異世界『魔術師』の孫〜婚約者のためなら国一つ消しても良いと思ってます(本音)〜

紫南

文字の大きさ
上 下
60 / 80
第五章 封印の黒い魔人

060 新たな伝説となる

しおりを挟む
司には辛い光景だったのだろう。

たった今消えた者達とは親しくはないが、言葉を交わした事はあったのだ。

「っ……り、理修……今……」

司は、それでも目を逸らす事なく、呆然と彼らの消えた場所に目を向けていた。

「司……これが、神だよ。人の身で考えられる慈悲など、神に求めてはいけない。正しいか正しくないかなど、しょせんは人が勝手に決めた事。神は絶対。それだけなの」
「……っ……これが神……」

これを理不尽だと思うのは間違いだ。神は望んだからといって、何でも与えてくれる便利な存在ではない。

人の感覚では知り得ないことわりの中で存在するものなのだから。

「……どうして……」
「あいつらは神を謀った。当然の結果でしょう。そして……恐らくあの女も……」
「あの女……?」

理修は感じていたのだ。この魔神の悲しみの意味が。

「エヴィ……司。こっちへ」
「あ、あぁ……」

司は顔を強張らせたままだが、エヴィスタが理修の横へ寄せる。

「剣と、その使い手です」

理修がそう魔神へと告げた。すると、魔神は真っ直ぐに理修と司へと顔を向けた。

《……カエる……》
「……分かりました」

たった一言。しかし、言葉以上のものを理解した理修は、緊張して身体を強張らせたままの司へと目を向ける。

「司。剣を抜いて」
「え……」

理修の鋭い視線が、司に突き刺さる。

「この神は、自身の世界には帰る気はないの。それよりも、自身が加護を与えたその剣の一部となって眠りたいと言っているのよ」
「剣の……?」

その言葉を聞いて、司はようやく理解した。

その決断に驚き、魔神に目を向けた司は、魔神の目らしきものを確認できなくても、なぜか静かに見つめ返されているように感じられた。

「……おれっ……いえ。私で良いのですか……?」
《ツヨきココロ……カンじる……ケンがコタえだ》
「剣が……っ……」

司は、ようやくこの魔神が神なのだと本当に理解した。

おぞましい姿に感じるのは、恐怖だけではない。それは畏怖だ。次元の違う者に対するもの。

その中で感じる視線。そこにあるのは、静かな感情の伴わない無意だった。

「……分かりました……」

そう言った時、司には何をしなくてはならないのかが唐突に分かった。

その様子に、理修はエヴィスタに乗った司を魔神の目前に残し、距離をとる。

そして、司が剣を頭上高く振り上げた所を、恐怖に震えるダグストの民達も見上げている事に気付いた。

寄る辺を失くした民達にとって、司は希望だった。

全てを神に……魔神に祈る事で存在していた国。頭を失くしたその国は、一から作り直される事になる。

その中で、司がどういう役割を担う事になるのか、それを分かっていても、理修に止める気はなかった。

「……これが……この国の新たな一歩ね……」

そんな呟きは、誰にも届かない。

司の剣が、光を集める。

それは優しく、強い、創生の光に似ていると、それを知る理修は思った。

光を集めきった司は、その剣を一気に魔神へと振り下ろす。すると、剣から光が放たれ、魔神の体を縦に割る。

光りの走る場所から、魔神は光の粒子となり、吸い込まれるかのように剣へと消えていった。

『わぁぁぁ』
『消えたっ』
『勇者様~』

その全てを見ていたダグストの民達は、一斉に湧き立つ。

しかし、そんな声は司には届いていないかのように、司は静かにその剣を見つめるのだった。

◆  ◆  ◆

神殿の地下。

狂った女の様子を、出現させた椅子に座り、退屈そうに眺めていたジェスラートは、不意に女の気配が変わった事に気が付いた。

「まさか……」

その理由に思い至り、ジェスラートは感覚を広げる。

「……なるほど……潔い神もいたものだな……」

神は、この世界が自身のいる場所ではないと悟ったのだ。そして、女へ向けていた想いも振り切り、その存在を新たな力へと変換して消えた。

「さて、ではあっけないが、そろそろ締めだな」

地上では、勇者の存在に湧き立っている。それに少々ジェスラートは呆れながらも、じっくりと神が消えた事による女の変化を観察する。

その時、女は突然動きを止めたのだった。

**********
読んでくださりありがとうございます◎
しおりを挟む
感想 30

あなたにおすすめの小説

絞首刑まっしぐらの『醜い悪役令嬢』が『美しい聖女』と呼ばれるようになるまでの24時間

夕景あき
ファンタジー
ガリガリに痩せて肌も髪もボロボロの『醜い悪役令嬢』と呼ばれたオリビアは、ある日婚約者であるトムス王子と義妹のアイラの会話を聞いてしまう。義妹はオリビアが放火犯だとトムス王子に訴え、トムス王子はそれを信じオリビアを明日の卒業パーティーで断罪して婚約破棄するという。 卒業パーティーまで、残り時間は24時間!! 果たしてオリビアは放火犯の冤罪で断罪され絞首刑となる運命から、逃れることが出来るのか!?

突然伯爵令嬢になってお姉様が出来ました!え、家の義父もお姉様の婚約者もクズしかいなくない??

シャチ
ファンタジー
母の再婚で伯爵令嬢になってしまったアリアは、とっても素敵なお姉様が出来たのに、実の母も含めて、家族がクズ過ぎるし、素敵なお姉様の婚約者すらとんでもない人物。 何とかお姉様を救わなくては! 日曜学校で文字書き計算を習っていたアリアは、お仕事を手伝いながらお姉様を何とか手助けする! 小説家になろうで日間総合1位を取れました~ 転載防止のためにこちらでも投稿します。

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である

megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。

モブで可哀相? いえ、幸せです!

みけの
ファンタジー
私のお姉さんは“恋愛ゲームのヒロイン”で、私はゲームの中で“モブ”だそうだ。 “あんたはモブで可哀相”。 お姉さんはそう、思ってくれているけど……私、可哀相なの?

華都のローズマリー

みるくてぃー
ファンタジー
ひょんな事から前世の記憶が蘇った私、アリス・デュランタン。意地悪な義兄に『超』貧乏騎士爵家を追い出され、無一文の状態で妹と一緒に王都へ向かうが、そこは若い女性には厳しすぎる世界。一時は妹の為に身売りの覚悟をするも、気づけば何故か王都で人気のスィーツショップを経営することに。えっ、私この世界のお金の単位って全然わからないんですけど!?これは初めて見たお金が金貨の山だったという金銭感覚ゼロ、ハチャメチャ少女のラブ?コメディな物語。 新たなお仕事シリーズ第一弾、不定期掲載にて始めます!

遺棄令嬢いけしゃあしゃあと幸せになる☆婚約破棄されたけど私は悪くないので侯爵さまに嫁ぎます!

天田れおぽん
ファンタジー
婚約破棄されましたが私は悪くないので反省しません。いけしゃあしゃあと侯爵家に嫁いで幸せになっちゃいます。  魔法省に勤めるトレーシー・ダウジャン伯爵令嬢は、婿養子の父と義母、義妹と暮らしていたが婚約者を義妹に取られた上に家から追い出されてしまう。  でも優秀な彼女は王城に住み、個性的な人たちに囲まれて楽しく仕事に取り組む。  一方、ダウジャン伯爵家にはトレーシーの親戚が乗り込み、父たち家族は追い出されてしまう。  トレーシーは先輩であるアルバス・メイデン侯爵令息と王族から依頼された仕事をしながら仲を深める。  互いの気持ちに気付いた二人は、幸せを手に入れていく。 。oOo。.:♥:.。oOo。.:♥:.。oOo。.:♥:.。oOo。.:♥:.  他サイトにも連載中 2023/09/06 少し修正したバージョンと入れ替えながら更新を再開します。  よろしくお願いいたします。m(_ _)m

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

薬屋の少女と迷子の精霊〜私にだけ見える精霊は最強のパートナーです〜

蒼井美紗
ファンタジー
孤児院で代わり映えのない毎日を過ごしていたレイラの下に、突如飛び込んできたのが精霊であるフェリスだった。人間は精霊を見ることも話すこともできないのに、レイラには何故かフェリスのことが見え、二人はすぐに意気投合して仲良くなる。 レイラが働く薬屋の店主、ヴァレリアにもフェリスのことは秘密にしていたが、レイラの危機にフェリスが力を行使したことでその存在がバレてしまい…… 精霊が見えるという特殊能力を持った少女と、そんなレイラのことが大好きなちょっと訳あり迷子の精霊が送る、薬屋での異世界お仕事ファンタジーです。 ※小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。

処理中です...