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第七章 秘伝と任されたもの
389 楽園
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部屋の奥に入って行く。文鎮カメは使用人の男と俊哉、百合子が持っていた。
「あの……私などが入ってよろしいので……?」
使用人の男は不安そうだ。
「ああ。どのみち、管理を俺だけでするのは無理だし、一族の奴らがそれに向いているとも思えない……」
「管理……管理……」
勇一が管理とは、どんな管理だと仕切りにキョロキョロと書庫を見回す。どこにもヒントはない。その様子を見て、使用人と男や俊哉、教授達が頷く。
「た、大変そうですよね……順番とか整理には向かない気がします」
「虫干しだからって、炎天下に置くだけで満足しそう」
「埃を払うって言って、貴重な資料をバンバン叩いてボロボロにする未来が見えるねー」
「っ……」
ダメなのかという驚きの顔をした勇一。予想通りだった。そして、恐らく一族の者達はこれに似たり寄ったりだ。
「統二が親父さんに昔、本ばかり読んで軟弱者がとか言われたらしい」
「それ、リアルに聞いたのか……統二、貴重な体験したなあ」
「う~ん。今時、聞かないよね」
「軟弱者だなんて……そう言う人に限って頭カチカチで柔軟性がないんじゃないかしら?」
「分かります。けど、最近の若者に軟弱者って悪口? は特にピンとこないかと。別に傷付かないです」
「それはあるっ。俺もそれ言われても特に何とも思わん気がする」
「ですよねっ」
なんだか仲良くなっていた。
そうして辿り着いた書庫の奥。そこは楽園と呼べるような緑もある広い空間が広がっていた。
「これ……造花か」
「葉っぱも本物じゃねえな」
「蔦や枝が見事だね……これで本物じゃないとは……素晴らしい」
「……」
まさか、これも手作りではと、高耶は少しばかり戦慄した。清掃部隊は、ほぼなんでも作ってしまえることを知っている。
「ねえっ、あそこっ、ハンモックがありますわっ。ベンチやソファもっ。なんて素敵な空間なんでしょうっ」
「一応書庫なので、飲み物などが用意できないのが惜しいですね」
「本当ねっ」
素晴らしい憩いの空間だった。そして、そこここから視線を感じていた。
「……ちょっと多くないか……」
「あの辺のは、筆ですねっ。あっ、茶釜っ! 茶釜の子がいます! たぬきかな? たぬきだよね!?」
使用人の男も大興奮だ。
「まあっ。あの子は楽器だわ! 笛に……ヴァイオリン! 琵琶もあるわ!」
「あの辺りのはボールとか? スポーツ系のものかな? 大きいサーフィンのボードがあるね。あれは飾り……あ、手足が出た」
あまり見ないタイプの付喪神がたくさんいた。ただの飾りかと思えば、手足や目が見えるのだ。
そうして見回していたのだが、高耶はあるものに気付いた。
「……あれ……扉……?」
ペットが通り抜ける用の小さな扉。それが何個かあるのに気付いた。しかし、回り込むと、その扉は扉だけだ。通路でも繋がっていて、隣の部屋にというわけではない。
「どこかに繋がっている?」
そこで、一匹(?)の筆の付喪神が近付いてくる。その見た目は、筆の部分が尻尾になったもので、柄の所に小さなふさふさした耳が生えている何かだった。円な瞳が付いているのでそれでも可愛らしい。
その柄の胴体部分に紙が結ばれていたのだ。
《キィっ》
「手紙? 俺にか?」
《キュイっ》
「分かった」
そっと外せば、軽くなったという様子でフリフリと尻尾を振り、不思議そうに見ていた勇一の足下に寄っていく。
「うっ……」
円な瞳で見上げられれば、屈み込んで手を差し出すしかない。そうして、まんまと勇一の心を掴んでいた。
「人懐っこいな……」
付喪神は中々その姿を見せないものだ。素知らぬ顔でその物の姿で過ごす。だから、付喪神になっていると気付かないことも多かった。
珍しいこともあるものだと思いながら、高耶は手紙を開いた。
そこにあったのは焔泉の字だった。反射的に頭を抱えそうになったのは悪くない。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
「あの……私などが入ってよろしいので……?」
使用人の男は不安そうだ。
「ああ。どのみち、管理を俺だけでするのは無理だし、一族の奴らがそれに向いているとも思えない……」
「管理……管理……」
勇一が管理とは、どんな管理だと仕切りにキョロキョロと書庫を見回す。どこにもヒントはない。その様子を見て、使用人と男や俊哉、教授達が頷く。
「た、大変そうですよね……順番とか整理には向かない気がします」
「虫干しだからって、炎天下に置くだけで満足しそう」
「埃を払うって言って、貴重な資料をバンバン叩いてボロボロにする未来が見えるねー」
「っ……」
ダメなのかという驚きの顔をした勇一。予想通りだった。そして、恐らく一族の者達はこれに似たり寄ったりだ。
「統二が親父さんに昔、本ばかり読んで軟弱者がとか言われたらしい」
「それ、リアルに聞いたのか……統二、貴重な体験したなあ」
「う~ん。今時、聞かないよね」
「軟弱者だなんて……そう言う人に限って頭カチカチで柔軟性がないんじゃないかしら?」
「分かります。けど、最近の若者に軟弱者って悪口? は特にピンとこないかと。別に傷付かないです」
「それはあるっ。俺もそれ言われても特に何とも思わん気がする」
「ですよねっ」
なんだか仲良くなっていた。
そうして辿り着いた書庫の奥。そこは楽園と呼べるような緑もある広い空間が広がっていた。
「これ……造花か」
「葉っぱも本物じゃねえな」
「蔦や枝が見事だね……これで本物じゃないとは……素晴らしい」
「……」
まさか、これも手作りではと、高耶は少しばかり戦慄した。清掃部隊は、ほぼなんでも作ってしまえることを知っている。
「ねえっ、あそこっ、ハンモックがありますわっ。ベンチやソファもっ。なんて素敵な空間なんでしょうっ」
「一応書庫なので、飲み物などが用意できないのが惜しいですね」
「本当ねっ」
素晴らしい憩いの空間だった。そして、そこここから視線を感じていた。
「……ちょっと多くないか……」
「あの辺のは、筆ですねっ。あっ、茶釜っ! 茶釜の子がいます! たぬきかな? たぬきだよね!?」
使用人の男も大興奮だ。
「まあっ。あの子は楽器だわ! 笛に……ヴァイオリン! 琵琶もあるわ!」
「あの辺りのはボールとか? スポーツ系のものかな? 大きいサーフィンのボードがあるね。あれは飾り……あ、手足が出た」
あまり見ないタイプの付喪神がたくさんいた。ただの飾りかと思えば、手足や目が見えるのだ。
そうして見回していたのだが、高耶はあるものに気付いた。
「……あれ……扉……?」
ペットが通り抜ける用の小さな扉。それが何個かあるのに気付いた。しかし、回り込むと、その扉は扉だけだ。通路でも繋がっていて、隣の部屋にというわけではない。
「どこかに繋がっている?」
そこで、一匹(?)の筆の付喪神が近付いてくる。その見た目は、筆の部分が尻尾になったもので、柄の所に小さなふさふさした耳が生えている何かだった。円な瞳が付いているのでそれでも可愛らしい。
その柄の胴体部分に紙が結ばれていたのだ。
《キィっ》
「手紙? 俺にか?」
《キュイっ》
「分かった」
そっと外せば、軽くなったという様子でフリフリと尻尾を振り、不思議そうに見ていた勇一の足下に寄っていく。
「うっ……」
円な瞳で見上げられれば、屈み込んで手を差し出すしかない。そうして、まんまと勇一の心を掴んでいた。
「人懐っこいな……」
付喪神は中々その姿を見せないものだ。素知らぬ顔でその物の姿で過ごす。だから、付喪神になっていると気付かないことも多かった。
珍しいこともあるものだと思いながら、高耶は手紙を開いた。
そこにあったのは焔泉の字だった。反射的に頭を抱えそうになったのは悪くない。
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