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第六章 秘伝と知己の集い
352 様子見することにします
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高耶はなおも結界を観察し、やはり鬼達は、土地神により護るべき子どもと判定されているのだろうとの推測を固めた。それを確信に変えるため、長老に質問する。気になる事があったのだ。
「長老。保護した里の者の中に、十五歳未満の子が二人ほど居たようですが、それは?」
瑶迦の所へと繋ぐ扉を開いて招き入れた時、里の者達の中に、二人ほど確実に十五歳以下だろうと思える子どもが居たのを思い出したのだ。
「ああ……親と手を繋いでならば通れるのですよ。子どもは好奇心が強いもの……ですので、十歳になった時に、何度か大人と手を繋いでならば出られると言う事と、茶屋までの外の世界を見せていたのです」
その時に、外に出る事の怖さも教えるのだと言う。そうして、好奇心だけで外に向かいたいと思わないように落ち着けていくのだとか。
「十五になったら、即飛び出すような事になっては困りますので……」
「なるほど」
それならばやはりと確信を得た。
「では、どうしますか?」
「「「どう、とは?」」」
長老、焔泉、蓮次郎がこの確認に首を傾げた。高耶は改めて説明する。
「鬼達を意図せず閉じ込めたことになります。彼らは出られません。このまま、ここの土地神の力を神楽部隊と協力して取り戻していけば、恐らく半永久的に封じられているようなものです」
「……確かに……」
「それは考えへんかったわ……」
「その……私共は、新たな住処も確保できてしまいましたし、中に今更惜しいと思えるものもありませんし……」
そう。そのままでも問題ないのだと改めて気付いてしまった。
「え? どうする?」
「どうするかねえ……」
「……」
「……」
結局、高耶に視線が集まった。選択を委ねられているようだ。それならばと山を見回す。とはいえ、目を頼るのではなく、感覚を使って確認する。そして、視線を焔泉達へと戻した。
「……では、中を一応見てきます。先日の神達の騒動の時も大丈夫でしたし、問題はないと思いますが……その間に、あそこ……じいさんっ」
《ん?》
あそこと指を差した高耶は、充雪を呼び寄せる。
「じいさん、あそこだ。分かるか?」
《んん? あ~……あっ! おおっ、隙間っ、洞窟があるな! 神の座所か!》
「ああ。間違いないだろう。挨拶が後になりますが、確認して来ていただけませんか?」
この場所から少し上。ただの大きな岩山と思えていた場所。そこに目を凝らすと、洞窟が視えるのだ。
しかし、焔泉達には視えないらしい。
「ん? どこや?」
「え……あの辺?」
高耶は彼らが視えないと知って、理由に思い当たり、神気を少し解放する。
「これ……で、どうでしょうか」
じっと目を凝らしていた焔泉と蓮次郎、伊調にも何とか視えたらしい。
「っ、おおっ、突然視えるようになった」
「ほんに……こんな事があるとは……不思議や」
「これは……っ、ああ、なるほど、神気で隠されていたのですね?」
「どういうこと?」
蓮次郎が納得する伊調に問いかける。高耶が説明しなくても良くなった。
「ごくたまにあるのですよ。長くその場の神気に慣れなければ視えない場所が。神気を感じ取ることで視える場所です。こう……チャンネルを合わせるという感じですねえ」
「ほお……」
「本来の神の社がこれによって隠されていたりするのですよ。ですので、それもあり、我々神楽部隊は、その土地に馴染むまで滞在します」
「へえ……知らなかった……」
これが視えたことで、土地の音が鮮明に聴こえるようになったりする。そうした経験もあり、伊調は知っていたようだ。
だが、伊調は表情を曇らせる。
「ですが、こちらもですが、何度も訪れていた我々がこれまで気付けなかったのは不思議です……」
少し前まで、頻繁に訪れていた地だ。一度に長く滞在しなかったからかもしれないとも思うが、それにしても全く感じなかったと伊調は不思議なようだ。
滝の方だけでなく、この山の散策はしていたというから、確かにおかしい。伊調達は特に神の力や気に敏感なはず。
首を傾げる伊調達に、充雪が腕を組んで口を挟む。
《まあ、ここの結界にも気付かんかったんだ。仕方ねえよ。それに……なんかこの山、変だしな》
後半は少し自信なさそうだが、変だとは感じていた。これには高耶も同意する。
「そうだな。この辺、歪みが……無理やり閉じられているというか……こう……霊穴が側にあるような嫌な感じがある」
《そうそう。この辺は特になっ》
これに、里長がおずおずと告げた。
「それは……あちらに繋がる道……のことでしょうか?」
「え? ええ。そうですね」
「でしたら、この少し先に、数十年に一度、稀に半魔の子が現れる木の洞がありまして……」
「え……」
「「「は?」」」
《ほお~》
さすがの高耶も予想外の言葉だ。焔泉達もポカンと口を開け、充雪も目を丸くしている。
「ご案内いたしましょうか?」
「そ、そうやなあ。あ、高坊は一人で……中見てきてくれるんやったか。十分気い付けて。こっちは任せえ」
「鬼の対処には足を引っ張るかもしれないからね。こっちはこっちでやっておくから、ちょっと見てくるのだけはお願いするよ。そのままにするし、本当にチラッと見て来るだけで良いからね」
「御当主。お気を付けて。土地神様の方はお任せください」
「……分かりました……」
鬼の相手をするには足手纏いになるかもしれないという判断は正しいが、ここまであっさりと任されるとは思わなかった。
高耶の力を信用してくれているというのはあるだろうが、潔い決断だった。
「先に神に挨拶出来ないのは不安だが……じいさんもこっちを頼む」
《おう。やばかったら撤退しろよ?》
「ああ。行って来る」
無理はしない。確実に勝てる場を整え、策を考えるのは大事なことだ。そのための一時撤退はやむを得ない。
式神達を連れて行くのは、神も鬼も刺激しそうだと判断し、高耶は一人で結界の中へと慎重に足を踏み出した。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
「長老。保護した里の者の中に、十五歳未満の子が二人ほど居たようですが、それは?」
瑶迦の所へと繋ぐ扉を開いて招き入れた時、里の者達の中に、二人ほど確実に十五歳以下だろうと思える子どもが居たのを思い出したのだ。
「ああ……親と手を繋いでならば通れるのですよ。子どもは好奇心が強いもの……ですので、十歳になった時に、何度か大人と手を繋いでならば出られると言う事と、茶屋までの外の世界を見せていたのです」
その時に、外に出る事の怖さも教えるのだと言う。そうして、好奇心だけで外に向かいたいと思わないように落ち着けていくのだとか。
「十五になったら、即飛び出すような事になっては困りますので……」
「なるほど」
それならばやはりと確信を得た。
「では、どうしますか?」
「「「どう、とは?」」」
長老、焔泉、蓮次郎がこの確認に首を傾げた。高耶は改めて説明する。
「鬼達を意図せず閉じ込めたことになります。彼らは出られません。このまま、ここの土地神の力を神楽部隊と協力して取り戻していけば、恐らく半永久的に封じられているようなものです」
「……確かに……」
「それは考えへんかったわ……」
「その……私共は、新たな住処も確保できてしまいましたし、中に今更惜しいと思えるものもありませんし……」
そう。そのままでも問題ないのだと改めて気付いてしまった。
「え? どうする?」
「どうするかねえ……」
「……」
「……」
結局、高耶に視線が集まった。選択を委ねられているようだ。それならばと山を見回す。とはいえ、目を頼るのではなく、感覚を使って確認する。そして、視線を焔泉達へと戻した。
「……では、中を一応見てきます。先日の神達の騒動の時も大丈夫でしたし、問題はないと思いますが……その間に、あそこ……じいさんっ」
《ん?》
あそこと指を差した高耶は、充雪を呼び寄せる。
「じいさん、あそこだ。分かるか?」
《んん? あ~……あっ! おおっ、隙間っ、洞窟があるな! 神の座所か!》
「ああ。間違いないだろう。挨拶が後になりますが、確認して来ていただけませんか?」
この場所から少し上。ただの大きな岩山と思えていた場所。そこに目を凝らすと、洞窟が視えるのだ。
しかし、焔泉達には視えないらしい。
「ん? どこや?」
「え……あの辺?」
高耶は彼らが視えないと知って、理由に思い当たり、神気を少し解放する。
「これ……で、どうでしょうか」
じっと目を凝らしていた焔泉と蓮次郎、伊調にも何とか視えたらしい。
「っ、おおっ、突然視えるようになった」
「ほんに……こんな事があるとは……不思議や」
「これは……っ、ああ、なるほど、神気で隠されていたのですね?」
「どういうこと?」
蓮次郎が納得する伊調に問いかける。高耶が説明しなくても良くなった。
「ごくたまにあるのですよ。長くその場の神気に慣れなければ視えない場所が。神気を感じ取ることで視える場所です。こう……チャンネルを合わせるという感じですねえ」
「ほお……」
「本来の神の社がこれによって隠されていたりするのですよ。ですので、それもあり、我々神楽部隊は、その土地に馴染むまで滞在します」
「へえ……知らなかった……」
これが視えたことで、土地の音が鮮明に聴こえるようになったりする。そうした経験もあり、伊調は知っていたようだ。
だが、伊調は表情を曇らせる。
「ですが、こちらもですが、何度も訪れていた我々がこれまで気付けなかったのは不思議です……」
少し前まで、頻繁に訪れていた地だ。一度に長く滞在しなかったからかもしれないとも思うが、それにしても全く感じなかったと伊調は不思議なようだ。
滝の方だけでなく、この山の散策はしていたというから、確かにおかしい。伊調達は特に神の力や気に敏感なはず。
首を傾げる伊調達に、充雪が腕を組んで口を挟む。
《まあ、ここの結界にも気付かんかったんだ。仕方ねえよ。それに……なんかこの山、変だしな》
後半は少し自信なさそうだが、変だとは感じていた。これには高耶も同意する。
「そうだな。この辺、歪みが……無理やり閉じられているというか……こう……霊穴が側にあるような嫌な感じがある」
《そうそう。この辺は特になっ》
これに、里長がおずおずと告げた。
「それは……あちらに繋がる道……のことでしょうか?」
「え? ええ。そうですね」
「でしたら、この少し先に、数十年に一度、稀に半魔の子が現れる木の洞がありまして……」
「え……」
「「「は?」」」
《ほお~》
さすがの高耶も予想外の言葉だ。焔泉達もポカンと口を開け、充雪も目を丸くしている。
「ご案内いたしましょうか?」
「そ、そうやなあ。あ、高坊は一人で……中見てきてくれるんやったか。十分気い付けて。こっちは任せえ」
「鬼の対処には足を引っ張るかもしれないからね。こっちはこっちでやっておくから、ちょっと見てくるのだけはお願いするよ。そのままにするし、本当にチラッと見て来るだけで良いからね」
「御当主。お気を付けて。土地神様の方はお任せください」
「……分かりました……」
鬼の相手をするには足手纏いになるかもしれないという判断は正しいが、ここまであっさりと任されるとは思わなかった。
高耶の力を信用してくれているというのはあるだろうが、潔い決断だった。
「先に神に挨拶出来ないのは不安だが……じいさんもこっちを頼む」
《おう。やばかったら撤退しろよ?》
「ああ。行って来る」
無理はしない。確実に勝てる場を整え、策を考えるのは大事なことだ。そのための一時撤退はやむを得ない。
式神達を連れて行くのは、神も鬼も刺激しそうだと判断し、高耶は一人で結界の中へと慎重に足を踏み出した。
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