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第五章 封印の黒い魔人
049 動く時
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理修は、珍しく困惑していた。
この状況をどう目の前の家族に説明すれば良いのか分からなかったのだ。そして、出した結論は、最も理修らしいものだった。
「やっぱり今すぐ更地にして来る」
「いや、待て。その感じは、説明が面倒くさいだけだよな?」
この場で、本来の理修を最も理解しているのは司だ。よって、今の状況から考えられる理修の行動パターンは読めていた。
ここで質問責めに合うくらいなら、さっさと問題を片付けて、うやむやのまま地球に帰った方が楽だと思ったのだ。
全ての原因はダグストにあるので、当初の予定通り消し去って終わりにしようとも考えていた。しかし、それを許さない者がもう一人いた。
「逃がさないわよ。理修ちゃん。どうせ、このままここで待ちなのでしょ?あの人の事について、じっくり聞かせてもらうわ」
「………」
由佳子は探る気満々だ。恋人に関しての話は、親には聞き出しにくいものだ。目の前であの様に、抱きしめるという行為を見せられたのだ。確実に察してはいるが、本人から確認したいのだろう。
「恋人?」
そんな由佳子のワクワク感と、家族達の不安を全て向けられた理修は、誤魔化す事を諦めた。
「婚約者です」
「え?」
恋人ではなく、婚約者と言い切った理修に、さすがの由佳子も動揺した。
「正確には、婚約式を控えた状態です。ただ……今回のダグストのせいで、予定が遅れる可能性が出てきましたが……」
「り、理修っ、落ち着けっ」
「あ、も、申し訳ございませんっ」
司とミリアは、黒い何かを理修から感じ、顔を青ざめながらも、反射的に身構える。
「婚……約……あ、彼氏の名前っ、ウィルバート・ティエルード・サンドリュークっ。だからウィルか。あれ?国王で、お義父さんの友人だったって……」
父、義久は記憶力が良い。数日前に与えた情報をしっかりと記憶していたらしい。だが、義久としては、国王であるという情報は、何かの冗談だと思っていたようだ。
「間違ってないよ。魔族の国の王だもの。じぃさまの友人で、今年……いくつだったかな?国の建国が三百年くらい前だから、それより前……」
年の差があり過ぎてウィルバートの歳を正確に把握する事を避けていた理修は、答える事が出来ない。
「待てよ。さっきの人が婚約者で、魔王で、そんで、祖父さんの友人ってくらい歳って……マジ?」
明良が今までの全ての情報を改めて確認して驚く。
「そう。魔力が大きい程、寿命が長くなるの。じぃ様も、自分の歳が分からないのは当然だったし、この世界ではころころと国も変わるから、世界年表もない。特に歳については気にしないの」
理修達が歳の話をする時、百年単位で話をするのが常だ。魔族やエルフと言った、長命な種族は特にその傾向がある。地球の魔女達も同様だ。
「だったら、祖父さんは寿命だったのか?」
祖父も長命だったと聞いて、拓海が訊ねる。当然の疑問だろう。しかし、その質問に理修は一度目を背けた。その態度に、充花と義久が息をつめる。
「……違う……じぃ様の魔力なら、まだ数百年生きられた。昔よりも衰えたとは聞いていたけど、それは間違いなかったと思う」
「なら、父さんは……」
「……殺されたって言う人もいるし、仕方のない事故だったって言う人もいる……」
「そんなっ」
理修に理由を問い詰めようと充花が身を乗り出しかけた時、突然何かに気付いたように理修が立ち上がった。
「まずい……か?」
「これは……ゴブリンの……群れかっ?」
ダグストの方を睨みつけて呟く理修を見て、司も気がついた。それは、大群となったゴブリンの群れ。理修達が今いる森とは、ダグストを挟んで反対側。その森からゴブリン達が攻めてきたのだ。
「まだ、あんなにいるとはね……私が手を出す必要もなく、あの国も終わりか。呆気ないものだね」
そう言って落ち着いてまた腰を下ろした理修に、司が慌てる。
「いや、待て。なんで静観する気でいるんだ?まずいと言っただろう!」
お茶でも啜りそうな態度の理修に、司が叫ぶように言った。
「うん。あの国の人達がゴブリンに気付いて逃げ出したら、散らばってしまうでしょう?そうしたら、探してお仕置きするのが面倒じゃない。今なら神殿の一箇所に固まっているから捕捉しやすいけど……でも大丈夫。まだ気付いてないみたいだから、あと数分でそのまま全滅コースに入る。後はゆっくり、あの魔人をどうするか考えればいい」
やはり、相当理修は怒っていたらしい。見捨てる気満々だ。ダグストの者達は、前の魔族を見据えている。その為、後ろから来るゴブリンに気付けずにいるのだ。
「くっ」
こんな時、理修の気を変える事は容易ではない。それを知っている司は、身を翻し、外へと駆け出す。
「やめなさい司。司一人でどうにかできるような数じゃない。もう少し待ちなさい。この森まで来たら、私が一掃するから」
この先は魔族領だ。魔族達は、既に理修の家族。その家族に危害が加わるならば、理修も黙ってはいられない。
「だからって、あの国を見捨てられるかっ!」
「司様ッ!」
飛び出していく司を追って、ミリアも駆け出した。それを、理修以外が心配そうに見送る。そして、居ても立ってもいられなくなったのがもう一人。
「由佳子さん。どこへ行くんです」
「っ……そ、そうね。でも……でもね」
思わずと言った様子で外に向かおうとする由佳子に制止の声をかけた。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
この状況をどう目の前の家族に説明すれば良いのか分からなかったのだ。そして、出した結論は、最も理修らしいものだった。
「やっぱり今すぐ更地にして来る」
「いや、待て。その感じは、説明が面倒くさいだけだよな?」
この場で、本来の理修を最も理解しているのは司だ。よって、今の状況から考えられる理修の行動パターンは読めていた。
ここで質問責めに合うくらいなら、さっさと問題を片付けて、うやむやのまま地球に帰った方が楽だと思ったのだ。
全ての原因はダグストにあるので、当初の予定通り消し去って終わりにしようとも考えていた。しかし、それを許さない者がもう一人いた。
「逃がさないわよ。理修ちゃん。どうせ、このままここで待ちなのでしょ?あの人の事について、じっくり聞かせてもらうわ」
「………」
由佳子は探る気満々だ。恋人に関しての話は、親には聞き出しにくいものだ。目の前であの様に、抱きしめるという行為を見せられたのだ。確実に察してはいるが、本人から確認したいのだろう。
「恋人?」
そんな由佳子のワクワク感と、家族達の不安を全て向けられた理修は、誤魔化す事を諦めた。
「婚約者です」
「え?」
恋人ではなく、婚約者と言い切った理修に、さすがの由佳子も動揺した。
「正確には、婚約式を控えた状態です。ただ……今回のダグストのせいで、予定が遅れる可能性が出てきましたが……」
「り、理修っ、落ち着けっ」
「あ、も、申し訳ございませんっ」
司とミリアは、黒い何かを理修から感じ、顔を青ざめながらも、反射的に身構える。
「婚……約……あ、彼氏の名前っ、ウィルバート・ティエルード・サンドリュークっ。だからウィルか。あれ?国王で、お義父さんの友人だったって……」
父、義久は記憶力が良い。数日前に与えた情報をしっかりと記憶していたらしい。だが、義久としては、国王であるという情報は、何かの冗談だと思っていたようだ。
「間違ってないよ。魔族の国の王だもの。じぃさまの友人で、今年……いくつだったかな?国の建国が三百年くらい前だから、それより前……」
年の差があり過ぎてウィルバートの歳を正確に把握する事を避けていた理修は、答える事が出来ない。
「待てよ。さっきの人が婚約者で、魔王で、そんで、祖父さんの友人ってくらい歳って……マジ?」
明良が今までの全ての情報を改めて確認して驚く。
「そう。魔力が大きい程、寿命が長くなるの。じぃ様も、自分の歳が分からないのは当然だったし、この世界ではころころと国も変わるから、世界年表もない。特に歳については気にしないの」
理修達が歳の話をする時、百年単位で話をするのが常だ。魔族やエルフと言った、長命な種族は特にその傾向がある。地球の魔女達も同様だ。
「だったら、祖父さんは寿命だったのか?」
祖父も長命だったと聞いて、拓海が訊ねる。当然の疑問だろう。しかし、その質問に理修は一度目を背けた。その態度に、充花と義久が息をつめる。
「……違う……じぃ様の魔力なら、まだ数百年生きられた。昔よりも衰えたとは聞いていたけど、それは間違いなかったと思う」
「なら、父さんは……」
「……殺されたって言う人もいるし、仕方のない事故だったって言う人もいる……」
「そんなっ」
理修に理由を問い詰めようと充花が身を乗り出しかけた時、突然何かに気付いたように理修が立ち上がった。
「まずい……か?」
「これは……ゴブリンの……群れかっ?」
ダグストの方を睨みつけて呟く理修を見て、司も気がついた。それは、大群となったゴブリンの群れ。理修達が今いる森とは、ダグストを挟んで反対側。その森からゴブリン達が攻めてきたのだ。
「まだ、あんなにいるとはね……私が手を出す必要もなく、あの国も終わりか。呆気ないものだね」
そう言って落ち着いてまた腰を下ろした理修に、司が慌てる。
「いや、待て。なんで静観する気でいるんだ?まずいと言っただろう!」
お茶でも啜りそうな態度の理修に、司が叫ぶように言った。
「うん。あの国の人達がゴブリンに気付いて逃げ出したら、散らばってしまうでしょう?そうしたら、探してお仕置きするのが面倒じゃない。今なら神殿の一箇所に固まっているから捕捉しやすいけど……でも大丈夫。まだ気付いてないみたいだから、あと数分でそのまま全滅コースに入る。後はゆっくり、あの魔人をどうするか考えればいい」
やはり、相当理修は怒っていたらしい。見捨てる気満々だ。ダグストの者達は、前の魔族を見据えている。その為、後ろから来るゴブリンに気付けずにいるのだ。
「くっ」
こんな時、理修の気を変える事は容易ではない。それを知っている司は、身を翻し、外へと駆け出す。
「やめなさい司。司一人でどうにかできるような数じゃない。もう少し待ちなさい。この森まで来たら、私が一掃するから」
この先は魔族領だ。魔族達は、既に理修の家族。その家族に危害が加わるならば、理修も黙ってはいられない。
「だからって、あの国を見捨てられるかっ!」
「司様ッ!」
飛び出していく司を追って、ミリアも駆け出した。それを、理修以外が心配そうに見送る。そして、居ても立ってもいられなくなったのがもう一人。
「由佳子さん。どこへ行くんです」
「っ……そ、そうね。でも……でもね」
思わずと言った様子で外に向かおうとする由佳子に制止の声をかけた。
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