22 / 411
第一章 秘伝のお仕事
022 未来に繋がるように
しおりを挟む
2018. 1. 17
**********
今日は日曜日だ。明日も祝日とあって、観光客が多く見られる。しかし、一歩奥へと入れば、この場所に住む人々が日常を過ごしているのだ。
道場もそんな観光客達からは少しばかり離れた場所にある。長い石段を登りながら、ふと高耶は振り返って山へと目を向けた。次いでまさかと思いながら、道場よりも奥。家の裏の方へ目を向けた。
「……これは……繋がっている?」
高耶が感じたのは、山神の力だ。今、恐らく高耶の力は充雪を介して山神へと流れている。だから気付いたのだろう。昨日はこれに気づかなかった。
山神がいるのは間違いなく道場の前にある山だ。そこに、御神体がある。そこから、力が繋がっている場所があった。
こういった場所では、人が参るための神社と本来の御神体のある神のいる社が別になっていることがある。
どうやら、神社がこの道場の後ろ辺りにあるようだ。予想はできたはずなのだが、これは大きな見落としだと肩を落とした。
「事前に地図で確認しておけばよかったな……」
高耶には神の気配が分かる。だから、神社がどこにあるかとか、そんな事はいつも確認したりしない。
神社があっても神が留守というのでは意味がない。だから、神社の位置に頼らないのだ。だが、確実に神に繋がっている場所ではあるので、本来は疎かにするべきではなかった。
「能力も一長一短だな」
今回はたまたま充雪と繋がっており、そこから山神が力を持って行っているために気付けた。怪我の功名とも言う。
「後で行ってみるか」
山神の力を取り戻すには必要な場所だ。見て損はないだろう。
「とりあえず、先ずはこっちだな」
高耶は静かに道場へと向かう。石段を登り終え、門をくぐる。すると、そこに巫女服を着た女性が母屋の方からやって来た。
「 観光の人かしら。 ここはただの道場ですよ」
無表情というか、少々剣のある様子で女性が話しかけてきた。当然だろう。部外者が敷地に入ってきたのだ。警戒するに決まっている。
「すみません。泉一郎さんとお会いする約束で参りました」
「お祖父ちゃんに……?」
目を細めて高耶をじっと見つめる女性。怪しいと思っているのは明白だった。しかし、そこへあの老人……泉一郎がやって来た。
「高耶君。もう来ていたのか」
丁度、稽古の休憩に入ったのだろう。汗を拭きながら嬉しそうな顔でやってきた。昨日より表情は生き生きとしている。
「ええ。少々心配でしたので」
「そうか。いや、私は大丈夫だ。気遣いありがとう」
「いいえ。良い汗を流されたようですね」
「そりゃぁもう。まだまだヒヨッコどもには負けておれんでなぁ」
こんなに喋るのも、昨日の様子からは想像できない変わりようだ。それに女性も驚いたようだ。
「ちょっと、お祖父ちゃんっ。年を考えてよ。あんまり無理しないでっ」
「何を言っとる。ワシはまだ若いぞ」
「今年で八十でしょっ。無茶はダメ!」
孫娘が心配するのも無理はないのだろう。しかし、泉一郎は今やヤル気に満ちている。
「なんのっ。まだ十年は現役だわいっ。なぁ、高耶君」
「ええ。八十はまだお若いですよ」
「そうだろう、そうだろう」
「ちょっと、無責任な事言わないでよ!」
他人が口出しするなと言う噛みつきようだ。
「おい、失礼だぞ。それより、お前いいのか? 神楽の稽古が始まるんだろう?」
「あっ!? ちょっ、い、行ってきますっ!」
慌てて女性は駆けていく。しかし、一度振り返り、高耶に釘を刺した。
「お祖父ちゃんに無茶させたら許さないから!」
「こらっ、麻衣子っ」
泉一郎の注意を背中で弾き返し、麻衣子と呼ばれた女性は石段を駆け下りて行った。
「すまんな。気の強い孫娘で」
「心配されるのもわかりますので」
「そうか……少しあちらで話そう。休憩明けの指示を出してくる。先に行っててくれ」
「わかりました」
泉一郎が指差した先には、大きく開け放たれた縁側がある。そこに高耶は一足先に向かう。
程なくして泉一郎がやってくると、家の中から母と同じくらいの年齢の女性がお茶を持ってやってくる。
「まぁまぁ、お父さんったら、こんなお若い方といつ知り合ったのかしら。ゆっくりして行ってちょうだいね。お茶受けがこんな甘いお菓子でごめんなさい」
「ありがとうございます。和菓子は好物です」
緑茶に和菓子なんて、高耶にとっては大好物だ。それが全面に出るくらい笑顔で受け取った。
女性が家の中に消えた所で、泉一郎は座ったまま深々と頭を下げた。
「本当に感謝している。その上、こんな恩恵まで」
「それは、泉一郎さんが今までやってきた努力の見返りのようなものです」
泉一郎の言う恩恵とは、肉体の細胞の活性化のことだ。夢の中で無事に奥義を会得した彼は、精神の向上により、現実に肉体が若返ったのだ。
とはいえ、実際には泉一郎の場合、五十代頃の身体能力までだ。ただし、気力などは若々しく、今も湧き出てきている。それが、本来の能力以上の成果を出していた。
「本当言うと、嫌がる人もいるのです。そのまま目覚めなければ良いのにと……目覚めても自分で最後なのだからと言って……」
継ぐ者が思い当たらない。自分の実際の肉体ではもう伝えることが出来ない。そう悟った者はこの恩恵を嫌がるのだ。
「そんなっ。私は良かったと思っとります。こんなにも体を動かしたのは久し振りで……確かに、これでいつ死んでも良いとは思いますがね……」
「ははっ、正直な人ですね。けれど、長生きしてください。未来など、何が起きるか分かりません。あなた自身で伝えられるものも多くあるのですから」
「そうですなぁ……そうかもしれません……いや、本当にありがとうございました!」
その目には涙が滲んでいた。それを見られぬように泉一郎は勢いよく立ち上がると、再び深々と頭を下げたのだ。
**********
今日は日曜日だ。明日も祝日とあって、観光客が多く見られる。しかし、一歩奥へと入れば、この場所に住む人々が日常を過ごしているのだ。
道場もそんな観光客達からは少しばかり離れた場所にある。長い石段を登りながら、ふと高耶は振り返って山へと目を向けた。次いでまさかと思いながら、道場よりも奥。家の裏の方へ目を向けた。
「……これは……繋がっている?」
高耶が感じたのは、山神の力だ。今、恐らく高耶の力は充雪を介して山神へと流れている。だから気付いたのだろう。昨日はこれに気づかなかった。
山神がいるのは間違いなく道場の前にある山だ。そこに、御神体がある。そこから、力が繋がっている場所があった。
こういった場所では、人が参るための神社と本来の御神体のある神のいる社が別になっていることがある。
どうやら、神社がこの道場の後ろ辺りにあるようだ。予想はできたはずなのだが、これは大きな見落としだと肩を落とした。
「事前に地図で確認しておけばよかったな……」
高耶には神の気配が分かる。だから、神社がどこにあるかとか、そんな事はいつも確認したりしない。
神社があっても神が留守というのでは意味がない。だから、神社の位置に頼らないのだ。だが、確実に神に繋がっている場所ではあるので、本来は疎かにするべきではなかった。
「能力も一長一短だな」
今回はたまたま充雪と繋がっており、そこから山神が力を持って行っているために気付けた。怪我の功名とも言う。
「後で行ってみるか」
山神の力を取り戻すには必要な場所だ。見て損はないだろう。
「とりあえず、先ずはこっちだな」
高耶は静かに道場へと向かう。石段を登り終え、門をくぐる。すると、そこに巫女服を着た女性が母屋の方からやって来た。
「 観光の人かしら。 ここはただの道場ですよ」
無表情というか、少々剣のある様子で女性が話しかけてきた。当然だろう。部外者が敷地に入ってきたのだ。警戒するに決まっている。
「すみません。泉一郎さんとお会いする約束で参りました」
「お祖父ちゃんに……?」
目を細めて高耶をじっと見つめる女性。怪しいと思っているのは明白だった。しかし、そこへあの老人……泉一郎がやって来た。
「高耶君。もう来ていたのか」
丁度、稽古の休憩に入ったのだろう。汗を拭きながら嬉しそうな顔でやってきた。昨日より表情は生き生きとしている。
「ええ。少々心配でしたので」
「そうか。いや、私は大丈夫だ。気遣いありがとう」
「いいえ。良い汗を流されたようですね」
「そりゃぁもう。まだまだヒヨッコどもには負けておれんでなぁ」
こんなに喋るのも、昨日の様子からは想像できない変わりようだ。それに女性も驚いたようだ。
「ちょっと、お祖父ちゃんっ。年を考えてよ。あんまり無理しないでっ」
「何を言っとる。ワシはまだ若いぞ」
「今年で八十でしょっ。無茶はダメ!」
孫娘が心配するのも無理はないのだろう。しかし、泉一郎は今やヤル気に満ちている。
「なんのっ。まだ十年は現役だわいっ。なぁ、高耶君」
「ええ。八十はまだお若いですよ」
「そうだろう、そうだろう」
「ちょっと、無責任な事言わないでよ!」
他人が口出しするなと言う噛みつきようだ。
「おい、失礼だぞ。それより、お前いいのか? 神楽の稽古が始まるんだろう?」
「あっ!? ちょっ、い、行ってきますっ!」
慌てて女性は駆けていく。しかし、一度振り返り、高耶に釘を刺した。
「お祖父ちゃんに無茶させたら許さないから!」
「こらっ、麻衣子っ」
泉一郎の注意を背中で弾き返し、麻衣子と呼ばれた女性は石段を駆け下りて行った。
「すまんな。気の強い孫娘で」
「心配されるのもわかりますので」
「そうか……少しあちらで話そう。休憩明けの指示を出してくる。先に行っててくれ」
「わかりました」
泉一郎が指差した先には、大きく開け放たれた縁側がある。そこに高耶は一足先に向かう。
程なくして泉一郎がやってくると、家の中から母と同じくらいの年齢の女性がお茶を持ってやってくる。
「まぁまぁ、お父さんったら、こんなお若い方といつ知り合ったのかしら。ゆっくりして行ってちょうだいね。お茶受けがこんな甘いお菓子でごめんなさい」
「ありがとうございます。和菓子は好物です」
緑茶に和菓子なんて、高耶にとっては大好物だ。それが全面に出るくらい笑顔で受け取った。
女性が家の中に消えた所で、泉一郎は座ったまま深々と頭を下げた。
「本当に感謝している。その上、こんな恩恵まで」
「それは、泉一郎さんが今までやってきた努力の見返りのようなものです」
泉一郎の言う恩恵とは、肉体の細胞の活性化のことだ。夢の中で無事に奥義を会得した彼は、精神の向上により、現実に肉体が若返ったのだ。
とはいえ、実際には泉一郎の場合、五十代頃の身体能力までだ。ただし、気力などは若々しく、今も湧き出てきている。それが、本来の能力以上の成果を出していた。
「本当言うと、嫌がる人もいるのです。そのまま目覚めなければ良いのにと……目覚めても自分で最後なのだからと言って……」
継ぐ者が思い当たらない。自分の実際の肉体ではもう伝えることが出来ない。そう悟った者はこの恩恵を嫌がるのだ。
「そんなっ。私は良かったと思っとります。こんなにも体を動かしたのは久し振りで……確かに、これでいつ死んでも良いとは思いますがね……」
「ははっ、正直な人ですね。けれど、長生きしてください。未来など、何が起きるか分かりません。あなた自身で伝えられるものも多くあるのですから」
「そうですなぁ……そうかもしれません……いや、本当にありがとうございました!」
その目には涙が滲んでいた。それを見られぬように泉一郎は勢いよく立ち上がると、再び深々と頭を下げたのだ。
116
お気に入りに追加
1,407
あなたにおすすめの小説
称号は神を土下座させた男。
春志乃
ファンタジー
「真尋くん! その人、そんなんだけど一応神様だよ! 偉い人なんだよ!」
「知るか。俺は常識を持ち合わせないクズにかける慈悲を持ち合わせてない。それにどうやら俺は死んだらしいのだから、刑務所も警察も法も無い。今ここでこいつを殺そうが生かそうが俺の自由だ。あいつが居ないなら地獄に落ちても同じだ。なあ、そうだろう? ティーンクトゥス」
「す、す、す、す、す、すみませんでしたあぁあああああああ!」
これは、馬鹿だけど憎み切れない神様ティーンクトゥスの為に剣と魔法、そして魔獣たちの息づくアーテル王国でチートが過ぎる男子高校生・水無月真尋が無自覚チートの親友・鈴木一路と共に神様の為と言いながら好き勝手に生きていく物語。
主人公は一途に幼馴染(女性)を想い続けます。話はゆっくり進んでいきます。
※教会、神父、などが出てきますが実在するものとは一切関係ありません。
※対応できない可能性がありますので、誤字脱字報告は不要です。
※無断転載は厳に禁じます
幼い公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~
朱色の谷
ファンタジー
公爵家の末娘として生まれた6歳のティアナ
お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。
お父様やお兄様は私に関心がないみたい。愛されたいと願い、愛想よく振る舞っていたが一向に興味を示してくれない…
そんな中、夢の中の本を読むと、、、
【完結】捨てられた双子のセカンドライフ
mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】
王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。
父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。
やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。
これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。
冒険あり商売あり。
さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。
(話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)
【完結】神様に嫌われた神官でしたが、高位神に愛されました
土広真丘
ファンタジー
神と交信する力を持つ者が生まれる国、ミレニアム帝国。
神官としての力が弱いアマーリエは、両親から疎まれていた。
追い討ちをかけるように神にも拒絶され、両親は妹のみを溺愛し、妹の婚約者には無能と罵倒される日々。
居場所も立場もない中、アマーリエが出会ったのは、紅蓮の炎を操る青年だった。
小説家になろう、カクヨムでも公開していますが、一部内容が異なります。
1人生活なので自由な生き方を謳歌する
さっちさん
ファンタジー
大商会の娘。
出来損ないと家族から追い出された。
唯一の救いは祖父母が家族に内緒で譲ってくれた小さな町のお店だけ。
これからはひとりで生きていかなくては。
そんな少女も実は、、、
1人の方が気楽に出来るしラッキー
これ幸いと実家と絶縁。1人生活を満喫する。
おばあちゃん(28)は自由ですヨ
美緒
ファンタジー
異世界召喚されちゃったあたし、梅木里子(28)。
その場には王子らしき人も居たけれど、その他大勢と共にもう一人の召喚者ばかりに話し掛け、あたしの事は無視。
どうしろっていうのよ……とか考えていたら、あたしに気付いた王子らしき人は、あたしの事を鼻で笑い。
「おまけのババアは引っ込んでろ」
そんな暴言と共に足蹴にされ、あたしは切れた。
その途端、響く悲鳴。
突然、年寄りになった王子らしき人。
そして気付く。
あれ、あたし……おばあちゃんになってない!?
ちょっと待ってよ! あたし、28歳だよ!?
魔法というものがあり、魔力が最も充実している年齢で老化が一時的に止まるという、謎な法則のある世界。
召喚の魔法陣に、『最も力――魔力――が充実している年齢の姿』で召喚されるという呪が込められていた事から、おばあちゃんな姿で召喚されてしまった。
普通の人間は、年を取ると力が弱くなるのに、里子は逆。年を重ねれば重ねるほど力が強大になっていくチートだった――けど、本人は知らず。
自分を召喚した国が酷かったものだからとっとと出て行き(迷惑料をしっかり頂く)
元の姿に戻る為、元の世界に帰る為。
外見・おばあちゃんな性格のよろしくない最強主人公が自由気ままに旅をする。
※気分で書いているので、1話1話の長短がバラバラです。
※基本的に主人公、性格よくないです。言葉遣いも余りよろしくないです。(これ重要)
※いつか恋愛もさせたいけど、主人公が「え? 熟女萌え? というか、ババ專!?」とか考えちゃうので進まない様な気もします。
※こちらは、小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。
夫婦で異世界に召喚されました。夫とすぐに離婚して、私は人生をやり直します
もぐすけ
ファンタジー
私はサトウエリカ。中学生の息子を持つアラフォーママだ。
子育てがひと段落ついて、結婚生活に嫌気がさしていたところ、夫婦揃って異世界に召喚されてしまった。
私はすぐに夫と離婚し、異世界で第二の人生を楽しむことにした。
転生先ではゆっくりと生きたい
ひつじ
ファンタジー
勉強を頑張っても、仕事を頑張っても誰からも愛されなかったし必要とされなかった藤田明彦。
事故で死んだ明彦が出会ったのは……
転生先では愛されたいし必要とされたい。明彦改めソラはこの広い空を見ながらゆっくりと生きることを決めた
小説家になろうでも連載中です。
なろうの方が話数が多いです。
https://ncode.syosetu.com/n8964gh/
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる