上 下
40 / 80
第四章 再びの勇者召喚

040 原因はそこに

しおりを挟む
理修は、ミヤ爺に頼まれた街の防衛の間、何故か胸騒ぎがしていた。

「なんだろう?」

特に危機的な状況でもない。今も、一瞬でハーピーの群れの一部を消し去った所だった。それも、たった一撃。外壁の上に腰掛け、片手に飲み物を持った状態でだ。生き残ったハーピー達が慌てて引き返していくのを見守り、溜息をつく。

「いい加減、飽きた……」

この場に待機する事二日。夜は外壁の外側のすぐに家を設置し、そこで寝泊まりをしている理修は、完全にここでは兵器でしかない。街の人々も近付かなかった。

そうなると、話をする相手もいない。一瞬、街を覆う結界を張って放置する事も考えたのだが、それはそれで暇を持て余す上に、諦めの悪いハーピーならば弾かれても、結界に纏わり続けるだろうと却下した。少しの脅しでは諦めない事は実証済み。仲間を何匹か消し去る事で、彼らはようやく撤退するのだ。

「まったく……せっかく通信出来るようにしたのに……ここからじゃぁ……」

気付けば手には、ウィルバートとを繋ぐ通信具がある。ただし、間に次元の壁がある場合は『地球~トゥルーベル』間のみ可能になる物なのだ。この世界からは使えなかった。

「……ウィルになにか……」

先程からの胸騒ぎは、ウィルバートに何かあったのかもしれないと思ったのだ。そうそう危機的状況があるとは思えないが、今は情勢が不安定である事も確かだった。

「さっさと戻りたいし……ミヤ爺と綾が戻るまでに、こっちを片しておくか……」

立ち上がった理修は、外壁の外側ではなく、内側を見下ろす。ギッシリと並ぶ家々の中央。そこに、この街の領主の屋敷がある。

「位置的にも間違いないね……さて」

杖を影から取り出し、掲げると、街を覆う結界を張る。これでハーピーの襲撃は防げる事に変わりはない。綺麗に、乱れや綻びもない自身の結界に満足気に一つ頷くと、杖に乗って領主の屋敷へと飛んだ。

街の人々が不安気に見上げてくる事も気にせず、理修は領主の屋敷の前に優雅に降り立った。

当然、門の前には門番がいる。しかし、理修はそれが視界に入らないと言うように、無造作に門へと手をかけた。

「待て」

その制止の声に、一度門を開ける為に力を入れた手を止める。

「ここは、領主様の屋敷。許可のない者は通せない」
「いくら魔女様でも、通す事は出来ません」
「……そう……」

二人の門番は、それぞれの手に持つ槍で理修の目の前。門との間でクロスする。それが、いかにも門番の行動過ぎて、理修は笑い出しそうになった。

「一つ……忠告をしておく」
「「………」」

門番達に目を向ける事なく、理修は屋敷を真っ直ぐに見据えてそれを口にした。

「『魔女』とは、世界の『理』に近い存在……」

理修は、杖で地面を突く。すると、蔦が生え、門番の足をその場に縫い止めるように絡め取っていく。

「なっ?」
「なんだっ?」

慌てる二人は、足に気を取られ、槍を手放さないまでもクロスを解く。それに満足した理修は、再び一歩を踏み出しながら続ける。

「ただ世界に『理』によって生かされるだけのお前達に、止められる存在ではないんだよ」
「っう……」
「た、たすけっ」

今度は、何者にも邪魔される事なく、門をゆっくりと開けて屋敷へと歩き出す。その頃には、門番二人の姿は、蔦に幾重にも巻き付かれ、見えなくなっていた。

「お前達ごときが、私の行く手を遮る事なんて許さない」

緑の塊にしか見えなくなった二人を振り向いて確認する事もないまま、理修は屋敷へと向かった。

ここ二日で感じたハーピー達への違和感。それにミヤ爺は気付いていなかったのだろう。だが、理修は気付いた。

「まったく……これだから人は……」

屋敷と扉を、無感動に押し開ける。すると、当然のように驚いた使用人達が駆け寄ってくるが、理修は無視を決め込む。

「なっ、何者です!!」

そんな声も聞こえないと、理修は迷わず屋敷の奥へと向かう。

「なんなんですかっ?この植物はっ!!」

程なくして、使用人達の口からは悲鳴が上がる。理修が歩いた後ろから、次々と蔦が伸び、向かってくる使用人達をたちまち絡め取って、動けなくしていくのだ。

そんなものも見えない、聞こえないと言った様子で、理修は構わず歩みを進める。そして、辿り着いたのは分厚い扉の前。

「ここ……」

その中から、強い波動を感じるのだ。ハーピーが求めてやまない何かがあると確信する。扉に手をかけようとした時、十人程の兵に囲まれながら小太りな男が駆けてきた。

「何者だ、貴様っ。ここが領主である私の屋敷と知っての狼藉かっ!」

そんな、お決まりのセリフを言い放った男をチラリと確認すると、理修は鍵のかかったその扉をあっさり魔術によって解錠し、軽く触れるだけで押し開けた。

「きっ、貴様ぁぁぁ!!」
「黙れ。煩い」

そうピシャリと言い放ち、そのまま中へと足を踏み入れる。そして、見るからに大切に保管されていた目的の物を見つけると、無造作にそれを手に取り、アイテムボックスに収納した。

「な、な、なにをするっ!」

領主だと言う男は、冷や汗だか脂汗だか分からないものを額に浮べながら、理修に向かってくる。

「汚い。近寄るな」
「な、ひっ!」

拒絶の言葉と、冷徹な瞳をその男に向けた理修は、見たくもないと杖を床に打ち鳴らす。すると、一瞬で蔦が男に繭のように巻き付いた。ただし、蔦は理修の意思を汲み取るように男の目と耳は塞がない。

「何をと言ったな。教えてやる。お前がハーピーから盗んだ物を取り戻しに来た。以上だ。そのまま反省しているといい」
「んっ、んーっ!」
「煩いと言った」

そう言ってもう一度杖を打ち鳴らすと、蔦が男を絞め上げ、気絶させたのだった。

**********
読んでくださりありがとうございます◎
もう一話あり
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

妹がいなくなった

アズやっこ
恋愛
妹が突然家から居なくなった。 メイドが慌ててバタバタと騒いでいる。 お父様とお母様の泣き声が聞こえる。 「うるさくて寝ていられないわ」 妹は我が家の宝。 お父様とお母様は妹しか見えない。ドレスも宝石も妹にだけ買い与える。 妹を探しに出掛けたけど…。見つかるかしら?

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

宮廷外交官の天才令嬢、王子に愛想をつかれて婚約破棄されたあげく、実家まで追放されてケダモノ男爵に読み書きを教えることになりました

悠木真帆
恋愛
子爵令嬢のシャルティナ・ルーリックは宮廷外交官として日々忙しくはたらく毎日。 クールな見た目と頭の回転の速さからついたあだ名は氷の令嬢。 婚約者である王子カイル・ドルトラードを長らくほったらかしてしまうほど仕事に没頭していた。 そんなある日の夜会でシャルティナは王子から婚約破棄を宣言されてしまう。 そしてそのとなりには見知らぬ令嬢が⋯⋯ 王子の婚約者ではなくなった途端、シャルティナは宮廷外交官の立場まで失い、見かねた父の強引な勧めで冒険者あがりの男爵のところへ行くことになる。 シャルティナは宮廷外交官の実績を活かして辣腕を振るおうと張り切るが、男爵から命じられた任務は男爵に文字の読み書きを教えることだった⋯⋯

私は、忠告を致しましたよ?

柚木ゆず
ファンタジー
 ある日の、放課後のことでした。王立リザエンドワール学院に籍を置く私マリエスは、生徒会長を務められているジュリアルス侯爵令嬢ロマーヌ様に呼び出されました。 「生徒会の仲間である貴方様に、婚約祝いをお渡したくてこうしておりますの」  ロマーヌ様はそのように仰られていますが、そちらは嘘ですよね? 私は常に最愛の方に護っていただいているので、貴方様には悪意があると気付けるのですよ。  ロマーヌ様。まだ間に合います。  今なら、引き返せますよ?

私は幼い頃に死んだと思われていた侯爵令嬢でした

さこの
恋愛
 幼い頃に誘拐されたマリアベル。保護してくれた男の人をお母さんと呼び、父でもあり兄でもあり家族として暮らしていた。  誘拐される以前の記憶は全くないが、ネックレスにマリアベルと名前が記されていた。  数年後にマリアベルの元に侯爵家の遣いがやってきて、自分は貴族の娘だと知る事になる。  お母さんと呼ぶ男の人と離れるのは嫌だが家に戻り家族と会う事になった。  片田舎で暮らしていたマリアベルは貴族の子女として学ぶ事になるが、不思議と読み書きは出来るし食事のマナーも悪くない。  お母さんと呼ばれていた男は何者だったのだろうか……? マリアベルは貴族社会に馴染めるのか……  っと言った感じのストーリーです。

お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……

karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。

仰っている意味が分かりません

水姫
ファンタジー
お兄様が何故か王位を継ぐ気満々なのですけれど、何を仰っているのでしょうか? 常識知らずの迷惑な兄と次代の王のやり取りです。 ※過去に投稿したものを手直し後再度投稿しています。

処理中です...