秘伝賜ります

紫南

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第七章 秘伝と任されたもの

397 乗っ取られたけど良い

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薫も落ち着いた所で、話をはじめる。

「ほんなら、詳しく聞いていこうかの」
「……はい……」
「……」

最初に出会った頃との印象の違いに調子が狂うが、それを口にすることはない。

蓮次郎が問いかける。

「鬼渡であることは間違いないということだけど、君たち鬼渡と呼ばれる者達は、本来どこにいるんだい?」
「……霊界に、隠し里があります。そこでは、鬼と呼ばれた者達がかつて暮らしていたと聞いています」
「こんなの聞くのもどうかと思うけど、話しても大丈夫なことなの?」
「どのみち、人には行けません。私たちも、あの場所で生まれたから行けるだけで、本来は実体を持つ者は行ける場所ではありません」

そこで、ふと空気が動いた気がして高耶は振り返る。それと同時に、ここに現れた人の声が響いた。

「あれよね? そこでは、酸素がないのよね」
「純粋な霊気となんだったか。何か人の体じゃどうにもならんのがあるよな~」
「霊界の深い所は、やっぱり別次元的な何かだからねえ」

現れたのは、キルティス、イスティア、エルラントだった。

「これはこれは……わざわざご足労くださったか」
「こんにちは~。だって、鬼渡でしょう? クティに聞いても、幻の民だって言われてるのよ? 気になるじゃないっ」

クティとは、上級悪魔のこと。彼らからしても、鬼渡の隠れ里を把握できていないらしい。

「で? そこ里で生まれるってどういう感じ? 普通に人から生まれるわけじゃないんでしょう?」
「っ、は、はい……私たちは、霊体で生まれます。精霊樹と呼ばれる木に宿り、その中で自我を育て、体を作り上げていくのです……」

質問を進める三人に、珀豪に指示して椅子を用意する。

「それは、こちらで無くした体を使ってか? 鬼渡は、神隠しにあい、肉体を失った術師が生まれ変わったものだと昔言われていたが」

イスティアは、昔の記憶を探るように宙へと視線を投げながら、そう口にした。

「……その通りかもしれません。それなりに力がないといけないのだと聞いたことがあります。人によっては、生前の記憶もある……だから私たちはある程度体が出来上がると外に……こちら側に出る」
「それは、惹かれるということかな」

次にエルラントが問いかける。それに、薫は頷いた。

「はい。ある時期になると、どうしても、外に、こちら側に来たくなります。それは、生前関係した者に惹かれる……その居場所を求める……感じです……」
「へえ~。ならさあ、あなたは、この双子の子に惹かれて来た?」
「っ……」

源龍を指差し、キルティスが尋ねる。それに源龍がビクっと少し体を震わせたが、それには触れない。高耶としては、気の毒に思ってはいた。まだキルティス達に慣れていないのもあるだろう。

焔泉達も口を出せずにいるので、仕方がない。三人は、自分たちで檻のすぐ前に椅子を移動している。その後ろで高耶は、静かにメモを取る事にした。これはもう、彼らに全て任せるべきだ。

「……分かりません。寧ろ、彼を避けていたかも……」
「ふ~ん……高耶が出会った時は、その子傍に居なかったんだよな?」

ここで高耶へとイスティアが確認する。

「はい。あ、でもあの場所、榊家で資料がありましたよね?」
「っ、う、うん。あそこに居た鬼を封印していたのが、昔の榊家で……」
「なるほど。それでってことか。けど、自覚はなし?」
「……はい。なんとなく、行かなくてはならない気がして……けど、それは鬼に惹かれてだとも思えます……」
「血とか力で惹かれるって、勘の部分もありそうだ」
「確かに~」

エルラントとキルティスも納得した。

「術者とかの勘が入ると、実証するの難しいんだよな~。しゃあねえか」

イスティアは少し納得いかない様子だが、仕方ないと頷いた。

「さて、ほんじゃ、次に鬼についてだ。知ってること、話してもらうぜ?」
「……はい……」

こうして着々と、高耶達は情報を得ることができた。やはり頼るべきは年長者のようだ。若干、乗っ取られた感はあるが、これはこれで良かったと思うことにした。









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読んでくださりありがとうございます◎
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