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第三章 真実を知る家族
036 『深月家』の家業
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理修は、次元を越えた後、すぐに探し人の気配を探った。
「……あの山を越えた辺り……これは地下?」
結果分かったのは、恐らく地下のダンジョンで、現在戦闘中だという事だ。面倒なので、出てくるまでその辺を上空散策しようと考えた。
しばらく、気配を読みながらも天気の良い空を浮遊する。そして、そろそろ彼らが地上に出て来るという時だった。
「約十キロ先に街……あそこが拠点か? うん?」
目を向けた街に、何かが複数飛来するのが見えた。
「ハーピーの群れ?」
二、三十匹程のハーピーが、次々に街へ突撃していく。それに地下から出て来た彼らも気付いたらしい。慌てて走り出す者達を眼下に納め、メンバーを確認する。
人数は六人。一般的な冒険者パーティだと分かる。その内の二人。一方は、百歳をとうに超えているとは思えない。見た目は七十代の元気な御仁。そしてもう一方が、理修と同い年の幼馴染の少女だ。
杖に乗って、空から追跡する理修。それに、彼女の祖父が気付いたようだ。突然理修を振り仰ぐと、ニヤリと笑って声を張り上げた。
「理修っ。ハーピーを殲滅してくれ」
「え、理修っ?」
「…………」
一瞬、面倒くさいなと思ったが口にはしなかった。だが理修は、それを体現する荒技に出た。
目の前に右手を翳すと、魔法陣が展開される。ハーピー全ての気配を読み取ると、数十という光の矢が放たれ、その一匹ずつに突き刺さった。
全てが落下、絶命したのを気配で確認し、ゆっくりと見上げる彼らの前に降下した。
「終わったよ」
「……相変わらず凄まじいのな……」
「殲滅しろって言ったのはミヤ爺だよ」
「おう。そうだな。ご苦労さん」
快活に笑うその顔に、いつも誤魔化される。
『深月雅』
マサではなくミヤビと読む。男の、それも爺さんには抵抗のある名前だ。知り合いは皆『ミヤ』と呼ぶ。理修の場合はこれに『爺』が付くのだ。
「ジェス姐の命令で、迎えに来たんだけど、すぐに帰れる?」
「いや、ムリ」
「………」
そうだろうと予想はしていたが、あっさりと答えた事に、若干苛ついた。
「理修ってば、そうは言っても予想してたっしょ?」
「…………」
「理修?い、痛い、痛い!」
生意気な事を言う幼馴染には、思わず手が出てしまった。本当に思わずだ。そのにやけた頬をギリギリと音がしそうな程、摘み上げる。
「……理修、千切れそうだからやめてやってくれんか?」
「あぁ、ごめんね。無意識だった」
「ぅほやよねっ?」
「いや、本当なんか反射的に」
「な、何なん?怖いわ!!」
真っ赤になるのを通り越して一部白くなった頬を押さえながら、怯えた目を向けてくる。
『深月綾愛』
アヤメとは、昔からこんなやり取りが多い。いつも一言多かったり、タイミングが悪かったり、苛つかせるのが得意らしい。
「それで、ミヤ爺。後何日掛かるの?」
そう聞いてはみたが、三日が限度だ。あまり縁のない世界で魔術師である理修が長居するのは良くないのだ。
「うぅむ……三日、いや、二日待ってくれ」
「まぁ、二日なら……何か問題が?」
「おぉ、最後の一人が動けなくなっててな。それを先ず治さにゃならんのよ」
「ふぅん。それでダンジョンへ?」
「おう。それもあぁして、魔獣が街を襲ってくる間を縫ってな。理修が来てくれたんなら助かる」
「……まぁ、街ぐらい守ってやれるけど……」
それしか理修が出来る事はないだろう。待つしかないのだから。
『深月家』は、武道を生業にしている。だが、ただの武道ではない。あらゆる武道を修め、どんな武道にも対応する。
『奥義継承道』
世界中、幾つも存在する武道の流派。その殆どが『奥義』と呼ばれる極められた技を持つ。しかし、時代や様々な理由でその継承は困難となる。
特に、継承者となる弟子がいない場合や、弟子はいても、技を継承する力がない場合。奥義はそこで潰えてしまう。
『深月家』の者は、それを代わりに継承し、要望にあった者を探して継承させる。仲介役のような仕事をしているのだ。
とはいえ、彼らにとってはただの趣味が高じた家業。深月家の者は皆、ただ単に武を極めたいだけなのだ。その過程でついでに仲介しているに過ぎない。
雅は引退した後も、こうして異世界を中心に次代である綾愛を連れて仕事をしていた。今回も、修行の一環としてこの世界へとやってきたようだ。
「そんじゃぁ、理修。俺らが籠る間の防衛、頼むな」
「了解……」
こうして理修は、雅と綾愛の趣味の武術修得の間、街を守り続ける事になったのだった。
◆ ◆ ◆
司は、二日後に出掛ける準備をしていた。
「後は適当に……アイテムボックスを使うか……」
明日、父親の命日だ。しかし、学校がある為、明後日墓参りをするつもりだった。
父、要の墓は山奥にある。街中ではなく人のあまりいない場所ならば、アイテムボックスを使うのに抵抗もないと、都合良く考える。
食べ物や水なども、アイテムボックスなら悪くなる事もない。今日中に用意してしまうつもりだ。
「よし」
全ての荷物がアイテムボックスに納まり、山を少しとは言え登るには、かなり軽装になった。
そして、明後日を待つ。その先で驚きの再会があるとも知らずにーー
**********
読んでくださりありがとうございます◎
2019. 8. 10
「……あの山を越えた辺り……これは地下?」
結果分かったのは、恐らく地下のダンジョンで、現在戦闘中だという事だ。面倒なので、出てくるまでその辺を上空散策しようと考えた。
しばらく、気配を読みながらも天気の良い空を浮遊する。そして、そろそろ彼らが地上に出て来るという時だった。
「約十キロ先に街……あそこが拠点か? うん?」
目を向けた街に、何かが複数飛来するのが見えた。
「ハーピーの群れ?」
二、三十匹程のハーピーが、次々に街へ突撃していく。それに地下から出て来た彼らも気付いたらしい。慌てて走り出す者達を眼下に納め、メンバーを確認する。
人数は六人。一般的な冒険者パーティだと分かる。その内の二人。一方は、百歳をとうに超えているとは思えない。見た目は七十代の元気な御仁。そしてもう一方が、理修と同い年の幼馴染の少女だ。
杖に乗って、空から追跡する理修。それに、彼女の祖父が気付いたようだ。突然理修を振り仰ぐと、ニヤリと笑って声を張り上げた。
「理修っ。ハーピーを殲滅してくれ」
「え、理修っ?」
「…………」
一瞬、面倒くさいなと思ったが口にはしなかった。だが理修は、それを体現する荒技に出た。
目の前に右手を翳すと、魔法陣が展開される。ハーピー全ての気配を読み取ると、数十という光の矢が放たれ、その一匹ずつに突き刺さった。
全てが落下、絶命したのを気配で確認し、ゆっくりと見上げる彼らの前に降下した。
「終わったよ」
「……相変わらず凄まじいのな……」
「殲滅しろって言ったのはミヤ爺だよ」
「おう。そうだな。ご苦労さん」
快活に笑うその顔に、いつも誤魔化される。
『深月雅』
マサではなくミヤビと読む。男の、それも爺さんには抵抗のある名前だ。知り合いは皆『ミヤ』と呼ぶ。理修の場合はこれに『爺』が付くのだ。
「ジェス姐の命令で、迎えに来たんだけど、すぐに帰れる?」
「いや、ムリ」
「………」
そうだろうと予想はしていたが、あっさりと答えた事に、若干苛ついた。
「理修ってば、そうは言っても予想してたっしょ?」
「…………」
「理修?い、痛い、痛い!」
生意気な事を言う幼馴染には、思わず手が出てしまった。本当に思わずだ。そのにやけた頬をギリギリと音がしそうな程、摘み上げる。
「……理修、千切れそうだからやめてやってくれんか?」
「あぁ、ごめんね。無意識だった」
「ぅほやよねっ?」
「いや、本当なんか反射的に」
「な、何なん?怖いわ!!」
真っ赤になるのを通り越して一部白くなった頬を押さえながら、怯えた目を向けてくる。
『深月綾愛』
アヤメとは、昔からこんなやり取りが多い。いつも一言多かったり、タイミングが悪かったり、苛つかせるのが得意らしい。
「それで、ミヤ爺。後何日掛かるの?」
そう聞いてはみたが、三日が限度だ。あまり縁のない世界で魔術師である理修が長居するのは良くないのだ。
「うぅむ……三日、いや、二日待ってくれ」
「まぁ、二日なら……何か問題が?」
「おぉ、最後の一人が動けなくなっててな。それを先ず治さにゃならんのよ」
「ふぅん。それでダンジョンへ?」
「おう。それもあぁして、魔獣が街を襲ってくる間を縫ってな。理修が来てくれたんなら助かる」
「……まぁ、街ぐらい守ってやれるけど……」
それしか理修が出来る事はないだろう。待つしかないのだから。
『深月家』は、武道を生業にしている。だが、ただの武道ではない。あらゆる武道を修め、どんな武道にも対応する。
『奥義継承道』
世界中、幾つも存在する武道の流派。その殆どが『奥義』と呼ばれる極められた技を持つ。しかし、時代や様々な理由でその継承は困難となる。
特に、継承者となる弟子がいない場合や、弟子はいても、技を継承する力がない場合。奥義はそこで潰えてしまう。
『深月家』の者は、それを代わりに継承し、要望にあった者を探して継承させる。仲介役のような仕事をしているのだ。
とはいえ、彼らにとってはただの趣味が高じた家業。深月家の者は皆、ただ単に武を極めたいだけなのだ。その過程でついでに仲介しているに過ぎない。
雅は引退した後も、こうして異世界を中心に次代である綾愛を連れて仕事をしていた。今回も、修行の一環としてこの世界へとやってきたようだ。
「そんじゃぁ、理修。俺らが籠る間の防衛、頼むな」
「了解……」
こうして理修は、雅と綾愛の趣味の武術修得の間、街を守り続ける事になったのだった。
◆ ◆ ◆
司は、二日後に出掛ける準備をしていた。
「後は適当に……アイテムボックスを使うか……」
明日、父親の命日だ。しかし、学校がある為、明後日墓参りをするつもりだった。
父、要の墓は山奥にある。街中ではなく人のあまりいない場所ならば、アイテムボックスを使うのに抵抗もないと、都合良く考える。
食べ物や水なども、アイテムボックスなら悪くなる事もない。今日中に用意してしまうつもりだ。
「よし」
全ての荷物がアイテムボックスに納まり、山を少しとは言え登るには、かなり軽装になった。
そして、明後日を待つ。その先で驚きの再会があるとも知らずにーー
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