372 / 405
第七章 秘伝と任されたもの
372 正しい姿
しおりを挟む
まだ誰も、校歌をアレンジした音楽だとは思っていないだろう。
映像に夢中になっているのが分かった。
映像は、練習風景を切り取ったスライドショー。房田音響の人たちに教えてもらいながら、教師達が作った。
ピアノを教えている所。意見し合って子ども達同士で演劇指導している所。小道具やチケットを作っている所など、なるべく多くの生徒達の姿を映そうとしていた。必然的に長くなるが、飽きることなく生徒達も保護者達も食い入るように見ていた。
そして、五分ほど経っただろうか。一度スクリーンが暗くなる。そして、一年生からの今日のダイジェストが始まる。これは房田音響の人たちが今日即席で作り上げていっていたものだ。
それに、学年毎の演劇の曲をメドレーにして、高耶と修は演奏してみせる。
「すごいっ。この曲!」
「わたしがひいたやつ!」
「すごい、すごいっ」
真っ先にそれが自分たちの劇で歌った曲だと子ども達が気付く。その反応を見て、保護者達も気付いたようだ。
「すごいわ……映像と合わせて生演奏なんて……」
「ヴァイオリンの生演奏なんて、初めて……」
「ピアノだけとはまた違うのが良いな……」
「贅沢……」
プロのピアニストの生演奏も、そうそう聞けるものではない。そして、マッチするダイジェスト映像。
「この編集はすごいな……」
「データもらえないかしら……」
ダイジェストの映像にも感心しきりだ。
そうして、全ての学年の映像が終了すると、校歌の歌詞が映し出された。演奏が前奏に切り替わると、自然と子ども達は理解したらしい。
担任の先生達が、小さな声で歌いましょうと指示も出したことで、ピタリと歌の始まりに揃って歌い出す。
楽しげに、高学年の子達は涙を拭いながらも歌っていた。
その歌と演奏を、土地神が穏やかな雰囲気で聞いている。目を閉じ、土地に広く広がっていく力を感じていた。
そして告げる。それは、舞台上の高耶や修にも聞こえていた。
《礼を言う。素晴らしき日であった。この先、忘れることはないだろう……これほど嬉しいことはない。我に忘れ得ぬ日をくれた事……感謝する》
土地神はそんな言葉を残し、飛び立った。淡い光を体育館の中と外に降る。
それをはっきりと視認できるのは、視る力を持つ者。それと、高耶の関係者や今日、神の近くに居た者達だけだろう。
「これは……」
「きれい……」
最初は神など信じない様子だった来賓の者達も、これを視る事ができた。
「ふふ。土地神様に満足いただけたようですわね……」
「優しい光ですな……」
舞台袖から戻ってきた那津は、時島とほっとしていた。どんな来賓よりも、土地神を迎えることの方が緊張する。そうは見えなくても、二人とも緊張していたのだ。
「御当主のお陰ですわ」
「我々も、なんとも贅沢な時間でしたね」
「本当ね」
校歌も歌い終わり、体育館だけでなく外でも、大きな拍手の音が響いた。顔を興奮したようにほのかに赤くしながら、子ども達も思わず立ち上がってたりして拍手をしていた。
それだけ心を動かされたということだ。
「今日のこの感動は、子ども達も忘れないでしょうね」
「興奮して、今日は眠れないのでは?」
「ふふふっ。ありそうですわね」
そんな話をしている後ろでは、来賓の者達が、感慨深げに子ども達を見ていた。
「子ども達が、これほどまでに感動する経験ができるとは……」
「自分たちで行う学芸会でというのが重要ですね」
「観劇会をするよりも反応が良いのでは?」
「ああ……あれは選定するのも大変なのに、子ども達にはあまりウケないというのがありますよね……」
「ええ。私の子どもも、今は大学生ですが、小学校の頃にあった観劇会の内容など少しも思い出しませんよ」
「それを考えると……今日のは心に残るでしょうねえ」
「こうした経験を、沢山させてあげたいものです……」
「今日は本当に、我々も勉強になりましたね」
「そうですね……」
来賓の者達は満足げに、未だ興奮している子ども達や保護者達を見る。この場に居合わせた者達は誰もが、思う所があるのだろう。満足げに笑いながらも、何かを胸に秘めるような顔をしていた。
「……神様に感謝を……」
「感謝を……」
そうして、自然と来賓の者達は胸に手を当て、最初は否定していた神への感謝を示していた。
「これがあるべき姿ですわね……」
「なるほど……」
那津と時島は舞台から下りてくる高耶を見る。その高耶も、来賓の者達を見て、嬉しそうに笑っていた。
***********
読んでくださりありがとうございます◎
映像に夢中になっているのが分かった。
映像は、練習風景を切り取ったスライドショー。房田音響の人たちに教えてもらいながら、教師達が作った。
ピアノを教えている所。意見し合って子ども達同士で演劇指導している所。小道具やチケットを作っている所など、なるべく多くの生徒達の姿を映そうとしていた。必然的に長くなるが、飽きることなく生徒達も保護者達も食い入るように見ていた。
そして、五分ほど経っただろうか。一度スクリーンが暗くなる。そして、一年生からの今日のダイジェストが始まる。これは房田音響の人たちが今日即席で作り上げていっていたものだ。
それに、学年毎の演劇の曲をメドレーにして、高耶と修は演奏してみせる。
「すごいっ。この曲!」
「わたしがひいたやつ!」
「すごい、すごいっ」
真っ先にそれが自分たちの劇で歌った曲だと子ども達が気付く。その反応を見て、保護者達も気付いたようだ。
「すごいわ……映像と合わせて生演奏なんて……」
「ヴァイオリンの生演奏なんて、初めて……」
「ピアノだけとはまた違うのが良いな……」
「贅沢……」
プロのピアニストの生演奏も、そうそう聞けるものではない。そして、マッチするダイジェスト映像。
「この編集はすごいな……」
「データもらえないかしら……」
ダイジェストの映像にも感心しきりだ。
そうして、全ての学年の映像が終了すると、校歌の歌詞が映し出された。演奏が前奏に切り替わると、自然と子ども達は理解したらしい。
担任の先生達が、小さな声で歌いましょうと指示も出したことで、ピタリと歌の始まりに揃って歌い出す。
楽しげに、高学年の子達は涙を拭いながらも歌っていた。
その歌と演奏を、土地神が穏やかな雰囲気で聞いている。目を閉じ、土地に広く広がっていく力を感じていた。
そして告げる。それは、舞台上の高耶や修にも聞こえていた。
《礼を言う。素晴らしき日であった。この先、忘れることはないだろう……これほど嬉しいことはない。我に忘れ得ぬ日をくれた事……感謝する》
土地神はそんな言葉を残し、飛び立った。淡い光を体育館の中と外に降る。
それをはっきりと視認できるのは、視る力を持つ者。それと、高耶の関係者や今日、神の近くに居た者達だけだろう。
「これは……」
「きれい……」
最初は神など信じない様子だった来賓の者達も、これを視る事ができた。
「ふふ。土地神様に満足いただけたようですわね……」
「優しい光ですな……」
舞台袖から戻ってきた那津は、時島とほっとしていた。どんな来賓よりも、土地神を迎えることの方が緊張する。そうは見えなくても、二人とも緊張していたのだ。
「御当主のお陰ですわ」
「我々も、なんとも贅沢な時間でしたね」
「本当ね」
校歌も歌い終わり、体育館だけでなく外でも、大きな拍手の音が響いた。顔を興奮したようにほのかに赤くしながら、子ども達も思わず立ち上がってたりして拍手をしていた。
それだけ心を動かされたということだ。
「今日のこの感動は、子ども達も忘れないでしょうね」
「興奮して、今日は眠れないのでは?」
「ふふふっ。ありそうですわね」
そんな話をしている後ろでは、来賓の者達が、感慨深げに子ども達を見ていた。
「子ども達が、これほどまでに感動する経験ができるとは……」
「自分たちで行う学芸会でというのが重要ですね」
「観劇会をするよりも反応が良いのでは?」
「ああ……あれは選定するのも大変なのに、子ども達にはあまりウケないというのがありますよね……」
「ええ。私の子どもも、今は大学生ですが、小学校の頃にあった観劇会の内容など少しも思い出しませんよ」
「それを考えると……今日のは心に残るでしょうねえ」
「こうした経験を、沢山させてあげたいものです……」
「今日は本当に、我々も勉強になりましたね」
「そうですね……」
来賓の者達は満足げに、未だ興奮している子ども達や保護者達を見る。この場に居合わせた者達は誰もが、思う所があるのだろう。満足げに笑いながらも、何かを胸に秘めるような顔をしていた。
「……神様に感謝を……」
「感謝を……」
そうして、自然と来賓の者達は胸に手を当て、最初は否定していた神への感謝を示していた。
「これがあるべき姿ですわね……」
「なるほど……」
那津と時島は舞台から下りてくる高耶を見る。その高耶も、来賓の者達を見て、嬉しそうに笑っていた。
***********
読んでくださりありがとうございます◎
393
お気に入りに追加
1,304
あなたにおすすめの小説
公爵令嬢はアホ係から卒業する
依智川ゆかり
ファンタジー
『エルメリア・バーンフラウト! お前との婚約を破棄すると、ここに宣言する!!」
婚約相手だったアルフォード王子からそんな宣言を受けたエルメリア。
そんな王子は、数日後バーンフラウト家にて、土下座を披露する事になる。
いや、婚約破棄自体はむしろ願ったり叶ったりだったんですが、あなた本当に分かってます?
何故、私があなたと婚約する事になったのか。そして、何故公爵令嬢である私が『アホ係』と呼ばれるようになったのか。
エルメリアはアルフォード王子……いや、アホ王子に話し始めた。
彼女が『アホ係』となった経緯を、嘘偽りなく。
*『小説家になろう』でも公開しています。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後
澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。
ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。
※短いお話です。
※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。
『王家の面汚し』と呼ばれ帝国へ売られた王女ですが、普通に歓迎されました……
Ryo-k
ファンタジー
王宮で開かれた側妃主催のパーティーで婚約破棄を告げられたのは、アシュリー・クローネ第一王女。
優秀と言われているラビニア・クローネ第二王女と常に比較され続け、彼女は貴族たちからは『王家の面汚し』と呼ばれ疎まれていた。
そんな彼女は、帝国との交易の条件として、帝国に送られることになる。
しかしこの時は誰も予想していなかった。
この出来事が、王国の滅亡へのカウントダウンの始まりであることを……
アシュリーが帝国で、秘められていた才能を開花するのを……
※この作品は「小説家になろう」でも掲載しています。
姉から奪うことしかできない妹は、ザマァされました
饕餮
ファンタジー
わたくしは、オフィリア。ジョンパルト伯爵家の長女です。
わたくしには双子の妹がいるのですが、使用人を含めた全員が妹を溺愛するあまり、我儘に育ちました。
しかもわたくしと色違いのものを両親から与えられているにもかかわらず、なぜかわたくしのものを欲しがるのです。
末っ子故に甘やかされ、泣いて喚いて駄々をこね、暴れるという貴族女性としてはあるまじき行為をずっとしてきたからなのか、手に入らないものはないと考えているようです。
そんなあざといどころかあさましい性根を持つ妹ですから、いつの間にか両親も兄も、使用人たちですらも絆されてしまい、たとえ嘘であったとしても妹の言葉を鵜呑みにするようになってしまいました。
それから数年が経ち、学園に入学できる年齢になりました。が、そこで兄と妹は――
n番煎じのよくある妹が姉からものを奪うことしかしない系の話です。
全15話。
※カクヨムでも公開しています
頭が花畑の女と言われたので、その通り花畑に住むことにしました。
音爽(ネソウ)
ファンタジー
見た目だけはユルフワ女子のハウラナ・ゼベール王女。
その容姿のせいで誤解され、男達には尻軽の都合の良い女と見られ、婦女子たちに嫌われていた。
16歳になったハウラナは大帝国ダネスゲート皇帝の末席側室として娶られた、体の良い人質だった。
後宮内で弱小国の王女は冷遇を受けるが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる