異世界『魔術師』の孫〜婚約者のためなら国一つ消しても良いと思ってます(本音)〜

紫南

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第四章 再びの勇者召喚

043 異世界を満喫中?

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時は数日遡る。

それは、理修が雅から街の防衛を任され、退屈を感じ始めた頃のトゥルーベル。

この国を出ようと結論を出した聖女ミリアと、地球人一行は、既に教会の建物を抜け、森の中にいた。

「腹減った」
「ちょっと、明良くん。そんな、はっきり言わないでよ。自覚しちゃうじゃない」
「姉さん……まぁ、でも確かに、何か食べる物を探そうか」

キョロキョロと辺りを見回せば、見たこともない草や木があり、実をつけた物も見つけた。それに何気なく手を伸ばそうとした義久に、司が制止の声を掛ける。

「待ってください。それには毒があるので、触れないように」
「え?あ、ごめん。ありがとう。そう言えば、ここは異世界だったね」

重要な事を忘れていたと、義久は頭を掻く。

「充花ちゃん。大丈夫?」
「はい。何だか不思議な感じで……」
「充花さん……楽しいの?」
「え?」
「そうよね。だって、充花ちゃん。笑っているわ」
「あ……」

気付かなかったと言うように、充花は自分の頬に手をやる。

「ふふっ、良いじゃない。もっと笑って、肩の力を抜きなさい。人生楽しまなくちゃ」
「はい。お義姉さん……」

それは、今までなかった変化。少し離れて見ていた拓海と明良は、充花が笑う所を始めて見たようにさえ思っていた。

「あんな風に笑うんだ……」
「笑えんだな……」
「お前ら、母親を何だと……」

司が呆れ顔で言うのに、仕方がないだろと言い訳を一つして、再び明良が空腹を訴えた。

「仕方ないな。もう少し離れたかったんだが、この辺りでいいか」
「お、メシ?」
「とりあえずな。この森はこう見えて結構危険だから、ピクニック気分で食事はできんぞ」
「何でもいいぜ?」

何を食べるのかと、食べ物を探すように周りを見回し、どこか座れる所がないかと呟く明良に、司は苦笑しながらアイテムボックスからそれを取り出す。

「そんなに無理にサバイバルすることないだろ。まともなのを食べさせてやる。ちょっとここで待ってろ」

そう言って、離れた司は、周りを確認してからそれを発動させた。

「は?」
「え?」
「家っ?」

あっと言う間に離れた司の前に家が現れた。そんな驚きに固まる一同を司が手招く。

「入ってくれ。中にいれば、結界機能も付いているから安全だ」
「そう……なら、お邪魔するわ」

真っ先にその家に駆け寄ったのは由佳子だった。

「凄いわ。ファンタジーだわ。ログハウス素敵っ」
「理修が大量の弁当を消した時ぐらいの衝撃……」
「え、エヴィ君の時じゃなく?」

拓海が呆然と呟くのに対し、義久がそんなことがあったのかと目を見開いていた。それに答えたのは拓海の意見に同意した明良だ。

「親父、あれは別格だろ?」
「そう……ね」
「確かに」

未知の生物に出会った事の衝撃は、意識革命だったと夫婦で頷き合った。

「ねぇ、何してるの?中は結構広いわよ。ほらミリアちゃんも早く」
「あ、はい。失礼いたします……」

そして、あり得ない程まったりとした異世界での昼食が始まるのだった。

◆  ◆  ◆

ウィルバートは、その報告に目を通すと、深いため息をついた。

「懲りないな……」

それは、隣りの国。ダグストが勇者を召喚したと言う情報だった。

「リズがまた怒るだろうな」

それは、ウィルバートにとって、とても複雑な気持ちだった。

魔王であるウィルバートの敵。

勇者という存在を理修は許せない。そうしてダグストの行いに腹を立ててくれる事を嬉しく思うのだが、その一方で、怒った理修の暴走をどうやって止め、円満に事を終えるかに頭を悩ませなくてはならないのだ。

「……少し、様子を見てくるか……」

ウィルバートはそう呟いて席を立つ。そこに、側近のキュリアがタイミング良く現れた。

「どうされました?」
「今から、国境付近を見てくる」
「はい?視察ですか?まさか、お一人で?」
「ああ。勇者を見てくる。帰りは夜か……朝か……」
「……リズ様はいらしていませんよ?」
「……散歩だ……」

ウィルバートとしては、もしも理修が来るならば一歩でも一秒でも早く会いたい。口にはしなくとも、いつも少しでも傍に居たいと思っているのだ。

「もうじき夜か……勇者を確認したら、そのままリズの屋敷で……」

通信の為の魔導具をつい先日、理修から受け取っていたが、今現在、理修が地球いないらしく結局使えない。だが、きっと理修ならば、地球に帰ってすぐ連絡をくれる。そこで、近くにいればほんの少しでも早く。長く一緒にいられると思うのだ。

そんなウィルバートの計算を読んだキュリアは、一つ溜め息をついて苦笑した。

「分かりました。ただ、充分気をつけてください。貴方に何かあれば……確実に国が一つ消えますからね」
「分かっている」

そう言って部屋を半ば飛び出して行った時のウィルバートの顔には、笑みが浮かんでいた。

「……嬉しそうな顔しちゃって……」

幸せそうなウィルバートに、反対など出来っこないのだ。

「さぁて……仕事しますか」

少しでも長く。王に婚約者との幸せな逢瀬を楽しんでもらえるように。

**********
読んでくださりありがとうございます◎
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