異世界『魔術師』の孫〜婚約者のためなら国一つ消しても良いと思ってます(本音)〜

紫南

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第一章 魔術師の日常

016 総帥の苦悩

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「報告は以上です」
「……また、お前という奴は……」

理修が銀次を連れて戻って来ると、シャドーフィールドの『総帥』分かりやすく言えば『社長』への報告に向かった。

「そんな所までリュートに似なくて良いだろうに……」
「じぃ様なら、救済措置は設けません。『面倒臭い』と言って、八割方一発デカいのを投下して終わりにするはずです。私は甘いので」
「自分で言う事かっ」

ふんっとそっぽを向く不機嫌な理修に、溜め息をついた『総帥』……オルバルト・ミラン・アシュフォードは、次に銀次に目を向けて労った。

「お前も、災難だったな。今日、明日は休むといい。ただ、神崎の奴が煩いから、顔だけは見せてこい」
「……はい……」

微妙な顔をした銀次に、オルバルトも苦笑を浮かべる。だが、すぐにその表情を引き締めると、理修に目を戻す。

「もう一度確認するが、暴れてはいないんだな?」
「してません」

理修は、膨れっ面を隠そうともしない。『私を何だと思ってるのっ!?』と今にも喚きそうだが、過去にあったあれやこれやが疑われる要因だと分かっているようで、一応は抑えている。もっと信用して欲しいと理修が不貞腐れるのもわかるオルバルトが先に折れた。

「そうか……ならば良い。報告書は一週間以内に提出するように。今日はお前も帰りなさい」
「はい。失礼します」

そう言って、二人が辞した部屋ではオルバルトが重い溜め息をついた。そこに、隣りの控えの間から一人の女性がお茶を持って現れた。

「お疲れ様です。そうやって後で落ち込まれるなら、もっとあの子に優しくしてやればよろしいのに」

クスクスと笑う女性はカップを差し出し、二人が出て行った扉を見る。

「そうは言うがな……あれにとって私は口煩い上司でしかない……」
「あら? でもこの前、リズちゃんとお茶をした時に『お父さんみたいだった』って言っていましたわよ?」
「っほ、本当か!?」

その言葉に飛び上がるオルバルトを、女性は楽しそうに見て付け加える。

「ええ。その後に『お説教ばっかりでちょっとウザいかもだけど』って続いていましたけれど……ってあら? 顔が真っ青ですわよ?」

そんな、面白そうに言う女性が目に入らない程、オルバルトは動揺中だった。

先日もある事件で三時間程、説教タイムをしたばかりなのだ。本格的に嫌われていないか不安で仕方が無い。

「まぁまぁ、仕方がありませんわ。でも、そうですわね……先程、お説教をしなかったのは正解だったかもしれません。確実に嫌われますわ。あの子は今回、本当に悪くありませんもの」
「っセーフか!?まだ嫌われていないか!?」

はっと意識を戻したオルバルトは、身を乗り出して問う。

「ええ、危なかったですわね。あの子の自称『父親』は沢山いますもの。ランキング落ちには気を付けてくださいませね。因みに、今現在のトップは、トゥルーベルのザサス様です。総帥は五位ですわ。何としてでも、今週のトップファイブ落ちは防いでください。二口も賭けているんですから」
「何の話だ!?」
「『父券』です。知らないのですか?」
「知らんわっ!!何をしとるんだ!?賭けだと!?胴元は誰だっ!!」
「魔女連です」
「……よりにもよって……絶対に手が出せん所ではないか……」

オルバルトは、力尽きたように机に突っ伏す。

「何だ……『ちち券』って……大体『父』は何人いるんだ?」

このシャドーフィールドでは、理修を子どもの頃から可愛がっている者が殆どだ。勿論、人ではない者も多いし、男女の別はない。

「あの子は優秀な上に可愛いですからね。今度、正式に婚約が決まった事で、想定より早くトゥルーベルの方へ移住してしまうのではと心配する声も上がっています。こちらとしてはあの子がいなくなるのは非常に痛いですからね……」
「うむ……そこは本当に痛い……だが、こちらの予想では、あれの家族に魔術の事が露見して去る事になると思っていたのだがな。案外、大人しくしているのだな?」

理修はあれで直情型だ。とても扱いが難しい。ここで忘れてはいけないのは、理修が伝説の魔術師と呼ばれるリュートリールが育てた娘だという事だ。

その絶大な力の為に畏怖され、あまり他人と関わり合う事のなかったリュートリール。その為、何でも一人でこなそうとする所があり、結果大抵の事は可能にしてしまう。

頭の回転も速い上に、魔術も万能。それをソックリそのまま、理修は受け継いでいる。そこはまぁ、まだ良い。

だが、更にリュートリールに似て面倒臭さがりで、出来るくせに細々と策を労するより、大元に奇襲をかけて潰す事の方を選ぶ。話し合うより拳で語る。その上、大の人嫌い。

極めつけに直情型とくれば、リュートリール同様、危険物扱いになっても仕方がない事だ。

一般人相手に本気で怒ったりはしないだろうが、どこかのバカが喧嘩を売れば必ず買うのが理修だ。それは一般人であっても異能者であっても変わらない。

『売られた喧嘩は、必ず買い叩いてその後で利益をガッポリぼったくれ』

リュートリールが掲げていたこの無茶苦茶な言葉さえも、しっかりと受け継いでいるのが理修なのだ。

「あの子は、立場をわきまえていますからね。その分、こちらで発散しているとも言えますが……」

リズリールとして行動する時は、わざと相手を煽ったり、挑発する事もある。だが、理修としてならば、その様な事はない。『理修』と『リズリール』をうまく使い分け、まるで別人のように二重生活を送っていると言える。

「そう考えると今回の勇者召喚をした国は、正面切って喧嘩を売らなかっただけ賢かったか……」
「ええ……まぁ、どちらかと言うと、売る物がなかったのではないかと……それに何より、あの子一人でしたら一撃で片を付けられたでしょうが『勇者』がいましたからね……」
「……『勇者』か……」
「仲間には優しい子ですもの。各務君が気に病む事がないようにしたのでしょうね。彼は『勇者』信念の人ですもの。納得させ、倫理や価値観も合わせたのでしょう」

『勇者』という存在を立てた結果が、今回の無難な帰結に結び付いた。

理修にしてみれば『友人』を攫われたという事が、イコール『喧嘩を売られた』事になる。更に『勇者』という者を利用しようとした時点で、その国への理修の評価は地に落ちているのだ。問答無用で見捨てるか、破滅させるという選択しかない。

だが、それでは心優しい友人を傷付ける事になると分かっている。そこで、今回のような面倒な中立とも取れる立場を取ったのだろう。

「何にしても、あれを本気で怒らせなかったのは運が良かったという事だな……」
「そうですね……」

あまり済んだ事を考えても仕方が無いと、今回はそう結論付け、仕事に戻る二人であった。

**********
読んでくださりありがとうございます◎
2019. 7. 24
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