秘伝賜ります

紫南

文字の大きさ
上 下
375 / 411
第七章 秘伝と任されたもの

375 別の業界の仕事

しおりを挟む
土地神への挨拶と、楽譜の作成は律音達に任せるとして、高耶はあの地に封じられているものについて調べることにした。しかし、早々に問題に頭を悩ませることになる。

「……どこの家も知らないとか……どうなってるんだ?」

連盟への問い合わせに対して、返ってきた答えは、該当案件ゼロというものだった。過去に浄化したものがあるという報告も調べてもらったが、これもなしだった。

大学の図書館で、レポートの仕上げをしている時だ。頭の中でまとまりかけていた言葉は、あっけなく霧散した。

「こんなことあるのか……?」

術者達は、自身の功績を隠したりしない。ただでさえ、一般には視えないものを相手にする仕事だ。その成果を認めてもらえる機会は少ない。よって、武勇伝ではないが、必要以上に報告する傾向があった。

「報告しない謙虚な奴がいたとか……? いや、封印しただけの場合は、報告義務があるし……」

封印とはいずれ解けるものだ。だから、絶対的に報告する必要がある。絶対的な自信があったとしても、そうした自信を持っている者は、特に報告するだろう。

「直接行って探るしかないのか……」

高耶の存在は悪い影響を与えていることはなかったが、探り、近付くのは今までとは違う。術者が触れるだけで、術によっては、封印術に影響を与えかねないのだ。あくまでも、高耶の神気によってその封印術に影響している土地神の力が活性化しているだけなのだ。触れてどうなるかは、予想できなかった。

だからこそ、先にどの系統の術なのかを知るためにも誰の封印術なのかを知る必要があった。

頭を抱える高耶の下に、資料の確認に来たのか、雛柏ひながし教授が嬉しそうに近付いてきた。

「どうしたの? 分からない所でもあった?」
「あ、いえ……少し仕事の方で困っていまして……」
「へえ。何? 何があったの?」

隣に座り、嬉しそうに問いかけてきた。それに苦笑しながら事情を話す。

「まさか、連盟の方に記録がないとは思わなくて」
「なるほどねえ。ん~……それって、連盟に所属していない家の仕業かもってことだよね?」
「仕業……ええ。まあ……」
「そこって、特殊な神木とかある?」
「元ですけど。その力が弱って表に出てきた可能性が……」
「なら、連盟の術者じゃなくて、純粋な神職の人がしたことかもよ?」
「っ、あ……」

術者として、妖に対応する裏を担当する連盟関係の家ではなく、表立ってお祓いなどをする神職者は、当然系統が別ということで、連盟に登録されていない家が多い。

「よかったら、こっちで聞いてみようか? 神職関係の方に詳しい知り合いがいるんだよ」
「っ、いいんですか?」
「もちろんっ。頼ってもらえるのは嬉しいからねっ」
「是非、お願いします」
「任せなさいっ」

そうして、雛柏教授の伝手を辿ってもらったのだ。しかし、心配もあった。連盟の術者を嫌う神職関係者がいるのだ。その理由は様々で、自分たちが視えないのに、神と関係を持つ事が気に入らないと言う者や、妖なんてものはいない、詐欺だと主張する視えない者達が一番厄介だった。

「面倒なことにならないといいけど……」

そうした事情もあり、神職関係者とは昔からの付き合いがない限りは関わらないという術者は多い。

数日後、不安に思いながらも、その場所の封印術に覚えがあるとの回答をくれた人に、会える事になった。

その報告を連盟に上げた高耶の元に、達喜が同席するとの連絡が来たのが、面会の前日だった。






**********
読んでくださりありがとうございます◎
しおりを挟む
感想 545

あなたにおすすめの小説

幼い公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~

朱色の谷
ファンタジー
公爵家の末娘として生まれた6歳のティアナ お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。 お父様やお兄様は私に関心がないみたい。愛されたいと願い、愛想よく振る舞っていたが一向に興味を示してくれない… そんな中、夢の中の本を読むと、、、

称号は神を土下座させた男。

春志乃
ファンタジー
「真尋くん! その人、そんなんだけど一応神様だよ! 偉い人なんだよ!」 「知るか。俺は常識を持ち合わせないクズにかける慈悲を持ち合わせてない。それにどうやら俺は死んだらしいのだから、刑務所も警察も法も無い。今ここでこいつを殺そうが生かそうが俺の自由だ。あいつが居ないなら地獄に落ちても同じだ。なあ、そうだろう? ティーンクトゥス」 「す、す、す、す、す、すみませんでしたあぁあああああああ!」 これは、馬鹿だけど憎み切れない神様ティーンクトゥスの為に剣と魔法、そして魔獣たちの息づくアーテル王国でチートが過ぎる男子高校生・水無月真尋が無自覚チートの親友・鈴木一路と共に神様の為と言いながら好き勝手に生きていく物語。 主人公は一途に幼馴染(女性)を想い続けます。話はゆっくり進んでいきます。 ※教会、神父、などが出てきますが実在するものとは一切関係ありません。 ※対応できない可能性がありますので、誤字脱字報告は不要です。 ※無断転載は厳に禁じます

1人生活なので自由な生き方を謳歌する

さっちさん
ファンタジー
大商会の娘。 出来損ないと家族から追い出された。 唯一の救いは祖父母が家族に内緒で譲ってくれた小さな町のお店だけ。 これからはひとりで生きていかなくては。 そんな少女も実は、、、 1人の方が気楽に出来るしラッキー これ幸いと実家と絶縁。1人生活を満喫する。

おばあちゃん(28)は自由ですヨ

美緒
ファンタジー
異世界召喚されちゃったあたし、梅木里子(28)。 その場には王子らしき人も居たけれど、その他大勢と共にもう一人の召喚者ばかりに話し掛け、あたしの事は無視。 どうしろっていうのよ……とか考えていたら、あたしに気付いた王子らしき人は、あたしの事を鼻で笑い。 「おまけのババアは引っ込んでろ」 そんな暴言と共に足蹴にされ、あたしは切れた。 その途端、響く悲鳴。 突然、年寄りになった王子らしき人。 そして気付く。 あれ、あたし……おばあちゃんになってない!? ちょっと待ってよ! あたし、28歳だよ!? 魔法というものがあり、魔力が最も充実している年齢で老化が一時的に止まるという、謎な法則のある世界。 召喚の魔法陣に、『最も力――魔力――が充実している年齢の姿』で召喚されるという呪が込められていた事から、おばあちゃんな姿で召喚されてしまった。 普通の人間は、年を取ると力が弱くなるのに、里子は逆。年を重ねれば重ねるほど力が強大になっていくチートだった――けど、本人は知らず。 自分を召喚した国が酷かったものだからとっとと出て行き(迷惑料をしっかり頂く) 元の姿に戻る為、元の世界に帰る為。 外見・おばあちゃんな性格のよろしくない最強主人公が自由気ままに旅をする。 ※気分で書いているので、1話1話の長短がバラバラです。 ※基本的に主人公、性格よくないです。言葉遣いも余りよろしくないです。(これ重要) ※いつか恋愛もさせたいけど、主人公が「え? 熟女萌え? というか、ババ專!?」とか考えちゃうので進まない様な気もします。 ※こちらは、小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

転生先ではゆっくりと生きたい

ひつじ
ファンタジー
勉強を頑張っても、仕事を頑張っても誰からも愛されなかったし必要とされなかった藤田明彦。 事故で死んだ明彦が出会ったのは…… 転生先では愛されたいし必要とされたい。明彦改めソラはこの広い空を見ながらゆっくりと生きることを決めた 小説家になろうでも連載中です。 なろうの方が話数が多いです。 https://ncode.syosetu.com/n8964gh/

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

【完結】神様に嫌われた神官でしたが、高位神に愛されました

土広真丘
ファンタジー
神と交信する力を持つ者が生まれる国、ミレニアム帝国。 神官としての力が弱いアマーリエは、両親から疎まれていた。 追い討ちをかけるように神にも拒絶され、両親は妹のみを溺愛し、妹の婚約者には無能と罵倒される日々。 居場所も立場もない中、アマーリエが出会ったのは、紅蓮の炎を操る青年だった。 小説家になろう、カクヨムでも公開していますが、一部内容が異なります。

処理中です...