秘伝賜ります

紫南

文字の大きさ
上 下
343 / 416
第六章 秘伝と知己の集い

343 悪ガキの天敵かもしれない

しおりを挟む
高耶は立ち上がり、シャワー室の扉の前に来る。

「これをこう、開けるだろ?」
「……ああ……」

何の変哲もないドア。そして、シャワー室だ。真っ白な壁が美しい。

ドアを一旦閉めて、一拍。

そして、ドアを開けると、ドアの中の景色が変わる。

「……は?」
「昨日使った会場じゃんっ!?」
「え? シャワー室だよな? どういうこと!?」

槇と満、嶺が駆け寄り、そろそろと中を覗き込んで確認する。淡い灯りだけのついた昨日の会場。その裏に通じるドアに繋げていた。

そして、彰彦がクワッと目を見開いて高耶に掴み掛かる。一気に色々と振り切ったようだ。

「ど◯でもドアだと!? なぜピンクじゃない!? お約束と見た目は守るべきだ!!」
「いや……ただ繋げただけだから……そのドアだとは認めていない……」

高耶はあまりにも必死な彰彦から顔を背ける。

「そう見えるのならばそうなのだよ!!」
「……そう言われても……」

食ってかかる彰彦を止めることなく、掴まれたままだ。こうなった彰彦は落ち着くまで時間がかかる。発散させた方が良いだろうと判断した。

俊哉もそうで、ニヤニヤと笑いながら見ているだけだった。その向かいに座る時島は微笑ましく騒ぐ様子を見ながらお茶を啜っている。

「まあ、あれは反則だからなあ」

時島がしみじみとすれば、これに俊哉も頷いた。

「驚くのも分かるんだよな~。優希ちゃんくらいの子だと、すぐに順応すんだけど。俺らも年取ったんだな~って実感するわ」
「年を取ると、こういったことを受け入れ難くなるからなあ。固定観念は怖い……」
「いや、これは固定されててもしょうがなくね? ドアは隣りの部屋に行くだけにしとこうよ」

槇達は、大分受け入れたのか、ドアを行き来して遊んでいる。幼い子どものようだ。

彰彦は高耶を座らせて、こう言うことはできるのか、こう言うことはどうだと、どこから取り出したのか、いつの間にか持っていた革のノートを手に、何やら力説している。

「はははっ。そう言う和泉はどうだったんだ?」
「あ~、俺ん時は最初、ドアじゃなくおやつの棚だった。教授の部屋の棚を高耶の家の棚に繋げてたんすよ。何で教授の棚のおやつを高耶が用意してんのかと……まあ、めっちゃ興奮したっ!」
「だろうな」

想像できたと時島は笑った。

そこで、ようやく槇達が落ち着いたらしい。

「高耶……これ、すげえけど……もしかして……」

チラリと高耶の前でノートに何やら真剣に書き出している彰彦を見ながら、槇が尋ねた。

「これなら、胡散臭い霊能者ってのにはならないだろ?」
「ああ。まあ、現実を受け止め切れるかは別だと思うんだが……胡散臭いってのはなくなると思う」

口だけでは嘘だと判じられる。だが、実際にあり得ないことを見せてしまえば、あり得ないことも出来る人だと信じられやすくなるだろうというわけだ。

これに嶺が口を挟んだ。

「けど、これって高耶の行った事のない場所も大丈夫なん? 槇の家に行ったことないだろ? こう言うのって、一度行った所って制限ありそう」
「そうだな。一度行った場所しか無理だ。けど、槇の家なら行った事あるぞ?」
「え?」
「あったか?」
「槇の家に?」
「ああ。正確には庭だけど」

槇本人も、満も嶺もそれに思い当たらないらしい。高耶とは一緒に遊ぶなんてことはなかったのだから仕方がない。故意に意地悪でハブっていたのだから。

しかし、俊哉と彰彦は、その時のことを思い出していた。

「あ~、あるな」
「あったな」
「いつ……」

これに俊哉と彰彦がそれぞれ答える。

「新しいコンテナを見せてやるって無理やり」
「高耶と一緒に閉じ込められた」
「自分たちは遊びに行ってな」
「「「……」」」

さっと顔色を悪くする槇達。あの頃は本当に悪ガキだった。

そんなことは気にせず、彰彦と俊哉は思い出していく。

「少ししてから俊哉が開けてくれたんだっけ」
「高耶と宿題するつもりだったし」
「あれで、暗闇の中でもそれなりに見えるように訓練できた。有意義な時間であったわ」
「音読、あの中で終わらせたんだろ? 良い感じに響いて良かったとか言ってたよな~」

小学生の頃から、彰彦が独特の感性の持ち主だったこともあり、高耶と一緒だと特に子どもらしくない子どもだった。

そして、やる事が独特だった。

「演劇っぽくやってみたのが楽しかったのだよ。今ならもっと上手くやれると確信しているっ」
「いいな~、やりたかった。高耶、優希ちゃんにやってやったら?」
「……音読は珀豪とやってる。抑揚もプロ並みだ。今更入れない……父さんがこの前、優希に下手クソって言われて撃沈してた」
「それはキツイわ……俺でも撃沈される……」
「「「……」」」

良い思い出として語られているが、槇達は座り込んで頭を下げた。

「悪かったっ」
「「ごめんなさいっ」」
「「「あ~……」」」

綺麗な土下座だった。それに、高耶達は今更どうしろとと顔を見合わせる。

時島はずっと、口を押さえて目を逸らし、肩を震わせていた。








**********
読んでくださりありがとうございます◎
しおりを挟む
感想 557

あなたにおすすめの小説

称号は神を土下座させた男。

春志乃
ファンタジー
「真尋くん! その人、そんなんだけど一応神様だよ! 偉い人なんだよ!」 「知るか。俺は常識を持ち合わせないクズにかける慈悲を持ち合わせてない。それにどうやら俺は死んだらしいのだから、刑務所も警察も法も無い。今ここでこいつを殺そうが生かそうが俺の自由だ。あいつが居ないなら地獄に落ちても同じだ。なあ、そうだろう? ティーンクトゥス」 「す、す、す、す、す、すみませんでしたあぁあああああああ!」 これは、馬鹿だけど憎み切れない神様ティーンクトゥスの為に剣と魔法、そして魔獣たちの息づくアーテル王国でチートが過ぎる男子高校生・水無月真尋が無自覚チートの親友・鈴木一路と共に神様の為と言いながら好き勝手に生きていく物語。 主人公は一途に幼馴染(女性)を想い続けます。話はゆっくり進んでいきます。 ※教会、神父、などが出てきますが実在するものとは一切関係ありません。 ※対応できない可能性がありますので、誤字脱字報告は不要です。 ※無断転載は厳に禁じます

転生令嬢の食いしん坊万罪!

ねこたま本店
ファンタジー
   訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。  そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。  プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。  しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。  プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。  これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。  こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。  今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。 ※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。 ※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

国外追放だ!と言われたので従ってみた

れぷ
ファンタジー
 良いの?君達死ぬよ?

今日は許される日です《完結》

アーエル
ファンタジー
今日は特別な日 許される日なのです 3話完結

あなたがそう望んだから

まる
ファンタジー
「ちょっとアンタ!アンタよ!!アデライス・オールテア!」 思わず不快さに顔が歪みそうになり、慌てて扇で顔を隠す。 確か彼女は…最近編入してきたという男爵家の庶子の娘だったかしら。 喚き散らす娘が望んだのでその通りにしてあげましたわ。 ○○○○○○○○○○ 誤字脱字ご容赦下さい。もし電波な転生者に貴族の令嬢が絡まれたら。攻略対象と思われてる男性もガッチリ貴族思考だったらと考えて書いてみました。ゆっくりペースになりそうですがよろしければ是非。 閲覧、しおり、お気に入りの登録ありがとうございました(*´ω`*) 何となくねっとりじわじわな感じになっていたらいいのにと思ったのですがどうなんでしょうね?

妹が聖女の再来と呼ばれているようです

田尾風香
ファンタジー
ダンジョンのある辺境の地で回復術士として働いていたけど、父に呼び戻されてモンテリーノ学校に入学した。そこには、私の婚約者であるファルター殿下と、腹違いの妹であるピーアがいたんだけど。 「マレン・メクレンブルク! 貴様とは婚約破棄する!」  どうやらファルター殿下は、"低能"と呼ばれている私じゃなく、"聖女の再来"とまで呼ばれるくらいに成績の良い妹と婚約したいらしい。 それは別に構わない。国王陛下の裁定で無事に婚約破棄が成った直後、私に婚約を申し込んできたのは、辺境の地で一緒だったハインリヒ様だった。 戸惑う日々を送る私を余所に、事件が起こる。――学校に、ダンジョンが出現したのだった。 更新は不定期です。

悪役令嬢は蚊帳の外です。

豆狸
ファンタジー
「グローリア。ここにいるシャンデは隣国ツヴァイリングの王女だ。隣国国王の愛妾殿の娘として生まれたが、王妃によって攫われ我がシュティーア王国の貧民街に捨てられた。侯爵令嬢でなくなった貴様には、これまでのシャンデに対する暴言への不敬罪が……」 「いえ、違います」

処理中です...