秘伝賜ります

紫南

文字の大きさ
上 下
363 / 403
第七章 秘伝と任されたもの

363 物の気持ちが分かる人?

しおりを挟む
今回は仕方ないと諦め、高耶は房田社長に確認する。

「珍しいですね。常に使うものでもないのに」
「っ、ああ、そうなんだよっ。場所が良いんかなあ」

中々そこまでの物と出会えることは少ない。だから、房田社長も、思わず口にしてしまったのだろう。

少し気まずそうに、那津達を見る房田社長に、高耶は伝えておく。

「ここにいる人たちは、俺の本職の事も知ってるから大丈夫ですよ」
「そうなのかっ。はあ~、良かった。本番前に不審者認定受ける所だった……」
「気を付けてください」
「すまんです」

こちらの業界を知らない人たちの前で、付喪神だなんだと話せば、せっかくの交友関係を失くしかねない。

特に学校なんかは、守るべき子ども達がいるのだ。少しでも不審がられたら致命的だ。

そんなこともあり得たと分かっている那津は笑っていた。

「ふふふっ。よほど珍しい事ですのね?」
「あ~、はい。ただ古いだけでは、付喪神にはならないんで、何より、まだまだそうなる条件ってのも不明らしくて」
「そうなんですの? けど、お分かりになったのでしょう?」
「ええ。その……なんとなく感じるんで」

房田社長は、後ろ頭を掻きながら苦笑いを浮かべる。そんな彼に、高耶も苦笑した。

「房田さんは、内包している霊力はそれなりにあるのに、自分の意思で使えないのでしたか」

高耶は、父将也と似ているなと思っていた。

「そうそう。視えるだけ。祓うことが出来ない半端者だよ」
「まあっ。もしかして、こちらの業界の家系ですの?」
「ええ……本家の人間なのにって、その空気が嫌で家から飛び出したクチですわ」
「そんな……」

那津が気の毒そうに口元に手をやって房田を見上げる。しかし、房田社長にとっては、既に乗り越えた過去だ。

「いやいや、気にせんでください。力がなくとも、努力すれば家業にも貢献できたはずなんです。それをやらなかったんですから、自業自得ですよ」

使えないからと即刻追い出すような家系は、今の時代にはそれほどない。多くの家で、血も能力も薄まっている現状では、寧ろ知識を継承する事に重きを置くようになっていた。不意に先祖返りも有り得るのだ。その時のためにと一族一丸となっているところも多い。

房田社長の所もそうだった。早くに考え方を切り替えた家だそうだ。ただし、そう言った家は、協力しない者を、不和を呼ぶといって家から離すことがある。

一丸となってやろうとしているのに、そこにやる気のない者が居るのは迷惑だ。

更には、考え方を切り替えたとは言っても、古い考えの者はいる。そんな人たちから送られる空気に耐えられなくなり、房田社長は家を飛び出したらしい。

「飛び出したお陰でこの仕事に出会えましたしね。最初は……俺のようにあの業界に居づらくなった若いのを拾ってやってたんですが、いつの間にか結構な大所帯になっちまって」
「人が好いんですよ、房田社長は」
「はははっ。寂しかっただけだと思ってんだけどなあ。その……寂しさってのかな……その感じを付喪神に感じてな……」
「付喪神蒐集家って、裏で有名になってますよ?」
「いやあ~、そんなつもりなかったんだけどなあ。社員達も最近は拾ってくるようになっちまって……」
「そんな犬猫みたいな感覚なんですの?」

そういう感覚なのだろう。

そこで、時島が口を開いた。

「最近は、断捨離とか終活とかで古い物はすぐに消えてしまうのでは?」
「そうなんですよ。祖父や祖母の形見とか、あまり最近は気にしませんし、一族代々というのも……」 
「お金に換えたがりますからね」
「うん。高耶、はっきり言うよな……」
「少し前に同窓会があって、そこで同年の者達の考え方を学びまして」

含まずに表にはっきり出すのが、高耶の年代には多いらしいと知ったことで、実践していたというわけだ。しかし、高耶を知る者達は、受け入れられないらしい。

「そういうのは、お前らしくないから無理してやらんでいいと思うぞ……」
「なるほど……」

うんうんと那津や時島、修までもがしっかり頷いていたので、高耶は考え直すことにした。

「まあ、その……なんで、確かに付喪神となりそうなものは減ってはいますよ。だから、そんなやつに出会えると嬉しくなります。付喪神は、愛されたもの、人が想いを残すものというのが分かっている条件の一つですから」
「そう考えると、素敵ですわね」
「ええ。なので、あの音響設備は、大事にしてください。いくつか、使い方が分かり辛い所があったので、簡単に分かりやすいマニュアルを用意してお渡ししますよ」
「よろしいの?」
「もちろん。使い方が分からないというのは、使う者にストレスを与えますからね。傍にあってほしくない感情なんで」

それを苦に思わないほど、房田社長は付喪神を大事に思っているようだ。

「音響機器って、説明書を読んでもよく分からないのも多いですもんね」
「そうそう。自分が必要とする機能だけ覚えてれば良いから、良いのを買ってもそれの機能の半分も使えてないかも」
「ありますね」

そんな高耶と修の会話に、時島も頷いていた。こうした機器を操作するのは、男性が多い。女性に頼られてやってみるが、全部を理解できているわけではないのだ。

「ははっ。まあ、それでも良いんですよ。作った者にとっては、全部の機能を余す事なく使って欲しいかもしれませんが、物にとっては、大事に長く使ってもらえた方が良いんで」
「「「なるほど……」」」
「さすがです……」

ここまで物に理解がある人も珍しいなと感心する一同だった。そして、リハーサルが始まる。







**********
読んでくださりありがとうございます◎
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

【完結】6歳の王子は無自覚に兄を断罪する

土広真丘
ファンタジー
ノーザッツ王国の末の王子アーサーにはある悩みがあった。 異母兄のゴードン王子が婚約者にひどい対応をしているのだ。 その婚約者は、アーサーにも優しいマリーお姉様だった。 心を痛めながら、アーサーは「作文」を書く。 ※全2話。R15は念のため。ふんわりした世界観です。 前半はひらがなばかりで、読みにくいかもしれません。 主人公の年齢的に恋愛ではないかなと思ってファンタジーにしました。 小説家になろうに投稿したものを加筆修正しました。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【完結】嫌われている...母様の命を奪った私を

紫宛
ファンタジー
※素人作品です。ご都合主義。R15は保険です※ 3話構成、ネリス視点、父・兄視点、未亡人視点。 2話、おまけを追加します(ᴗ͈ˬᴗ͈⸝⸝) いつも無言で、私に一切の興味が無いお父様。 いつも無言で、私に一切の興味が無いお兄様。 いつも暴言と暴力で、私を嫌っているお義母様 いつも暴言と暴力で、私の物を奪っていく義妹。 私は、血の繋がった父と兄に嫌われている……そう思っていたのに、違ったの?

婚約破棄されたけど、逆に断罪してやった。

ゆーぞー
ファンタジー
気がついたら乙女ゲームやラノベによくある断罪シーンだった。これはきっと夢ね。それなら好きにやらせてもらおう。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

冤罪を掛けられて大切な家族から見捨てられた

ああああ
恋愛
優は大切にしていた妹の友達に冤罪を掛けられてしまう。 そして冤罪が判明して戻ってきたが

美しい姉と痩せこけた妹

サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――

処理中です...