397 / 417
第七章 秘伝と任されたもの
397 乗っ取られたけど良い
しおりを挟む
薫も落ち着いた所で、話をはじめる。
「ほんなら、詳しく聞いていこうかの」
「……はい……」
「……」
最初に出会った頃との印象の違いに調子が狂うが、それを口にすることはない。
蓮次郎が問いかける。
「鬼渡であることは間違いないということだけど、君たち鬼渡と呼ばれる者達は、本来どこにいるんだい?」
「……霊界に、隠し里があります。そこでは、鬼と呼ばれた者達がかつて暮らしていたと聞いています」
「こんなの聞くのもどうかと思うけど、話しても大丈夫なことなの?」
「どのみち、人には行けません。私たちも、あの場所で生まれたから行けるだけで、本来は実体を持つ者は行ける場所ではありません」
そこで、ふと空気が動いた気がして高耶は振り返る。それと同時に、ここに現れた人の声が響いた。
「あれよね? そこでは、酸素がないのよね」
「純粋な霊気となんだったか。何か人の体じゃどうにもならんのがあるよな~」
「霊界の深い所は、やっぱり別次元的な何かだからねえ」
現れたのは、キルティス、イスティア、エルラントだった。
「これはこれは……わざわざご足労くださったか」
「こんにちは~。だって、鬼渡でしょう? クティに聞いても、幻の民だって言われてるのよ? 気になるじゃないっ」
クティとは、上級悪魔のこと。彼らからしても、鬼渡の隠れ里を把握できていないらしい。
「で? そこ里で生まれるってどういう感じ? 普通に人から生まれるわけじゃないんでしょう?」
「っ、は、はい……私たちは、霊体で生まれます。精霊樹と呼ばれる木に宿り、その中で自我を育て、体を作り上げていくのです……」
質問を進める三人に、珀豪に指示して椅子を用意する。
「それは、こちらで無くした体を使ってか? 鬼渡は、神隠しにあい、肉体を失った術師が生まれ変わったものだと昔言われていたが」
イスティアは、昔の記憶を探るように宙へと視線を投げながら、そう口にした。
「……その通りかもしれません。それなりに力がないといけないのだと聞いたことがあります。人によっては、生前の記憶もある……だから私たちはある程度体が出来上がると外に……こちら側に出る」
「それは、惹かれるということかな」
次にエルラントが問いかける。それに、薫は頷いた。
「はい。ある時期になると、どうしても、外に、こちら側に来たくなります。それは、生前関係した者に惹かれる……その居場所を求める……感じです……」
「へえ~。ならさあ、あなたは、この双子の子に惹かれて来た?」
「っ……」
源龍を指差し、キルティスが尋ねる。それに源龍がビクっと少し体を震わせたが、それには触れない。高耶としては、気の毒に思ってはいた。まだキルティス達に慣れていないのもあるだろう。
焔泉達も口を出せずにいるので、仕方がない。三人は、自分たちで檻のすぐ前に椅子を移動している。その後ろで高耶は、静かにメモを取る事にした。これはもう、彼らに全て任せるべきだ。
「……分かりません。寧ろ、彼を避けていたかも……」
「ふ~ん……高耶が出会った時は、その子傍に居なかったんだよな?」
ここで高耶へとイスティアが確認する。
「はい。あ、でもあの場所、榊家で資料がありましたよね?」
「っ、う、うん。あそこに居た鬼を封印していたのが、昔の榊家で……」
「なるほど。それでってことか。けど、自覚はなし?」
「……はい。なんとなく、行かなくてはならない気がして……けど、それは鬼に惹かれてだとも思えます……」
「血とか力で惹かれるって、勘の部分もありそうだ」
「確かに~」
エルラントとキルティスも納得した。
「術者とかの勘が入ると、実証するの難しいんだよな~。しゃあねえか」
イスティアは少し納得いかない様子だが、仕方ないと頷いた。
「さて、ほんじゃ、次に鬼についてだ。知ってること、話してもらうぜ?」
「……はい……」
こうして着々と、高耶達は情報を得ることができた。やはり頼るべきは年長者のようだ。若干、乗っ取られた感はあるが、これはこれで良かったと思うことにした。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
「ほんなら、詳しく聞いていこうかの」
「……はい……」
「……」
最初に出会った頃との印象の違いに調子が狂うが、それを口にすることはない。
蓮次郎が問いかける。
「鬼渡であることは間違いないということだけど、君たち鬼渡と呼ばれる者達は、本来どこにいるんだい?」
「……霊界に、隠し里があります。そこでは、鬼と呼ばれた者達がかつて暮らしていたと聞いています」
「こんなの聞くのもどうかと思うけど、話しても大丈夫なことなの?」
「どのみち、人には行けません。私たちも、あの場所で生まれたから行けるだけで、本来は実体を持つ者は行ける場所ではありません」
そこで、ふと空気が動いた気がして高耶は振り返る。それと同時に、ここに現れた人の声が響いた。
「あれよね? そこでは、酸素がないのよね」
「純粋な霊気となんだったか。何か人の体じゃどうにもならんのがあるよな~」
「霊界の深い所は、やっぱり別次元的な何かだからねえ」
現れたのは、キルティス、イスティア、エルラントだった。
「これはこれは……わざわざご足労くださったか」
「こんにちは~。だって、鬼渡でしょう? クティに聞いても、幻の民だって言われてるのよ? 気になるじゃないっ」
クティとは、上級悪魔のこと。彼らからしても、鬼渡の隠れ里を把握できていないらしい。
「で? そこ里で生まれるってどういう感じ? 普通に人から生まれるわけじゃないんでしょう?」
「っ、は、はい……私たちは、霊体で生まれます。精霊樹と呼ばれる木に宿り、その中で自我を育て、体を作り上げていくのです……」
質問を進める三人に、珀豪に指示して椅子を用意する。
「それは、こちらで無くした体を使ってか? 鬼渡は、神隠しにあい、肉体を失った術師が生まれ変わったものだと昔言われていたが」
イスティアは、昔の記憶を探るように宙へと視線を投げながら、そう口にした。
「……その通りかもしれません。それなりに力がないといけないのだと聞いたことがあります。人によっては、生前の記憶もある……だから私たちはある程度体が出来上がると外に……こちら側に出る」
「それは、惹かれるということかな」
次にエルラントが問いかける。それに、薫は頷いた。
「はい。ある時期になると、どうしても、外に、こちら側に来たくなります。それは、生前関係した者に惹かれる……その居場所を求める……感じです……」
「へえ~。ならさあ、あなたは、この双子の子に惹かれて来た?」
「っ……」
源龍を指差し、キルティスが尋ねる。それに源龍がビクっと少し体を震わせたが、それには触れない。高耶としては、気の毒に思ってはいた。まだキルティス達に慣れていないのもあるだろう。
焔泉達も口を出せずにいるので、仕方がない。三人は、自分たちで檻のすぐ前に椅子を移動している。その後ろで高耶は、静かにメモを取る事にした。これはもう、彼らに全て任せるべきだ。
「……分かりません。寧ろ、彼を避けていたかも……」
「ふ~ん……高耶が出会った時は、その子傍に居なかったんだよな?」
ここで高耶へとイスティアが確認する。
「はい。あ、でもあの場所、榊家で資料がありましたよね?」
「っ、う、うん。あそこに居た鬼を封印していたのが、昔の榊家で……」
「なるほど。それでってことか。けど、自覚はなし?」
「……はい。なんとなく、行かなくてはならない気がして……けど、それは鬼に惹かれてだとも思えます……」
「血とか力で惹かれるって、勘の部分もありそうだ」
「確かに~」
エルラントとキルティスも納得した。
「術者とかの勘が入ると、実証するの難しいんだよな~。しゃあねえか」
イスティアは少し納得いかない様子だが、仕方ないと頷いた。
「さて、ほんじゃ、次に鬼についてだ。知ってること、話してもらうぜ?」
「……はい……」
こうして着々と、高耶達は情報を得ることができた。やはり頼るべきは年長者のようだ。若干、乗っ取られた感はあるが、これはこれで良かったと思うことにした。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
451
お気に入りに追加
1,455
あなたにおすすめの小説

婚約破棄を目撃したら国家運営が破綻しました
ダイスケ
ファンタジー
「もう遅い」テンプレが流行っているので書いてみました。
王子の婚約破棄と醜聞を目撃した魔術師ビギナは王国から追放されてしまいます。
しかし王国首脳陣も本人も自覚はなかったのですが、彼女は王国の国家運営を左右する存在であったのです。

妹が聖女の再来と呼ばれているようです
田尾風香
ファンタジー
ダンジョンのある辺境の地で回復術士として働いていたけど、父に呼び戻されてモンテリーノ学校に入学した。そこには、私の婚約者であるファルター殿下と、腹違いの妹であるピーアがいたんだけど。
「マレン・メクレンブルク! 貴様とは婚約破棄する!」
どうやらファルター殿下は、"低能"と呼ばれている私じゃなく、"聖女の再来"とまで呼ばれるくらいに成績の良い妹と婚約したいらしい。
それは別に構わない。国王陛下の裁定で無事に婚約破棄が成った直後、私に婚約を申し込んできたのは、辺境の地で一緒だったハインリヒ様だった。
戸惑う日々を送る私を余所に、事件が起こる。――学校に、ダンジョンが出現したのだった。
更新は不定期です。


義妹がピンク色の髪をしています
ゆーぞー
ファンタジー
彼女を見て思い出した。私には前世の記憶がある。そしてピンク色の髪の少女が妹としてやって来た。ヤバい、うちは男爵。でも貧乏だから王族も通うような学校には行けないよね。

追放された薬師でしたが、特に気にもしていません
志位斗 茂家波
ファンタジー
ある日、自身が所属していた冒険者パーティを追い出された薬師のメディ。
まぁ、どうでもいいので特に気にもせずに、会うつもりもないので別の国へ向かってしまった。
だが、密かに彼女を大事にしていた人たちの逆鱗に触れてしまったようであった‥‥‥
たまにやりたくなる短編。
ちょっと連載作品
「拾ったメイドゴーレムによって、いつの間にか色々されていた ~何このメイド、ちょっと怖い~」に登場している方が登場したりしますが、どうぞ読んでみてください。


英雄一家は国を去る【一話完結】
青緑
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。

称号は神を土下座させた男。
春志乃
ファンタジー
「真尋くん! その人、そんなんだけど一応神様だよ! 偉い人なんだよ!」
「知るか。俺は常識を持ち合わせないクズにかける慈悲を持ち合わせてない。それにどうやら俺は死んだらしいのだから、刑務所も警察も法も無い。今ここでこいつを殺そうが生かそうが俺の自由だ。あいつが居ないなら地獄に落ちても同じだ。なあ、そうだろう? ティーンクトゥス」
「す、す、す、す、す、すみませんでしたあぁあああああああ!」
これは、馬鹿だけど憎み切れない神様ティーンクトゥスの為に剣と魔法、そして魔獣たちの息づくアーテル王国でチートが過ぎる男子高校生・水無月真尋が無自覚チートの親友・鈴木一路と共に神様の為と言いながら好き勝手に生きていく物語。
主人公は一途に幼馴染(女性)を想い続けます。話はゆっくり進んでいきます。
※教会、神父、などが出てきますが実在するものとは一切関係ありません。
※対応できない可能性がありますので、誤字脱字報告は不要です。
※無断転載は厳に禁じます
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる