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第六章 秘伝と知己の集い
349 教える人は重要かも
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翌日。旅館にそのまま泊まった高耶は、先ずは何をすべきかと用意された朝食を蓮次郎達と離れで取りながら考えていた。
そこに、ご機嫌な様子の充雪が現れた。
《おいっ。喜べっ。良い師匠を呼んでもらうよう頼んできたぞ!》
「……いきなり何だよ……」
このテンションはきっとロクなことではないと、高耶は知っている。
《何って、神気の制御の訓練をするための師匠だよっ。お前は感覚的な訓練だと時間がかかるんだろ?》
「それはまあ……」
感覚的なものでの理解も出来るが、高耶としては、どうしてこうなるのか、どうやるのかを後からしっかりと理解した上で完璧な修得を目指すタイプだった。
ただ、やってみたら出来たというのでは、誰かに教えるというのは難しい。奥義を預かり、それを誰かに継承させるのが一族の使命なのだ。
感覚で修得できたけど、それを教えられませんではお話にならない。
奥義を身に付けられる者は、多少なりとも感覚的な理解度が高い者達だ。だから、それほど困惑することは少ないが、それに甘えてはいけない。
充雪がその『やってみたらできた』を体現した最たるものだからこそ、彼から『こんな感じ』『ガッとやってシュッて感じ』なんてものを聞きながらも会得することで、逆に理論的にもしっかりと理解しようと考えられるように育ったのだ。
「そうか……じいさんは、典型的な感覚でものにする人もんな。神気の制御も……」
《おう。全然自分でもどうなってんのか分からん》
「いや、考えろよ……それでよくやってきたよな……」
秘伝家の当主は、秘伝家に預けられた事のある奥義や技を全て充雪に教わる。これでよく教えてきたと感心するしかない。
《いやあ~、教えるの下手だって自覚はあるんだぜ?》
「なんとかしようとしろよ……時間なら余るほどあるだろうに……」
《あっ、あ~……》
「……」
これは今更気付いたという反応だ。
高耶が当主となるまで、百年と少し当主が決まらなかった。秘伝家の当主となれる素質を持った者がいなかったのだ。
だから、その間充雪には時間があった。眠っていたわけでもない。
それは、高耶が当主となってから、聞いたことがあったから確かだ。
『お前が生まれるまで、すげえ暇だった。視える奴が居ねえから、やる事ねえんだもんよ』
彼は体を動かさなくとも衰えることはない。肉体ではないからだ。より技術を磨くことはできるが、完成したならそこまで。そして、完成したものをいつでも最高の状態で披露できるのだ。
特訓好きではあるが、ずっとそれをやり続けるわけでもなく。ただ子孫達を見ているだけという時間もかなりあったらしい。
《そうか……教え方の特訓をすれば良かったのか……》
「……これからは、是非ともそれを心がけてくれ……」
《おうっ。すげえ暇つぶしになりそうだもんなっ》
「……それは、理解するまですげえ時間がかかるということか……」
《お前みたいな天才肌じゃねえもん》
「……」
高耶としては、そんな気はないが、充雪にしてみれば、高耶は天才らしい。お世辞でもなく、純粋にその力を認めているようだ。
「……それで? 誰に頼んでくれたんだ?」
《キルティスとイスティア、それと瑠璃嬢ちゃんの上司? の大天使》
「……は……?」
高耶は思考を停止させた。それを聞いていた蓮次郎と焔泉は、目を丸くする。
「うわ~、すごい先生を掴まえたねえ。あ~、でも、高耶くんにとってはおじいちゃんやおばあちゃんなんだっけ。天使は……うん。あの天使様かな。お気に入りだったもんね」
「これはまた……話には聞いとりましたが……よくもまあ……それだけ大事やゆうことやね」
「神気だもんね……」
「神気やしなあ……」
普通の人には教えられないものだ。メンバーがすごくなるのは当然だろうと納得する流れだった。
《ほれっ。メシ食い終わったら、瑶姫んとこ行くぞ。姫の作った世界の中なら、外に影響がないらしいからな》
「……分かった……」
朝食を済ませて、一旦家に戻り、身なりを整えてから瑶姫の所へと向かった。
その間に、蓮次郎と焔泉は、滝のある山の一帯を買い上げる手続きを行ってくれるようだ。
結局、連盟で買い上げることになり、高耶の初の高い買い物は次回に持ち越された。
待ち受けていたイスティア、キルティスに、特訓の休憩中、そのことを話せば面倒なことになった。
『えっ! 山が欲しいのか!? じいちゃんがいくらでも買ってやるよっ。島とかどうだ!?』
『滝!? 滝なら作ってあげるのにっ。そのために良い土地買う!? おばあちゃんが買ってあげるわっ』
これに、大天使も混ざってくる。
『どこか専用の世界でも用意しましょうか……小さめの世界でしたら、わたくしの権限でも……』
誰も彼も本気だったので、高耶には訓練よりもこれを止めることの方がキツかった。
そして、五日後。
《……お前……もう神でいいんじゃね?》
こう言うのが充雪だ。完全に呆れ返っていた。努力した末に呆れられるというのは、納得がいかない。
「抑えても、内から滲み出す神々しさは消せてねえなっ。うん。でもそれもヨシ!」
「え~、高耶ちゃんは元々こんなもんよ。大丈夫、大丈夫っ」
《素晴らしいっ。神殿っ、いえ、社ですか? 用意すべきです! 用意しておくべきですわっ》
三人の師匠に、色んな方向からの合格判定をもらった。
「……これで正解なのか……? いや、まあ、垂れ流しはしなくなったから制御は出来てるんだが……寧ろ、強まったような……?」
恐らく、更に格が上がってしまったのだが、イスティア達からもこれなら問題ないと言われたので信用することにする。妥協も必要だ。拘っていては進まないこともある。
一応は、完璧に神気を抑えられるようにはできたため、高耶はいよいよ隠れ里へと向かうことになった。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
そこに、ご機嫌な様子の充雪が現れた。
《おいっ。喜べっ。良い師匠を呼んでもらうよう頼んできたぞ!》
「……いきなり何だよ……」
このテンションはきっとロクなことではないと、高耶は知っている。
《何って、神気の制御の訓練をするための師匠だよっ。お前は感覚的な訓練だと時間がかかるんだろ?》
「それはまあ……」
感覚的なものでの理解も出来るが、高耶としては、どうしてこうなるのか、どうやるのかを後からしっかりと理解した上で完璧な修得を目指すタイプだった。
ただ、やってみたら出来たというのでは、誰かに教えるというのは難しい。奥義を預かり、それを誰かに継承させるのが一族の使命なのだ。
感覚で修得できたけど、それを教えられませんではお話にならない。
奥義を身に付けられる者は、多少なりとも感覚的な理解度が高い者達だ。だから、それほど困惑することは少ないが、それに甘えてはいけない。
充雪がその『やってみたらできた』を体現した最たるものだからこそ、彼から『こんな感じ』『ガッとやってシュッて感じ』なんてものを聞きながらも会得することで、逆に理論的にもしっかりと理解しようと考えられるように育ったのだ。
「そうか……じいさんは、典型的な感覚でものにする人もんな。神気の制御も……」
《おう。全然自分でもどうなってんのか分からん》
「いや、考えろよ……それでよくやってきたよな……」
秘伝家の当主は、秘伝家に預けられた事のある奥義や技を全て充雪に教わる。これでよく教えてきたと感心するしかない。
《いやあ~、教えるの下手だって自覚はあるんだぜ?》
「なんとかしようとしろよ……時間なら余るほどあるだろうに……」
《あっ、あ~……》
「……」
これは今更気付いたという反応だ。
高耶が当主となるまで、百年と少し当主が決まらなかった。秘伝家の当主となれる素質を持った者がいなかったのだ。
だから、その間充雪には時間があった。眠っていたわけでもない。
それは、高耶が当主となってから、聞いたことがあったから確かだ。
『お前が生まれるまで、すげえ暇だった。視える奴が居ねえから、やる事ねえんだもんよ』
彼は体を動かさなくとも衰えることはない。肉体ではないからだ。より技術を磨くことはできるが、完成したならそこまで。そして、完成したものをいつでも最高の状態で披露できるのだ。
特訓好きではあるが、ずっとそれをやり続けるわけでもなく。ただ子孫達を見ているだけという時間もかなりあったらしい。
《そうか……教え方の特訓をすれば良かったのか……》
「……これからは、是非ともそれを心がけてくれ……」
《おうっ。すげえ暇つぶしになりそうだもんなっ》
「……それは、理解するまですげえ時間がかかるということか……」
《お前みたいな天才肌じゃねえもん》
「……」
高耶としては、そんな気はないが、充雪にしてみれば、高耶は天才らしい。お世辞でもなく、純粋にその力を認めているようだ。
「……それで? 誰に頼んでくれたんだ?」
《キルティスとイスティア、それと瑠璃嬢ちゃんの上司? の大天使》
「……は……?」
高耶は思考を停止させた。それを聞いていた蓮次郎と焔泉は、目を丸くする。
「うわ~、すごい先生を掴まえたねえ。あ~、でも、高耶くんにとってはおじいちゃんやおばあちゃんなんだっけ。天使は……うん。あの天使様かな。お気に入りだったもんね」
「これはまた……話には聞いとりましたが……よくもまあ……それだけ大事やゆうことやね」
「神気だもんね……」
「神気やしなあ……」
普通の人には教えられないものだ。メンバーがすごくなるのは当然だろうと納得する流れだった。
《ほれっ。メシ食い終わったら、瑶姫んとこ行くぞ。姫の作った世界の中なら、外に影響がないらしいからな》
「……分かった……」
朝食を済ませて、一旦家に戻り、身なりを整えてから瑶姫の所へと向かった。
その間に、蓮次郎と焔泉は、滝のある山の一帯を買い上げる手続きを行ってくれるようだ。
結局、連盟で買い上げることになり、高耶の初の高い買い物は次回に持ち越された。
待ち受けていたイスティア、キルティスに、特訓の休憩中、そのことを話せば面倒なことになった。
『えっ! 山が欲しいのか!? じいちゃんがいくらでも買ってやるよっ。島とかどうだ!?』
『滝!? 滝なら作ってあげるのにっ。そのために良い土地買う!? おばあちゃんが買ってあげるわっ』
これに、大天使も混ざってくる。
『どこか専用の世界でも用意しましょうか……小さめの世界でしたら、わたくしの権限でも……』
誰も彼も本気だったので、高耶には訓練よりもこれを止めることの方がキツかった。
そして、五日後。
《……お前……もう神でいいんじゃね?》
こう言うのが充雪だ。完全に呆れ返っていた。努力した末に呆れられるというのは、納得がいかない。
「抑えても、内から滲み出す神々しさは消せてねえなっ。うん。でもそれもヨシ!」
「え~、高耶ちゃんは元々こんなもんよ。大丈夫、大丈夫っ」
《素晴らしいっ。神殿っ、いえ、社ですか? 用意すべきです! 用意しておくべきですわっ》
三人の師匠に、色んな方向からの合格判定をもらった。
「……これで正解なのか……? いや、まあ、垂れ流しはしなくなったから制御は出来てるんだが……寧ろ、強まったような……?」
恐らく、更に格が上がってしまったのだが、イスティア達からもこれなら問題ないと言われたので信用することにする。妥協も必要だ。拘っていては進まないこともある。
一応は、完璧に神気を抑えられるようにはできたため、高耶はいよいよ隠れ里へと向かうことになった。
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