秘伝賜ります

紫南

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第六章 秘伝と知己の集い

345 温度差があります

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常盤に焔泉達へのこちらの事情説明を頼んだ後、気を取り直して、高耶は廊下側の奥の襖を、槇の家の庭にあるコンテナの入り口に繋ぐため、手を伸ばす。

しかし、襖に触れる前に俊哉が声をかけてきた。

「あ、今度はこっちなんだ?」
「ん?」

不思議そうに顔を向けられ、どういう意味かと首を傾げれば、シャワー室とドアと襖を見比べて俊哉は答えた。

「いや、シャワー室のドアを使わないんかと」
「ああ……そういう意味か。繋げるドアの形状を揃えた方が繋ぎやすいんだ。コンテナに繋げるなら引き戸だろ?」
「なるほどっ」

謎が解けたと俊哉は目を輝かせていた。

ここで、高耶は確認し忘れていたと気付く。

「あ、コンテナはあの時のと変わっていないよな?」
「っ、あ、ああ……大丈夫のはずだ……」

数年、家には帰っていないらしいが、買い替えてはいないはずだと槇が頷いた。だが、俊哉は確認を忘れない。

「もし、コンテナがなくなってたらどうなるんだ?」
「別に? 繋がらないだけだな」
「形状が違ったら?」
「ちょっと抵抗感があって余分に力を使うだけだ」
「ならいいや」
「ああ……」

少し心配させたようだとは察しながらも、高耶はそのまま襖を繋いだ。

「あ、靴がいるな」

繋いだ先はコンテナの外だ。コンテナの中から出てくる感じになっている。

槇が覗き込み、その先の風景を確認する。

「……家だ……」
「それは良かった」

別の家だったらびっくりだ。

そこに、彰彦がバスルームからバスマットを持ってきた。

「土がつくのは申し訳ないが、これを敷いてそちらに降りてから靴を履こう」
「そうだな」

コンテナから出た所にバスマットを敷いた。

靴を持ってきた俊哉が一番に外に出て、マットの上に立ち、自分の靴と高耶の靴を地面に置く。

「ほい。靴」
「悪い」
「気にすんな。それにしても、変わらないなあ。懐かしいわ。この塀はもっと高く感じたけど」
「子どもの頃の目線だな」
「うん。優希ちゃんの小学校に入った時みたいな感覚」
「そんなもんか」

槇も出て来て、二階建ての家を一度上まで見上げると、真っ直ぐに前を見て玄関の方に回って行く。

高耶と踏み出そうとした所で、満と嶺が留める。

「高耶達は待っててくれ」
「いきなり皆んなで押しかけてもな……先生は来て欲しいけど」
「そうだな。わかった」

時島と満と嶺だけで付き添うようだ。

「ここ、開けたままに出来るか?」

そう時島が確認するのに対して、高耶は頷いた。

「ええ」
「なら、説得に時間がかかるかもしれん。旅館の方で待っていてくれ。向かう時は電話する」
「分かりました」

靴を履いた意味がないが、確かに全員で押しかけていくのも問題だろう。

内容が特に混乱させるものだ。気を遣うべきだ。

時島達が玄関の方に回って行くのを見送っていると、塀の外を見ていた俊哉が振り向く。

「あっ、なあ。すぐ近くに、苺大福が美味い和菓子の店があるんだけど、行って来ていい?」
「ん? ああ……時間もかかるだろうしな……俺も行くかな」

これを聞いて、彰彦が口を開く。

「では、留守は任されよう。このままでいいのだろう?」
「ああ。なら、少し行ってくる」
「うむ。そこの和菓子屋はどら焼きも美味い。粒あんではなくこし餡のがある。それが絶品だ」
「そうなのかっ。優希も好きそうだ。行ってくるっ」

彰彦を留守番として置いて、高耶は俊哉と和菓子屋へと急いだ。

一方、槇達の方はといえば、家に入り、出迎えた彼の両親と対面出来たのは良いが、予想通りというか、気まずい雰囲気に包まれていた。

「……とりあえず、上がっていいか……」

そんな槇の声が、ぽつりと吐き出されていた。

時間がかかりそうだというのは、誰にでも察せられた。









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読んでくださりありがとうございます◎
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