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第七章 秘伝と任されたもの
378 大当たりだった
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神職にあるだけあり、宮司達は神気に敏感なようだ。補佐の二人も、高耶から目を逸せなくなっていた。お陰で、見下すような、厭うような目ではなくなったので、それは良かったのかもしれない。
気まずげに達喜の視線から目を逸らした高耶に、ため息を吐いてから達喜が説明した。
「術者の中もこれは、高い実力を持っています。秘伝家の当主です」
挨拶はしろと手で合図を受け、高耶は頭を下げた。
「っ、秘伝高耶と申します」
「そうですか……あなたの様な方にご挨拶できるとは、なんと幸運なことでございましょう……っ」
「いえ……そう大したものでは……」
そう言った高耶に、伊調が口を挟む。
「何をおっしゃいますか。御当主様は、いずれ新たな神となることが約束された御方です。今でも、不安定な土地神不在の土地へ行けば、土地神として選ばれてしまう可能性があるほどなのですよ?」
「っ、それほどまでのっ……なんとっ、そんな御方をお待たせしてしまったとは……っ、申し訳ございませんっ」
「えっ、あ、いえっ……」
ザッと衣擦れの音が揃って聞こえた。宮司達三人共に綺麗に伏せて礼をしていたのだ。さすがは神職。とても美しい礼だった。それを感心している場合ではなかったと慌てる。
「あ、頭を上げてください。まだまだ若輩者です。それに、今回は情報提供のご協力を願って来ましたので、そちらをお願いしたく……」
「もちろんでございます! すぐに資料を全てお待ちいたします! 持って参りますので、もう少々お待ちください!」
「あ、はい……」
その言葉で、三人揃って頭を下げながらもすくっと立ち上がり、慌てて部屋を出て行った。
呆然とそれを見送ると、一拍して達喜が笑った。
「ぷははっ。高耶っ、お前、最高だなっ」
続いて伊調が笑う。
「ふふふっ。あの慌て様……これは交渉も必要なさそうですね。さすがは御当主様」
「うわ~。アレかな? 神職者相手に、神様ぶつけたようなものかな? 交渉相手にはなり得ないよね……絶対、最初は資料も適当に見せて終わりにさせる気だったと見たよ……」
人脈の多い雛柏教授といえど、今回の話は繋ぎを取るくらいしか出来なかったのだ。達喜や伊調達が心配して付いてくる必要性を感じるほど、神職関係の者との関わり方は複雑で、資料一つ見せてもらうことも困難だった。
「わざわざ、改めてこうして席を外すというのは、用意していなかったということですよね……一体何を用意していたんでしょうか」
「手にはなかったが、あの後ろに座っていた二人が一応、懐に何か入れていたようには見えた」
「薄いものでしょうか。それで済ませようとしていたんでしょうね」
「一体、何を持ってくるのか……」
律音と勇一は、高耶達の後ろで彼らの様子を観察していたようだ。表情は不快だというものになっていた。侮られていたというのは、感じられたのだから仕方がない。
「神気をきちんと感じられる奴らで良かったなあ。というか、俺もあいつらを侮ってたわ」
「そうですねえ。よく修練されているようです。雛柏さんの人選が良かったのでしょう。神気を感じられる素質を持っていても、それが神気だと感じ取れるほどの者は少ないですからねえ」
「伊調のじいさんが言うならそうなんだろうな。高耶の大学の先生だったか。本当にすげえ伝手を持ってるんだな」
「お役に立てて光栄です」
そんな話をしていると、多くの本を積み上げて宮司達が戻ってきた。その後ろからは、巫女さん達も箱を抱えてやって来ていた。
「お待たせいたしました! こちらが、妖など、不浄の者を封印、退治したという記録と資料になります」
「すごい量ですね……」
「はい。この辺りの資料はすべて揃っております。どうやら、先々代が一度本土の全ての資料を集めてまとめようとしたらしく、恐らく、日本全土の資料が集められております」
「大当たりじゃねえか……先生すげえな」
「いえ、これは想定外です……」
確かに、雛柏教授としては、一番確かな資料がある所ということで探したらしい。その上で、それなりに連盟の事も知っていて、それほど意固地にならない所をと。さすがに完全に無害な所で、資料も確実にありそうな所というのは難しく、厳選と妥協によってここが選ばれた。それが、どうやら大当たりだったようだ。
「どうぞ、お持ちください。ただ一つ、我々も現地の調査には参加させていただけないでしょうか」
「それは……」
達喜がその提案の真意を問うような目を向けると、すぐに答えが返ってきた。
「決して、監視などではありませんっ。思ったのです。我々はそちらの業界について知ろうとしたことがなかったのではないかと……」
「それはまあ……」
あるだろう。頭の固い者は、どの業界にもいるものだ。
「実態を知らないために誤解を生み、時にその力に嫉妬して、関わりがおかしくなったのではないかと」
「その通りでしょうな」
伊調が頷く。そして、宮司は伊調へと視線を向けた。
「私はあなたを知っております。神楽を奉納しておられた」
どこかの神社で、それを見たことがあったようだ。
「幻幽会の者達が、神楽を奉納させてくれと来たと、相談を受けて……あれは……あれこそが、正しいものだと思えるものでした……仕方なく了解したと言っていた宮司も、涙を流して見ていた。そして、悔しげでした……」
それは、自分たちでは出来なかった。完璧な神楽の奉納だったからだ。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
気まずげに達喜の視線から目を逸らした高耶に、ため息を吐いてから達喜が説明した。
「術者の中もこれは、高い実力を持っています。秘伝家の当主です」
挨拶はしろと手で合図を受け、高耶は頭を下げた。
「っ、秘伝高耶と申します」
「そうですか……あなたの様な方にご挨拶できるとは、なんと幸運なことでございましょう……っ」
「いえ……そう大したものでは……」
そう言った高耶に、伊調が口を挟む。
「何をおっしゃいますか。御当主様は、いずれ新たな神となることが約束された御方です。今でも、不安定な土地神不在の土地へ行けば、土地神として選ばれてしまう可能性があるほどなのですよ?」
「っ、それほどまでのっ……なんとっ、そんな御方をお待たせしてしまったとは……っ、申し訳ございませんっ」
「えっ、あ、いえっ……」
ザッと衣擦れの音が揃って聞こえた。宮司達三人共に綺麗に伏せて礼をしていたのだ。さすがは神職。とても美しい礼だった。それを感心している場合ではなかったと慌てる。
「あ、頭を上げてください。まだまだ若輩者です。それに、今回は情報提供のご協力を願って来ましたので、そちらをお願いしたく……」
「もちろんでございます! すぐに資料を全てお待ちいたします! 持って参りますので、もう少々お待ちください!」
「あ、はい……」
その言葉で、三人揃って頭を下げながらもすくっと立ち上がり、慌てて部屋を出て行った。
呆然とそれを見送ると、一拍して達喜が笑った。
「ぷははっ。高耶っ、お前、最高だなっ」
続いて伊調が笑う。
「ふふふっ。あの慌て様……これは交渉も必要なさそうですね。さすがは御当主様」
「うわ~。アレかな? 神職者相手に、神様ぶつけたようなものかな? 交渉相手にはなり得ないよね……絶対、最初は資料も適当に見せて終わりにさせる気だったと見たよ……」
人脈の多い雛柏教授といえど、今回の話は繋ぎを取るくらいしか出来なかったのだ。達喜や伊調達が心配して付いてくる必要性を感じるほど、神職関係の者との関わり方は複雑で、資料一つ見せてもらうことも困難だった。
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「薄いものでしょうか。それで済ませようとしていたんでしょうね」
「一体、何を持ってくるのか……」
律音と勇一は、高耶達の後ろで彼らの様子を観察していたようだ。表情は不快だというものになっていた。侮られていたというのは、感じられたのだから仕方がない。
「神気をきちんと感じられる奴らで良かったなあ。というか、俺もあいつらを侮ってたわ」
「そうですねえ。よく修練されているようです。雛柏さんの人選が良かったのでしょう。神気を感じられる素質を持っていても、それが神気だと感じ取れるほどの者は少ないですからねえ」
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「お役に立てて光栄です」
そんな話をしていると、多くの本を積み上げて宮司達が戻ってきた。その後ろからは、巫女さん達も箱を抱えてやって来ていた。
「お待たせいたしました! こちらが、妖など、不浄の者を封印、退治したという記録と資料になります」
「すごい量ですね……」
「はい。この辺りの資料はすべて揃っております。どうやら、先々代が一度本土の全ての資料を集めてまとめようとしたらしく、恐らく、日本全土の資料が集められております」
「大当たりじゃねえか……先生すげえな」
「いえ、これは想定外です……」
確かに、雛柏教授としては、一番確かな資料がある所ということで探したらしい。その上で、それなりに連盟の事も知っていて、それほど意固地にならない所をと。さすがに完全に無害な所で、資料も確実にありそうな所というのは難しく、厳選と妥協によってここが選ばれた。それが、どうやら大当たりだったようだ。
「どうぞ、お持ちください。ただ一つ、我々も現地の調査には参加させていただけないでしょうか」
「それは……」
達喜がその提案の真意を問うような目を向けると、すぐに答えが返ってきた。
「決して、監視などではありませんっ。思ったのです。我々はそちらの業界について知ろうとしたことがなかったのではないかと……」
「それはまあ……」
あるだろう。頭の固い者は、どの業界にもいるものだ。
「実態を知らないために誤解を生み、時にその力に嫉妬して、関わりがおかしくなったのではないかと」
「その通りでしょうな」
伊調が頷く。そして、宮司は伊調へと視線を向けた。
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どこかの神社で、それを見たことがあったようだ。
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それは、自分たちでは出来なかった。完璧な神楽の奉納だったからだ。
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