異世界『魔術師』の孫〜婚約者のためなら国一つ消しても良いと思ってます(本音)〜

紫南

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第六章 終わりと始まり

067 これからの事を

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魔族の国であるサンドリューク。その王都にある美しい城。

そんな城の一室で、理修は不機嫌な顔を隠す様子も見せず、隣に座るジェスラートにお酒をすすめていた。

「くっ、ふはははっ。あれは、仕方ないだろ」
「だからと言って、何故わざわざ返事をしたんです?あれでは、確約したようなものでしょうっ」

二人で話をしていたのは、理修達がいよいよダグストを後にしようとしていた時に起きた事だ。

理修達の下へと、ザサスが大きな鳥の使い魔に乗って現れた。理修を恐れて静まり返っていた民衆達も、ざわざわと落ち着きなくその様子に目を向ける。

「リズちゃん。後は任せてくれていいよ」

そう言ったザサスは今現在、この国の代表となる聖女ミリアへ歩み寄った。

「君が聖女だね。私はザサス。冒険者ギルドのマスターをしている。それと、冒険者ギルドを統括する代表の一人だ」

ザサスは、大国ウルキアナ王国の辺境の街、スルースの冒険者ギルドのギルドマスターだ。だが、世界中にある冒険者ギルドのマスターの中でも、全てのギルドをまとめる五人の代表メンバーの一人でもあった。

「この街に冒険者ギルドを置かないかい?」
「冒険者ギルドを……」

ダグストは小さな国だ。実質、この王都しか存在しない。

魔神を信奉する教会から成るこの国は閉鎖的で、冒険者ギルドもない事から、外からの人も入ってはこなかった。

その為に大きく発展する事もなく、世界を知らずにいたのだ。

「冒険者が出入りするようになれば、この辺りの魔獣被害も減る。何より、復興の為の力にもなるよ。それに、ここは魔族の国に接しているからね。国同士の問題の助けにもなれる」

冒険者が常駐するようになれば、魔族が魔獣をけしかけるなどという、おかしな妄言を信じる事もなくなるだろう。

こうして、この国にも冒険者ギルドが置かれる事になった。それに、日が沈む前にはゴブリン達の処理をする為、ザサスが手配した冒険者達が到着する予定だ。

全て解決したと安心して背を向け、歩き出そうとした理修達に気付いたミリアは、そこで慌てて声をかける。

「お待ちくださいリズ様っ」

そんな必死な声に、理修は思わず足を止めた。

それを確認したミリアは、一つ呼吸をすると、震えまいとする力を込めた声で告げた。

「この国がもし、勇者様が王となられるのに相応しい国となったなら、司様に、改めて王となっていただけるよう、お願いに上がってもよろしいでしょうか」
「はぁ?」
「……」

指名された司は、驚いて目を見開き、理修はキリキリと眉を寄せて、盛大に顔をしかめて見せた。

「ふっ……っあははははっ。良く言ったっ。それでこそ聖女だっ。なぁ、リズ。それなら構わんだろ」
「ッ、ジェス姐っ⁉︎」

ジェスラートは愉快だと笑いながら、この無茶苦茶とも言える意見を認めたのだ。

抗議しようと口を開きかけた理修に、大人しいミリアにしては珍しく更に言い募った。

「必ずっ。必ずこの国を、リズ様に認められるような国に変えてみせます!」

その純粋なミリアの決意に、理修は呆れてしまっていた。そこにザサスも加わる。

「いいんじゃないかな? 何より、ウィルの奴も司君となら上手く付き合っていけそうだ。リズちゃんも司君なら安心だと思わない?」
「だからと言って、簡単に頷ける問題ではないでしょうっ」

当の本人を無視して進められる話に、おかしいと気付ける者はいなかった。その為、司だけが現状に取り残されてしまっているのだが、これにも誰も気付かない。

「……俺の話だよな……」

そんな呟きは誰の耳にも入らなかった。

「心配しなくても僕がサポートするしね。リズちゃんが不安にならない状態の国にしてあげるよ」
「いいじゃないか。気に入らなければ吹っ飛ばせば終わるだろ。どうせ、お隣さんになるんだしな」

そんな年長者二人の言葉に、さすがの理修も反論出来るはずはなかった。

ザサスに任せ、サンドリュークへとやって来た理修達は、夕食を済ませ司を休ませると、ジェスラートと理修だけで今後の事を話し合っていた。

「だが、家族も無事で良かったじゃないか」
「それはそうですが……」

先にこの国へと来ていた理修の家族達は今、食事も済ませ、用意された部屋でぐっすりと眠っている。

今回、勇者召喚に巻き込まれた家族達に、理修は改めて何と説明すれば良いのか迷っていた。

「不幸な事故で片付けられる問題ではないでしょう……」

この世界の事や、祖父であるリュートリールの事。そして、婚約者であるウィルバートの事。それらを曖昧にさせてはおけなくなってしまった。

「全部、ありのままを話せば良い。異世界を見て魔術を知ったんだ。これは夢だと言って片付ける必要はないだろう……リュートリールの事も話してやれ」

そう言ったジェスラートから笑みが消える。己の中の何かを思い出すように、静かに目を伏せたのだ。

ジェスラートにとって、リュートリールは気心の知れた友であり、良きライバルのようなものだった。その死の真相を知った事で、虚しさを噛み締める。

理修も、やり場のなくなった想いをゆっくりと納得させていかなくてはならない。それは母、充花にも必要な事だろう。

今は穏やかな眠りにつく家族達を思って、理修とジェスラートは、大きな窓から見える幻想的な魔族の国の夜の風景を、静かに見つめるのだった。

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読んでくださりありがとうございます◎
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