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第一章
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2018. 11. 16
第一幕、最終話です◎
**********
領城で、溜まってしまった執務を叉獅と叉翰を補佐にこなしていた樟嬰は、唐突に一枚の手紙を手にやって来た朶輝に詰め寄られた。
「樟嬰様。何をなさったのですか!?」
「何だ? 薮から棒に」
突然のことに不満気に問う。これに、朶輝は持っていた手紙に目を落とす。
「自領の城に引き込もっていた壁領の首領や領官達が、慌ただしく活動し始めました。更に、続々と葉月首領の側近宛てに、文が届いているのです!」
朶輝を追って紙の束を持った嘩羅がやって来る。
「何か、内容が全部おんなじなんですけど~。中には『お時間をください。何とか御慈悲をっっっ』って……涙の跡があるよ?」
これを聞いて、樟嬰と部屋で書類整理をしていた叉獅が非難するような目を向けてくる。
「……樟嬰様……」
揃って困惑するような顔を向けられ、やっと何をしたかを思い出した樟嬰は、笑いを堪える事ができなかった。
「っくくッ、いやぁ……閻黎殿は役者だなぁ」
閻黎に頼んだ事を、今まですっかり忘れていた。
「樟嬰様。何したんですか」
叉獅は不安をあらわに問い掛ける。こういった態度の樟嬰を、以前も見た事がある。子どもの悪戯が見つかった時のような、悪気のない態度は後が怖い。
「閻黎殿に伝言を頼んだだけだよ。『民を守ろうとしないのなら、領を取り仕切る者など必要ないな。仕方ないから、城ごと吹っ飛ばして、不要な領官達や領主には、妖魔の餌になってもらおう。貯め込んだお金は葉月が戴くよ。
いやぁ。有り難い限り』って壁領の領主達に伝えてくださいなって、ついでに私が、有言実行がもっとうだと十分、分からせてやってくれとな」
あははと笑って見せる樟嬰に、周りはドン引きだ。笑い事ではない。本当にやる気だったと分かるのだから。
「……文は全部、一応確認させて処分してください」
「俺がやるよ……」
朶輝に言われ、力無く叉獅が名乗り出た。
「俺も手伝うよ。すっげぇ量だったし」
叉翰と部屋を出て行くのを、他人事の様に見送る樟嬰は、その二人の背中に究めつけの一言を放った。
「あんまり五月蝿いようなら、金だけでも巻き上げるか」
「っ、止めてやってくださいっ。俺達で何とかしますからっ」
大の大人の男が、泣きそうになりながら出ていくのを、不思議そうに見送った。
「……あの……樟嬰様」
「ん、何だ?」
気を取り直し、朶輝は先頃から気になっていた事を聞いてみる。
「朔兎殿がいないのですが、どうなさったのです?」
「あぁ、ちょっとお使いにな。気にするな」
「はぁ……」
気にはなるが、朶輝と嘩羅はあえて追及をやめ、仕事に向かった。そんな気も知らず樟嬰は、晴れ渡る空を見上げた。
◆ ◆ ◆
「ありがとうございます、朔兎殿。確かにお受け取りいたしました」
「はい。では、わたくしはこれで失礼いたします」
早く樟嬰の所に帰りたい朔兎は、用事を済ませると、すぐに部屋を辞する。それを心得ている閻黎も、気持ち良く見送った。
「閻黎殿。あの方はどなたです」
主の隙を見て、黄城に執務の為に訪れた青玉は、見送りに出ていた閻黎と出会った。
「いらせられませ、青玉様。あの方は、樟嬰様の側付きの朔兎殿です」
「っ……樟嬰……殿の……っ」
驚きとはまた違った表情に、閻黎は一瞬訝ったが、手に持つ受け取った文と品に気づく。
「青玉様、どうぞ中へ。わたくしは部屋におりますので、ご用の際はお呼びください」
そう言って閻黎は、不審に思われぬように、素早く部屋へと向かった。朔兎が消えていった方を、睨むように見続ける青玉の事など、気に止めなかった。
部屋に入った閻黎は、すぐに文を開いた。そこには、華月院での報告と、各領への伝言についての礼。そして、共に添えられた品についての使用方が書かれていた。
―――――――――――――――――――
神族が地の整地の前に使う黄癸石です。効果は保証いたします。
これを、土地の核となる場所に置けば、地に深く沈み、地霊の住み処となります。
その土地に居るべき地霊は決まっていますので、近くに逃げただけならば、すぐにそこに帰ってくるでしょう。
既に地霊が消滅している場合は、整地の儀式を執り行う必要があります。儀式は、折をみて父が姉や兄を派遣するでしょう。
ご報告は、またその時に。
それと、神族の事はどうか内密にお願い致します。以後、姉や兄が訪ねる事もあるでしょうが、それは内々に……
樟嬰
―――――――――――――――――――
これによって土地の浄化を進めれば、まだまだ上へと昇っていけるだろう。
閻黎は、窓から見える煌焔に笑みを向けた。思えば、数日前の樟嬰はこの国を救う気などないと言った。だがどうだろう。結局樟嬰は、この国を滅亡の危機から救った。
閻黎は、青い空に向かって礼を言った。
「沙稀様、あなたが姉上を人の側へと導いてくださったのですね」
人は、傍にいる者達によって変化し、動かす事ができる。
「さぁ、明日はどうなりましょう」
この国はどこまで行けるのだろうかーーー
【 第一幕~完~ 】
**********
読んでくださりありがとうございます◎
第一幕終了です。
お付き合いいただきありがとうございました。
次回は少し休憩を入れまして外伝となります。
樟嬰が領主になるところや、朶輝達のお話になる予定です。
投稿は来月1日からの予定です。
お待ちいただけたらと思います◎
第一幕、最終話です◎
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領城で、溜まってしまった執務を叉獅と叉翰を補佐にこなしていた樟嬰は、唐突に一枚の手紙を手にやって来た朶輝に詰め寄られた。
「樟嬰様。何をなさったのですか!?」
「何だ? 薮から棒に」
突然のことに不満気に問う。これに、朶輝は持っていた手紙に目を落とす。
「自領の城に引き込もっていた壁領の首領や領官達が、慌ただしく活動し始めました。更に、続々と葉月首領の側近宛てに、文が届いているのです!」
朶輝を追って紙の束を持った嘩羅がやって来る。
「何か、内容が全部おんなじなんですけど~。中には『お時間をください。何とか御慈悲をっっっ』って……涙の跡があるよ?」
これを聞いて、樟嬰と部屋で書類整理をしていた叉獅が非難するような目を向けてくる。
「……樟嬰様……」
揃って困惑するような顔を向けられ、やっと何をしたかを思い出した樟嬰は、笑いを堪える事ができなかった。
「っくくッ、いやぁ……閻黎殿は役者だなぁ」
閻黎に頼んだ事を、今まですっかり忘れていた。
「樟嬰様。何したんですか」
叉獅は不安をあらわに問い掛ける。こういった態度の樟嬰を、以前も見た事がある。子どもの悪戯が見つかった時のような、悪気のない態度は後が怖い。
「閻黎殿に伝言を頼んだだけだよ。『民を守ろうとしないのなら、領を取り仕切る者など必要ないな。仕方ないから、城ごと吹っ飛ばして、不要な領官達や領主には、妖魔の餌になってもらおう。貯め込んだお金は葉月が戴くよ。
いやぁ。有り難い限り』って壁領の領主達に伝えてくださいなって、ついでに私が、有言実行がもっとうだと十分、分からせてやってくれとな」
あははと笑って見せる樟嬰に、周りはドン引きだ。笑い事ではない。本当にやる気だったと分かるのだから。
「……文は全部、一応確認させて処分してください」
「俺がやるよ……」
朶輝に言われ、力無く叉獅が名乗り出た。
「俺も手伝うよ。すっげぇ量だったし」
叉翰と部屋を出て行くのを、他人事の様に見送る樟嬰は、その二人の背中に究めつけの一言を放った。
「あんまり五月蝿いようなら、金だけでも巻き上げるか」
「っ、止めてやってくださいっ。俺達で何とかしますからっ」
大の大人の男が、泣きそうになりながら出ていくのを、不思議そうに見送った。
「……あの……樟嬰様」
「ん、何だ?」
気を取り直し、朶輝は先頃から気になっていた事を聞いてみる。
「朔兎殿がいないのですが、どうなさったのです?」
「あぁ、ちょっとお使いにな。気にするな」
「はぁ……」
気にはなるが、朶輝と嘩羅はあえて追及をやめ、仕事に向かった。そんな気も知らず樟嬰は、晴れ渡る空を見上げた。
◆ ◆ ◆
「ありがとうございます、朔兎殿。確かにお受け取りいたしました」
「はい。では、わたくしはこれで失礼いたします」
早く樟嬰の所に帰りたい朔兎は、用事を済ませると、すぐに部屋を辞する。それを心得ている閻黎も、気持ち良く見送った。
「閻黎殿。あの方はどなたです」
主の隙を見て、黄城に執務の為に訪れた青玉は、見送りに出ていた閻黎と出会った。
「いらせられませ、青玉様。あの方は、樟嬰様の側付きの朔兎殿です」
「っ……樟嬰……殿の……っ」
驚きとはまた違った表情に、閻黎は一瞬訝ったが、手に持つ受け取った文と品に気づく。
「青玉様、どうぞ中へ。わたくしは部屋におりますので、ご用の際はお呼びください」
そう言って閻黎は、不審に思われぬように、素早く部屋へと向かった。朔兎が消えていった方を、睨むように見続ける青玉の事など、気に止めなかった。
部屋に入った閻黎は、すぐに文を開いた。そこには、華月院での報告と、各領への伝言についての礼。そして、共に添えられた品についての使用方が書かれていた。
―――――――――――――――――――
神族が地の整地の前に使う黄癸石です。効果は保証いたします。
これを、土地の核となる場所に置けば、地に深く沈み、地霊の住み処となります。
その土地に居るべき地霊は決まっていますので、近くに逃げただけならば、すぐにそこに帰ってくるでしょう。
既に地霊が消滅している場合は、整地の儀式を執り行う必要があります。儀式は、折をみて父が姉や兄を派遣するでしょう。
ご報告は、またその時に。
それと、神族の事はどうか内密にお願い致します。以後、姉や兄が訪ねる事もあるでしょうが、それは内々に……
樟嬰
―――――――――――――――――――
これによって土地の浄化を進めれば、まだまだ上へと昇っていけるだろう。
閻黎は、窓から見える煌焔に笑みを向けた。思えば、数日前の樟嬰はこの国を救う気などないと言った。だがどうだろう。結局樟嬰は、この国を滅亡の危機から救った。
閻黎は、青い空に向かって礼を言った。
「沙稀様、あなたが姉上を人の側へと導いてくださったのですね」
人は、傍にいる者達によって変化し、動かす事ができる。
「さぁ、明日はどうなりましょう」
この国はどこまで行けるのだろうかーーー
【 第一幕~完~ 】
**********
読んでくださりありがとうございます◎
第一幕終了です。
お付き合いいただきありがとうございました。
次回は少し休憩を入れまして外伝となります。
樟嬰が領主になるところや、朶輝達のお話になる予定です。
投稿は来月1日からの予定です。
お待ちいただけたらと思います◎
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