしく見えていた。
「母上に挨拶はしたか?」
「まだです。兄上が戻られるのを待っていたんです」
「そうか。ならば行こう。今は……神殿におられるな」
そう言って、二人は部屋を後にしたのだった。
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