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第四章 再びの勇者召喚
042 魔女の帰還
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「戻ったぜ、クソババァ」
第一声でそう言う雅に、ジェスラートは鼻を鳴らしながら書類の束を放った。
「ふんっ、この修行バカが、さっさと溜まった仕事を何とかしろ」
「っだよ……面倒臭せぇな」
嫌そうな顔で、難なくその書類を受け取った雅はその束をペラペラとめくる。そんな様子に笑いながらふと、思い出したと言うようにジェスラートが尋ねた。
「そう言えば、リズはどうした?」
「あいつなら、凄ぇ勢いで帰ってったぞ?ほれ、報告書は預かってる」
「なに?……まずいな……」
「何がだ?」
それまでのいつも浮かべる意地の悪い笑みから一転、真剣な表情になったジェスラートに、雅は反射的に身構える。
「いやな。リズの家族が、異世界召喚に巻き込まれたらしくてな」
「なにっ?次元の特定は出来てるのか?」
「あぁ、トゥルーベルだ」
「トゥルー……まさか、敵国か?」
「そうだ。司もいるし、婚約者殿も止めるだろうが……一悶着あるだろうな」
「あ~……機嫌が微妙だしな……」
ここへ戻る前の出来事を思い出し、雅が苦笑いを浮かべる。その様子に、ジェスラートも何かあったと勘付いた。机の端に置いてある紙に一筆したためると、蝶の形に折りたたみ、息を吹きかける。すると、その蝶が羽ばたき部屋を出て行った。
「オルバルトにはこれでいい。後は、リズへの伝言役だな。まぁ、どうなるにしても、お前はとりあえずその仕事を片付けろ」
「わぁったよ」
理修と言う不安を感じたまま、二人はそれぞれの仕事へと戻るのだった。
一方、ジェスラートから届いた手紙を受け取ったオルバルトは、フルフルと震えていた。
「っ……だ、誰だ!どこのバカだっ?」
その手紙にはこうあった。
『リズの手を煩わせたバカがいたようだ』
ただでさえ、機嫌が悪くなる事態が起きているというのに、更に悪くしてどうすると頭を抱えた。
「下手をすれば……更地か……?」
理修ならばやりかねないと思うのだ。その昔、山一つを消し去ったように、邪魔だと言って薙ぎ払う未来が見えた気がした。
「ん?追伸……?」
手元にやって来た二匹目の蝶の羽根に『追伸』と書かれているのを見てから、手を翳す。開かれた一枚の紙には一行。
『あの国は良い場所にあるしな』
その言葉を見た時、咄嗟に頭を過ったトゥルーベルの地図。問題の国の場所は、魔族の国と国境を接している。そして、幻聴が聞こえた。
『婚約祝いに、領土をプレゼントするのもいいかな』
それは紛れもなく理修の声で聞こえた。
「マズイっ。本格的にマズイぞ!」
続いて、山を消した時に呟いた理修の言葉が脳内再生される。
『地図を書き直さなきゃ……』
あの衝撃を忘れない。全く同じ事を、かつてリュートリールがやり、呟いたと言う事実をこれによって思い出したのだ。そして、理修が間違いなくリュートリールの孫である事に思い至る。
一つの国を更地にした事のあるリュートリールを知っているオルバルトは、同じ可能性が、かなり近い未来に現実化すると感じて、机に突っ伏すのだった。
◆ ◆ ◆
理修は結局、家族達の現状も知らぬまま、家に着いてしまっていた。
「なんで……?」
家の門を開けてすぐに、おかしいと気付く。未だ陽が沈みきっていない時刻。しかし、家族が居るはずの時間である今、その気配が全く感じられない事を不審に思う。そして、ドアに手をかけようと伸ばした時、庭に見知った魔女が降り立った。
「サぁヤ姐?」
「ウィっす。二日振り?姐さんからの伝言だよ」
「ジェス姉から?」
こんな時に、わざわざ何事だろうと思いながら伝言を待った。
「あ~……その前に最後まで聞くって約束してくれる?」
「はい?」
おかしな約束を取り付けようとするサヤカに、理修は眉を寄せる。そんな様子を笑いながら、サヤカは続けた。
「いやさ~……結構ショッキングな話だから、途中で怒らないかな~なんて」
サヤカは、そう言ってぽりぽりと頬を指で掻きながら目を逸らした。
「怒る可能性がある程、ショッキングな話だとでも?」
「そう。で?約束してくれる?」
「いいですけど……」
「ヨカッた。では、発表しま~す」
テンションの違いに少し苛つきながら、理修はサヤカの言葉を待った。
「昨日、司君が召喚されました。それに、ご家族様御一行と、東由佳子さんが巻き込まれ、現在、トゥルーベルのダグストにいまぁす」
「………」
「あれ?」
反応のない理修に、サヤカが拍子抜けだと首を傾げる。
「え~っと……リズリール?」
「ふっ……」
「へ?」
くつくつと笑いが聞こえてくる。それが、理修から発せられていると言う事を理解した時、サヤカは、一気に血の気が引くのを感じた。
「ひっ!」
「ふっくくくっ、あはははは……やりやがったなあのクソ教会……っ!」
そう呟いた理修は、次の瞬間には既に空高く舞い上がっていた。
「あぁぁぁぁ……マズイよぉぉ……」
サヤカが見上げた時には、理修の姿は遥か彼方へと消えていた。その速度は、間違いなく世界一。いや、全次元一かもしれないと思うサヤカだ。
「知らないからねっ?」
自分は、頼まれた仕事をこなしただけだと自身に言い聞かせ、報告をすべく急いでシャドーフィールドへと戻るのだった。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
もう一話あり
第一声でそう言う雅に、ジェスラートは鼻を鳴らしながら書類の束を放った。
「ふんっ、この修行バカが、さっさと溜まった仕事を何とかしろ」
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「そう言えば、リズはどうした?」
「あいつなら、凄ぇ勢いで帰ってったぞ?ほれ、報告書は預かってる」
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「何がだ?」
それまでのいつも浮かべる意地の悪い笑みから一転、真剣な表情になったジェスラートに、雅は反射的に身構える。
「いやな。リズの家族が、異世界召喚に巻き込まれたらしくてな」
「なにっ?次元の特定は出来てるのか?」
「あぁ、トゥルーベルだ」
「トゥルー……まさか、敵国か?」
「そうだ。司もいるし、婚約者殿も止めるだろうが……一悶着あるだろうな」
「あ~……機嫌が微妙だしな……」
ここへ戻る前の出来事を思い出し、雅が苦笑いを浮かべる。その様子に、ジェスラートも何かあったと勘付いた。机の端に置いてある紙に一筆したためると、蝶の形に折りたたみ、息を吹きかける。すると、その蝶が羽ばたき部屋を出て行った。
「オルバルトにはこれでいい。後は、リズへの伝言役だな。まぁ、どうなるにしても、お前はとりあえずその仕事を片付けろ」
「わぁったよ」
理修と言う不安を感じたまま、二人はそれぞれの仕事へと戻るのだった。
一方、ジェスラートから届いた手紙を受け取ったオルバルトは、フルフルと震えていた。
「っ……だ、誰だ!どこのバカだっ?」
その手紙にはこうあった。
『リズの手を煩わせたバカがいたようだ』
ただでさえ、機嫌が悪くなる事態が起きているというのに、更に悪くしてどうすると頭を抱えた。
「下手をすれば……更地か……?」
理修ならばやりかねないと思うのだ。その昔、山一つを消し去ったように、邪魔だと言って薙ぎ払う未来が見えた気がした。
「ん?追伸……?」
手元にやって来た二匹目の蝶の羽根に『追伸』と書かれているのを見てから、手を翳す。開かれた一枚の紙には一行。
『あの国は良い場所にあるしな』
その言葉を見た時、咄嗟に頭を過ったトゥルーベルの地図。問題の国の場所は、魔族の国と国境を接している。そして、幻聴が聞こえた。
『婚約祝いに、領土をプレゼントするのもいいかな』
それは紛れもなく理修の声で聞こえた。
「マズイっ。本格的にマズイぞ!」
続いて、山を消した時に呟いた理修の言葉が脳内再生される。
『地図を書き直さなきゃ……』
あの衝撃を忘れない。全く同じ事を、かつてリュートリールがやり、呟いたと言う事実をこれによって思い出したのだ。そして、理修が間違いなくリュートリールの孫である事に思い至る。
一つの国を更地にした事のあるリュートリールを知っているオルバルトは、同じ可能性が、かなり近い未来に現実化すると感じて、机に突っ伏すのだった。
◆ ◆ ◆
理修は結局、家族達の現状も知らぬまま、家に着いてしまっていた。
「なんで……?」
家の門を開けてすぐに、おかしいと気付く。未だ陽が沈みきっていない時刻。しかし、家族が居るはずの時間である今、その気配が全く感じられない事を不審に思う。そして、ドアに手をかけようと伸ばした時、庭に見知った魔女が降り立った。
「サぁヤ姐?」
「ウィっす。二日振り?姐さんからの伝言だよ」
「ジェス姉から?」
こんな時に、わざわざ何事だろうと思いながら伝言を待った。
「あ~……その前に最後まで聞くって約束してくれる?」
「はい?」
おかしな約束を取り付けようとするサヤカに、理修は眉を寄せる。そんな様子を笑いながら、サヤカは続けた。
「いやさ~……結構ショッキングな話だから、途中で怒らないかな~なんて」
サヤカは、そう言ってぽりぽりと頬を指で掻きながら目を逸らした。
「怒る可能性がある程、ショッキングな話だとでも?」
「そう。で?約束してくれる?」
「いいですけど……」
「ヨカッた。では、発表しま~す」
テンションの違いに少し苛つきながら、理修はサヤカの言葉を待った。
「昨日、司君が召喚されました。それに、ご家族様御一行と、東由佳子さんが巻き込まれ、現在、トゥルーベルのダグストにいまぁす」
「………」
「あれ?」
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「え~っと……リズリール?」
「ふっ……」
「へ?」
くつくつと笑いが聞こえてくる。それが、理修から発せられていると言う事を理解した時、サヤカは、一気に血の気が引くのを感じた。
「ひっ!」
「ふっくくくっ、あはははは……やりやがったなあのクソ教会……っ!」
そう呟いた理修は、次の瞬間には既に空高く舞い上がっていた。
「あぁぁぁぁ……マズイよぉぉ……」
サヤカが見上げた時には、理修の姿は遥か彼方へと消えていた。その速度は、間違いなく世界一。いや、全次元一かもしれないと思うサヤカだ。
「知らないからねっ?」
自分は、頼まれた仕事をこなしただけだと自身に言い聞かせ、報告をすべく急いでシャドーフィールドへと戻るのだった。
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