秘伝賜ります

紫南

文字の大きさ
上 下
358 / 419
第七章 秘伝と任されたもの

358 新しい関係?

しおりを挟む
式神として喚び出した将也が、闘神となっていたということで混乱した高耶だが、さすがに、翌日もあるということで、その夜は解散となった。

そして明けて朝。

《おはよ~!》
「……将也……あんた……なんか若返ってない?」
《え~、そうかなあ? そういえば、霊の場合は、喚び出した人のイメージより、こっちの最盛期の頃の姿が取られることが多いって聞いたかも》

高耶が、将閃しょうせんという名で将也の最盛期の頃もイメージしていた事もあり、亡くなった頃の姿よりも若干若い姿になっていた。実際それは、高耶が生まれた頃の姿だった。

《どう? 懐かしい? 大丈夫! 美咲もまだそれなりに若いよ!》
「っ……将也、ちょっとあっちで正座してなさい!」
《なんで!?》

朝からご機嫌な将也に、美咲はイラついたようだ。久し振りの再会だとか、この前は言えなかったことも、これからは一緒にいられるなら言える。けど、どんな顔で会えばいいのかとか、色々と考えていた。

そんな複雑な気持ちで起きて来た美咲からすると、朝早くから能天気な様子で、普通に家に現れた将也にイラつくのは仕方がないのかもしれない。

そんな美咲と、将也を見て、起きて来た優希が目丸くしていた。樹も部屋にやって来たが、美咲と将也のやり取りを見て、静かに控えることにしたようだ。

「ミサキママ、きげんわるい?」
《女心とは複雑なのだろう》
「へ~……ねえ、ハクちゃん」
《なんだ? 今日は優希の好きなオムレツを作ったぞ?》
「たべる!! じゃなくて、なんでマサヤおじさまがいるの?」

前回、一日だけの邂逅だったが、優希も将也と交友を持った。その中で、瑶迦に『叔父様ですよ』と紹介されたことで、そのまま『おじさま』呼びになったようだ。

《ああ……昨日の夜、我らと同じ、主の式になったのだ。これからは、主が喚べばこうして一緒に居る事になる》
「そうなの!?」

優希は、素直に美咲に言われた通り、部屋の隅で正座をする将也に駆け寄って行く。

「ねえねえっ、マサヤおじさまっ」
《ん? ユウキちゃんだったよね? どうしたのかな?》
「マサヤおじさまも、いっしょにおでかけできるの?」
《ん? そうだね。できるよ?》
「やったあっ! じゃあ、お兄ちゃんとおむかえにもきてくれる?」
《おむかえ……ああ、お迎え? 学校に? いいよ! いやあ、高耶の時はそういうこと全然やらなくて、授業参観? とかも行かなかったからねえ。やってみたかったんだよ!》
「え? じゅぎょうさんかんもきてないの?」
《うん。修行してるか、弟子達の稽古つけてるかだったからね》
「……それは……ミサキママがおこったんじゃない?」
《え? あ~……美咲……?》

将也が目を向けると、美咲は腕を組んで睨み付けていた。

「そうねえ。高耶は、あなたが毎日稽古を付けてくれるから、そういう行事に来なくても何とも思わなかったでしょうね」
《……う、うん……そ、そうなんだ……?》

父親が働きに行ってしまい、生活する中で常にすれ違う父と子というのは、現代では多いだろう。そんな父顔が、たまに学校の行事に参加すれば、子どもは喜ぶ。寂しいと思っている子ども達にとっては、それは何よりのご褒美だ。

しかし、高耶の場合は毎日顔を合わせるし、稽古として一対一で向き合う時間もある。よって、特に学校行事に来て欲しいとか、そんなことは言わなかった。

とはいえ、周りからどう思われるかは別だ。

「私、思ったのよ。あなた、高耶と遊ぶってことは一切なかったでしょう?」
《そうだね……稽古ばかりで……》
「お陰で、高耶が遊ぶ事も知らない仕事バカになったんだけど、その責任はどう取ってくれるのかしら?」
《……あー……》
「時間はあるんでしょう? 責任の取り方、考えてちょうだい」
《……はい……》

将也は肩を落としていた。美咲の方は、気になっていたことを一つ言えたと、少しスッキリした表情だ。

「ハクちゃん。マサヤおじさま、はんせいしてるの?」
《そのようだな》
「お兄ちゃんがおしごとばっかりするから?」
《遊ぶ事を教えなかったからだな》
「ふ~ん。ユウキがおしえるよ?」
《そうだな。優希も教えてやってくれ》
「うん! マサヤおじさまといっしょにお兄ちゃんとあそべればいいんでしょ?」
《それが良いだろう》
「かんがえてみる!」
《うむ》

そんな話をしている所に、高耶が起きて来た。

部屋の隅で、腕を組む美咲の前で小さくなって正座している将也を見て、何とも言えない気持ちになる。

「あ~、母さん? ご飯早く食べた方がいいんじゃないか? 父さんはもうずっと居られるから」
「そうね。そうするわ!」

仕事があると切り替えて、美咲は朝食の並ぶテーブルについた。

それを確認してから、将也に声をかける。

「父さん、一旦送還するか?」
《ん? いや。出来ればこのまま頼む。お前も学校? か? その間は、瑶姫の所で、話を聞いてくる》
「そっか。分かった。俺も昼過ぎには帰ってくるから」
《学校は?》
「午前の二コマしか授業がないんだよ」
《ふたこま?》
「……あ~……大学に行ってるんだ」
《おおっ、大学!》

秘伝本家だけでなく、他の家でもだが、大抵は家を継いだり、補佐に回るため、高校までで大学に行く者はほぼいない。

将也からしても、大学まで行くというのは、想定されたことのないものだった。

本家の頭の固い者達からすれば、大学など行くものではなく、そんな時間があるならば稽古しろ、修行しろという考え。

しかし、将也からすれば、『大学に行く=なんか頭良さそう』というくらいの認識だったようだ。

「大学は、朝からずっとじゃなくて、卒業に必要な科目とか、受けたい科目の授業を自由に組み合わせるから、人によっては休みになっていたりもするんだ。今日は必須のが二つだけなんだよ」
《へえ~。じゃあ、その後は?》
「家に帰って来てからの予定ってことか?」
《うん》
「瑶迦さんの所の書庫で調べ物をして、優希のお迎え、その後、夕食後にバイトだ」
《あっ、優希ちゃんのお迎えは俺も一緒に行く事になったからな!》
「そうなのか……分かった。けど、今日は伴奏の確認もあるんだが……」

優希に目を向けると、優希が頷いていた。

「マサヤおじさまにもきいてもらうのっ!」
「……優希……分かった。けど、あそこの土地神様が良いと言ったらな? 将也おじさまは、ちょっと存在が普通の式神とは違うんだ」
「うん? ゆうれいだから?」
「ああ。それもある。けど……ちょっと特別な力を込めすぎてしまったんだ。だから、神様にとても近い。別の神様が神様の守る場所に入るのは、ちゃんと許可をもらわないといけないんだよ」
「……そっか……うん。わかった。けど、ちゃんとおねがいしてみてね?」

少し寂しそうにする優希。けれど、事情は分かってくれたようだ。そんな優希の頭を撫でておく。

「そうだな。分かった」
「うん。えへへ。マサヤおじさま、はいれるといいねっ」
《俺も頑張ってお願いするからな》
「うん!」

将也も優希の頭を高耶と同じように撫でた。優希が懐いているのは一目瞭然だ。

そんな優希と将也を見て、樹が複雑そうな表情を浮かべている。エリーゼがスープを置きながら尋ねる。

《樹はん? 羨ましいん?》
「うん……」
《は~、本来なら、樹はんもおじさまですもんねえ……》

優希の実の父ではないのだ。兄の娘なのだから、間違いなく叔父様だろう。将也のように慕って欲しいと思うだろう。

少し同情するように見ていたエリーゼだが、樹が何を羨ましく思っているのかを間違えていたようだ。

「うんっ、いいなあ、優希っ。僕も将也兄さんに構って欲しい!」
《えっ、そっち?》
「……」

今の旦那が昔の夫に懐いているのを見る美咲は死んだような目をしており、エリーゼは静かに撤退した。

《なんや、この状況……これもドロ沼言うんやろか?》
《複雑だな……中々ない家庭環境が出来上がりそうだ》
《十分、今までも、早々見ない家庭環境ですけどねえ……》
《……仕方あるまい……》

これが日常になるのかと、珀豪達からしても少しばかり不安になるようだった。






**********
読んでくださりありがとうございます◎

しおりを挟む
感想 566

あなたにおすすめの小説

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

【完結】妖精を十年間放置していた為SSSランクになっていて、何でもあり状態で助かります

すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
 《ファンタジー小説大賞エントリー作品》五歳の時に両親を失い施設に預けられたスラゼは、十五歳の時に王国騎士団の魔導士によって、見えていた妖精の声が聞こえる様になった。  なんと十年間放置していたせいでSSSランクになった名をラスと言う妖精だった!  冒険者になったスラゼは、施設で一緒だった仲間レンカとサツナと共に冒険者協会で借りたミニリアカーを引いて旅立つ。  ラスは、リアカーやスラゼのナイフにも加護を与え、軽くしたりのこぎりとして使えるようにしてくれた。そこでスラゼは、得意なDIYでリアカーの改造、テーブルやイス、入れ物などを作って冒険を快適に変えていく。  そして何故か三人は、可愛いモモンガ風モンスターの加護まで貰うのだった。

【完結】巻き込まれたけど私が本物 ~転移したら体がモフモフ化してて、公爵家のペットになりました~

千堂みくま
ファンタジー
異世界に幼なじみと一緒に召喚された17歳の莉乃。なぜか体がペンギンの雛(?)になっており、変な鳥だと城から追い出されてしまう。しかし森の中でイケメン公爵様に拾われ、ペットとして大切に飼われる事になった。公爵家でイケメン兄弟と一緒に暮らしていたが、魔物が減ったり、瘴気が薄くなったりと不思議な事件が次々と起こる。どうやら謎のペンギンもどきには重大な秘密があるようで……? ※恋愛要素あるけど進行はゆっくり目。※ファンタジーなので冒険したりします。

妹が聖女の再来と呼ばれているようです

田尾風香
ファンタジー
ダンジョンのある辺境の地で回復術士として働いていたけど、父に呼び戻されてモンテリーノ学校に入学した。そこには、私の婚約者であるファルター殿下と、腹違いの妹であるピーアがいたんだけど。 「マレン・メクレンブルク! 貴様とは婚約破棄する!」  どうやらファルター殿下は、"低能"と呼ばれている私じゃなく、"聖女の再来"とまで呼ばれるくらいに成績の良い妹と婚約したいらしい。 それは別に構わない。国王陛下の裁定で無事に婚約破棄が成った直後、私に婚約を申し込んできたのは、辺境の地で一緒だったハインリヒ様だった。 戸惑う日々を送る私を余所に、事件が起こる。――学校に、ダンジョンが出現したのだった。 更新は不定期です。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

転生貴族のスローライフ

マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である *基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

異世界に転生した社畜は調合師としてのんびりと生きていく。~ただの生産職だと思っていたら、結構ヤバい職でした~

夢宮
ファンタジー
台風が接近していて避難勧告が出されているにも関わらず出勤させられていた社畜──渡部与一《わたべよいち》。 雨で視界が悪いなか、信号無視をした車との接触事故で命を落としてしまう。 女神に即断即決で異世界転生を決められ、パパっと送り出されてしまうのだが、幸いなことに女神の気遣いによって職業とスキルを手に入れる──生産職の『調合師』という職業とそのスキルを。 異世界に転生してからふたりの少女に助けられ、港町へと向かい、物語は動き始める。 調合師としての立場を知り、それを利用しようとする者に悩まされながらも生きていく。 そんな与一ののんびりしたくてものんびりできない異世界生活が今、始まる。 ※2話から登場人物の描写に入りますので、のんびりと読んでいただけたらなと思います。 ※サブタイトル追加しました。

処理中です...