秘伝賜ります

紫南

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第一章 秘伝のお仕事

011 平穏のその向こうで

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2017. 12. 22

**********

久し振りにバイトも仕事の予定もなかった日曜日の夜。

家族揃って夕食を取れるのは久し振りだった。そこで、突然、父が宣言した。

「再来週の金曜の夕方から、家族旅行に出かけよう」

これに母と優希は大喜び。高耶は呆然とした。あまりにも突然だ。こうして家族になってから、実は一度も旅行に行ったことはなかった。

新婚旅行さえ、父母は行っていない。母は再婚ということもあり、遠慮していた節があるし、父も優希が幼いということもあり、言い出せなかったのだろう。

もう少し気にかけてやれば良かったと高耶は反省する。

ただ、高耶の方も優希が懐いてくれるかどうかも不安で、そんな中、預かるから行ってこいと言ってやる度胸もなかったのだ。

今思えば、これまで高耶から言い出してやれる機会は沢山あったなと感じていた。

何はともあれ、家族旅行が決定したらしい。

「りょこうって、おでかけ? どこいくの?」
「旅館だ。温泉だぞ。そこに併設されているホテルでの食事券が当たったんだ。そっちのホテルは……その、ちょっと高くて手が届かなかったんだけど、知り合いの伝手で、旅館の方が取れたから、どうかなって」

そこは、同じ敷地内に旅館とホテルがあり、ホテルの方はセレブ御用達らしい。元々は旅館だったのだが、数年前にそのホテルが建てられたのだという。

そのホテルの最上階でのディナーはかなり有名らしかった。

「凄いわっ。行ってみたかったの。でも、そこで食事となったら……優希ちゃん。お洋服を買いに明日行きましょうね」
「おかいもの?」
「そうよ。可愛いドレスみたいなのを選びましょうね」
「わぁいっ」

喜ぶ優希を見つめながら、スーツを持っていくのは面倒だなと頭の端で考えていた。

「高耶君も忙しいみたいだけど、たまにはいいよね?」
「ええ。ちゃんとバイトも休みますよ。楽しみです」
「そうかっ。良かった。もっと早く言えれば良かったんだけど、ごめんね」
「いいえ」

急に取れたのだろう。それは仕方のないことだ。幸い、二週間ある。どうにか都合をつけよう。仕事は期限があるものは少ないし、バイトの方も上手く変更出来るだろう。絶対的に人数が必要な接客業務ではないのが幸いしている。

「それじゃぁ、再来週の金曜日、優希が帰って来たら行けるようにするってのでいいかな」
「ええ」
「は~い」
「大丈夫です」

金曜日は午前にしか講義がないので高耶は余裕だ。そこから月曜の祝日を入れて四泊三日の旅行となる。

◆◆◆◆◆

源龍は一人書庫に籠り、丸一日、過去にあった鬼の封印場所に関しての資料を探していた。

「これか」

先日、高耶からの助言を首領達へと伝えると、すぐに各地にある封印を見回るべきだという結論が出た。

陰陽師の直感は重要だ。連盟を纏める首領ともなれば、それが無視すべきものではないことくらい理解している。

陰陽師達の各家に、それぞれが鬼を封印した資料をまとめ、近日中に提出するようにと指示が回ったのは、翌日だった。

連盟としてまとまっていながら、これらの資料が一つになっていない事に、源龍は今更ながらに不安を抱いた。

「凄い量だな……これは……全てまとめたら一体どれだけの数になるのか……」

榊家は古い家柄だ。力も強く、封印を行ったとされる数もかなりのものだ。

「こっちは把握してないぞ……」

現当主である源龍も、先代から伝えられていない場所がいくつもその資料にはあったことで、苛立ちを感じる。

「これを全て確認できるだろうか……」

資料を持っていくにしても、あらかた封印を確認した方が良いだろうと思っていた。しかし、あまりにも多いその数に、一族全てを動員したとしても数日は必要だと思える。

「……やるしかないか」

鬼に関する封印は数件である。これを本家で受け持ち、他は分家や他家も頼るのが良いだろう。ただし、この資料がどこまで正しいかはわからない。

「一番怖いのは、鬼だと思っていないものが鬼であった場合かな……確かめる手段はそれほどないのが困りものだ」

一目でその封印の強さや、中にどんなものが封印されているのかを察せられるのは、現代の陰陽師の中でも数人だ。

首領のメンバーとあと一族に一人ずついるかどうかという確率だった。

「……充雪殿に協力をお願いしてみるか」

霊体で、そろそろ神格も持っている秘伝充雪ならば、各地を一瞬で回ることもできるだろう。かなり負担をかけることになるが、今回は緊急事態だ。大いに高い貸しとしてもらおう。

源龍は首領達にも提案してみようと電話を手にするのだった。
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