秘伝賜ります

紫南

文字の大きさ
上 下
401 / 403
第七章 秘伝と任されたもの

401 顔合わせの始まり

しおりを挟む
会場である大ホールには、続々と人が集まっていた。

先ずは説明会のようなものが始まる。幻幽会、連盟についての詳しい話と、式神や神との付き合い方など、どうしているのかを説明するつもりだった。

集まった神職につく者達に対して、幻幽会のメンバーは首領九人に、神楽部隊など、主要な部隊を任せている代表と補佐達が揃っている。

マイクを持ったのは、時刃桂花だ。こうした場では、方言は使わないよう気をつけている。

「まずはこちらの自己紹介をさせていただきます。幻幽会の代表、現首領を務めるのが、わたくしを含め九名です。総代表は安倍焔泉」

順に名を呼ばれ、頷いていく。総代表は一番だが、順番としては、連盟に加入した家順になっている。昔はこれで一悶着あったらしく、それからはこうらしい。とはいえ、今の首領達は仲も悪くないので、どんな順で名を呼ばれたとしても、特に何か思うことはない。

「つづきまして、所属する主な部署、部隊の代表とその補佐です」

今回ここに出て来たのは、神楽部隊、御衛ごえい部隊、清掃部隊、行脚師あんぎゃし部隊、社殿しゃでん建築部隊だ。

「神楽部隊は、その名の通り、神楽を奉納することを、目的とした部隊です。恐らく、関わったことのある方もおられるでしょう。神楽は、その土地の土地神様が守護範囲に正しくお力を馴染ませるための、その土地に合った音を聞き取り、神楽として奉納します」
「っ、失礼します! それは、神によって違うものだということでしょうか?」

手を上げ、質問したのは、初老の男性。少し顔色が悪そうだ。

「その通りです」
「っ、そうだったのですね……っ、そのっ、以前、先代の時に、こちらに伝わる神楽とは全く違うものを奉納され、最後に追い出したことが……っ、申し訳ありません!」
「ああ、いえ、お気になさらず。よくあることです。継いできたものを否定されたように感じて、腹を立てることは、なにもおかしなことではありませんからね」
「っ、そんなっ、ですが……っ」

伊調が特に気にしていないという様子で告げるのを、何人かの神職の者達が顔色を悪くしながら聞いている。同じように、追い払った記憶があるのだろう。だが、伊調は当然のこと、神楽部隊は特にこうした理解してもらえないことに直面することは多く、もう慣れてしまっている。

逆に、対応に腹を立てる者は未熟者として、修行に戻すことさえする。伊調達は神に対して奉納しているのであって、周りの人から感謝されないからと怒る事はしない。神から謝意が返されれば、それでこれ以上ないほど満足だ。

「どうぞ、落ち着いてください。こうして理解していただくために、この場があるのですから」
「……っ、はい……」

肩を落とすその人を確認してから、伊調は続きを促すように桂花に顔を向ける。頷いて桂花は続けた。

「では次に、御衛部隊です。こちらは、主にその土地で事件が起きた場合、土地神様へのお伺いを立てる者達です。諸々の神への儀式なども請け負います。更には、管理者のいなくなった社の管理もしています」
「あの……引き継ぎが出来なくなったものの、ご連絡もしてくださっていますか?」

また別の男性が手を上げ、桂花にではなく、紹介された御衛部隊の者に目を向けて尋ねた。これに、御衛部隊の代表が答える。

「はい。可能な限り、お任せできる部分はお任せしたく。何よりも、受け継げる方が居るのでしたら、その方が良いと考えております」
「そうでしたか……いえ、ありがとうございます! 管理が行き届かず、ご迷惑をおかけいたしました。その……先日も対応が遅れまして、申し訳ありませんでした!」

何人かが立ち上がり、頭を下げていた。

「どうぞ、お座りください。わたし共は、何よりも神々のために動いております。何を言われようとも、何と思われようとも、気にしません」
「っ……」

これが、全てなのだ。良いも悪いも、大陸の方の術者も含め、連盟の者達は、人に期待していない。

嘘つきだと、詐欺師だと罵られる経験も一度や二度ではない。助けてやったなどという思いは、長くこの仕事をする者達ほど持っていない。この業界に足を踏み入れた者は、義務教育が終わる頃には、子どもだとて理解してもらいたいと思う気持ちを封じる。そして、成人を過ぎて十年もすれば、それはそのまま朽ち果てている。

そんな思いを、そうして生きてきたことを、神職の者達は、言葉には出来なくても感じたようだった。








***********
読んでくださりありがとうございます◎



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

【完結】嫌われている...母様の命を奪った私を

紫宛
ファンタジー
※素人作品です。ご都合主義。R15は保険です※ 3話構成、ネリス視点、父・兄視点、未亡人視点。 2話、おまけを追加します(ᴗ͈ˬᴗ͈⸝⸝) いつも無言で、私に一切の興味が無いお父様。 いつも無言で、私に一切の興味が無いお兄様。 いつも暴言と暴力で、私を嫌っているお義母様 いつも暴言と暴力で、私の物を奪っていく義妹。 私は、血の繋がった父と兄に嫌われている……そう思っていたのに、違ったの?

王家も我が家を馬鹿にしてますわよね

章槻雅希
ファンタジー
 よくある婚約者が護衛対象の王女を優先して婚約破棄になるパターンのお話。あの手の話を読んで、『なんで王家は王女の醜聞になりかねない噂を放置してるんだろう』『てか、これ、王家が婚約者の家蔑ろにしてるよね?』と思った結果できた話。ひそかなサブタイは『うちも王家を馬鹿にしてますけど』かもしれません。 『小説家になろう』『アルファポリス』(敬称略)に重複投稿、自サイトにも掲載しています。

公爵令嬢はアホ係から卒業する

依智川ゆかり
ファンタジー
『エルメリア・バーンフラウト! お前との婚約を破棄すると、ここに宣言する!!」  婚約相手だったアルフォード王子からそんな宣言を受けたエルメリア。  そんな王子は、数日後バーンフラウト家にて、土下座を披露する事になる。   いや、婚約破棄自体はむしろ願ったり叶ったりだったんですが、あなた本当に分かってます?  何故、私があなたと婚約する事になったのか。そして、何故公爵令嬢である私が『アホ係』と呼ばれるようになったのか。  エルメリアはアルフォード王子……いや、アホ王子に話し始めた。  彼女が『アホ係』となった経緯を、嘘偽りなく。    *『小説家になろう』でも公開しています。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

ドアマットヒロインはごめん被るので、元凶を蹴落とすことにした

月白ヤトヒコ
ファンタジー
お母様が亡くなった。 それから程なくして―――― お父様が屋敷に見知らぬ母子を連れて来た。 「はじめまして! あなたが、あたしのおねえちゃんになるの?」 にっこりとわたくしを見やるその瞳と髪は、お父様とそっくりな色をしている。 「わ~、おねえちゃんキレイなブローチしてるのね! いいなぁ」 そう、新しい妹? が、言った瞬間・・・ 頭の中を、凄まじい情報が巡った。 これ、なんでも奪って行く異母妹と家族に虐げられるドアマット主人公の話じゃね? ドアマットヒロイン……物語の主人公としての、奪われる人生の、最初の一手。 だから、わたしは・・・よし、とりあえず馬鹿なことを言い出したこのアホをぶん殴っておこう。 ドアマットヒロインはごめん被るので、これからビシバシ躾けてやるか。 ついでに、「政略に使うための駒として娘を必要とし、そのついでに母親を、娘の世話係としてただで扱き使える女として連れて来たものかと」 そう言って、ヒロインのクズ親父と異母妹の母親との間に亀裂を入れることにする。 フハハハハハハハ! これで、異母妹の母親とこの男が仲良くわたしを虐げることはないだろう。ドアマットフラグを一つ折ってやったわっ! うん? ドアマットヒロインを拾って溺愛するヒーローはどうなったかって? そんなの知らん。 設定はふわっと。

パーティー会場で婚約破棄するなんて、物語の中だけだと思います

みこと
ファンタジー
「マルティーナ!貴様はルシア・エレーロ男爵令嬢に悪質な虐めをしていたな。そのような者は俺の妃として相応しくない。よって貴様との婚約の破棄そして、ルシアとの婚約をここに宣言する!!」 ここ、魔術学院の創立記念パーティーの最中、壇上から声高らかに宣言したのは、ベルナルド・アルガンデ。ここ、アルガンデ王国の王太子だ。 何故かふわふわピンク髪の女性がベルナルド王太子にぶら下がって、大きな胸を押し付けている。 私、マルティーナはフローレス侯爵家の次女。残念ながらこのベルナルド王太子の婚約者である。 パーティー会場で婚約破棄って、物語の中だけだと思っていたらこのザマです。 設定はゆるいです。色々とご容赦お願い致しますm(*_ _)m

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

処理中です...