秘伝賜ります

紫南

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第一章 秘伝のお仕事

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■住む場所がないので②

 異世界転生なんて、今人気の小説ジャンルじゃないかと思っていたが案外と身近にあったりするらしい。現に俺は、異世界へ転生して目の前にいるのは巨人。普通なら悲鳴の一つでも上げて逃げまどうだろうが、俺は悲鳴どころか違った意味の胸の高鳴り。

「なぁ、ソラ」

「うん?」

「話を戻しても良いか? 俺、住む家も無いんだよ。だからさ、ソラが良ければで良いんだが……俺を住まわせてくれないか?」

ここは異世界だ。誰か俺を知っている人がいるわけでもない。
なら、少しぐらい図々しくならないと生きていけないだろ?

(生きる事にも、恋することにも)

駄目か? と、小首を傾げて聞いてみる。これまた元いた世界で俺がしたところで何も可愛くないだろう。だが、ここは異世界! おまけに目の前にいるのは巨人だ。

(俺は可愛い小人。俺は可愛い小人。俺は可愛い小人。)

念仏のように心の中で唱えながら、「駄目か?」と訴え続けた。小動物が上目遣いで訴えて来たら、種族を問わずきっと効果は抜群だろう。とはいっても、相手は巨人。おまけに顔は目がクリクリとしているソラの方が可愛いと言える。

(頼む。何か言ってくれ~~!)

そろそろ俺も自分のキャラじゃないことをするのは、しんどい。俺の願いが通じたのか、ソラの手が動いた。大きな手がグワァッ……! と俺の頭上で影を作り、一瞬だけヤバイのでは? と思った。開いた手の平の勢いに対して、極力静かに下ろそうとしたのだろう。じっくりと時間をかけて地面に手をついていく、静かであっても巨人の力だ。風が吹き、倒れはしなかったが、代わりに俺の髪がブワァッ! と浮いた。

「ソラ?」

「……いの?」

「ん?」

「高見は良いの? 僕と一緒で」

そんなの願ったり、叶ったりなのに。
またキラキラと眩しいくらいに光る瞳が綺麗で、ソラが純粋な子供のようだった。だが、余韻に浸る暇はない。こういうことは、すぐにことを進めなければ! 営業で培った経験が活きたと思いながら、俺は逃がさんとばかりにソラの家に行こうと話を進めた。

「勿論! 俺の方こそ、よろしく頼む」

「うん。うん……! えへへ、嬉しいなぁ」

「俺も嬉しい」


ニコニコと笑いながら、俺の恋は意外と順調に事が進むのでは? と楽観するくらい謎の余裕があった。

■住む場所がないので■

 一目惚れした巨人と一緒に住むことにした。


*****
少しだけ更新しました

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