秘伝賜ります

紫南

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第一章 秘伝のお仕事

026 他にも色々います……

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2018. 1. 26

**********

戻ってきた充雪の状態をすぐに高耶は確認する。霊力は多少削られているようだが、予想の範囲内だ。その他におかしな気配も感じられない。

充雪は神ではあるが、神が呪われないという確証はない。向かったのは鬼の封印場所の近く。不可解な呪いなどをつけられている可能性は大いにある。

しかし、心配するような事はないようで、一安心だ。それらを確認すると、無性に高耶は腹が立ってきた。

《マジで参ったぜ。隠密行動的なのには、やっぱオレは向いてねぇわ。考えんの苦手だしなぁ。いやぁ、めっちゃ疲れた》
「……」
《山神が親切でよぉ。危うく鬼に見つかる所だったんだが、助かったぜ。その代わりにちょい力を横流ししたけどなっ》
「……」
《んん? どうしたよ。お~い。聞こえてっか?》
「……」

なぜこんなに上機嫌で呑気なんだ。どれだけ心配したと思っているのか。そう思うと沸々と怒りが湧いてくる。だから、家族の目など気にせず叫んだ。

「テメェは、なんで連絡しねぇんだよ!!」
《っ!?》
「出来たよな? 俺の力を遠慮なく持っていってたもんなぁ。その上、そっちに主導権あるようにしたよな?」
《……あれ?》
「あれ? じゃねぇよ!」

間違いない。出来なかったのではない。今の今まで忘れていたのだ。

《あ、主よ。優希が怯えておる故……》
「黙ってろ、珀っ……!?」
「ぉ……おにぃちゃん……」

目を向けた先で、優希が泣きそうにな顔をして、大きくなった珀豪に抱き付いていた。

「あ、いや……ごめん……優希」
「ぅ……おこってない?」
「ああ。もう怒ってない。ごめんな」
「ん……」

珀豪に顔を押し付ける優希を見て、大分頭が冷えた。冷えた所でこの場で充雪を見えるようにする。

「っ、浮いてる……」

この場にいる者に見えるようになった充雪。父が目を見開くのは仕方がない。充雪は幽霊ライフをエンジョイするため、殆ど浮いて宙に胡座をかいていたりする。

半分は、高耶の方が背が高いので、一緒に歩いたりするのが嫌だという理由だというのは言わない約束だ。

《お、おう。はじめましてだな。オレは充雪。武闘家で陰陽師だ。今はこいつに憑いてる。悪霊じゃねぇから安心しろや》

事前に高耶が神だと説明していたので、悪いものだとは嘘でも思っていないようだ。

「え、ええ。はじめまして。樹と申します」
《よろしくな。そっちの、美咲だったか。あんたも悪いな。息子に憑いちまって》

充雪は、固まっていた母へも声をかけた。

「い、いいえ……」

そう言ってから複雑そうに表情を曇らせる。母からすれば、父が死んだ原因を作ったかもしれない人物なのだ。いい気分ではないだろう。

《そんで、その……悪かった。ちょい不注意で敵に気付かれる所を山神に助けられてな。そこから情報を探るのに頭使ってたら、連絡できるって事をコロッと忘れちまったんだ……》

遥かに年下の高耶にも素直に謝れるところが充雪の良いところだ。非はちゃんと認め、反省してくれる。

「俺も怒鳴って悪かった。少し休んだら報告を頼む」
《おうよ。優希、もう怒られてねぇから、顔見せてくれや》

珀豪にくっ付いたままになっていた優希がゆっくりと顔を上げる。

「セツじぃ……おかえりなさい」
《ただいま。珀が気に入ったのか?》
「うん。ハクちゃん、ふわふわなの」

ちょっとだけ笑顔が戻る。機嫌の取り方なんて分からない高耶からすれば、ほっとした。それに気付いたのだろう。ここは自分が機嫌を直してやろうと張り切った充雪が零してしまったのだ。

《確かになぁ。でも天柳の尻尾もいいんだぞ》
「テンユウ?」
「おい……」

そんな事を言ったら、珀豪のようにまた呼び出さなくてはならないではないかと高耶が眉をしかめた。しかし、それには気付かなかったようだ。

《天柳はなぁ、天孤だ。火の力を持っている式の一体でな》
「テンコ?」
《狐だ。尻尾が大きくて、ふさふさだぞ》
「ふさふさ……みたい……」

優希がチラリと高耶を見る。キラキラとした目で見られて放置はできない。

「っ……わ、わかった……【天柳】」
《お呼びですか、主様》
「うわぁっ、おっきくてきれい……」
《愛らしい女の童ですこと。わたくしは天柳。仲良くしてくださいな》
「うんっ。わたしユウキ。よろしくおねがいしますっ」

天柳は空気を読む天才だ。出来る女というのは、彼女の事だと高耶は常々思っている。

《ほほっ。ではユウキさん。そうですね……あちらでお話ししましょうか》
「わぁいっ。ハクちゃんとセツじぃもねっ」

優希に笑顔が戻ったのは僥倖だ。しかし、残された母の目は厳しかった。

「高耶……あと何がいるの?」

ちゃんと話せとその目は語っていた。父は助けるつもりがないのか。一緒に知りたいと思っているのか、口を開かなかった。観念した高耶は正直に告げた。

「……えっと……ここではちょっと……」
「家に帰ったら、その子達もちゃんと見せなさいね」
「はい……」

隠し事はやはりするものではないと悟った瞬間だった。ただしその後、父母は高耶を放って、充雪達と、もふもふと言って楽しんでいたのだった。
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