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第六章 終わりと始まり

063 ちょっと苛つきました

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理修は、今や熱狂的に勇者である司を讃えるダグストの民衆達を見て、キツく眉根を寄せていた。

今にも耳を塞ぎたくて仕方がないという様子で、隣でエヴィスタに乗って見つめている司をヤキモキさせていた。

「勇者様ぁぁぁっ」
「これでこの国も安泰だっ」

国王やそれに連なる国の重鎮達が消えた事すら忘れたような物言いに、さすがの司も眉を顰める。

そんな司の様子が、遠く離れた彼らに分かるはずもなく、民衆は更にエスカレートしていく。

「どうか、この国の王に!」
「勇者様っ、王様になってくださいっ」

何故そうなるのか。頭を抱えたくなる衝動を堪えていれば、この場で最もあってはならない言葉が飛び出した。

「魔族をこのまま倒してくださいっ」
「我らの国に平穏を!」
「魔族の脅威から、この国をお救いくださいっ」

その言葉を聞いた時、ハッと目を向けた先には案の定、苛立ちをとうとう爆発させた理修がいた。

杖に腰掛けた理修は、スッと右手を高く上げ、空へ向けて掌を広げる。

すると、急激に理修の掌の上に強い力が集まってくる。それは徐々に光を固め、掌大の球が出来上がった。

「り、理修っ」

司が思わずそう不安気に声を掛けたのは、集まってくる力が、チリチリと皮膚に感じられる程のものだったからだ。

しかし、そんな司の声を聞いても、理修の心は既に決まってしまっていた。

そして、唐突にそれは空高く打ち上がる。次いで、球であったそれは平たく潰れ、中心に穴が空いた。まるで金の腕輪のようにその形状を変えると、ゆっくりと大きく広がり、ダグストの国の上空に金輪を描く。

一体何が起きるのかと、ダグストの民達も、先ほどまでの司への声援はなりを潜め、揃って静かに見つめる。

そんな彼らを冷たく見下ろした理修は、固い声で呟いた。

「消え去れ」
「っ⁉︎」

司が息をのむ。その瞬間、膨張した光の輪は、過たずダグストの国を囲う高く堅牢な外壁へと被さった。

あっと思った時には、まるでサラサラとした砂が崩れ落ちるように、外壁が光の輪に焼かれて消えていた。

「……っ、嘘だろ……っ」

呆然とそう呟くのも無理はない。そして、同じ事が、ダグストの民達にも言えた。

「国ごと消されなかった事に感謝するのね」

そんな理修の声が、静まり返った場所に響いた。

その時、神殿があった場所。その地下から、ミリアが件の剣を捧げ持って現れた。

「こ、これは一体……っ?」

何処からでも見る事が出来た高い外壁が無くなった事で、全く違った景色を見ているように思えたのだ。

更には、神殿も消えている現状。ここは何処だとミリアが思ったとしても仕方のない事だった。

「お?遂にリズがキレたか?どうせ、婚約者殿をバカにされたとかそういう事だろう。よく我慢したなぁ」
「あ、あの……これは、手加減なさったと?」
「当然だろう?リズが本気なら、今頃この辺りは綺麗な更地だぞ?素っ裸の人間しか居ない場所になっていた筈だ」
「す、素っ裸……?」

ミリアの後ろから顔を出したのは、ジェスラートだ。

実は先ほどまで、地下からそのまま地球へ帰ろうとしていたジェスラートだが、寸前で理修の力を感じ、様子を見に来たのだ。

「リズとリュートリールが考案した魔術に、生物以外を綺麗に消し去るというものがあってな。建物に向けて放てば、そこに居る人間、生物だけを残して、全て粒子レベルにまで分解するというシロモノだ。服までキッチリ消す完成度だぞ?」
「……す、すごいのは分かるのですが……」

あまりにも滑稽な光景を見る事になりそうだと、ミリアは表情を堅くした。

それは、静まり返っていた為に多くの民達の耳にも入った。声を出してはならないような緊迫した状況だ。

そんな中、唯一今の状況を完全に他人事だと認識しているジェスラートが、理修へと大きく手を振り声を張り上げた。

「お~いっ、リズ。降りてこい」

誰もがあんなにも恐ろしい人物を、気軽に呼んでくれるなと批難の目をジェスラートへと向けた。もちろん、ジェスラートにはそんな視線、痛くも痒くもない。

やがて、理修はジェスラートとミリアの前に降り立った。

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読んでくださりありがとうございます◎
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