異世界『魔術師』の孫〜婚約者のためなら国一つ消しても良いと思ってます(本音)〜

紫南

文字の大きさ
上 下
63 / 80
第六章 終わりと始まり

063 ちょっと苛つきました

しおりを挟む
理修は、今や熱狂的に勇者である司を讃えるダグストの民衆達を見て、キツく眉根を寄せていた。

今にも耳を塞ぎたくて仕方がないという様子で、隣でエヴィスタに乗って見つめている司をヤキモキさせていた。

「勇者様ぁぁぁっ」
「これでこの国も安泰だっ」

国王やそれに連なる国の重鎮達が消えた事すら忘れたような物言いに、さすがの司も眉を顰める。

そんな司の様子が、遠く離れた彼らに分かるはずもなく、民衆は更にエスカレートしていく。

「どうか、この国の王に!」
「勇者様っ、王様になってくださいっ」

何故そうなるのか。頭を抱えたくなる衝動を堪えていれば、この場で最もあってはならない言葉が飛び出した。

「魔族をこのまま倒してくださいっ」
「我らの国に平穏を!」
「魔族の脅威から、この国をお救いくださいっ」

その言葉を聞いた時、ハッと目を向けた先には案の定、苛立ちをとうとう爆発させた理修がいた。

杖に腰掛けた理修は、スッと右手を高く上げ、空へ向けて掌を広げる。

すると、急激に理修の掌の上に強い力が集まってくる。それは徐々に光を固め、掌大の球が出来上がった。

「り、理修っ」

司が思わずそう不安気に声を掛けたのは、集まってくる力が、チリチリと皮膚に感じられる程のものだったからだ。

しかし、そんな司の声を聞いても、理修の心は既に決まってしまっていた。

そして、唐突にそれは空高く打ち上がる。次いで、球であったそれは平たく潰れ、中心に穴が空いた。まるで金の腕輪のようにその形状を変えると、ゆっくりと大きく広がり、ダグストの国の上空に金輪を描く。

一体何が起きるのかと、ダグストの民達も、先ほどまでの司への声援はなりを潜め、揃って静かに見つめる。

そんな彼らを冷たく見下ろした理修は、固い声で呟いた。

「消え去れ」
「っ⁉︎」

司が息をのむ。その瞬間、膨張した光の輪は、過たずダグストの国を囲う高く堅牢な外壁へと被さった。

あっと思った時には、まるでサラサラとした砂が崩れ落ちるように、外壁が光の輪に焼かれて消えていた。

「……っ、嘘だろ……っ」

呆然とそう呟くのも無理はない。そして、同じ事が、ダグストの民達にも言えた。

「国ごと消されなかった事に感謝するのね」

そんな理修の声が、静まり返った場所に響いた。

その時、神殿があった場所。その地下から、ミリアが件の剣を捧げ持って現れた。

「こ、これは一体……っ?」

何処からでも見る事が出来た高い外壁が無くなった事で、全く違った景色を見ているように思えたのだ。

更には、神殿も消えている現状。ここは何処だとミリアが思ったとしても仕方のない事だった。

「お?遂にリズがキレたか?どうせ、婚約者殿をバカにされたとかそういう事だろう。よく我慢したなぁ」
「あ、あの……これは、手加減なさったと?」
「当然だろう?リズが本気なら、今頃この辺りは綺麗な更地だぞ?素っ裸の人間しか居ない場所になっていた筈だ」
「す、素っ裸……?」

ミリアの後ろから顔を出したのは、ジェスラートだ。

実は先ほどまで、地下からそのまま地球へ帰ろうとしていたジェスラートだが、寸前で理修の力を感じ、様子を見に来たのだ。

「リズとリュートリールが考案した魔術に、生物以外を綺麗に消し去るというものがあってな。建物に向けて放てば、そこに居る人間、生物だけを残して、全て粒子レベルにまで分解するというシロモノだ。服までキッチリ消す完成度だぞ?」
「……す、すごいのは分かるのですが……」

あまりにも滑稽な光景を見る事になりそうだと、ミリアは表情を堅くした。

それは、静まり返っていた為に多くの民達の耳にも入った。声を出してはならないような緊迫した状況だ。

そんな中、唯一今の状況を完全に他人事だと認識しているジェスラートが、理修へと大きく手を振り声を張り上げた。

「お~いっ、リズ。降りてこい」

誰もがあんなにも恐ろしい人物を、気軽に呼んでくれるなと批難の目をジェスラートへと向けた。もちろん、ジェスラートにはそんな視線、痛くも痒くもない。

やがて、理修はジェスラートとミリアの前に降り立った。

********** 
読んでくださりありがとうございます◎
しおりを挟む
感想 30

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されましたが、帝国皇女なので元婚約者は投獄します

けんゆう
ファンタジー
「お前のような下級貴族の養女など、もう不要だ!」  五年間、婚約者として尽くしてきたフィリップに、冷たく告げられたソフィア。  他の貴族たちからも嘲笑と罵倒を浴び、社交界から追放されかける。 だが、彼らは知らなかった――。 ソフィアは、ただの下級貴族の養女ではない。 そんな彼女の元に届いたのは、隣国からお兄様が、貿易利権を手土産にやってくる知らせ。 「フィリップ様、あなたが何を捨てたのかーー思い知らせて差し上げますわ!」 逆襲を決意し、華麗に着飾ってパーティーに乗り込んだソフィア。 「妹を侮辱しただと? 極刑にすべきはお前たちだ!」 ブチギレるお兄様。 貴族たちは青ざめ、王国は崩壊寸前!? 「ざまぁ」どころか 国家存亡の危機 に!? 果たしてソフィアはお兄様の暴走を止め、自由な未来を手に入れられるか? 「私の未来は、私が決めます!」 皇女の誇りをかけた逆転劇、ここに開幕!

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

望んでいないのに転生してしまいました。

ナギサ コウガ
ファンタジー
長年病院に入院していた僕が気づいたら転生していました。 折角寝たきりから健康な体を貰ったんだから新しい人生を楽しみたい。 ・・と、思っていたんだけど。 そう上手くはいかないもんだね。

家庭菜園物語

コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。 その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。 異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。

第12回ネット小説大賞コミック部門入賞・コミカライズ企画進行「婚約破棄ですか? それなら昨日成立しましたよ、ご存知ありませんでしたか?」完結

まほりろ
恋愛
第12回ネット小説大賞コミック部門入賞・コミカライズ企画進行中。 コミカライズ化がスタートしましたらこちらの作品は非公開にします。 「アリシア・フィルタ貴様との婚約を破棄する!」 イエーガー公爵家の令息レイモンド様が言い放った。レイモンド様の腕には男爵家の令嬢ミランダ様がいた。ミランダ様はピンクのふわふわした髪に赤い大きな瞳、小柄な体躯で庇護欲をそそる美少女。 対する私は銀色の髪に紫の瞳、表情が表に出にくく能面姫と呼ばれています。 レイモンド様がミランダ様に惹かれても仕方ありませんね……ですが。 「貴様は俺が心優しく美しいミランダに好意を抱いたことに嫉妬し、ミランダの教科書を破いたり、階段から突き落とすなどの狼藉を……」 「あの、ちょっとよろしいですか?」 「なんだ!」 レイモンド様が眉間にしわを寄せ私を睨む。 「婚約破棄ですか? 婚約破棄なら昨日成立しましたが、ご存知ありませんでしたか?」 私の言葉にレイモンド様とミランダ様は顔を見合わせ絶句した。 全31話、約43,000文字、完結済み。 他サイトにもアップしています。 小説家になろう、日間ランキング異世界恋愛2位!総合2位! pixivウィークリーランキング2位に入った作品です。 アルファポリス、恋愛2位、総合2位、HOTランキング2位に入った作品です。 2021/10/23アルファポリス完結ランキング4位に入ってました。ありがとうございます。 「Copyright(C)2021-九十九沢まほろ」

没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~

土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。 しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。 そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。 両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。 女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。

異世界転生ファミリー

くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?! 辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。 アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。 アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。 長男のナイトはクールで賢い美少年。 ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。 何の不思議もない家族と思われたが…… 彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

老女召喚〜聖女はまさかの80歳?!〜城を追い出されちゃったけど、何か若返ってるし、元気に異世界で生き抜きます!〜

二階堂吉乃
ファンタジー
 瘴気に脅かされる王国があった。それを祓うことが出来るのは異世界人の乙女だけ。王国の幹部は伝説の『聖女召喚』の儀を行う。だが現れたのは1人の老婆だった。「召喚は失敗だ!」聖女を娶るつもりだった王子は激怒した。そこら辺の平民だと思われた老女は金貨1枚を与えられると、城から追い出されてしまう。実はこの老婆こそが召喚された女性だった。  白石きよ子・80歳。寝ていた布団の中から異世界に連れてこられてしまった。始めは「ドッキリじゃないかしら」と疑っていた。頼れる知り合いも家族もいない。持病の関節痛と高血圧の薬もない。しかし生来の逞しさで異世界で生き抜いていく。  後日、召喚が成功していたと分かる。王や重臣たちは慌てて老女の行方を探し始めるが、一向に見つからない。それもそのはず、きよ子はどんどん若返っていた。行方不明の老聖女を探す副団長は、黒髪黒目の不思議な美女と出会うが…。  人の名前が何故か映画スターの名になっちゃう天然系若返り聖女の冒険。全14話+間話8話。

処理中です...