秘伝賜ります

紫南

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第七章 秘伝と任されたもの

359 有り余る時間

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久しぶりに落ち着いて授業を受けた高耶は、講義で一緒になった俊哉と学食で昼食を取る事にした。

「ちょっ、なあ、高耶っ。なんか俺、エルラントさんから呼び出されてんだけどっ」
「ん? ああ、ちょっと常識を教えて欲しいんだってよ」
「誰に? 何の? 何の常識?」

珍しく俊哉が狼狽えている。エルラントとは交流があったが、高耶の友人としての付き合いでしかない。

だが、今回は個人的なお願いという形のメールが来たようだ。

高耶は食事を取りながら大した事ない様子で答える。

「イスティアさんとキルティスさんに、最近の流行りとか、日本風の冗談とか教えてくれって」
「なんでそんなことに……?」
「……」

高耶は渋い顔をしながら、先日あったことを話した。

「最近はよく外に出るし、連盟の人たちとも交流することになる。そうなると、まあ……まだあの二人相手に冗談を言い合ったりなんて出来ないだろうが、その冗談を冗談だと思えない事があると危険なんじゃないかってエルラントさんが心配してな」
「……冗談は、相手も冗談だと思うから成立するんだもんな……そのマズさは分かる」

冗談を言った方も、聞いた相手も気まずくなるのが手に取るように分かる。

「あれだろ? 親父ギャグは寒くなって終わりだけど、あの二人にしたら世界の危機になるってことだろ?」
「そういうことだ。聞いていた人達だけ寒くなるのはいいが、世界がまるごと強制的に氷河期になるのはマズい」
「いや、そこまで……」

高耶はいわゆるオタクルックだが、その表情は真剣過ぎて怖かった。

これこそ冗談では済まない事態になるのだから真剣にもなる。

俊哉がゴクリと唾を呑み、体を震わせてから温かいお茶を一気飲みする。

「っ、ふう……うん。やべえのは分かった。それこそ冗談じゃ済まなくなるな」
「そういうことだ。エルラントさんは、お前の社交性の高さを見込んでるらしいから……」
「何? なんで不満そうなん?」
「……別に……」

高耶はエルラントに頼られる俊哉に少しだけ嫉妬したようだ。だが、気持ちをすぐに切り替える。

「何でもない。なんなら、外に遊びに連れて行ってくれ。あの二人、日本ではほとんど出歩かないから。あっても山奥とかだし」
「お~、そうだな。うん。今風の、現代の遊び方を教えれば良いんだよなっ」
「ああ。遊び方なんて知らないからな。二人とも、どちらかといえば研究職だし、その話が合うのがそう居なくてな……」
「分かってるって、その話が合うのは、同じ穴のムジナってやつだろ? 一緒にテーマパークにでも行っちゃう? って感じのオトモダチじゃないんだろ?」
「そういうことだ……」

類は友を呼ぶとはよく言ったものだ。

「けど、あの二人って、俺的には結構イケイケなイメージなんだが? それこそ、ノリで二人で遊びに行ってそうな。姫様んとこでも遊んでたじゃん」

もはや遊園地と化している場所もある瑶迦の創り出した世界で、二人はそれなりに遊んでもいた。それを俊哉も見ている。

「楽しい事は好きだからな。ただ、遊具とか……それこそ絶叫モノの乗り物とかは、先ず造る方に興味が湧くんだよ。で、自分たちで作って、出来たのを自分たちで遊んで、じゃあ次はって」
「……有り余る時間がある人たちは、遊びの時間の使い方が違うな……」
「それだよ……有名なテーマパークとか行くのって、頑張ったご褒美的な感じとか、一生に一度は行ってみたいっていう気持ちがあるだろ?」
「あるなあ。俺も金稼いで、母さんに一度は連れて行ってやりたいって、思ってたりする」

有名なテーマパークだと、距離にもよってかなり行くのにお金がかかる。ちょっと休日に思い立って『そんじゃあ、行ってみよう!』とはならない。

仕事をしていたら休みを取らないといけないし、そこに行くまでの交通手段やホテルなど、手配すべきことがあって、お金だけの問題ではなくそれなりの覚悟とやる気が要るものだ。

「あの人たちは、それこそ時間が有り余ってる。焦る必要もない。いつでもどこにでも行けるし、やろうと思えば何でも出来るってのは、余裕っていうか後回しに出来る余白が有り余ってるんだろうな……」
「分からんでもないな……いつかはってやつが、本当に遥か先のいつかにもできるってことか……」

それはそれで寂しい生き方ではある。エルラントからすると、実は高耶との交流のある今の二人と、それまでの二人は表情からして違うらしい。

無限ではないかもしれないが、本当に長い長い時間を生きている二人。彼らに子孫はいない。だからこそ、エルラントとも、瑶迦とも感覚が違う。

「なあ、じゃあ充雪さんとは違うのか?」
「じいさんは、一度死んでる。だから、時間は有限だってことも分かってるし、思いついたら全部やるって性格だ。二人とは違う」
「あ、そっか……あの人たちは生身なのか……生身とか言ってて変だけど、そっか……」
「今は俺とも交流があるから、こう……時間の流れは合わせて来てくれてるんだけどな」
「孫扱いだもんな。高耶と遊んでる時は、見た目戸惑うけど、じいちゃんばあちゃんの顔してるし」
「……」

高耶は、祓魔師エクソシスト達と合同で仕事をした天使と悪魔が関わる物の時のことを思い出していた。

あの時、高耶を可愛がるイスティアとキルティスを見た者達は、揃ってイメージを壊されたことだろう。愕然としていたのを覚えている。

イスティアとは魔術の父。偉大で厳格なイメージがあったはずだ。祓魔師エクソシスト達にしてみれば、神聖視さえしていただろう。

キルティスは最古の魔女。そのイメージは悪魔のようであり無慈悲なことも出来る、人とは価値観からして違う隔絶した存在だった。

確かに、かつてはそのイメージの通りの振る舞いもしていただろう。だが、それは高耶が存在しなかった間の事。

二人は瑶迦が可愛がる孫に出会った時、様々な可能性を高耶の中に見たのだ。それが孫として可愛がるきっかけだった。

それから二人は、高耶に合わせてくれていた。高耶が死ぬまで、その時間しかないのだという焦りを、はじめて感じた。だからこその変化だと、高耶はエルラントや瑶迦からそれまでの二人の話を聞いて察した。

「今の内だと思うんだよ……二人に、生きるって感覚を教えられるの……」
「……何でだ?」
「……俺が……長く一緒に居られるみたいだからな……」
「どういう意味だ……?」

そういえば俊哉には、それが確定したことを、きちんと話していなかったなと思い出した。





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