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第一章 魔術師の日常
002 異世界『トゥルーベル』
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『トゥルーベル』
そこには美しい緑豊かな大陸と空の色を映しこむ澄み切った大海がある。
大気には魔力が満ち、多くの生命溢れる世界だ。
この世界を支えるのは『世界樹』と呼ばれる聖なる樹木。その根は大地深くに根付き、世界を抱いている。
『世界樹』は国が成ると、その場所の根から芽を出し、祝福を与える。
国の成長と共に成長し、その国を守護する『国守』と呼ばれるようになる。その国で選ばれた『守り手』が、糧となる魔力と祈りを捧げることで、『国守』はその国の大地を潤す。
そして、国が滅びる時『国守』は枯れるのだ。
国にとって『国守』とは象徴であり、誇りとなる。大地を潤し作物を実らせ、その国に生きる者にあまねく力を与えるのだから。
この世界では、全ての生き物が『世界樹』の恩恵を得て生きている。
そんな世界には、様々な種族が存在していた。
『人族』
『エルフ』
『ドワーフ』
『獣人族』
『妖精族』
『竜人族』
『魔族』
更には、魔獣や魔物と呼ばれる害獣も存在するこの世界では、魔術が発達し、生活を支えている。
そんな中、一人の有名な魔術師がいた。
『リュートリール』
人族でありながら、その魔力は生まれつき高い魔力を持つエルフや魔族をも凌駕する程。世界中を旅し、様々な伝説を作った彼は、当然の様に寿命も半端ではなかった。
魔術師はその性質上、寿命が長い。一般的に、魔術師と認められた者の寿命は、約百五十年と言われていた。
しかし、リュートリールは認識されている年数でも、五百年は生きていた。見た目も、魔術師の特性で二十代後半のまま止まっており『不老不死』なのではないかとまで囁かれた程だ。
だが、そんな彼の寿命も尽きる時がやってきた。亡くなった場所はーー異世界『地球』
その中の小さな島国の『日本』の片田舎。
その時、一人の少女がトゥルーベルに渡り、その死の事実をかつての『彼』の友人達に伝えた。
少女の名は、リズ。
『東理修』
『リュートリール』の孫娘だった。
◆ ◇ ◆
それは、少女がまだ五歳の頃。
『リズ、理修や。お前に、じぃ様の知っている事を全部教えよう』
体調を崩し、寝込む孫娘を寝かせ、リュートリールは、努めて楽しそうに言った。その言葉に、理修は体の痛みを一瞬忘れて笑顔を見せる。
『ほんと!? おソラのとびかたも?』
『勿論じゃ。それらを知れば、理修は元気になれる』
その時のリュートリールの目には、不安の色があったが、幼い理修が気付けるはずもなく、無邪気な笑顔を向けている。
『イタいのなくなる?』
『おぉ、そうじゃよ。どうじゃ? じぃ様と同じ魔術師になるか?』
理修には、生まれた時から魔術師になれる才能があった。強過ぎるその素質は、幼い理修を苦しめている。だが、それを公にできる世界ではない。
次元を渡り、辿り着いた安住の地ーー地球。魔術師である者には窮屈な世界。だが、彼にとっては好ましい世界だった。
勿論、こちらの世界にも、魔術や不可思議な力を使える者がいる。しかし、それは世間に知られてはいない。
この世界で、彼が魔術師である事を知っているのは、亡くなった妻と、ある事情で共にこちらに移り住んできた友人。そして、こちらの魔術師達だけ。
理修を産んだ実の娘は、魔術の才能が殆どなく、更に妻が亡くなった中学の頃から反抗期が継続中で、その事実を明かす機会を逃していた。
運よく、同郷の友人が医者であった事で、娘から半ば奪う様に、生まれたばかりの理修を田舎の自宅に引き取ったが、事情を知らない娘は恨んでいる事だろう。
そして、理修が魔術師になればその特性上、共に生きる事が難しくなる。しかし、このままにしておいては、理修が生きられない。
リュートリールは、そんな現状の板挟みによる不安を隠す様に、いつも通り理修の治療を始めた。
『じぃさまっ。わたし、まじゅつしになるよっ』
リュートリールの思いを知らない理修は、嬉しそうにリュートリールの手元で光る魔方陣を見て、相変わらず無邪気に答えた。
それに一瞬苦笑を浮かべると、リュートリールは覚悟を決めて優しく微笑む。
そして、次に名案を思い付いたと言うように言った。
『わかった……っあぁ、そうだっ。代わりに、じぃ様のお願いを聞いてくれないか?』
『おねがい?』
それは、理修が共に生きる事のできる者たちを知る事。魔術師となった理修と、時を同じくできるように。
『そうじゃ。じぃ様の友達と会って、仲良くして欲しいんじゃ』
『ともだち? いいよぉっ』
そしてその一年後、少女はリュートリールの後継者として正式に認められた。この『地球』でも『トゥルーベル』でも。
『リズリール』
それが後に『トゥルーベル』で魔族の王の妃として共に数百年の時を生きる、最強を誇る魔術師の名であった。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
今日はもう一話どうぞ!
2019. 7. 11
そこには美しい緑豊かな大陸と空の色を映しこむ澄み切った大海がある。
大気には魔力が満ち、多くの生命溢れる世界だ。
この世界を支えるのは『世界樹』と呼ばれる聖なる樹木。その根は大地深くに根付き、世界を抱いている。
『世界樹』は国が成ると、その場所の根から芽を出し、祝福を与える。
国の成長と共に成長し、その国を守護する『国守』と呼ばれるようになる。その国で選ばれた『守り手』が、糧となる魔力と祈りを捧げることで、『国守』はその国の大地を潤す。
そして、国が滅びる時『国守』は枯れるのだ。
国にとって『国守』とは象徴であり、誇りとなる。大地を潤し作物を実らせ、その国に生きる者にあまねく力を与えるのだから。
この世界では、全ての生き物が『世界樹』の恩恵を得て生きている。
そんな世界には、様々な種族が存在していた。
『人族』
『エルフ』
『ドワーフ』
『獣人族』
『妖精族』
『竜人族』
『魔族』
更には、魔獣や魔物と呼ばれる害獣も存在するこの世界では、魔術が発達し、生活を支えている。
そんな中、一人の有名な魔術師がいた。
『リュートリール』
人族でありながら、その魔力は生まれつき高い魔力を持つエルフや魔族をも凌駕する程。世界中を旅し、様々な伝説を作った彼は、当然の様に寿命も半端ではなかった。
魔術師はその性質上、寿命が長い。一般的に、魔術師と認められた者の寿命は、約百五十年と言われていた。
しかし、リュートリールは認識されている年数でも、五百年は生きていた。見た目も、魔術師の特性で二十代後半のまま止まっており『不老不死』なのではないかとまで囁かれた程だ。
だが、そんな彼の寿命も尽きる時がやってきた。亡くなった場所はーー異世界『地球』
その中の小さな島国の『日本』の片田舎。
その時、一人の少女がトゥルーベルに渡り、その死の事実をかつての『彼』の友人達に伝えた。
少女の名は、リズ。
『東理修』
『リュートリール』の孫娘だった。
◆ ◇ ◆
それは、少女がまだ五歳の頃。
『リズ、理修や。お前に、じぃ様の知っている事を全部教えよう』
体調を崩し、寝込む孫娘を寝かせ、リュートリールは、努めて楽しそうに言った。その言葉に、理修は体の痛みを一瞬忘れて笑顔を見せる。
『ほんと!? おソラのとびかたも?』
『勿論じゃ。それらを知れば、理修は元気になれる』
その時のリュートリールの目には、不安の色があったが、幼い理修が気付けるはずもなく、無邪気な笑顔を向けている。
『イタいのなくなる?』
『おぉ、そうじゃよ。どうじゃ? じぃ様と同じ魔術師になるか?』
理修には、生まれた時から魔術師になれる才能があった。強過ぎるその素質は、幼い理修を苦しめている。だが、それを公にできる世界ではない。
次元を渡り、辿り着いた安住の地ーー地球。魔術師である者には窮屈な世界。だが、彼にとっては好ましい世界だった。
勿論、こちらの世界にも、魔術や不可思議な力を使える者がいる。しかし、それは世間に知られてはいない。
この世界で、彼が魔術師である事を知っているのは、亡くなった妻と、ある事情で共にこちらに移り住んできた友人。そして、こちらの魔術師達だけ。
理修を産んだ実の娘は、魔術の才能が殆どなく、更に妻が亡くなった中学の頃から反抗期が継続中で、その事実を明かす機会を逃していた。
運よく、同郷の友人が医者であった事で、娘から半ば奪う様に、生まれたばかりの理修を田舎の自宅に引き取ったが、事情を知らない娘は恨んでいる事だろう。
そして、理修が魔術師になればその特性上、共に生きる事が難しくなる。しかし、このままにしておいては、理修が生きられない。
リュートリールは、そんな現状の板挟みによる不安を隠す様に、いつも通り理修の治療を始めた。
『じぃさまっ。わたし、まじゅつしになるよっ』
リュートリールの思いを知らない理修は、嬉しそうにリュートリールの手元で光る魔方陣を見て、相変わらず無邪気に答えた。
それに一瞬苦笑を浮かべると、リュートリールは覚悟を決めて優しく微笑む。
そして、次に名案を思い付いたと言うように言った。
『わかった……っあぁ、そうだっ。代わりに、じぃ様のお願いを聞いてくれないか?』
『おねがい?』
それは、理修が共に生きる事のできる者たちを知る事。魔術師となった理修と、時を同じくできるように。
『そうじゃ。じぃ様の友達と会って、仲良くして欲しいんじゃ』
『ともだち? いいよぉっ』
そしてその一年後、少女はリュートリールの後継者として正式に認められた。この『地球』でも『トゥルーベル』でも。
『リズリール』
それが後に『トゥルーベル』で魔族の王の妃として共に数百年の時を生きる、最強を誇る魔術師の名であった。
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