秘伝賜ります

紫南

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第七章 秘伝と任されたもの

392 学生の合宿みたい

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常盤ときわ黒艶こくえん瑠璃るり玻璃はるも呼んだことで、書庫の整理と内容の確認は驚くほどスムーズに進んだ。

その上に果泉かせん瑪瑙めのうが的確にサポートという癒しを与えたことで、高耶以外の者達、特に雛柏夫妻は疲れさえも感じないというように精力的に作業を続けてくれた。これがスムーズに進んだ理由だろう。

「……灯台下暗しとはこの事だな……」
「いやあ~。結構あったねえ」
「ちゃんと目的の物があったみたいで良かったわねえ」

もちろん、焔泉達から送られて来た本もそれだったのだが、それと同数の関連した書物が、この秘伝の書庫にあったのだ。

「状態が悪いのは覚悟していましたけど、本当に家にあるとは……」

もっと早く確認すべきだったと思わずにいられない。それを察したのか、勇一が頭を下げる。勇一達直系筋の者達がごねなければ、高耶はもっと早くここに来ていたはずだと勇一も分かっていた。

「申し訳ありません……」
「いや……寧ろ、これほどの数の文献があるとは思っていなかったからな……」

最初からそれほど当てにしていなかった。今回もそういえばと思い出して、一つでもあれば儲け物だとぐらいにしか思っていなかった。半分以上、そろそろ整理くらいしないとなと考えていたくらいなのだから、嬉しい意味で裏切られた気分だ。

「御当主様。こちらはどちらかに移されますか?」

使用人達も手伝いに来てくれており、他の家から送られて来た本が紛れないよう、箱を用意したりと動き回ってくれていた。

「そうだな。ここでは手狭だし、内容をより精査するには……ホテルに運ぶか」
「いいねえ。ここは癒されるけど、じっくり中身を確認するには、広い場所がいいんじゃないかな」

雛柏教授にもそう言われたので、そうすることにする。

「ここの整理はもう少し続けるから、高耶君は移動しなよ。明るい所で見た方が良いしね」
「ありがとうございます。遅くなりましたが、もうすぐ夕飯の時間にもなりそうですから、それまでお願いします」
「うん。任せて」

時刻的には、七時を過ぎていた。雛柏夫妻は、夕食は八時頃で良いと言っていたので、そろそろ終わりの時間だ。

「では、夕食の支度が整いましたら、呼びに来ます」
「は~い」
「ゆっくりで大丈夫よ~」

二人とも、食事よりも書物ということなのだろう。

俊哉が使用人達と共に本を抱えてきた。

「運ぶの俺も手伝うわ」
「ああ。扉をすぐに固定する」

次々と使用人達の手も借りて運び出す。常盤達は、書庫に残り、雛柏夫妻を手伝っていた。その間に焔泉達から送り込まれてくる書物の運び出しも出来るように動いてくれている。

そうして、各家から集めた書物を読み込むために、本を運び込んだ瑤迦の世界のホテルに首領達も集まってひたすら読んでいった。

そこにキルティスやイスティアも来てくれたのだ。これほど心強いものはなかった。

「はあ~、家の資料を漁りまくったが、意外とあるもんだなあ」
「溜め込み過ぎよ~。まあ、私もだけどっ」
「いやあ、こんな機会でもなければ、奥まで入り込まんからなあ」
「どうしてもそのままになりますものねえ」
「本なんて見ねえし」
「あなたは……まあ、普段から読んでいるようには見えませんしね」
「ほほっ。秘伝の書庫は興味あるなあ」
「姐さん……気になってはるのは、付喪神やおへんの?」

そんな話をして休憩をしながらひたすら資料の整理を続けた。そんな様子を見て、俊哉が思ったことを口にする。

「なあ~んか、合宿みてえ」
「「「「「おおっ。合宿!」」」」」
「「「「「いいねえ」」」」」

これは新鮮だと、更に喜んでいた。

「さて。では、神職の者達との顔合わせをせんとなあ」

一同は高耶を見ていた。

「……場を用意します……」

そう言うしかなかった。











**********
読んでくださりありがとうございます◎




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