秘伝賜ります

紫南

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第七章 秘伝と任されたもの

396 イジられてる?

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高耶は薫を見て、印象を変えていた。何が違うのかと考えて答えを出す。

「……目の力が違うのか……」
「高耶君?」
《おお。確かにな》

充雪が同意し、源龍が不思議そうに声をかけて来る。そちらに目を向け、肩に入っていた力を抜いた。自覚はなかったが、身構えていたらしい。

「いえ。気の強い子だと思っていたので、落ち着いている所を見ると普通で、別人のように感じてしまって。清雅さんの所のお孫さんを思い出しました」
「あ、ああ……あの狛犬を任せた所の……」
「ええ。そうだ。手紙を渡しても構いませんか?」

焔泉に確認を取る。薫に会うということで、清雅麻衣子から預かっていた薫宛の手紙を持ってきていた。落ち着いてからと思っていたため、まだ渡していなかったのだ。

「手紙? ああ、友人からや言うやつやね? ええで。休憩にもなるでなあ」
「では」

柵の間から、その手紙を中に差し込んだ。

「これは、清雅麻衣子さんからの手紙です」
「……せいが……」

ピンと来ていない様子の薫に、高耶が知る関係を話す。

「神楽を一緒に練習していただろう?」
「っ、あ……あの家の……っ、けど、手紙……っ、私、あの子を贄に……」
「確かに。鬼に食わせようとしていたか。けど、怪我も治した。その家族も無事で、今は元気だ。何も失っていない。この手紙から感じるのも、恨みや怒りではないようだ。読んでやってくれないか?」
「っ……はい……」

薫は、恐る恐るだが、それを受け取った。その様子を見て、高耶は少し口元を緩める。

「なんや。高坊。嬉しそうやなあ」

ふっと高耶は笑ってから、自分を中心にして声を遮断する結界を張った。薫以外の、焔泉達が入っている。蓮次郎が感心しながら思わず結界を見ているが、それは気にせずに口を開いた。

「友人からの手紙に、恨み言が書かれているのを怖がるというのが、普通の人間ぽくて。つい、微笑ましいなと」
「おっ、確かにな……というか、今までで一番、人っぽく見えるぜ……」

達喜は、手紙を開く様子を見てそう口にする。同じように薫を見て、高耶は続けた。この結界は声を遮断すると同時に気配も薄くするので、これだけ視線を向けられていても、薫には嫌な感じはしないはずだ。

「ええ。それに、きちんと友人だと思っていたんだなと思うと、本当に普通の子っぽくて、少し安心しました」
「ほお。ほほっ、なるほどのお。確かに、離れた友人からの手紙に、涙を流すのは、普通の子どもだのお」
「っ……」

手紙を読みながら、涙を溢す。そんな様子は、普通の女の子にしか見えなかった。源龍はそれを驚きながら見ている。

《おいおい源龍。驚き過ぎではないか?》

充雪が少し笑いながらその顔を見ていた。

「え、そ、その………そ、そうですよね……今までや、聞いていた印象とあまりにも違うものですから……」
「涙を流せるような子には思えなかったものねえ」
「はい……」

蓮次郎も驚いていたらしい。高耶の結界を見ていた時よりも、感心したような目を薫に向けていた。これに、高耶も少し笑う。

「落ち着いて話は出来るようになっていたでしょうに……」
「ん? ああ。まあね。けど、逆に落ち着き過ぎていて、年齢がね。見た目よりもっと上に感じたんだよ」
「……そういうこともあるんでしょうか……」

高耶は、その可能性に気付かなかった。だが、そういえばと思い出す。

「あ、そうです……源龍さんとは、双子なんですよね? なら、年齢も……」
「そういえば……そうだよね?」
「そうですね……」
「え? その話ではなかったんですか?」

蓮次郎と源龍までもが、今更のようにそういえばそうだったと思い出して口にする。

「いや。純粋に印象がね? ほら、年齢不詳なのとか年齢詐称なの、この業界多いじゃない?」
「なんや。橘の。喧嘩売っとるん? 年齢不詳の代表はオヌシやろうが」

蓮次郎の視線に気付いて、焔泉が横目でギロリと睨む。同時に年齢不詳と聞いて思わず焔泉に視線を向けていた達喜も顔を背けた。ちなみに、充雪も見ていたが、ほぼ同時に目を逸らしていた。

「いやいや。僕はまだまだ普通だと思うけど?」
「ほんなら年齢言うてみい」
「……百まで行ってないからセーフだよ」
「まあ、同感や」
「「……」」
《……》

達喜と源龍、充雪が何か言いたそうに二人を見る。それに気付いた焔泉が源龍を見てニヤリと笑う。

「榊のは性別不詳かや」
「……女装した覚えはありません……」

思わぬとばっちりが来たと、源龍は顔を顰める。

「子どもの頃は、女の子らしいお着物着とったで?」
「っ、あれは子どもの慣習です」
「ふむ……まあ、骨格は男らしゅうなっとるし……セーラー服は着せれんなあ。買うてやったのに……」
「っ、着ませんよ!」
「かっこいい系の女性のモデルさんが着るやつなら似合うんじゃない? ほら、背とかいい感じ。買ってあげようか?」
「着ませんって!」

孫に服を買ってあげたい、じいじとばあばに見えてきた。そんな所で、達喜が思い出したというように言った。

「そういや、夢で見たぜ? あれはほぼ確定のやつ。源龍が化粧して、女の服着てそっちの珀さんと歩いてるの。めっちゃ楽しそうに」
「え……」
「ほお」
「へえ~」
《む?》

達喜が夢で見たということは、いずれということだ。

「うむ。服買うたるわ」
「珀豪くんの方は、僕が見繕うよ」
《うむ》
「えっ!」
「源龍さん……諦めましょう。化粧はこっちで任せてください」
「高耶くんまで!?」

達喜が確定ということは、揺らぎもしない未来だ。既にそこまでの筋道は決定されたもの。ならば仕方がない。

「大丈夫だぜ? 多分アレだ。高耶んとこの妹が真ん中に居たし、遊園地だったからな。神子のご指名はさすがにブレんわ。それとひと月後くらいだったな」
「あ、平和ですね。潜入捜査とかじゃなくて良かったです」
「高耶君?」
「なんや、遊園地デートやなく、親子設定かいな。まあ、ええわ。素敵ウーマンにすればええんやろ?」
「なるほどね~。うん。かっこいいパパさんコーデ。頑張るよ!」
「……」
《うむ。ユウキのためならば一肌脱がねばな》

死んだような目になって肩を落とす源龍など気にせず、周りはうんうんと頷き合った。

「でも、ひと月後に源龍さんや珀豪が楽しそうにしてるなら、この後の問題は何とか解決出来るってことですね」
「「「っ、確かにっ」」」
《ああ。そうか》
「おおっ。そう言うことじゃんっ」

これで危なさそうな事も少しは気が楽になったと高耶達は内心胸を撫で下ろす。そして、そろそろ薫も落ち着いてきたようだ。









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読んでくださりありがとうございます◎

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